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小学生編

7.才能と新たな決意

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僕は今、とても驚いている。
いや、もう驚くというよりも一種の恐怖と興奮を感じている。

え?どうしてそんな感情を抱いているのかって?
それは…

「あの、音尾くん...どうかな?」

こっちを見て、首を傾げる鳴海さん。
そして、どうかな?というのはきっと先程まで弾いていたピアノのことだろう。

「すごく良かったよ!本当に今までやったことないの?」

僕はお世辞抜きで言った。
そう、鳴海さんの演奏はとても上手だった。
「小学生にしては」とか「同年代の子と比べて」とかいう前置き抜きで本当に上手だったんだ。

「本当だよ。今日が初めてって何回言わせるの」

そして、それだけの実力があるのに今日が初めてときた。
正直信じられない。
特に表現力が子供のそれじゃないんだ。
表現力はすでにそんじょそこらのプロには負けないものになっている。
もっと技術的なことを教えていけば、いずれは前世の俺をも超える大物になるだろう。
ねえ、音尾くん、、と鳴海さんが言う。

「音尾くんが弾いてた曲も弾いてみたい」
「え?とな...あの曲ね。うん、やってみよう」

あぶねえ、となりのトトロって言いかけた。
こっちの世界だとないんだよなあ、久石譲ひさいしじょう大先生の名曲たちは。

早速、〈さんぽ〉から教え始める。
「まずこの曲はC調、ドの音が基本なんだ。その場所がここで......」
「なるほど、じゃあこのあとは...」
「それで次はここで......」
「すごい、でもここでこうすればもっと...」
「え、いや、ちょっ‥….」


◯⚫◯⚫
「できた!!」
「いいよね、完璧じゃない!!」
「ピアノって楽しい!!」

興奮した様子の鳴海さんを横目に僕は冷静にさっきの練習を思い返す。
鳴海さんとの練習を通して、あらためて彼女の才能が感じ取れた。
まずは、初心者向けの難易度のものを教えていこうと思って、テンポや裏のリズムについて教えていたのだ。
鳴海さんは教えたとおりに弾いていたんだけど途中から「この方がいいんじゃない」とか「こうした方がなんかワクワクする」とか言ってアレンジを加えていったのだ。
しかも、なかなかセンスのあるアレンジだった。

色々と考えた結果、僕は一つの結論に辿り着いた。
よし、鳴海さんを世界一のピアニストにしよう、、と。

「ねえ、鳴海さん。鳴海さんさえ良かったらこれからも一緒にピアノを弾いてみない?」

真剣な表情でそう言った僕とは対照に鳴海さんは満面の笑みで答える。

「いいの!?もう、やっぱりなしとか言っても駄目だからね。言質取ったからね!」

いや、小学一年生が言質取ったとか言わないでよ。
どっからそんな言葉覚えるの。

鳴海さんの元気な返事に若干の戸惑いはあったものの楽しみな気持ちになる。
この世界で達成したい目標が一つ増えた。

「これからはもっと厳しくいくからね。覚悟してね」
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