王太子に婚約破棄された幼馴染をイケメン暗黒騎士と超美麗エルフが奪いに来てた〜キケンな寵愛も秘密のレッスンもいらないから俺の初恋邪魔しないで〜

甘糖めぐる

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三章

49話 絶望の先へ

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 逃げろ、という言葉は届いていた。しかし、リセナはその場に立ちすくむ。このままでは、レオンもグレイもメィシーも、みんな助からない。

 ――もっと早く、逃げていれば……。私が、判断を間違えたから……っ。

 揺るぎない愛を願っておきながら、全て自分で壊してしまう――。罪悪感と、大切なものを失う恐怖が胸を苛む。

 そんな時、レオンが一人で前へ走り出す姿が、彼女の目に入った。

「レオ……どうして……?」

 何度も倒れそうになりながら、彼は走り続ける。このまま戦っても、勝てるはずがないのに。彼はもう、何もかも捨てて逃げ出してもいいくらい、傷付いているのに。
 いや、そもそも――彼が戦場にいること自体、本来ならば、あり得ないようなことなのに。

 けれど、それでも、彼が力を貸してくれるというのなら。
 まだ、ひとすじの希望がそこにある。

 ――レオを、独りにはできない。これでもまだ、あなたが諦めないというのなら……!

 折れかけていた心が奮い立つ。

 手を握りしめ、リセナは前へと走り出した。とうに悲鳴を上げている体に魔力を巡らせて、限界まで身体強化をかけて走る。

 彼につられて動いたのではない。そうすると、彼女自身が決めたのだ。

「リセナ!!!!」
 後ろで、メィシーの叫び声がした。

 頭上では、残った三体の異星生物が空を舞っていた。下顎までしか頭部がない、翼の生えた、悪魔のようなもの――。脳があるはずの場所に空間が圧縮され、それは衝撃砲となってリセナを襲った。

「――――」

 誰もが言葉を失った。レオンも、その破壊音で振り返り、彼女の姿が見えないことに絶句する。

 立ち込める土煙が晴れ、大きく抉れた地面の中心には――

「メィシーさん、ごめんなさい」
 砕けた高速回復薬の瓶を投げ捨てる、リセナが立っていた。
「あなたにもらった時間、使ってしまいました」

 わずかに残っていた傷も瞬く間に完治する。体内時間を早送りして、負傷と即時の治癒を実現させたのだ。メィシーに分け与えられていた、十年を超える時間を消費して。

 再び走り出すリセナを、異星生物が追撃しようとする。グレイは腕を伸ばすと、生き長らえるのに使うはずだった魔力で風を起こし、地に落ちた剣を巻き上げた。
 剣をつかんだ直後、全ての魔力を一気に身体強化へ回す。臓器の保護は考えず、剣を振り下ろすことのみに特化した強硬策で、彼は影に潜む異星生物を地面ごと叩き割った。
 この間、わずか二秒。重力の変化が消えるや否や、メィシーは魔導銃アルテンシアを構えると、リセナを追う異星生物を一撃で全て消し飛ばした。

 衝撃吸収の魔法がかかっていたローブも、先ほど受けた攻撃で崩れ去った。それでも彼女は、レオンに向かって走る。

 体力はとうに限界を迎えていた。駆けて、駆けて、足がもつれて、倒れ込んで――自分より、少しだけ大きな背中に受け止められる。

 振り向いたレオンと、リセナは、互いの目を見てうなずき合った。

 魔力増幅アンプリフィエを受けたレオンが、身体強化をかけて再び走り出す。もう、巨人の上半身が、こちらの世界へ侵出していた。

 門の付近、乱れた重力により浮き上がった岩石を足場に、彼は巨人の眼前へと駆け上がる。

 ――この一撃で、異星の門ごと焼き払う!

 この惑星ほしを。自分たちの――リセナとの未来を、この手で守り抜くために。

 もう足場はない。ひときわ高く跳び、巨人の眼前へと到達する。

「―――!!!!!」

 ありったけの魔力を込める。
 巨人は、レオンを視界にとらえ、空気を震わす激しい咆哮をあげた。

「――邪魔だ」

 轟々と燃える炎の剣を高くかかげて、彼は一気に振り下ろした。火炎の斬撃は、異星の門も、巨人の体も焼き切り、紅蓮の業火に包み込む。

 暗い空を背景に燃え盛る炎は、まるで太陽のように強く輝いていて――

 やがてそれらは、ぼろぼろと、地面へ崩れ落ち始めた。
 立ち込めていた暗雲が晴れ、重力の異常も消失する。

 目前まで差し迫っていた脅威は、たしかに、この惑星を去ったのだ。

 高い高い空から、レオンの体が落下する。もう、指先ひとつも動かせないほど、全ての力を出し切った後だった。

 ――あ……着地のこと、考えてなかった……。

 このまま落ちて地面に叩き付けられれば、どうなるかくらいは朦朧とする頭でもわかった。

「リセナ……」

 彼は最後に、目を閉じて、愛しい人の名前を呼ぶ。








 本当に、これで最後のつもりだった。

 リセナが指先で空中を一文字に切る。そこから広がる光の帯に手を入れ、彼女は異空間からつかみ取った、もう一枚の真紅のローブを羽織った。

 そして、駆け寄った先で、彼に向かって両手を伸ばす。

「――レオ」

 ぎりぎり骨折しない程度の衝撃を受けて、レオンがそっと目を開けると、そこにはリセナがいた。自分を抱きとめた彼女は、ローブの衝撃吸収魔法でも消し切れなかった分の重みに少々眉を寄せていたが、喜びに顔がほころんでいる。

 彼は、何よりも先に、思わず笑ってしまった。

「やっぱり、きみは格好いいなあ……」

 彼女は膝をつき、座り込むと、全身ボロボロになるまでがんばったレオンの頬に触れる。

「おつかれさまです。あなたも、格好よかったですよ」

 彼は、意識を失う前、本当に嬉しそうに微笑んだ。
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