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第六十三話 聖ニニアン島の戦い

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戦艦ウロボロスを離れ、僕たちは小型艇で聖ニニアン島に到着した。
砂浜から、近くの漁村を目指す。
ベアトリクスの報告では無人になっていたという村だ。

「気味悪いにゃ」
上陸してすぐにクロネがはそう感想をもらした。
「確かに」
アルが愛用のつば広帽を目深にかぶりなおす。
僕も同意見だ。
魔銀ミスリルのコートのおかげで体感はそれほど寒くはない。
でも背中に氷を入れられたようなゾクリとした感覚がある。
「なにやら禍々しい空気をかんじますね」
人の姿に戻っているリオが言った。
人間の姿のときのリオはハリウッド女優なみの美女だ。
「島全体を魔力でおおっているのだろう。敵は凄まじい魔力量をもっているということか」
アヤメが冷静に分析する。
「ふーん、そうなの……」
ベアトリクスは平然としている。
アンドロイドだから、こういう精神的な攻撃はあまり感じないのだろう。
ベアトリクスは軍旗を持ち、先頭を歩く。
この紅竜旗の近くにいれば、あの洗脳の魔術から守られる。

しばらく歩くとその漁村に到着した。
人っ子一人いない。
無人の漁村だ。
静まりかえっている。
ニニアン島にはいくつか集落がある。
そして真珠騎士団が拠点とするバルカン砦は島の東端にある。ちなみに僕たちが到着したのは西側の海岸だ。

「他の集落を探すか、バルカン砦を目指すか」
僕は皆に問うた。
「東北方向に歩いて一時間ほどの距離に集落があるな」
アヤメが言った。
「バルカン砦までは歩きなら夜になるな」
さらにアヤメがつけたした。
時刻は正午を少しまわっている。
とりあえず近くの集落に行ってみるか。

僕たちはその集落を目指した。
そこで悲惨な光景を見てしまった。
数体の魔者がくちゃくちゃと遺体を食べていた。
その遺体はお腹を引き裂かれた女性たちだった。
ベアトリクスの話にあった魔物を産んだ妊婦たちが、その遺体だと思われる。
それは吐き気をもよおす光景だ。
奴らは自分たちを産んで亡くなった女性たちを自らの食料にしていた。

魔物の容姿は黒くて硬い毛に覆われた不気味な姿だ。身長は目測で百五十センチメートルほどだろうか。黄色い瞳で鼻だけ毛が生えていなかった。
視界に文字が浮かぶ。
奴らの顔の横にだ。
獣魔兵ビーストデビルと表示された。

内蔵を食べていた一体が僕たちの接近に気づいて、振り向いた。口を血で真っ赤に染めている。
「オンナ……オカシテハラマセル……」
それは聞き取りにくい声だった。

「誰が貴様らなどに!!」
まず飛び出したのはアルだ。
アルはロンゴミニアドの槍を投擲する。
見事に獣魔兵の頭部を打ち抜き、ロンゴミニアドの槍はアルの手元に戻って来る。
獣魔兵の数はざっと十体ほとだ。

次にアヤメが駆け出す。
アロンダイトの剣を抜き放つ。
抜き放った直後、獣魔兵は真っ二つになっていた。
凄まじい剣の速さだ。
その剣速は音の速さを超えているとのことだ。

リオが弓を引き絞り、矢を放つ。
理想的な放物線を描き、獣魔兵の額に突き刺さる。
一本では倒せなかったが、その後五本矢を頭部に命中させ、絶命させた。人の姿のときのリオはピーターやノアに負けないほどの弓の名手だ。

ベアトリクスは戦旗を肩に担ぎ、突撃する。
手斧で獣魔兵の首を力任せにはねる。
この手斧はザンザから借り受けたものだ。

僕とクロネもそのあとに続く。
襲いくる獣魔兵の身体をエクスカリバーで切り裂く。
クロネは風魔法で敵を次々と打ち砕く。
あっという間に魔者たちを打ち倒した。

獣魔兵を全滅させました。
レベルが七十に上がりました。
称号「掃討者」を獲得しました。
視界に文字が浮かび、消えていく。

僕は火魔法でかわいそうな遺体たちを焼却する。
アヤメが鎮魂の祈りを捧げてくれた。
両手のひらを組み、まぶたをうっすら閉じている。
「せめて安らかな眠りを」
その姿は聖女のように美しい。
僕も祈りを捧げた。

簡単ではあるが鎮魂の儀式を終えた僕たちの前に一羽の梟が飛来した。
バサリバサリと大きな翼を拡げて舞い降りてくる。
手近な木にその身をとめた。
純白の汚れなき梟であった。
僕が見た感じではあるが敵意はなさそうだ。
アルが警戒のため、僕の前に立つ。クロネが右にリオが左にたつ。
「異世界から来られた者よ、我が名はペレネル……」
その白梟はそう名乗った。錫がなるような美声だ。
「あれは梟に意識を乗せているにゃ」
クロネが説明してくれる。
ということは魔術かなにかで、あの白梟を媒介に声を届けているということか。
「だいたいあってるよ」
クロネが言った。

白梟はペレネルと名乗った。
その名前は聞き覚えがある。
時空旅行の間にはぐれたニコラ・フラメルの妻の名前だ。
「あなたはもしかして錬金術師ニコラ・フラメルの奥さんですか?」
僕は梟に尋ねる。
「ええ、そうです。私はニコラ・フラメルの妻です。我が夫をご存知なのですか?」
僕は幽界の悪魔城でニコラ・フラメルに出会ったことを話した。現在はウインザー城にいることも話した。
「そうですか、それは都合がいい。ということはその見た目、あなたがアーサーなのですね」
白梟は言う。
「ええ、そうです」
僕は答える。
「私はバルカン砦の最上階で真珠騎士団の生き残りと共に教皇モルガンを守り、たてこもっています。アーサー、私の魔力はつきかけています。どうか一刻も早く助けに来てください……」
そう言い、白梟は鉛色の空に飛び立った。

そのペレネルの言葉を信じるなら、モルガンはまだ生きている。だけどその生命は風前の灯火といったところだ。
急ぎ、バルカン砦に向かわないといけない。

「バルカン砦に急ごう」
僕は皆に言った。
「お待ちください、もしかすると罠かも知れません」
アルが珍しく慎重論を唱える。
「しかし、手がかりがない以上、そこにいかざる負えない」
アヤメが言う。
アルの言い分もわかるし、アヤメの言うとおりでもある。
決めるのは僕だ。
「バルカン砦に行こう。罠ならばそれを打ち破るまでだ」
僕は言った。
「さすがは我が君、勇敢なることこの上ないです」
なぜかアルが褐色の肌を赤く染めていた。
提督アドミラル素敵です♡♡」
ベアトリクスが言う。
「ご主人様、男らしいです♡♡」
これまたなぜかリオに抱きつかれた。
「いざバルカン砦へ!!」
クロネも僕に抱きつく。
美女たちに抱きつかれて良い気分だった。
アヤメはその様子をジト目で見ていた。
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