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しおりを挟むよくわからない高飛車な女の人によって掘り起こされ、まざまざと突き付けられたカイルとの別れたという事実。
カイルは別れようという言葉をちゃんと聞いてなさそうだったから、ぎりぎりまだ知らぬ存ぜぬで通せば元通りになるかもという半端な願いは潰えた。
人の職場に押しかけて恋人との別れを迫るくらい行動力があるんだもの。
絶対カイル本人に事実かどうか確認しに行くわあの人。
この三日、仕事が終わってからベッドに倒れ込み泣き明すを繰り返している。
しかしながら目を腫らしていては接客にならない。
泣きまくってはふと我に返り水に顔を付けて冷やし、喉を傷めないように水分補給もこまめにしてまた泣く。
そして泣き疲れて寝落ち寸前に気力を振り絞って顔にクリームを塗ってから深い眠りに落ちる。
感傷に浸るに浸り切れない、仕事も恋も大事にしたい人間の辛いところである。
その甲斐あってか朝になって確認した顔は少々くたびれが目元に出て、目蓋がちょっと開けにくい程度で今のところ済んでいた。
まだ朝焼けが昇り切っていない時間に目覚めてしまったが寝直す気分にはなれず、仕事に行く前に気晴らしに散歩でもしようと思い立った。
最低限の身支度をして、まだパン屋さんくらいしか起きてない時間帯の街を歩く。
朝のひんやりした風が腫れぼったい目蓋に心地いい。
「イーリィ」
ぼやっと歩いている所を突然声を掛けられ、体がびくりと跳ねる。
お陰で完全に目が覚めた。
「……カイル?」
もうまともに話すことも無いだろうと覚悟を決めていた人が、ゆっくりこちらに近付いてきている。
いや近付いているどころじゃない。なんか凄く寄って来てる。
反射で半歩身を引くと、まだるっこしいとばかりに肩を掴まれ抱き寄せられた。
「話がある」
「このっ、この状態で!?」
「問題あんのかよ」
「別れてるんだからっ…問題はあるでしょ…」
いやいやその前にカイルってこういうことする人じゃないじゃないの。
出会い頭でなんでこんな。
「…それについて話があんだよ」
「うー……」
首元で喋られると息が掛かる。
ぞわぞわっと身震いしてると首を舐められた。
「ちょっとなに!?なにがしたいの!?」
「そういう雰囲気出すからだろ」
「そういう雰囲気ってなに!?」
これどういうことなの!?
昨夜まで自分の恋心の葬式してたっていうのに…付き合ってた時ですらこんな甘いやり取り無かったじゃないの!
それにしてもカイルがぬくい。
筋肉があるせいか体温高いのよね。
ああもうどうしよう。幸せかも…。
「店に変な女が来ただろ。はちみつ色の髪の、金持ちそうな」
上がり切っていた熱が急速に引いていく。
なに?新しい女が出来たから宣言?だからあの人カイルと別れろって言って来たのね。
人の仕事先に来て高飛車かますようなのがタイプだったの…悪趣味。
一瞬のうちにそれだけの悪態を心内でついてからふと疑問が出る。
じゃあこの状況なに?
駄目だわあたし混乱してる。
「あの女にやたら迫られてよ…ついお前と別れてないって言っちまった」
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