24 / 32
本編
最終話 新たな旅立ち
しおりを挟む
耳をなで擦られる音で目を覚ました。
いつの間にか布団をかけられて、ジュードの胸に顔をうずめる形で眠っていた。
ふと目が合うと「やっと起きたか」なんて、平然とした様子で言われる。
「――!」
いや、こっちはめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……!?
胸に頭突きする勢いで顔を隠す。
――えっ、やば、結局全部しちゃったじゃん!? なんで!? なにが起こった!?
混乱していると、ジュードが起き上がると同時にオレから布団をはがす。
「おい、いつまでそのままでいるんだ。シャワー浴びに行くぞ」
「あっ、えっ? うわっ、べたべたしてるぅ……うわぁ……。てか、早くしないとエマたち帰ってくるじゃん! なにやってんだよ、早く起こせよ! バレるだろ!」
「別にいいだろ」
「よくないよ! お前には恥じらいがないのか!」
バタバタとシャワーを浴びて、部屋に戻って、汚しちゃったシーツを洗濯に出す時の言い訳を考えていると――ソファに腰を下ろしたジュードが、世間話みたいな気軽さで唐突に切り出した。
「それで、明日からの予定だが――」
「えっ? いや、ちょっと待て。最初から話せよ。お前、結局どうなるの? 王位は?」
「継がない」
あっさりと言い切ったジュードは、オレがぽかんとしているのを見て面倒臭そうに付け加える。
「俺よりセージの方がまともな教育を受けてるし、戦闘以外は上手くやれるだろ。たぶん。とにかく本人には話をつけてきた」
「えぇ……でも、国王がお前を跡継ぎにって」
「その代わりに、王室復帰と国内の巡察を受け持つことで納得させた。お前は側近として連れて行く」
「へ。はぁ!? 側近!?」
「公職に永久就職だ、文句ないだろ」
偉そうにふんぞり返って、一体なにを言っているんだ。
「お、おぉ? え、永久? オレが? 一生? お前のそばに?」
「休暇はやる」
そういう問題か?
気持ちが追いつかないまま、明日からの予定について聞かされる。
拝啓、故郷の父さん母さん。
オレは、王族の側近になるらしいです。しばらく家へは帰れそうにありません。でも、お賃金はいっぱいもらえるみたいなので頑張ってみようと思います。
あと、王族なのを隠してたヤベー男に抱かれました。同意の上で。信じられません。王都は怖いところです。
◇◇◇
翌日。早速、領地経営の抜き打ち巡察に向かうということで、オレはジュードと共に一度城に呼ばれていた。
帰り際、先程まで事務的なやり取りをしていたセージが後を追ってきて泣きごとを言う。
「に、兄様……! 本当に行ってしまわれるのですか? 王位を継ぐ気は本当にないのですか……!? 僕が、兄様より上手くやれるとお思いですか!?」
「甘ったれるな。お前も王族だろうが」
――あれ、話を付けてきたんじゃなかった? 押し付けてきたの間違いでは?
心配しながら見ていると、セージは、言われたことを激励だと受け取ったのか使命感に満ちた顔でうなずく。
「そ……そうですね。このセージ・フォン・グランディオス、兄様の名にかけて立派な王になります……!」
――かけるもの、それで合ってる?
やや盲目的にジュードを信奉しているセージは、最後にオレの手を握った。
「リヒトさん! 兄様のことを、よろしくお願いいたします!」
「え、あ、はい……!」
「僕が王になったあかつきには、お二人が法的にも結ばれることができるよう尽力いたしますので!」
「は、い!?」
一体どこまで話を通してあるのか、恐ろしいものである。
そして、セージは、天使のような微笑みを浮かべた。
「まあ、そんなに遠い話ではないと思いますよ。父上は腰が悪くて、座っているのも大変なようで……僕が本気で治さなければ、じきに、ねっ」
「あ、あはは……」
――こいつ、ジュードのためだからって見境がなくなってるぞ……!
さて、今回の巡察は、ジュードの顔が知れ渡っていない内に各領民には内緒で行うため、オレたちは一般人の装いになっている。移動手段も公共の馬車なので、乗り場までエマが見送りに来てくれた。
彼女は、困ったように微笑む。
「ねえ、二人だけで本当に大丈夫? どっちも、息を吸うように無茶をするから……」
心配されるのも当然だ。浴びるように回復薬を消費してすみませんでした。
でも、今はもう、こう答えることができる。
「うん、気をつけるよ。オレを好きでいてくれる人のためにも」
すると、ジュードから軽くどつかれた。
「エマを口説くな」
「口説いてないよ!」
――主にお前に向けてるんだけど!?
エマが、くすりと笑う。
「なら、ジュードも大丈夫だよね? リヒトさんに迷惑かけないでよ」
「……おう」
――あれ? エマ、何かを察してない? シーツにホットミルクこぼしちゃったって洗濯に出したのがまずかった?
いたたまれなくなりながらも、なんだかおかしくって、笑いながら手を振って逃げるように馬車へ乗り込む。
ジュードは、後から悠然とやって来て向かいに座った。本当に恥じらいというものがないのか。
「そういや、ジュード……セージに言ったのか? その……オレとの関係」
「言ってない。俺に来る見合い話は白紙にしておけと頼んだだけだ」
「へ、へ~。ふ~ん。結婚するつもり、ないんだ?」
王族がそれでいいのか、とは思うけど、なんだか嬉しい。オレだけのものでいてくれるんだろうか。
馬車が出発する。
これからのことについて、ぽつぽつと話しながら、揺られ揺られて知らない土地に降り立つ。
あ、そういえば。
「なあ、オレたちって巡察だとバレないように聞き込みするわけじゃん。『移住先探してるから、この辺りのこと詳しく聞かせてください~』って言うとしてさ。オレたちの関係性の設定、考えといた方がよくない?」
「はあ? そんなもん、正直に答えとけばいいだろうが」
「え?」
ジュードが、オレの手を取って、指を絡めた。そして大真面目な顔で、
「――付き合ってる」
あ、だめだ、嬉しい。付き合ってるのか、オレたち。
「っ、そ、そう? そう、だな? まあ、そういうことに? しといてやってもいいけど?」
「にやけるなよ。早く行くぞ」
「べっつに、にやけてませんけどー!?」
ジュードに手を引かれるのを追いかけて、隣に並ぶ。
町に入って、人通りが増えてきたら、やっぱりオレたちのことをちらちらと見る人間もいる。ちょっと照れくさくはあるけど、こいつの隣を歩いているのが誇らしい気分だった。
まあ、見た目はともかく、内面は超カンジ悪いやつだけどね。
みんな、知らないんだ。たまに垣間見える優しさも、抱き枕にされた時の寝心地も。
全部、知っているのはオレだけ。
いつの間にか布団をかけられて、ジュードの胸に顔をうずめる形で眠っていた。
ふと目が合うと「やっと起きたか」なんて、平然とした様子で言われる。
「――!」
いや、こっちはめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……!?
胸に頭突きする勢いで顔を隠す。
――えっ、やば、結局全部しちゃったじゃん!? なんで!? なにが起こった!?
混乱していると、ジュードが起き上がると同時にオレから布団をはがす。
「おい、いつまでそのままでいるんだ。シャワー浴びに行くぞ」
「あっ、えっ? うわっ、べたべたしてるぅ……うわぁ……。てか、早くしないとエマたち帰ってくるじゃん! なにやってんだよ、早く起こせよ! バレるだろ!」
「別にいいだろ」
「よくないよ! お前には恥じらいがないのか!」
バタバタとシャワーを浴びて、部屋に戻って、汚しちゃったシーツを洗濯に出す時の言い訳を考えていると――ソファに腰を下ろしたジュードが、世間話みたいな気軽さで唐突に切り出した。
「それで、明日からの予定だが――」
「えっ? いや、ちょっと待て。最初から話せよ。お前、結局どうなるの? 王位は?」
「継がない」
あっさりと言い切ったジュードは、オレがぽかんとしているのを見て面倒臭そうに付け加える。
「俺よりセージの方がまともな教育を受けてるし、戦闘以外は上手くやれるだろ。たぶん。とにかく本人には話をつけてきた」
「えぇ……でも、国王がお前を跡継ぎにって」
「その代わりに、王室復帰と国内の巡察を受け持つことで納得させた。お前は側近として連れて行く」
「へ。はぁ!? 側近!?」
「公職に永久就職だ、文句ないだろ」
偉そうにふんぞり返って、一体なにを言っているんだ。
「お、おぉ? え、永久? オレが? 一生? お前のそばに?」
「休暇はやる」
そういう問題か?
気持ちが追いつかないまま、明日からの予定について聞かされる。
拝啓、故郷の父さん母さん。
オレは、王族の側近になるらしいです。しばらく家へは帰れそうにありません。でも、お賃金はいっぱいもらえるみたいなので頑張ってみようと思います。
あと、王族なのを隠してたヤベー男に抱かれました。同意の上で。信じられません。王都は怖いところです。
◇◇◇
翌日。早速、領地経営の抜き打ち巡察に向かうということで、オレはジュードと共に一度城に呼ばれていた。
帰り際、先程まで事務的なやり取りをしていたセージが後を追ってきて泣きごとを言う。
「に、兄様……! 本当に行ってしまわれるのですか? 王位を継ぐ気は本当にないのですか……!? 僕が、兄様より上手くやれるとお思いですか!?」
「甘ったれるな。お前も王族だろうが」
――あれ、話を付けてきたんじゃなかった? 押し付けてきたの間違いでは?
心配しながら見ていると、セージは、言われたことを激励だと受け取ったのか使命感に満ちた顔でうなずく。
「そ……そうですね。このセージ・フォン・グランディオス、兄様の名にかけて立派な王になります……!」
――かけるもの、それで合ってる?
やや盲目的にジュードを信奉しているセージは、最後にオレの手を握った。
「リヒトさん! 兄様のことを、よろしくお願いいたします!」
「え、あ、はい……!」
「僕が王になったあかつきには、お二人が法的にも結ばれることができるよう尽力いたしますので!」
「は、い!?」
一体どこまで話を通してあるのか、恐ろしいものである。
そして、セージは、天使のような微笑みを浮かべた。
「まあ、そんなに遠い話ではないと思いますよ。父上は腰が悪くて、座っているのも大変なようで……僕が本気で治さなければ、じきに、ねっ」
「あ、あはは……」
――こいつ、ジュードのためだからって見境がなくなってるぞ……!
さて、今回の巡察は、ジュードの顔が知れ渡っていない内に各領民には内緒で行うため、オレたちは一般人の装いになっている。移動手段も公共の馬車なので、乗り場までエマが見送りに来てくれた。
彼女は、困ったように微笑む。
「ねえ、二人だけで本当に大丈夫? どっちも、息を吸うように無茶をするから……」
心配されるのも当然だ。浴びるように回復薬を消費してすみませんでした。
でも、今はもう、こう答えることができる。
「うん、気をつけるよ。オレを好きでいてくれる人のためにも」
すると、ジュードから軽くどつかれた。
「エマを口説くな」
「口説いてないよ!」
――主にお前に向けてるんだけど!?
エマが、くすりと笑う。
「なら、ジュードも大丈夫だよね? リヒトさんに迷惑かけないでよ」
「……おう」
――あれ? エマ、何かを察してない? シーツにホットミルクこぼしちゃったって洗濯に出したのがまずかった?
いたたまれなくなりながらも、なんだかおかしくって、笑いながら手を振って逃げるように馬車へ乗り込む。
ジュードは、後から悠然とやって来て向かいに座った。本当に恥じらいというものがないのか。
「そういや、ジュード……セージに言ったのか? その……オレとの関係」
「言ってない。俺に来る見合い話は白紙にしておけと頼んだだけだ」
「へ、へ~。ふ~ん。結婚するつもり、ないんだ?」
王族がそれでいいのか、とは思うけど、なんだか嬉しい。オレだけのものでいてくれるんだろうか。
馬車が出発する。
これからのことについて、ぽつぽつと話しながら、揺られ揺られて知らない土地に降り立つ。
あ、そういえば。
「なあ、オレたちって巡察だとバレないように聞き込みするわけじゃん。『移住先探してるから、この辺りのこと詳しく聞かせてください~』って言うとしてさ。オレたちの関係性の設定、考えといた方がよくない?」
「はあ? そんなもん、正直に答えとけばいいだろうが」
「え?」
ジュードが、オレの手を取って、指を絡めた。そして大真面目な顔で、
「――付き合ってる」
あ、だめだ、嬉しい。付き合ってるのか、オレたち。
「っ、そ、そう? そう、だな? まあ、そういうことに? しといてやってもいいけど?」
「にやけるなよ。早く行くぞ」
「べっつに、にやけてませんけどー!?」
ジュードに手を引かれるのを追いかけて、隣に並ぶ。
町に入って、人通りが増えてきたら、やっぱりオレたちのことをちらちらと見る人間もいる。ちょっと照れくさくはあるけど、こいつの隣を歩いているのが誇らしい気分だった。
まあ、見た目はともかく、内面は超カンジ悪いやつだけどね。
みんな、知らないんだ。たまに垣間見える優しさも、抱き枕にされた時の寝心地も。
全部、知っているのはオレだけ。
168
お気に入りに追加
316
あなたにおすすめの小説
目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
30歳まで独身だったので男と結婚することになった
あかべこ
BL
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。
キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者、の予定
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる