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第六十二話 ベアトリクスの報告

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クロムウエルが連れていかれたあと、僕は自室に入る。マーリンの手を握り、彼女も入れた。
僕は心を落ち着かせるためにマーリンにキスをねだると彼女はやさしく答えてくれた。
しばらくネチャネチャと音をたて、マーリンの柔らかな唇と舌を楽しんだ。
これでずいぶんとこころが落ち着いた。
人を裁くのは酷く疲れるな。
僕は裁判官には向いていないだろう。

国外追放はアヴァロン王国において、最も重い罰だという。
クロムウエルは女王暗殺未遂及び国家反逆罪を犯したので、それが妥当だろうと僕は考えた。

泣き叫び、生命乞いをするクロムウエルを見て、やっぱり生命だけはたすけてあげようかと一瞬思ったが、やはりやめておいた。
そんなことをしては死んでいった者たちにあわせる顔がない。けじめはつけないといけない。

マリアガンヌも同じ様に女王暗殺未遂犯ではあるが、彼女は魔者たちに犯せれ、ひどい目にあったのでもうこれ以上罪を償わせる必要はないだろう。
それにカムラン平原の戦いにおいて、多くの将兵をこちら側に寝返らせた功績は大きい。
マリアガンヌの希望で親衛隊の一員とすることにした。
アルの直属の部下となる。
リリィの勧めでマリアガンヌはガラドックという姓をギネビア女王から賜わった。

これは法治主義ではなく人治主義になるだろうと僕は思う。だけど法律どおりにマリアガンヌを裁く気には僕はなれなかった。
この処置にマーリンもなっとくしてくれた。
「法で治めるのが良いか、人が治めるのが良いか。それは私にもわかりません。朝倉君の思うようにされるがいいでしょう」
マーリンはそう言い、僕を抱きしめてくれた。
この人に抱かれると母親を思いだし、安心する。

「ところで国外追放ということはこの世界にはアヴァロン以外にも国があるのかい?」
僕はマーリンにたずねた。
「ええ、あります」
それがマーリンの返答だった。

マーリンをふくめた最初の百人と呼ばれる移民船団の人々がこの地に降り立ったとき、原始的な農耕を始めたこの星の人類と呼ばれる者たちがいたという。
彼らとは交配可能だったともマーリンは言った。
この地で現地人と共存しようという意見もあったが、百人の人々のリーダーであるサウザンド・クレーンによって却下された。
愚かな男子はわれわれの理想郷アヴァロンには必要ないというのが、サウザンド・クレーンの意見だった。
五百年たった今、外の世界がどうなっているかマーリンにもわからないという。
外の世界を遮断するため、アヴァロン島の周囲には人工的に激しい海流を生み出す装置が十二個設置されているという。
それはアテナの首飾りと呼ばれていた。

国外追放されたクロムウエルが運良くその海流から逃れられることができたとして、現地人にどの様に扱われるかはわからない。この刑は事実上の死刑といえた。
気が重い話だ。
そんな沈んだ僕をマーリンはやさしく抱きしめる。
マーリンの身体に愛情をたっぷりと注ぎこんだあと、その豊かな胸に顔をうずめて、僕は眠りについた。


戦後処理に追われる数日を過ごしたあと、ウインザー城にベアトリクスとザンザが訪れた。
彼女たちには聖ニニアン島にいる女教皇モルガンの様子を見に行かせていたのだ。
聖ニニアン島の真珠騎士団はモルガン個人に忠誠を誓っており、このカムランの戦いには参加しなかった。
また聖杯システムをスターリング城で守る聖歌騎士団も中立を表明していた。
戦いにより聖杯を壊されたくないと聖歌騎士団団長であり賢者の異名をもつケビン・ベーコンの書状にそう書かれていた。

提督アドミラルあの島はたいへんな事になっています」
アンナが用意したワインをベアトリクスは一気に飲み干す。続いて二杯目も一息だ。
アルコールが主食のベアトリクスは酒豪だ。

ザンザはアンナから白湯を受け取ると震える手でソレをうけとり、こぼしながら飲んでいた。
あまりの憔悴ぶりに僕はアンナに命じて、ザンザを別室で休ませることにした。
「精神的にひどいダメージを受けている。わしが作った睡眠薬で眠らせている」
ザンザを診察したニコラ・フラメルがそう告げた。
この人、普段はエロジジイだがこういうときは頼りになる。
魔者に犯せれ、死ぬ寸前だったマリアガンヌをみてくれたのもこの人だ。

三杯目のワインを一気にあおり、ベアトリクスは大きく息を吐く。魅力的な巨乳も大きく揺れた。

「どうやらあの聖ニニアン島は魔者に占領されているようです」
ベアトリクスは言った。僕は同席していたマーリンの顔を見る。
珍しくそのきれいな顔を驚きのものへと彼女は変化させていた。

それはどういうことだろうか?

僕のその問いにベアトリクスは見たことをそのまま告げる。
カーナボンの港を出たウロボロスは反時計周りに進路を進めて、聖ニニアン島に到着した。
聖ニニアン島はアヴァロン王国の西側三十キロメートルの沖合いに浮かぶ島だ。
アヴァロン王国唯一の有人島である。
小型艇で上陸し、二人が見たものは廃墟となった漁村であった。
ベアトリクスとザンザは村民を探した。
この島には騎士団以外にも住民が五百名ほどいるはずなのだ。
しかし、人の気配はほとんどしない。捜索をつづけるうちザンザの様子がだんだんとおかしくなってきた。
目が虚ろになり、ぶつぶつと何かを言い出した。
ザンザの異変に気づいたベアトリクスは一度引き返そうとザンザの手をとった。
「行かなければ。私はあの方の子をうまなくてはいけない。混沌の王子の子を……」
ザンザはそんなようなことを口走った。
ある方向に歩き出そうとする。

そんなとき、ベアトリクスは一人の生存者を発見した。
その村娘は大きなお腹を抱えて歩いていた。
そのお腹は臨月だった。
「う、産まれる……」
村娘がうずくまるとその大きなお腹を食い破り、魔者が産まれた。全身毛だらけの気味悪い子であった。
羊水に包まれたその魔者の子は黄色い目でこちらを見ている。
村娘は絶命していた。
産まれたばかりの魔者の子はなんと起き上がり、襲いかかってきたのだ。
すぐさまベアトリクスはサンザが持っていた戦斧で魔者の子を一刀両断し、その場を離れた。
ザンザはなおも歩き出そうとするので、ベアトリクスは彼女を肩に担ぎ、この場から逃げ出した。

「申し訳ありません提督。モルガン教皇の所在はおろか、逃げ出してしまいました」
ベアトリクスは深く頭を下げた。
軍人としてのプライドがそうさせたのだろう。
僕はベアトリクスの手をとる。
アンドロイドの手は少し冷たい。
「ザンザを無事に連れ出してくれてありがとう。君たちの無事がなりよりだ」
僕はそう言い、ベアトリクスの労をねぎらった。

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