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第六十話 血戦

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潮がひくようにクロムウエルらは撤退していく。
モードレッドは追撃を進言したが、僕はそれを受け入れなかった。
受け入れるのは投降してきた将兵らである。

まずマリアガンヌが馬で駆け寄り、馬から降り、そして僕に抱きついた。
「よくやってくれた」
僕はそう言い、マリアガンヌの亜麻色の髪を撫でた。
「ありがとうございますアーサー様。貴方様に受けた御恩に比べれば一億分の一も返していません」
にこやかにマリアガンヌは少女のように微笑む。
幽界から助け出されたマリアガンヌは、僕たちの味方になってくれた。生命を助けたことに深く感謝し、なぜあれほど僕のことを憎んだのかと後悔したという。

リリィとマリアガンヌのおかげで初戦は勝利をおさめることができた。敵兵力の六分の一が降伏してきたのである。血を一滴も流すことなく勝利を得ることができことはなりよりだ。
「ですが本当の戦いはこれからです。残るのは原理主義者の中の原理主義者です。死をとして我らに戦いを挑むでしょう」
マーリンが僕にそう説明した。
それは僕も同意見だ。
円卓の騎士たちも同じ考えだった。

「クロムウエル等が再び、ここまで来るのに早くて七日といったところでしょうか」
マーリンがそう推測する。
アヤメの計算でも同じであった。

僕はまず降伏した騎士たちを王都キャメロットまで下がらせることにした。
それにはリリィ、マリアガンヌ、ベアトリクスを同行させた。リリィの白鳥騎士団から百名が選ばれ、その任務についた。これは監視兼護衛である。
マリアガンヌの話では降伏した騎士たちには戦意はほぼないという。
戦いよりもリリィのウエディングドレスが気になって仕方がないようだ。

リリィの白鳥騎士団の指揮は副騎士団長のサラがとることになった。
モードレッドは再び進撃策を提案した。
だがその策はマーリンによって却下された。
「難攻不落のエジンバラ城に立て籠もられても厄介です。カムラン平原で迎え撃つほうが良いかと思います」
僕はマーリンの意見を採用した。
モードレッドは悔しそうにしていたが、シーアに慰められていた。
この二人本当に仲がいいな。どこからどう見ても恋人同士だ。


マーリンの予想通り、七日後クロムウエルは再編成した鋼鉄騎士団率いてカムラン平原に進軍してきた。
斥候に出ていたサーシャとザンザがそう報告してきた。
すでに準備を整えていた僕たちはカムラン平原に向けて出陣した。
一月半ばの晴れた冬の日、ついに血戦が行われることとなった。
鋼鉄騎士団はいわゆる紡錘陣形をとっていた。巨大な矢となり僕たちを切り刻もうというのだろう。
僕たちはマーリンの進言により鳥が翼を広げた陣形をとることにした。
中央をサラが率いる白鳥騎士団がつとめ、右翼はユリコの太陽騎士団が、左翼はシーアの鉄鎖騎士団がになうことになった。アヤメの金剛騎士団はこの陣形の尾の部分を担当する。
ヒメノ姉さんの幻影騎士団はここでも遊撃にあたることとした。
僕はロムたち聖獣騎士団と行動を共にすることにした。今回、聖獣騎士団は白鳥騎士団に加わる。
「ボクはいつもお兄ちゃんと一緒だよ」
クロネは僕のそばにいる。
「我が君、あなた様の背中は私に守らせて下さい」
アルも僕のそばにいる。

角笛の高い音がそこらじゅうから響きわたり、ついに戦闘が開始された。
「進め進め!!」
モードレッドが馬の腹を蹴り、鉄鎖騎士団の先頭にたち、我先に平原をかける。
鋼鉄騎士団の先頭にモードレッドが突撃をかける。
途端に悲鳴と怒声が沸き起こる。
モードレッドは一言でいうと勇者であった。
両手に長剣を持ち、口で手綱をくわえて巧みに馬を操る。両手の剣がそれぞれ生きているかのように動き、敵兵をなぎ倒していく。
あるものはモードレッドに手足を切られ、あるものは首をはねられた。
一瞬にして血なまぐさくなる。

僕は目をそむけたがったが、目を離してはいけないと思った。僕にはこの戦いに責任があるからだ。
「モードレッド殿下、前に出すぎです」
シーアが鉄鎖騎士団を率いてモードレッドのもとに駆け寄る。

マーリンが僕のもとに馬を寄せる。
「モードレッドが功を焦りすぎですね。翼の陣形が崩れて包囲網が築けません。朝倉君、後詰めの金剛騎士団と共に左翼を補強してください」
僕はマーリンの進言に従い、クロネたちと一度後ろに下る。
アヤメと合流し、時計まわりにカムラン平原をかけた。

僕たちがシーアら鉄鎖騎士団の代わりに左翼となったときには戦場は乱戦を極めていた。
モードレッドは戦場で孤軍となりながらも奮戦している。シーアは鉄鎖騎士団に指示を出し、モードレッドを中心に密集陣形をとる。
何度も突撃してくるクロムウエルの騎士団を粉微塵に粉砕していく。
クロムウエルの鋼鉄騎士団はすでに紡錘陣形から台形陣形へと変化を強いられていた。
「悪魔を殺せ!!悪魔を殺せ!!悪魔を殺せ!!」
クロムウエルの配下らはただそれだけを叫び、突撃してくる。
彼女らの目は完全にどうかなっていた。
死をも恐れぬ騎士たちであったが血が完全に頭に上っているので、その行動は読みやすい。
彼女らは単純に突撃を繰り返すだけだ。

僕たちの左翼部隊にも敵の一団が突撃してきた。ざっと見て百名ほとだ。
僕の左隣りのアルがロンゴミニアドの槍を構える。力いっぱい引き絞り、敵軍に投げつける。
ロンゴミニアドの槍は先頭の騎士数人の身体を貫き、そしてアルの手元にかえってくる。
敵兵団が眼前にあらわれるときにはアル一人で三十人は彼女らの言うヴァルハラに旅だった。
ロムの配下の一人、兎耳のピーターが弓を引き絞り、矢を放つ。
ピーターは弓の名手だ。
敵兵の一人は額にピーターの矢を受けて絶命した。

クロネは黒豹に変身したロムにまたがり突撃してくる兵団を迎え撃つ。黒豹ロムの口には長剣がくわえられていた。
クロネの風魔法で鋼鉄騎士はよろいごと切り刻まれ、ロムはその鉄のような爪と口の剣で次々と葬っていく。
僕の眼の前に一人の騎士が馬を飛ばして、決死の特攻をかける。
僕はエクスカリバーを抜き、その騎士の兜に斬撃を放つ。騎士は意識を失い、馬から落ちる。
僕がその兜の中をのぞくと息絶えていた。きっと打ちどころが悪かったのだろう。
皆が僕のために戦っているのだ。僕だけが手を汚さないというわけにはいかない。
「アーサー、君がもしそれを罪と考えるのなら、わたくしたちがその罪を共にわかちあおう」
アヤメが僕にそういった。

戦いは夕刻頃には終わりを迎えようとしていた。
鋼鉄騎士団はその兵力の八割を失い、僕たちに完全に包囲された。
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