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終章
51話 告白
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余裕のある、大人の微笑みだった。立ち止まったメィシーが、リセナに向けていたのは。
なんとなく、直視していられなくて、彼女は高鳴る自分の胸に視線を落とす。
――あの表情……に、弱いなあ……。ああやって、甘い声でささやかれて……。
一体どんな言葉をかけられるのか、彼女が緊張して待っていると、彼は優しげに質問した。
「リセナ。あなた、先日は、ずいぶんと無理をしましたね?」
「え……」
「きっと、これからも、自分より人助けを優先するんでしょうね?」
彼女が顔を上げると、メィシーは微笑んだままなのに、なんだかすごく威圧感がある。
――もしかして、これは、お説教タイム……?
たしかに、異星生物戦で致命傷を受けまくったり、寿命をすり減らしまくったり、メィシーがあらかじめ手を打っておかなければ確実に無事では済まなかった。
しおらしくするリセナの頬に、メィシーが手を添える。
「知っているでしょう――必ず守ると誓えるほど、僕は器用じゃない」
そのささやき声は甘く、細長い指がするりと肌をなでた。
「気持ちとしては、あなたを安全な所に閉じ込めて、大切に大切に可愛がりたいくらいです。あなたが望むことを、僕がなんでもしてあげましょう」
でも、と、彼は手を離した。
「あなたは、それでは満足しないんでしょうね。だから、せめて、どこへ行っても、帰ってくる場所を僕の隣にしていただけませんか?」
そう言うメィシーは、少しだけ、余裕を欠いているようだった。
「僕は……どうやら、あなたと協力し合うだけの関係では、満足できなさそうです。もっと色んな話がしたい。色んな表情が見たい。こんな僕の手を取ってくれた、あなたの、生涯の伴侶でありたい――。そう、願っています」
彼は、言葉の最後に「こんなはずじゃなかったのに、不思議なものですね」と言って、もう一度、愛おしそうにリセナの頬をなでた。
◆
リセナもよくわかっていないが、どうやら返事は最後にする形式らしく、メィシーと入れ替わりでグレイがやってくる。しかし、彼自身、なぜ自分がこんな状況になっているのかよくわからないまま参加させられているらしかった。
彼はこちらを見つめて、何か考えているふうだけれど、しばらく待っても何も言わない。
「あの……」
仕方なく、リセナは気になっていたことを尋ねる。
「グレイは、これからどうするか、決まりました?」
「……そう、だな。各地に散っている、魔王軍の生き残り……。他の魔物や魔族も制圧して、配下にするか」
この人は新たな魔王にでもなるつもりなのか――リセナが、なんの説明もない計画に困惑する。
「え、えっと? それは、きちんと管理して、人と敵対しないように……ってことですよね?」
「そうだな」
さらっと言っているけれど、大変な、途方もない旅になるはずだ。
「それは……とても大事なことだと思います。私としても、各地を安全に移動できるようになるのは助かるし。でも……それじゃあ、しばらく、お別れになりますね」
リセナには、シーリグ商会の一員として、エルフの里やライランド家と連携してやるべきことがある。それをグレイもわかっているはずだが――いや、わかっているからこそ、隠しきれない苦悩をわずかにのぞかせて、リセナを見つめていた。
「……なあ。お前の邪魔になるやつは消してやるから、俺と来ないか」
どうしようもない希望を口にして、リセナを困らせていることもわかっているから、まとまらない思考で付け加える。
「……必要なら、どこへでも付き従う」
その気になれば攫って行くことだってできるのに、彼はどこまでも妥協してくれる。どうしても譲れないもの以外は。
「……たまに、お前の元へ帰る。他のやつには触らせるな。……俺のものでいてくれ」
彼はそれきり、リセナをじっと見つめたまま、黙ってしまった。
◆
グレイとリセナが謎の見つめ合いタイムに入っている時、それを遠目に見ていたレオンは冷や汗だらけで、もう胃が痛かった。
――あれ……よく考えたら、オレを選ぶメリットってなくないか……? あれ????
グレイと入れ替わりでリセナの元へ行く時も、これから告白するのに雑念が止まらない。
――オレがあれだけ戦えたのも、リセナの魔力増幅のおかげだし。もしフラれたとしても、幼馴染として一緒にいるし、ライランド家としても協力するし……。あぁあでも誰にも渡したくない!!!!
彼女の前に立ち、その一心で覚悟を決める。
「っ、リセナ……!」
言おうと思って、何年も前から考えていた台詞は、全部頭から飛んだ。それで、なんとか繋ぎ合わせただけの不格好な言葉で、ありったけの想いをぶつける。
「好きだ。愛してる。結婚してください!」
彼は、震えながら、まだ何も言われていないのに目を涙で潤ませていた。
◆
また、三人を前にして、リセナは考える。
――みんな、こんなに、真剣に向き合ってくれて……。私が決めないといけないのに、その選択で傷付けてしまう可能性を考えたら、私……。
誰かを切り捨てるなんて、できない。正解なんて、わからない。口にするのが怖いのに、それでも、伝えなければいけない。
なんとなく、直視していられなくて、彼女は高鳴る自分の胸に視線を落とす。
――あの表情……に、弱いなあ……。ああやって、甘い声でささやかれて……。
一体どんな言葉をかけられるのか、彼女が緊張して待っていると、彼は優しげに質問した。
「リセナ。あなた、先日は、ずいぶんと無理をしましたね?」
「え……」
「きっと、これからも、自分より人助けを優先するんでしょうね?」
彼女が顔を上げると、メィシーは微笑んだままなのに、なんだかすごく威圧感がある。
――もしかして、これは、お説教タイム……?
たしかに、異星生物戦で致命傷を受けまくったり、寿命をすり減らしまくったり、メィシーがあらかじめ手を打っておかなければ確実に無事では済まなかった。
しおらしくするリセナの頬に、メィシーが手を添える。
「知っているでしょう――必ず守ると誓えるほど、僕は器用じゃない」
そのささやき声は甘く、細長い指がするりと肌をなでた。
「気持ちとしては、あなたを安全な所に閉じ込めて、大切に大切に可愛がりたいくらいです。あなたが望むことを、僕がなんでもしてあげましょう」
でも、と、彼は手を離した。
「あなたは、それでは満足しないんでしょうね。だから、せめて、どこへ行っても、帰ってくる場所を僕の隣にしていただけませんか?」
そう言うメィシーは、少しだけ、余裕を欠いているようだった。
「僕は……どうやら、あなたと協力し合うだけの関係では、満足できなさそうです。もっと色んな話がしたい。色んな表情が見たい。こんな僕の手を取ってくれた、あなたの、生涯の伴侶でありたい――。そう、願っています」
彼は、言葉の最後に「こんなはずじゃなかったのに、不思議なものですね」と言って、もう一度、愛おしそうにリセナの頬をなでた。
◆
リセナもよくわかっていないが、どうやら返事は最後にする形式らしく、メィシーと入れ替わりでグレイがやってくる。しかし、彼自身、なぜ自分がこんな状況になっているのかよくわからないまま参加させられているらしかった。
彼はこちらを見つめて、何か考えているふうだけれど、しばらく待っても何も言わない。
「あの……」
仕方なく、リセナは気になっていたことを尋ねる。
「グレイは、これからどうするか、決まりました?」
「……そう、だな。各地に散っている、魔王軍の生き残り……。他の魔物や魔族も制圧して、配下にするか」
この人は新たな魔王にでもなるつもりなのか――リセナが、なんの説明もない計画に困惑する。
「え、えっと? それは、きちんと管理して、人と敵対しないように……ってことですよね?」
「そうだな」
さらっと言っているけれど、大変な、途方もない旅になるはずだ。
「それは……とても大事なことだと思います。私としても、各地を安全に移動できるようになるのは助かるし。でも……それじゃあ、しばらく、お別れになりますね」
リセナには、シーリグ商会の一員として、エルフの里やライランド家と連携してやるべきことがある。それをグレイもわかっているはずだが――いや、わかっているからこそ、隠しきれない苦悩をわずかにのぞかせて、リセナを見つめていた。
「……なあ。お前の邪魔になるやつは消してやるから、俺と来ないか」
どうしようもない希望を口にして、リセナを困らせていることもわかっているから、まとまらない思考で付け加える。
「……必要なら、どこへでも付き従う」
その気になれば攫って行くことだってできるのに、彼はどこまでも妥協してくれる。どうしても譲れないもの以外は。
「……たまに、お前の元へ帰る。他のやつには触らせるな。……俺のものでいてくれ」
彼はそれきり、リセナをじっと見つめたまま、黙ってしまった。
◆
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「っ、リセナ……!」
言おうと思って、何年も前から考えていた台詞は、全部頭から飛んだ。それで、なんとか繋ぎ合わせただけの不格好な言葉で、ありったけの想いをぶつける。
「好きだ。愛してる。結婚してください!」
彼は、震えながら、まだ何も言われていないのに目を涙で潤ませていた。
◆
また、三人を前にして、リセナは考える。
――みんな、こんなに、真剣に向き合ってくれて……。私が決めないといけないのに、その選択で傷付けてしまう可能性を考えたら、私……。
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