追放されたオレを拾ったやつが超カンジ悪い!

甘糖めぐる

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本編

13話 急展開

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 ――嘘だろ? 第二王子がジュードの弟? 本当は、王子は三人いた? なら、呪いをかけてきたのは、長兄である王太子……?

 ジュードは、声をかけてきた青年のことは完全に無視して、反対方向へ歩き続ける。

 青年は必死に追いかけてきた。

「待ってください! 兄様っ、ジュエルウィード兄様ですよね!? 僕です、あなたの弟の――!」
「知らない。人違いだ」

 ちらりと後ろを見たジュードは、ひどく冷たく言い放った。

「っ、でも……!」

 青年は、泣きそうになりながら、周囲の視線にも気付いていない様子で追いすがろうとして――そのまま、何もないような場所でつまづいて転倒した。

 オレが反射的に助け起こしに行こうとすると、ジュードに強く手を引っ張られる。

った……! もう、なにするんだよ!」

 問答無用で、人目のない狭い路地裏に連れ込まれた。

「おい、ジュード……! どういうことだよ、さっきのって」

 返答はない。眉根を寄せて、口を固く結んで、こちらを見るだけだ。なんとか言ったらどうなんだ。
 こっちだって混乱してるのに、そんなことをされたら日頃から削られ続けた忍耐力が底をつく。

「意味わかんないよ、お前。あんな態度を取ることないだろ。死んだはずのお前を、それでもずっと、生きてると信じて捜してたんじゃないのか? なのに、倒れたのを一瞥もしないでさ……! なに? 他人の痛みまでわからなくなっちゃったわけ? まさか、自分の弟まで疑って――!」
「黙ってろ」

 胸ぐらをつかまれる。
 あまりの態度の悪さに、即座につかみ返す。

「いい加減にしろよ、急に機嫌悪くなりやがって。お前がろくに話さないから、こっちはワケわかんなくて気が立ってんの……! 勝手に一人で抱え込んで、辛そうにしてんじゃねえよ! 本当そういうのムカつく!」
「ああ?」

 殴り合いに発展しそうな空気の中、近くで足音がして、二人でそちらを睨む。

 先程の青年が、びくりと肩を震わせて建物の壁に張り付いた。

「あっ……! あ、あの、やっぱり、ジュエルウィード兄様ですよね……?」

 結構しつこい。そして、フードをはずして露わになった顔は、やっぱり第二王子のセージだった。

 ジュードが深い深いため息をついて、オレから手を離す。
 セージは、それを肯定と受け取って、涙の滲む微笑みを浮かべた。

「ああ、よかった、本当に生きてらしたんですね……! 記者の方に頼んで、捜してもらっていたんです。水難事故と聞きましたが、どうしても、兄様が亡くなったなんて信じられなくて……」

 記者。まさか、アンテルたちとの一件でジュードと顔を合わせた彼だろうか。

 弟が感動の再会モードでいるにも関わらず、ジュードは未だに冷たく突き放すような態度だった。

「早く帰れ。それで変装したつもりか?」
「えっ……あ、ごめんなさい……」

 ――それはそう。なんだけど、

「ジュード。言い方ってもんがあるだろ」
「ふん」と、そっぽを向くジュード。子どもか。

 セージは、ゆるやかに首を横に振った。

「いえ……失礼いたしました。でも、兄様。生きてらしたなら、どうして城へ戻らないのですか? もう十年ですよ?」
「……お前は、なにも知らないんだな」

 観念したように、淡々と、真実が語られる。

「十年前、ヨハンスクラートが俺に神経異常の呪いをかけた。城へ戻っても、また命を狙われるだけだ」
「っ、そんな、ヨハン兄様が……!? 僕には、普通に接してくださるのに」
「お前は回復特化だからな、王位継承の邪魔にならないと判断したんだろ」
「でも、いつの間に呪術なんか……」

 少しの間考え込んだセージは、自分の額を押さえた。

「あ……昔、城で見つけた隠し部屋に、古代語と思しき本があったんです。たしか、ヨハン兄様に渡したままになっていて……もしかしたら、それが解読できたのかも。あぁ、それじゃあ、僕のせい――」

 青ざめる彼に対して、ジュードは怒った様子もなく手で追い払う仕草をする。

「いいから、早く行け。王族との関わりなんて人に見られたくない」
「あっ、はい……!」
「間違っても、俺が生きていたなんて言うなよ。顔にも出すな」

 表通りへ出る前に、振り返ったセージは真剣な顔で言った。

「あの、最後にひとつだけ……! お二人は、交際されているんですか?」
「は?」「え?」

 オレも思わず声が出た。
 ジュードが「違う」と、すぐに否定する。

 ――そうだよな、お前はオレのこと弄ぶくせに、キスの一つもしてくれないもんな……!

「あっ、手を繋がれていたので早とちりを……」

 セージは、ぺこりと頭を下げてから微笑んだ。

「でも、ご友人ではあるんですよね。よかった、ジュエル兄様が独りじゃなくて」

 それがあまりにも嬉しそうだったので、オレたちは「違う」だなんて言えなかった。

 再び二人きりになると、ジュードは路地裏を奥へと進んで行く。

「別の道を通るぞ」
「あ、うん――」

 フードの人物の正体に気付いた人が、興味本位で密会相手を待ち伏せでもしたら厄介だからだろう。もう、公開すれすれアウトの密会だけど。というか、オレも結構うるさくしちゃったな。

「その……悪かったな、騒いだりして」
「まったくだ」
 ――全く悪びれないな。お前が話をしないせいなんだけど。

 誰も追ってきていないか、一度背後を振り返る。すると、急な動作でジュードに手首をつかまれた。

 見れば、眉根を寄せて口を固く結んで――先程と似たような表情でこちらを見据えている。

「な……なんだよ、逃げないよ」
「……当たり前だ」
 ――いや、オレの温情なんだけど。

 ジュードは、顔をしかめたまま歩き始める。それにしても、なんだか少しだけ、無理やり絞り出したような声に聞こえた。

 ――らしくないな。不安、なのかな。……いや、あの傲慢で横柄で恥知らずでムカつくほど余裕綽々なジュードが?

 オレの勘違いな気がしてきた。

「リヒト」

 ふと呼ばれて、形の良い後頭部を見上げる。

「なに?」
「王都を出るぞ。二人で」
「えっ!?」

 突然そんなことを言われても、状況が飲み込めない。

「待って、逃げるにしても薬はどうするんだ? 仮に自分で作れるようになったとしても、材料調達のために王都に留まってるんじゃなかった? 他の場所で、全部安定して手に入るのか? 薬がなかったら、ジュードは――」

「お前がいればいい」

 ジュードはこちらを振り向くと、オレの手をぎゅっと握りしめた。
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