王太子に婚約破棄された幼馴染をイケメン暗黒騎士と超美麗エルフが奪いに来てた〜キケンな寵愛も秘密のレッスンもいらないから俺の初恋邪魔しないで〜

甘糖めぐる

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終章

50話 お祭りデート?

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 その日、ライランド領では秋の収穫祭が行われていた。周囲の農村からも住民が集まるので、会場は小さな田舎町とは思えないほどの賑わいを見せている。
 祭りを楽しむ人々は、先日、異星からの侵略者が大挙して押し寄せたことなど知るよしもない。まだ、休眠状態で飛来したものによる脅威がなくなったわけではないが、隕石の取り扱いについて周知が行われたことと、エルフの里の協力により分析魔法アナライズの使用が始まってからは、事態は改善しているようだった。

 リセナは今日、レオンとメィシー、グレイの四人で収穫祭を訪れていた。魔王討伐は終わったけれど、この日までは、四人で過ごしたいと彼女が申し出ていたのだ。

 飾り付けられた町。すれ違う大勢の人々から、たまに、レオンが声をかけられる。
「おっ、レオン坊ちゃん! 王太子をギャフンと言わせたらしいね!」
「なっ、なんで知ってるんだよ!?」
「ははは! 嬉しそうにリセナ嬢と歩いてたらわかるって! お幸せに~!」
「いやっ、ちょっと、まだ……!」

 そのまま仲間と歩いて行く領民は、急に真剣な表情で「いや、周りの男はなんだ……?」と顔を見合わせた。

 異星の門の破壊を一応評価されて、王太子からは「もう勝手にしてくれ」と言われたものの。まだ、レオンは、リセナに正式な告白をしていないのだ。この収穫祭が終わったら、夕日の見える丘で、伝えようと思っている。

 それはリセナにも、なんとなくわかっていた。話題に出されてそわそわし始める彼女の肩を、メィシーがポンと叩く。
「リセナ、あっちに射的がありますよ。やってみますか?」
「あっ、はい……!」
 言われるまま、カラフルな射的の屋台に行ってみるも、彼女はコルク銃を構えた段階で困惑してメィシーを見上げた。
「あの……これ、どうやって狙うんですか?」
「えっと、そうですね――」

 彼は、リセナの隣に来ると、自然な動作で自分の手を彼女の手に添えた。リセナの至近距離に、メィシーの整った横顔がくる。
 狙い方を教えるだけのつもりだろうが、突然綺麗なものを近くに出されて、彼女は思わず見つめながら息をのむ。

「ほら、リセナ、前を見て」

 おかしそうに微笑む彼と目が合って、彼女は急いで視線を外した。

 後ろの方では、レオンがコルク銃の銃口を、景品ではなくメィシーの頭に向けてわなわなしている。

 ――あーっ、また、そうやって! アーッ!
 リセナと一緒にデートしたいのに、油断も隙もない。
 ――今度は、オレが、なんかいい感じにする!!!

 リセナは、獲得したお菓子やぬいぐるみを、ひとつずつメィシーに見せながら収納魔法へしまっていく。
 意気込むレオンは、次に、彼女が人だかりの中心を気にしていることに気付いた。リセナは後ろから背伸びをして見ようとするけれど、前に男性が複数いるのでどうしても視界が遮られてしまう。

「なにやってるんだろうね」と、レオンが声をかけた矢先。グレイが、ひょいと彼女の胴を持ち上げて自分の肩に乗せた。

「わ――!?」

 リセナの視界が一気に高くなる。落ちたら大変なことになりそうで初めは怖かったけれど、グレイの大きな手で腰を支えられていて、その心配はなさそうだった。

 前を見ると、人だかりの中心では、マジックショーが行われていた。シルクハットの中から、白い鳩が出てきて青空へ飛び立っていく。

「わぁ……! すごいですねっ」

 彼女がグレイの方を見やると、彼はあまり興味がなさそうだったが、

「……ああ」

 と、答える声はどこか優しかった。

(リセナ自身が収納魔法に物を出し入れしているのに、なぜあれに感動できるのかちょっと疑問だったが、彼は何も言わない)

 レオンは、また、後ろの方でわなわなしている。
 ――肩車なら! オレにも! できますけどぉ!
 本当に、もう、油断も隙もない。

 再び祭りを回り始めると、レオンとリセナは、ほとんど同時にクレープの屋台を見てつぶやいた。
「美味しそう……」
 二人で、それぞれ違う味を買ってみる。レオンは、領内で採れたオレンジを使ったクレープだ。
 ひとくち食べてみると、豊かな香りと程よい酸味が生クリームの甘さによく合っていた。

「美味しい! ねえ、これも食べてみて!」
 よく考えずリセナに差し出してから、彼は「あっ」と声をあげる。
「ごめん、食べかけなんて嫌だよね――」

 と、言い終える前に、リセナは彼の手にあるクレープをぱくりと口に含んで「えっ?」という顔をしていた。
 そして、紅潮する頬でもぐもぐしてから
「や、あの……美味しい、です……」
 と、目を泳がせる。

「で、でしょ!」
 それを見て、レオンも、赤くなった顔を背けてなんとか見られないようにしていた。鼓動が急に速くなる。

 ――ちょっ、と、これ……本当に告白できるかな……。もうドキドキしてきた……。

 にぎやかな一日は、あっという間に終わり、陽が傾き始める。レオンは、リセナに想いを伝えるために、彼女と一緒に夕日の見える丘に来ていた。落ち着かない様子の彼女と、向かい合って立つ。

 ただし、レオンの両隣には、グレイとメィシーも立っていた。

「なんでっ!? 告白大会でも始める気か!!? わかってたけど!!!!!」

 そう、嫌な予感はしていた。彼らがライランド領を出る前に、リセナに対してなんらかのアクションを起こしてくる可能性は十分すぎるほどあった。

 メィシーが、にっこりと笑う。
「まあまあ、落ち着いてくれ。僕たちは、それぞれ正当な理由があって彼女と仲良くしたいと思っている――。なら、チャンスは等しく与えられるべきだろう?」
「はあ~~~????? どっかで聞いたようなセリフだなぁ!? わかったよ、順番だろ順番!」
「それでは、僕からいいですか?」

 メィシーはリセナの手を取ると、彼女を少し離れた所まで連れ出した。
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