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第六十四話 混沌の王

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 日が完全に落ちた頃、僕たちはバルカン砦にたどり着いた。
 何度か魔者の襲撃を受けたが、一騎当千の仲間たちが簡単に撃退した。
 ここまでの道中、生きた人間には出会わなかった。
 何体もの遺体には出会った。
 皆、同様に腹を食い破られた無惨な死体であった。

 黒い空には三日月が浮かんでいる。
 バルカン砦はエイブベリーの砦よりははるかに大きい。城と言ってもいいだろう。いや、軍事要塞といっても過言ではない。
 真珠騎士団の本拠地だから、当然といえば当然か。
 外から見ただけなので、バルカン砦の詳細はよくわからないが三階はあるような気がする。
 アヤメに聞くとどうやらその通りだった。
 バルカン砦は地下二階、地上三階のつくりのうようだ。

 ペレネルの言葉を信じるなら、その最上階に教皇モルガンはたてこもっているということだ。

 僕たちはバルカン砦の巨大な門の前にたつ。
 門を守るものはいない。
 両手で押すとぎいっという音がして、少しだけ開く。
 かんぬきなどはされていないようだ。
 ただその鉄門はかなり重いので、けっこう疲れる。

提督アドミラル手伝います」
 ベアトリクスが手伝ってくれたので、かなり楽に開けることができた。
 アンドロイドのベアトリクスは怪力だ。

 砦の内部は真っ暗だった。
 一寸先も見えない。
「本来なら廊下の両端に松明が灯っているのだが」
 アヤメは言う。
「光の精霊よ、我らを導きたまえ」
 アヤメが光の精霊魔術を使う。
僕たちの前後左右にビー玉サイズの光の精霊があらわれる。
 ぼんやりとした光だが、これで前進しやすくなる。
 夜目がきくクロネが先頭にたつ。その後ろに軍旗を持つベアトリクス、そして僕、左にリオ、右にアルと続く。アヤメが殿をつとめる。

 僕たちはこの砦の内部を知るアヤメの案内で薄暗い廊下を進む。
 曲がりくねった廊下の先には大広間がある。
 その大広間は真珠騎士団が閲兵に使うものだ。
 数百人は入れるかなり広いものだ。
 僕の視界に浮かぶ地図マップにもその大広間が出現する。
 その大広間には無数の赤い点と白い点が点滅している。気のせいか白い点が徐々に減っているような気がする。
 これは急がないといけない。
 赤い点は敵対反応で白い点は生存者だ。

 大広間への扉は開け放たれていた。
「あはんっ……げほっげほっ……あんっ……」
 女たちの苦しくもなやましい喘ぎ声が聞こえる。
 否応なく幽界で魔者たちに犯されたマリアガンヌのことを思い出す。
 僕たちは急ぎ、大広間に突撃する。

 そこは目をそむけたくなるような光景が繰り広げられていた。
 無数の魔者たちが裸の女たちを犯していた。

「もうやめてくれ……あんっもうだめだ……孕まされた」
 豚顔の巨人に犯されている女の腹はパンパンにふくれていた。
 おそらく魔者の子を妊娠しているのだろう。
 それなのに豚鬼オークは腰を動かすのをやめない。
「そらまた中に出してやる、ありがたく思え」
 豚鬼オークは盛大に射精した。
「いや、やめて……」
 女は悲鳴を上げる。
 豚鬼は女の腰を掴み動けなくする。
 一滴のこらず豚鬼は汚液を注ぎ込んだ。

「イザベラ……」
 アヤメが豚鬼に犯されている女の名を呼ぶ。
 別の魔者がイザベラの口をその一物で塞いだ。
 無理矢理いきりたったものを喉奥に打ちつける。
 イザベラは胃液を吐いたが、お構いなく魔物はその口を犯した。
 別の熊の顔をした魔物がイザベラの秘所にそそり立つ立つものを挿入する。

 その様な光景がいたるところで行われていた。

「誇り高い騎士になんたる所業か!!」
 アヤメがアロンダイトを抜き放ち、突撃しようとする。
 僕はアヤメの腕を掴み、彼女を止めた。
「アーサー、止めないでくれ。イザベラは我が友なのだ」
 尚も進もうとするアヤメを僕はとめる。
 僕だって同じ気持ちだ。
 でも嫌な気配がする。
 とんでもない魔力の持ち主が僕たちの方にゆっくりと近づいてくる。

 魔者の群れの間から現れたのは青い髪の少年だった。
 モードレッドに負けないぐらいの美少年だ。
 その秀麗な容貌を持つ少年は純白の服を着ていた。
 そしてその背中には色鮮やかな蝶の羽根が生えていた。
「お兄ちゃん、あいつやばい」
 クロネが真剣な顔で言う。

「へえ、僕の魅了に抵抗できるのか。さすがは英雄王の騎士だね」
 にこやかな笑顔で少年は言う。

「貴様、何者だ。我らが同胞を離せ」
 ロンゴミニアドの槍先を少年に向け、アルは叫ぶ。
 ベアトリクスもリオも臨戦態勢だ。

「怖いお姉さんたちだね。ならこれならどうだい」
 美少年は両手を組み合わせ、何かぶつぶつと唱える。

 その言葉のあと、アルとアヤメ、リオが汗を滝のように流し、膝をつく。
 いったいどうしたのというのだ?

「へえ、やっぱり僕の魔力はこの世界の人間にしかきかないのか。ジャック・ザ・リッパーも中途半端なことをするな」
 美少年はへらへらと笑う。

「この様な魔術に屈するものか」
 アルはなんと魔銀ミスリルのコートから短刀を取り出し、右太ももに突き刺した。
 だらだらと太ももから血が流れる。

「アル、アルタイル!!」
 僕はアルの身体をささえる。

「すごいや、痛みで僕の魔力に対抗するなんて」
 少年はパチパチと馬鹿にしたような拍手をする。

 僕はエクスカリバーを抜く。
 こいつに容赦してはいけない。
 絶対に殺さなくてはいけない。

「朝倉さんだっけ。君は女が憎くないかい。僕は憎くて憎くて仕方がないんだよ。あいつらは前の世界で僕をまったく相手にしなかった。それだけでなく拒絶したんだ。だから僕は、ジャック・ザ・リッパーに頼んで、この世界に送ってもらったんだ。僕のことを見なかった女たちに復讐するために。魔者に犯されて化け物の子を生むのが奴らの贖罪なのさ」
 そのあと、少年はあははっと高笑いした。

「女は馬鹿なんだ。何でもかんでも人のせいにして。男から搾取することは正義で自分たちは何も失いたくない。弱者のふりをして、つよい男にだけ尻尾をふる淫乱どもだ。こんな醜い魔者に犯されてよがっているんだ、いい気味だ」
 また少年は高笑いする。

 こいつは女性への恨みで頭がどうかなっている。
 僕も前の世界でちっとも女性に相手されなかったので気持ちは一ミリだけわかる。
 だからといってこの様なひどい目に合わせていいはずがない。

 僕は加速能力を使い、一気に距離ををつめる。
 一刀両断にするためにエクスカリバーを抜き放つ。
 いわゆる抜刀術だ。

 だが、少年の姿はゆらぐだけだった。
 彼の姿は幻影だった。
「英雄王、また会おう。君が英雄王なら僕は混沌王だ。混沌の王ジェームズ・ナイアラル・モリアーティ……」
 混沌王を名乗った少年はどこへともなく消えていった。
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