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第六十一話 クロムウエルの最後

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鋼鉄騎士団の残存兵力は約二百騎強といったところか。
包囲網は完全に成立している。
クロムウエルはまだ生きているようで、敵陣のほぼ中央にいる。

僕は再度彼女らに投降をよびかける。
これ以上の戦闘は無意味だ。
マーリンの報告では我軍の損耗率は約一割だという。約三百人が戦死したのか。
数字にしたらそれは少ないかもしれない。
しかし、僕はだからこそ僕のために亡くなった人たちの冥福を祈ろうと思う。彼女らのことは決して忘れてはいけないのだ。

「誰が貴様ら悪魔にこの身を売るものか。我らは最後の一兵まで戦う!!」
それはクロムウエルの声であった。
クロムウエル大司教はメイスを高くあげ、そう叫んだ。
「アーサー、私と一騎打ちをしろ。この戦い、将同士の戦いで決めようではないか」
クロムウエルは僕に一騎打ちを申し込んだ。
僕はその申し込みを断った。
その戦いが一番無意味だ。
「怖じ気ずいたのか、悪魔の子よ。貴様は女の背に隠れる卑怯者か」
なおもクロムウエルは挑発する。
僕はそれに無言で答えた。
クロムウエルの挑発を聞き、あからさまに怒ったアルとロムが駆け出そうとしたが、クロネとマーリンが制止した。

「嫌だ、死にたくない!!」
土壇場で鋼鉄騎士団の数十騎が太陽騎士団の方に駆け出した。
「彼女らを受け入れよ」
ユリコが指示し、降伏してきた騎士らを受け入れた。
このことに相手側の志気が目に見えて下がっていくのがわかった。

「こうなれば一人でも多く道連れにしてやるぞ!!」
クロムウエルは残りの騎士たちにそう命じた。
鋼鉄騎士団は弾丸となり、僕たちに襲いかかる。

「させるか!!」
飛び出したのはモードレッドだった。
モードレッドとシーアは鋼鉄騎士団の後方に食らいつき、草を刈り取るようになぎ倒していく。見る見るうちに鋼鉄騎士団はその数を減らしていく。
それでもお構いなくクロムウエルは特攻をかける。
僕はアヤメの端正な顔を見る。
僕の意図をくみとったのか、アヤメは軽くうなづいた。
「金剛騎士団全員に通達する。兵を左右に分けよ」
モーゼが海を割るかのごとく金剛騎士団は左右に別れる。

クロムウエルらはその通路を駆け抜け、南に逃げていった。
僕のことを殺すと言っていたが、クロムウエルは逃亡することを選択したようだ。
「追撃しましょうアーサー。ここで禍根を断つべきです」
モードレッドは何度目かの追撃を進言したが、僕はそれを断った。
「何故ですか、彼女らはまた戦いを挑んできます。ここで全滅させるべきです」
モードレッドはつかみかかるかの勢いで僕に言う。
流石にそれはシーアが止めた。
「モードレッド殿下、これ以上はただの虐殺です。誇りある騎士の戦いではありません」
モードレッドにアヤメが言った。
その意見に僕は同意した。

僕は全軍に命令し、ウインザー城に撤退した。
遊撃を担っていたヒメノ姉さんだけは別行動をとっていた。
それはマーリンの策で、僕はその策を採用した。
包囲網が整ったのとほぼ同時にヒメノ姉さんと幻影騎士団はカムラン平原を離脱した。
進路を南にとり、エジンバラ城を奪取するのだ。
クロムウエルら鋼鉄騎士団がこのカムラン平原に陣をはっているので、かの城は無人だ。
容易く落とすことができるだろう。
かわいそうだが、クロムウエルらは根なし草になったのだ。


ウインザー城に帰還し、五日ほどが経過した。
僕は戦後処理を行なった。
軍功の第一はやはりリリィだ。彼女はこのカムラン平原の戦い最大の功労者といっていいだろう。
ご褒美に一晩中抱いてあげた。
妊娠しているので、あまり激しいエッチなことはできない。
一晩かけていちゃいちゃして過ごした。
「何よりのご褒美です♡♡」
リリィは僕に大人のキスを何度もした。

このカムラン平原の戦いに勝利した僕は名実共にアヴァロン王国の支配者になるだろうとマーリンは言った。
ギネビア女王は今すぐにでも王位を譲りたいと言った。
でもまだ王位を受け取るわけにはいかない。
それはまだモルガン教皇の無事が確認されていないからだ。
サーシャの報告ではモルガン教皇は聖ニニアン島で真珠騎士団に身柄を保護されているはずだが、まだアヴァロン島に帰還していない。
どうも様子がおかしい。
「モルガン教皇の無事を確認するために聖ニニアン島に渡らないといけませんね」
マーリンが僕に言う。
「ウロボロスはいつでも出せるよ」
ベアトリクスは大きな胸をドンと叩いた。

ヒメノ姉さんが無血開城させたエジンバラ城はモードレッドに任せることにした。
彼はやや凶暴なところがあるが、シーアら鉄鎖騎士団の信頼が厚いのも確かなのだ。
その軍功に何かしら答えないといけない。
この時より、モードレッドはエジンバラ卿とも呼ばれることとなる。

降伏した鋼鉄騎士団で希望するものは各軍団長が引き取ることになった。不思議なことに鉄鎖騎士団に希望するものが多かった。モードレッドの勇敢な姿を見て、彼女らは彼に仕えたいと言ってきた。
僕はできるだけ、その希望にそうようにした。

それからさらに十日ほど過ぎた頃、近隣の村民に捕らえられたクロムウエルがウインザー城にあらわれた。
あの豪華な服を着て、不遜な態度をとっていたクロムウエルの面影はなかった。
顔はあざたらけで、体は傷だらけで服はほとんど破られ、裸に近かった。
「こいつはあたしらから税をしぼりとって贅沢三昧していたんだ。アーサー様、どうかそれ相応の裁きを下してくださいまし」
クロムウエルの体にまきついたロープを持つ猟師が言った。
聖杯を占領し、民衆が逆らえないことをいいことにクロムウエルらは重税をかけていた。
他人には言葉巧みに死を強制し、自らは快楽にふけっていたという。
クロムウエルは容姿端麗なものを自室に招いていたとも言う。もちろん逆らうものはひどい目にあった。

人を犯罪者と断罪したものが犯罪者だったという良い例だ。
「このものどうしますか?」
マーリンがクロムウエルの処遇をどうするか尋ねてきた。
「クロムウエル、君の罪に対する罰は国外追放だ」
僕はそうクロムウエルに告げた。

「嫌だ死にたくない。なんでもするから、助けてくれ。アーサー様、あなたの愛人になってもかまわない。私を好きにしてくれ。その代わり私を助けてくれ」
クロムウエルは醜く生命乞いをしたが、アルの部下であるガイに連行されていった。
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