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第四十九話 敵を知り己を知る
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ジョアンナからの陳情を受け、僕はそれを女王ギネビアに認めてもらうためにキャメロットの王宮に出向いた。
アルタイルとロムを伴い僕は王宮内の廊下を歩いていた。
クロネはピーターと共に狩りにでかけている。
「晩御飯はまかせてよ、お兄ちゃん」
そう言い、オリオンに乗り、かけていった。
時刻はもうすぐ正午になろうとしている。
王都キャメロットには時計台がいくつかあり、この王宮からもそれが見ることができた。
「まあ人獣だわ」
「王宮に臭いがつかないかしら」
「掃除が大変だわ」
それは小声であったが、聞き耳スキルのある僕は聞き逃さない。
聞き逃すことができたらよかったのにと僕は思う。
アルタイルなどは褐色の肌を赤くし、剣の柄に手をかけようとしていた。
アルタイルが怒ってくれたおかげで逆に冷静になれた。
僕はそっとアルタイルの手に自分の手を重ねる。
王宮内でさすがに刃傷沙汰はまずい。
浅野内匠頭じゃあないんだから。
ロムもアルタイルも僕と一緒ならこの王宮内の行動は許されている。騎士待遇を受けているといって言いだろう。
大切な仲間を馬鹿にされて、許せないが、さてこの場をどうしようか。
手をこまねいていたらアルタイルが再度暴発しかねない。
アルタイルは情が深いんだよね。
そこが良いところでもあるんだけど。
「我が友を侮辱するとはわたくしを侮辱することだ。さらにアーサー公は我が国の宰相であらせられる。君らを不敬の罪に問うこともできる」
聞き知った声がする。
それはアヤメ・ランスロットの声であった。
当たり前だけど近衛騎士団団長のアヤメは王宮に常駐している。
アヤメのぞっとするほど冷たい声に侍女たちは分かりやすいほど震え上がっていた。
「この事は聞かなかったことにします。陰でなんと言おうとかまいませんが、せめて目の前では言わないでください」
ここで侍女たちに罪を問うても仕方ない。
それに王宮内での揉め事はごめんこうむりたい。
「は、はい…… 申し訳ございません」
頭を下げて、侍女たちは立ち去った。
「ありがとうございます、アヤメさん」
僕はアヤメに礼をいう。
「なに、当然のことをしたまでだ。女王陛下が一緒に昼食をとろうとおっしゃっている。それとアーサー公、わたくしのことはアヤメでいい」
にこりと綺麗な笑みを浮かべて、アヤメは言った。
美人は笑顔に限るな。
「じゃあ僕のことはアーサーでいいよ」
僕も笑顔で答えた。
「そうだな、アーサー。うん、そうだな。さあ陛下がお待ちだ」
アヤメは頷きながら言った。
僕たちはアヤメの後に続き、大広間に入る。
そこには円卓が置かれていた。
ギネビアは手探りで立ち上がる。
僕はギネビアの手をそっと握る。
「ありがとう、アーサー。さあ皆様、おかけください」
そう言い、ギネビアは着席をうながす。
これは彼女の最大限の心使いだろう。
人獣のロムも元盗賊のアルタイルも女王と席を同じにして良い。
この席では身分は関係なく、友として歓迎する。僕はこの円卓をそのような意味として受け取った。
ギネビアはにこりと微笑む。
どうやらあっているようだ
円卓には次々と料理が並べられる。蕎麦のガレットにポーチドエッグ、サラダ、ボイルしたソーセージ、じゃがいものフライなどだ。
「さあお召し上がりください」
ギネビアは言う。
それでは遠慮なくということで僕たちは料理に舌鼓をうつ。
「それでアーサーの上奏文はランスロットに読んでもらいました。わらわもそれで良いと思います」
ギネビアは言った。
「我が君、ガレットがついていますわ」
アルタイルが僕の頬のガレットのくずをとり、ぱくりと食べる。
ギネビアの眉がピクリと動いたような気がした。
それを見て、アヤメは苦笑する。
ロムはうまいうまいと食欲を優先させている。
「しかし、これで教会との溝はさらにふかまりますわね」
アヤメは優雅にサラダを口に運ぶ。
所作一つ一つが絵になる。
「望むところよ」
ロムが巨乳を張り上げる。
ロムはやる気まんまんのようだ。
「何よりも民衆の暮らしが優先です」
僕は言う。
教会の厳しい規則を守って貧しく生きるより、規則をやぶって豊かに生きる方がいい。
「あのクロムエルという女はどうなったのですか?」
ロムがじゃがいものフライをパクパクと口に放り込む。
「彼女は行方不明よ。一応手配書は国中にまわしているわ」
アヤメが答えた。
「おそらく教会がその身柄をかくまっているのでしょうね」
アルタイルが推測する。
その推測は全員同意見であった。
「アーサー、聖杯教会の実質兵力はご存知か?」
アヤメが僕に尋ねる。
僕は首を左右にふる。
「これは表向きの発表であるが鋼鉄騎士団が三千騎、聖歌騎士団が千騎、真珠騎士団が同じく千騎ということです」
表向きということはそれ以上はあってもそれ以下はないということか。
いや、実質よりも多く見せかけているということも考えられる。
断定はできないけどその数字を信じるなら、教会の兵力は約五千と見ていいだろう。
「おおよそ五千人か……」
ボソリとアルタイルが言う。
ざっとだけど僕は自軍の兵力を計算してみる。
まず最大の兵力を持つのはリリィの白鳥騎士団が千騎、シーアの鉄鎖騎士団が五百騎、ユリコの太陽騎士団が三百騎、ヒメノ姉さんの幻影騎士団が二百騎、アヤメの金剛騎士団が同じく二百騎である。
合計すると二千二百騎か。
さらに直轄の聖獣騎士団は二十騎ほど。
聖杯教会の表向きの兵力の半分もない。
現実的にみて、直接の戦争はできるだけ避けた方がいいだろう。
「直接の戦争は避けたいですね」
僕は思ったことを言う。
「そうですね」
ギネビアは食後のミルクティーを飲んでいる。
僕にはオレンジジュースを侍女がいれてくれた。
「そこでだ、我らの武名を国中に知らしめるためにも武術大会を開こうと思います」
アヤメ・ランスロットはそう提案した。
アルタイルとロムを伴い僕は王宮内の廊下を歩いていた。
クロネはピーターと共に狩りにでかけている。
「晩御飯はまかせてよ、お兄ちゃん」
そう言い、オリオンに乗り、かけていった。
時刻はもうすぐ正午になろうとしている。
王都キャメロットには時計台がいくつかあり、この王宮からもそれが見ることができた。
「まあ人獣だわ」
「王宮に臭いがつかないかしら」
「掃除が大変だわ」
それは小声であったが、聞き耳スキルのある僕は聞き逃さない。
聞き逃すことができたらよかったのにと僕は思う。
アルタイルなどは褐色の肌を赤くし、剣の柄に手をかけようとしていた。
アルタイルが怒ってくれたおかげで逆に冷静になれた。
僕はそっとアルタイルの手に自分の手を重ねる。
王宮内でさすがに刃傷沙汰はまずい。
浅野内匠頭じゃあないんだから。
ロムもアルタイルも僕と一緒ならこの王宮内の行動は許されている。騎士待遇を受けているといって言いだろう。
大切な仲間を馬鹿にされて、許せないが、さてこの場をどうしようか。
手をこまねいていたらアルタイルが再度暴発しかねない。
アルタイルは情が深いんだよね。
そこが良いところでもあるんだけど。
「我が友を侮辱するとはわたくしを侮辱することだ。さらにアーサー公は我が国の宰相であらせられる。君らを不敬の罪に問うこともできる」
聞き知った声がする。
それはアヤメ・ランスロットの声であった。
当たり前だけど近衛騎士団団長のアヤメは王宮に常駐している。
アヤメのぞっとするほど冷たい声に侍女たちは分かりやすいほど震え上がっていた。
「この事は聞かなかったことにします。陰でなんと言おうとかまいませんが、せめて目の前では言わないでください」
ここで侍女たちに罪を問うても仕方ない。
それに王宮内での揉め事はごめんこうむりたい。
「は、はい…… 申し訳ございません」
頭を下げて、侍女たちは立ち去った。
「ありがとうございます、アヤメさん」
僕はアヤメに礼をいう。
「なに、当然のことをしたまでだ。女王陛下が一緒に昼食をとろうとおっしゃっている。それとアーサー公、わたくしのことはアヤメでいい」
にこりと綺麗な笑みを浮かべて、アヤメは言った。
美人は笑顔に限るな。
「じゃあ僕のことはアーサーでいいよ」
僕も笑顔で答えた。
「そうだな、アーサー。うん、そうだな。さあ陛下がお待ちだ」
アヤメは頷きながら言った。
僕たちはアヤメの後に続き、大広間に入る。
そこには円卓が置かれていた。
ギネビアは手探りで立ち上がる。
僕はギネビアの手をそっと握る。
「ありがとう、アーサー。さあ皆様、おかけください」
そう言い、ギネビアは着席をうながす。
これは彼女の最大限の心使いだろう。
人獣のロムも元盗賊のアルタイルも女王と席を同じにして良い。
この席では身分は関係なく、友として歓迎する。僕はこの円卓をそのような意味として受け取った。
ギネビアはにこりと微笑む。
どうやらあっているようだ
円卓には次々と料理が並べられる。蕎麦のガレットにポーチドエッグ、サラダ、ボイルしたソーセージ、じゃがいものフライなどだ。
「さあお召し上がりください」
ギネビアは言う。
それでは遠慮なくということで僕たちは料理に舌鼓をうつ。
「それでアーサーの上奏文はランスロットに読んでもらいました。わらわもそれで良いと思います」
ギネビアは言った。
「我が君、ガレットがついていますわ」
アルタイルが僕の頬のガレットのくずをとり、ぱくりと食べる。
ギネビアの眉がピクリと動いたような気がした。
それを見て、アヤメは苦笑する。
ロムはうまいうまいと食欲を優先させている。
「しかし、これで教会との溝はさらにふかまりますわね」
アヤメは優雅にサラダを口に運ぶ。
所作一つ一つが絵になる。
「望むところよ」
ロムが巨乳を張り上げる。
ロムはやる気まんまんのようだ。
「何よりも民衆の暮らしが優先です」
僕は言う。
教会の厳しい規則を守って貧しく生きるより、規則をやぶって豊かに生きる方がいい。
「あのクロムエルという女はどうなったのですか?」
ロムがじゃがいものフライをパクパクと口に放り込む。
「彼女は行方不明よ。一応手配書は国中にまわしているわ」
アヤメが答えた。
「おそらく教会がその身柄をかくまっているのでしょうね」
アルタイルが推測する。
その推測は全員同意見であった。
「アーサー、聖杯教会の実質兵力はご存知か?」
アヤメが僕に尋ねる。
僕は首を左右にふる。
「これは表向きの発表であるが鋼鉄騎士団が三千騎、聖歌騎士団が千騎、真珠騎士団が同じく千騎ということです」
表向きということはそれ以上はあってもそれ以下はないということか。
いや、実質よりも多く見せかけているということも考えられる。
断定はできないけどその数字を信じるなら、教会の兵力は約五千と見ていいだろう。
「おおよそ五千人か……」
ボソリとアルタイルが言う。
ざっとだけど僕は自軍の兵力を計算してみる。
まず最大の兵力を持つのはリリィの白鳥騎士団が千騎、シーアの鉄鎖騎士団が五百騎、ユリコの太陽騎士団が三百騎、ヒメノ姉さんの幻影騎士団が二百騎、アヤメの金剛騎士団が同じく二百騎である。
合計すると二千二百騎か。
さらに直轄の聖獣騎士団は二十騎ほど。
聖杯教会の表向きの兵力の半分もない。
現実的にみて、直接の戦争はできるだけ避けた方がいいだろう。
「直接の戦争は避けたいですね」
僕は思ったことを言う。
「そうですね」
ギネビアは食後のミルクティーを飲んでいる。
僕にはオレンジジュースを侍女がいれてくれた。
「そこでだ、我らの武名を国中に知らしめるためにも武術大会を開こうと思います」
アヤメ・ランスロットはそう提案した。
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