追放されたオレを拾ったやつが超カンジ悪い!

甘糖めぐる

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本編

12話 兄

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 朝の光と、小鳥のさえずり。ふと目を覚ますと、枕元にジュードが座っていて、オレの頬に手を当てていた。え?

「うわぁあっ!?」
「なに驚いてんだ。さっさと起きろ」

 そりゃ驚きもする。だって、夜中……つい数時間前に、色んな所を触られて醜態を晒した相手が、なんか起き抜けに頬を触ってるんだから。

 ――こいつには気まずいという感情がないのか……?

 手を引いてダイニングまで連れて行かれると、もう、エマが作り終えた朝食をテーブルに並べているところだった。

「あっ、二人とも。おはようございます」

 ジュードは平然と「おう」なんて相づちを打ってるけど、夜中のオレの声がエマの部屋まで響いていないかこちらはビクビクなわけで。

「あっ、おっ、おはよう!」

 笑顔が引きつっている不審者に対して、彼女は不思議そうに首を傾げる。

 ――バ、バレてない、よな……!? あ~……シーツ汚さなくてよかった……。あんな大きなの洗濯に出してたら、絶対なんかあったなって思われる……。

 ジュードは、食事が始まっても、片付けが始まっても、相変わらず取り澄ましている。まるで何事もなかったかのように。

 ――そりゃ、お前はずっと余裕だったろうけどさ……! というか実は全部オレの夢だったりする……? いや、あんなリアルで屈辱的な夢があるかよ……。

 ジュードの隣で皿洗いをしながら、考える。

 ――はあ、人生最大の恥……なんだけど。でも、ジュードとそういうことするの、意外と大丈夫だった……かも……?

 オレのプライドはズタズタだけど。

 その日以降、アレよりすごいことはされていない。今のところは。でも寝る前の弄ばれ方にバリエーションが増えた。増えるな。

 他にオレがやっていることと言えば、薬の材料採取に単身図書館通い、調べた情報を元に呪い竜の捜索だ。
 今日も、ジュードと一緒に竜の巣と呼ばれる渓谷に行ってみたけど、普通の竜に追いかけ回されただけで帰って来た。
 オレがへとへとになっている隣で、ジュードは平気そうに街までの道を歩く。いつも通り愛想はないけど。

「おい、リヒト、そもそも呪い竜が黒いって情報は本物なのか?」
「知らないよ! 大昔の民間伝承だぞ? 記述自体が少なくて、なんかそれっぽい目撃情報がないか新聞も漁ってみたけど……」

 最近は、南方の国で内戦が終わったとか、東方の国で大きな自然災害があったとか、うちの国王は静観を続けているがなんやかんやといった記事ばかりだ。もっと過去の、しかも地方紙まで調べないといけないかもしれない。
 オレが肩をすくめたのを見て、ジュードは軽くため息をつく。

「……どうするかな。お前の解呪の力も、呪い竜を倒さない限り、制限されたままな気がするんだよな」
「え、制限? これ制限されてるの?」
「推測だけどな。大聖者の力を、呪い竜マディクシオンが封じたって話があっただろ。制限された状態の解呪の力が、保持者の死に伴って後の世代へ引き継がれている可能性がある」

 人ではなく、能力そのものへの呪いということだろうか。……というか、

「なんで黙ってたんだよ、推測でもいいから情報共有しろって。はい、他には?」
「この説が正しければ、マディクシオンは今でも生存している。俺への呪いに使われたのは、こいつの体の一部じゃないか? 他に騒ぎになっていないところを見ると、マディクシオン自体はどこかに封印された状態……とかな」
「じゃあ目撃情報を探しても意味なくない? マジで情報共有しろって」
「推測は推測だ、手当たり次第に探すしかない」

 後半、ジュードはオレから目を逸らした。

 ――こいつ、封印場所の見当も付いてるな……? それでも言わない理由ってなんだ? 呪いが解けたらオレといる理由がなくなるから……なワケないか。単純に信用されてないんだ。きっと、呪いをかけた張本人の居場所まで特定されかねないから。

 悔しい。ジュードを売ったりしないのに。でも、無理に聞き出そうとしたら怪しまれるから、従順なふりをするしかない。

 ――こいつの人間不信って兄貴のせいだろ。許せない……一体どんなやつだよ。

 王都に入り、人通りが増えると、ジュードはつかんでいたオレの手を一度離して、丁寧に繋ぎ直した。以前、エマから、つかんで引き回したら事件性を感じると言われたから律儀に守っているのだろうけど。

 ――前みたいに嫌そうじゃないよな、こいつ。

 それが、少し……本当にちょこっとだけ、嬉しい。同時に、呪いがないとこんなことすら出来ない関係なのが悔しいけど――風が冷たかったから、こちらからも握り返して、上着のポケットに手を突っ込んでおいた。ものすごく怪訝な顔をされた。

 薬屋の近くまでくると、ジュードが不意に立ち止まる。視線の先を見ると、前方に、ローブのフードを目深に被った怪しい人物がいた。何を探しているのか、しきりに辺りを見回している。

 ――なに? 不審者すぎて目立つ……!

 しかし、よく見ると、フードの下はかなりの美形だった。金色の髪に、丸く優しげな印象の緑の瞳。表情は少し不安げ。まるで、迷子になってしまったおとぎ話の王子様だ。近くの屋根の上からは、小鳥が首をかしげながら様子を見守っている。

 ――いや、待って、あの顔って。

 ジュードが引き返そうとする。
 青年が、こちらを見て声をあげる。

「あっ――兄様!?」

 驚愕と歓喜が入り混じった声。ジュードのことを見て、兄様と言ったようだった。

 でも、ありえない。

 だって、さっきの青年は――この国の第二王子、セージ・フォン・グランディオスだったから。
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