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16話 “好き”の種類
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サッカー部のみんなが帰った後も、レンは一人でボールを追いかけていた。楽しそうだったからしばらく眺めていた結心も、らちが明かないので途中で声をかける。
「おーい、レン。お前、瑞生となんかあったん?」
すると、こっちを見たレンが、突然ダバァと滝のような涙を流した。
「うぇええ……ゆうし~ん……!」
「おぉう……!? なになになに!?」
◇◇◇
「朝ね、瑞生が、普通にしててって言ったんだ」
二人で帰りながら、レンは結心に打ち明けた。
「オレ、よくわかんなかったけど、たぶん距離を置いてほしいってことだと思って」
「だから“普通に”友達やってたのか」
「うん。でも……オレは、瑞生とくっついていたいなあ。だって、大好きだし。触れてると安心するし、元気になるし。でも……みんなは、友達に、そういう気持ちになったりしないんでしょ? オレ、おかしいのかなぁ……」
結心が、レンの背中をぽんと叩く。
「そんなん、みんな、どこかしらおかしいって。お前は相手に押し付けてなくて偉いよ」
「でも、もう寂しくて死にそう……」
再び目をうるうるさせるレンを見て、結心は苦笑した。
「まだ一日も経ってないじゃん。そんなに好きなら、一回ちゃんと話し合ってきなって。いざとなったら俺が間に入るから」
「うぅう、わかったぁ……! ゆうしん、なんで優しいのにモテないんだろうねぇ……」
「俺も知りたい」
マジなトーンで言って、彼はレンを送り出した。
◇◇◇
瑞生は、レンの家の前で、インターホンを押す一歩手前のポーズのままずっと固まっていた。
――レン、まだ帰ってきてない……? 連絡が来てないだけ……? 俺の言い方が感じ悪かったから……?
ぐるぐるぐるぐる同じことを考えていると、ものすごいスピードの足音がして振り返る。
「あ――」
「瑞生っ!」
ぱぁっと顔を輝かせて、レンはダダダと階段を上がると、瑞生に飛びつく寸前で急に立ち止まった。二人の顔がぶつかりそうになる。
呆気にとられる瑞生から、レンはホールドアップの状態でそろりと離れた。
「ね、ねえ瑞生、誰もいない所でも触っちゃダメ……?」
「え、あ、や……それは……」
「とっ、とにかく! お話しにきてくれたんだもんね! どうぞ、あがって!」
鍵をガチャガチャして、ドアを開けると、レンは瑞生が自分から入ってくるまでじっと待った。
「……お、おじゃまします……」
「いらっしゃい!」
もしかして“普通の友達”を実行しようとしてくれているのだろうか。テーブルにお茶を出された瑞生は、それを飲み干してから、気まずいながらもようやく話し始める。
「あの……朝のことだけど」
「……! うん!」
「その……俺、まだ旭のこと好きだから。レンのことは、ただの友達だって信じてもらいたくて……手とか繋ぐと、付き合ってるって思われそうで……変な言い方してごめん」
数秒考えたレンは、ずいっと瑞生に近寄った。
「じゃあ、二人きりの時はくっついてもいい……!?」
「うぅん……それがわかんないんだよ……」
曖昧にうなって、瑞生は目をそらした。
「俺に対して、別にドキドキしないんでしょ。キス以上のこと、したいと思わないんでしょ。それって“好き”なの? 俺なんかに構ってないで、ちゃんと、他に相手探した方がいいんじゃない……?」
目をそらしたのに、レンがまた視界に飛び込んでくる。
「好きだよ! 瑞生が好き! くっつきたいし、一緒に笑っててほしいし、オレを一番にしてほしい!」
だって、一人ぼっちで寂しい時に、会いに来てくれたから。それから毎日、会いに来てくれるから。
そんなの、好きになってしまう。
「……俺の一番は旭だけど」
「そっ……それはぁ……! うぅ~ってなるけどぉ!」
レンが、ぐずぐずと鼻を鳴らし始める。
「んんぅ……やっぱり、ちゃんと格好良いところ見せればよかった……? 嘘でも、このまま押し倒してめちゃくちゃにしたいって言えばいいの……?」
「っ、ちょ、待って急に恥ずかしいセリフを――!」
「そういうのが良いなら、オレ、なんとか頑張るけど……」
「頑張らなくていいからぁ!」
「はぁい……」
レンは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、弱々しく訴えかけた。
「みずき……もう、なんにもしないから。だから、オレの好きって気持ちだけ、そうなんだ~わかった~って言って……?」
「っ……」
次から次に流れ落ちる涙を、瑞生は、無視できずにすぐに手や袖で拭い始めた。
――違う、そんな顔させたかったんじゃなくて。
追いつかないから、ティッシュ箱を引っつかんでくる。
――なにやってんだろ、俺だって普通は理解されにくい恋をしたくせに。
なんだか、自分まで涙が出てきた。
鼻声で、レンを抱きしめる。
「っ、うん……わかったよ。そうだよね、“好き”の種類なんていくらでもあるよね。みんな違う人間だもんなぁ……。ちょっと色々はじめてで、わけわかんなくなってた……ごめん……」
レンは、抱き返そうとした手を、空中であわあわさせていた。
「えっ、えっと、触っていい? ぎゅってしていい?」
「うん……でも、それ以外は、まだ待って。先に、しなくちゃいけないことがある」
「うん?」
きょとんと首を傾げるレン。
翌日、瑞生は、部活終わりの旭の元へ向かった。
――これは、俺のわがままになるけど……もし、許されるのなら……。
彼が部室から出てくる瞬間を、息をのんで待ち構えた。
「おーい、レン。お前、瑞生となんかあったん?」
すると、こっちを見たレンが、突然ダバァと滝のような涙を流した。
「うぇええ……ゆうし~ん……!」
「おぉう……!? なになになに!?」
◇◇◇
「朝ね、瑞生が、普通にしててって言ったんだ」
二人で帰りながら、レンは結心に打ち明けた。
「オレ、よくわかんなかったけど、たぶん距離を置いてほしいってことだと思って」
「だから“普通に”友達やってたのか」
「うん。でも……オレは、瑞生とくっついていたいなあ。だって、大好きだし。触れてると安心するし、元気になるし。でも……みんなは、友達に、そういう気持ちになったりしないんでしょ? オレ、おかしいのかなぁ……」
結心が、レンの背中をぽんと叩く。
「そんなん、みんな、どこかしらおかしいって。お前は相手に押し付けてなくて偉いよ」
「でも、もう寂しくて死にそう……」
再び目をうるうるさせるレンを見て、結心は苦笑した。
「まだ一日も経ってないじゃん。そんなに好きなら、一回ちゃんと話し合ってきなって。いざとなったら俺が間に入るから」
「うぅう、わかったぁ……! ゆうしん、なんで優しいのにモテないんだろうねぇ……」
「俺も知りたい」
マジなトーンで言って、彼はレンを送り出した。
◇◇◇
瑞生は、レンの家の前で、インターホンを押す一歩手前のポーズのままずっと固まっていた。
――レン、まだ帰ってきてない……? 連絡が来てないだけ……? 俺の言い方が感じ悪かったから……?
ぐるぐるぐるぐる同じことを考えていると、ものすごいスピードの足音がして振り返る。
「あ――」
「瑞生っ!」
ぱぁっと顔を輝かせて、レンはダダダと階段を上がると、瑞生に飛びつく寸前で急に立ち止まった。二人の顔がぶつかりそうになる。
呆気にとられる瑞生から、レンはホールドアップの状態でそろりと離れた。
「ね、ねえ瑞生、誰もいない所でも触っちゃダメ……?」
「え、あ、や……それは……」
「とっ、とにかく! お話しにきてくれたんだもんね! どうぞ、あがって!」
鍵をガチャガチャして、ドアを開けると、レンは瑞生が自分から入ってくるまでじっと待った。
「……お、おじゃまします……」
「いらっしゃい!」
もしかして“普通の友達”を実行しようとしてくれているのだろうか。テーブルにお茶を出された瑞生は、それを飲み干してから、気まずいながらもようやく話し始める。
「あの……朝のことだけど」
「……! うん!」
「その……俺、まだ旭のこと好きだから。レンのことは、ただの友達だって信じてもらいたくて……手とか繋ぐと、付き合ってるって思われそうで……変な言い方してごめん」
数秒考えたレンは、ずいっと瑞生に近寄った。
「じゃあ、二人きりの時はくっついてもいい……!?」
「うぅん……それがわかんないんだよ……」
曖昧にうなって、瑞生は目をそらした。
「俺に対して、別にドキドキしないんでしょ。キス以上のこと、したいと思わないんでしょ。それって“好き”なの? 俺なんかに構ってないで、ちゃんと、他に相手探した方がいいんじゃない……?」
目をそらしたのに、レンがまた視界に飛び込んでくる。
「好きだよ! 瑞生が好き! くっつきたいし、一緒に笑っててほしいし、オレを一番にしてほしい!」
だって、一人ぼっちで寂しい時に、会いに来てくれたから。それから毎日、会いに来てくれるから。
そんなの、好きになってしまう。
「……俺の一番は旭だけど」
「そっ……それはぁ……! うぅ~ってなるけどぉ!」
レンが、ぐずぐずと鼻を鳴らし始める。
「んんぅ……やっぱり、ちゃんと格好良いところ見せればよかった……? 嘘でも、このまま押し倒してめちゃくちゃにしたいって言えばいいの……?」
「っ、ちょ、待って急に恥ずかしいセリフを――!」
「そういうのが良いなら、オレ、なんとか頑張るけど……」
「頑張らなくていいからぁ!」
「はぁい……」
レンは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、弱々しく訴えかけた。
「みずき……もう、なんにもしないから。だから、オレの好きって気持ちだけ、そうなんだ~わかった~って言って……?」
「っ……」
次から次に流れ落ちる涙を、瑞生は、無視できずにすぐに手や袖で拭い始めた。
――違う、そんな顔させたかったんじゃなくて。
追いつかないから、ティッシュ箱を引っつかんでくる。
――なにやってんだろ、俺だって普通は理解されにくい恋をしたくせに。
なんだか、自分まで涙が出てきた。
鼻声で、レンを抱きしめる。
「っ、うん……わかったよ。そうだよね、“好き”の種類なんていくらでもあるよね。みんな違う人間だもんなぁ……。ちょっと色々はじめてで、わけわかんなくなってた……ごめん……」
レンは、抱き返そうとした手を、空中であわあわさせていた。
「えっ、えっと、触っていい? ぎゅってしていい?」
「うん……でも、それ以外は、まだ待って。先に、しなくちゃいけないことがある」
「うん?」
きょとんと首を傾げるレン。
翌日、瑞生は、部活終わりの旭の元へ向かった。
――これは、俺のわがままになるけど……もし、許されるのなら……。
彼が部室から出てくる瞬間を、息をのんで待ち構えた。
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