王太子に婚約破棄された幼馴染をイケメン暗黒騎士と超美麗エルフが奪いに来てた〜キケンな寵愛も秘密のレッスンもいらないから俺の初恋邪魔しないで〜

甘糖めぐる

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二章

27話 ピクシーをつかまえろ!

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 試練へ向かうリセナの見送りのため、レオンとグレイも里から少し離れた所まで来ていた。(メィシーは特に見送られていない)

「リセナ、気をつけてね~! 試練中に転んだら教えて、そいつ死刑にするから~!」
「あはは……レオも、グレイとケンカせずに待っててくださいね」
「それはどうだろ……」
 自信がなさそうなレオンに、リセナが苦笑する。
「それじゃあ、行ってきます」

 彼女が前を向くと、そこには、二階建ての建物くらいの崖が立ちはだかっている。
「ところで……メィシーさん、これは?」
「試練の間は、この崖の上です。……僕は魔法で飛んだりできないので、がんばって登ります」
「わぁ……」

 二人して、わずかなくぼみに手や足をひっかけて崖をよじ登る。
「ごめんなさい、僕が不器用なばっかりに……」
「いえ、全然大丈夫です。このくらいの高さなら、落ちてもローブが衝撃吸収してくれるのでノーダメージです!」
「それはよかった。いいですね、そのローブ。里の商店にも卸してほしいです」
「あとで打ち合わせしましょう!」

 崖を登りきると、先の方に石で出来た祠が見えた。上部には魔法陣が刻み込まれている。
 メィシーが魔法陣に魔力を流すと、前方に石の門が出現した。彼は門の扉を押しながら、首をかしげ、ウエストポーチから紙切れを取り出す。
「これは、グレイが魔王の側近から受け取っていたものなのだけれど……」
「あ……この図形、祠の魔法陣に似てますね」
「ええ。つまり、魔王領にあるのも、転移門の陣……? でも、魔力が込められているのに発動しないと言っていたな……不完全なのか……」

 門をくぐると、別の空間に移動したらしかった。地下空洞と思しき場所だ。
「リセナ、あとでグレイに、このことを伝えてあげてください」
 メィシーがリセナに紙切れを渡す。

 発光する苔でぼんやりと明るかった通路に、ひときわ明るく輝く球体が現れる。彼女が目をこらしてみると、羽の生えた小人がふわふわと飛んでいるのだった。
「ピクシー?」
「ええ。日没までに、この地下迷宮でピクシーを捕まえる――それが、試練の内容です」
 言い終えるのが早いか否や、先ほどまでふわふわ飛んでいたピクシーは、豪速球のようにどこかへすっ飛んで行った。

 一時間後、二人は入り組んだ迷宮内を迷いに迷っていた。
「あの……リセナ、おそらく同行者は魔法を使えないようになっているとは思うのだけれど……。追跡魔法を使えたり、しませんよね?」
「しませんねえ……。そもそも、魔法自体あんまり得意じゃないので」
「うーん、魔力探知で方向はわかるのだけれど、こうも入り組んでいると……。面目ないです。お暇でしょうし、なにか話でもしましょうか」

 それならばと、リセナは気になっていたことを質問する。

「メィシーさんは、自分の里を閉鎖的だと言ってましたが、みなさん私たちには良くしてくださいました。本当は、政治への発言権がなくても、交易や技術交換は話し合いで解決できるんじゃないでしょうか?」
「いえ、優しい住民ばかりだけれど、みんな変化を嫌うのです。自分たちが満足している現状に、ヒビが入るのが怖いから」

 ほとんど即答だった。

「でも、僕には、ずっとサナギのままでいることの方が恐ろしい。停滞した楽園で、新しい景色を見ることもなく、その羽ばたきが世界を変えることもなく……。もちろん、平和の中で一生を過ごすのは、とても素敵なことだと思うけれど。本当は出来るはずだったことを、未来の子どもたちが出来ないのはイヤじゃないですか」

 大人の尊厳に関わります、と言って、彼は茶目っ気のある笑みを浮かべた。自分のわがままに対して、照れ隠しをしているようだった。

「だから、一人前と認められて、責任ある立場で皆と話し合いたい。そういうことです。まずは、人間と、物品や技術の交換。知識も、互いに持ち寄って高め合いたいですね。分析魔法アナライズなんかは、あれ、病気の判定にも使えるんですよ。普及すれば、医療が大きく進歩すると思います」
「なるほど、病院の運営なんかもいいですね……! あと、こっちで困ってることってなんだろう。ハルバ鉱石は、クリスタルで代替できないか考えて……あとは、貧富の差かな。領地争いも、まだ起こっている所があるし……。これは、具体的に、なにをすればいいのか――」

 真剣に考えるリセナの耳に、自分たちの足音とは違うものが聞こえ始めた。炎だ。行く手を、めらめらと燃える炎が阻んでいる。

「リセナ、あれ」
 メィシーが、炎の向こうを指差す。ピクシーが、足止めをくらっているこちらを嘲笑うかのように、空中でダンスしていた。
「でも、メィシーさん、どうやってあそこまで行くんですか? 走り幅跳び……?」
「そんな、無茶なことを言わないでください。僕はレオくんやグレイみたいに武闘派じゃないんですよ、頭脳労働担当です。――そうだ!」

 彼は、背中のベルトから魔導銃アルテンシアを引き抜くと、天井から生えていた大きな鍾乳石を何本も撃ち落とした。炎の中に鍾乳石の足場ができたのを見て、ピクシーが再び奥へ逃げようとする――のを、今度は、天井そのものを撃ち壊して瓦礫で逃げ道を塞いだ。

「頭脳、労働……????」

 リセナが思わずつぶやく。こんなに破壊的な頭脳労働があるだろうか。

「メィシーさん、鍾乳石それって、出来るまでに何千年もかかってる希少なものなんじゃ……?」
「おや、博識ですね。でも、この空間は試練が終われば元通りになるので大丈夫ですよ」
 そう言いながら鍾乳石の上を跳んで、彼は慌てふためくピクシーを難なく捕まえた。
「――うん、魔物とも会わずに済みましたね。色々避けた甲斐がありました、試練終了です」
「えっ!? これ、私が来る必要ありました!?」
「いえ、実は……試練の直後にだけ受けられる、もうひとつの課題がありまして」

 メィシーの手の中で、ピクシーが眩く輝く。すると、その姿は消え、途端に地面が揺れ始めた。

「わっ――!?」

 よろめくリセナを、華麗に跳んで戻ってきたメィシーが両手で抱え上げる。

「もう少し、お付き合いくださいね」

 微笑む彼の胸の音は、リセナよりもずっと落ち着いていた。

 しかし、それに合わせて落ち着く暇もなく、二人の足元に大穴が空いて垂直に落下する。

「うわぁああメィシーさぁあん!?」

 彼に抱えられたまま、リセナは必死にしがみつく。やがて眼下に現れた魔法陣を通過すると、二人はまた別の空間に放り出された。
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