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第四十一話 正しき騎士ランスロット

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城門をくぐり、馬で歩くこと一時間ほどでアヤメ・ランスロットがいるという屋敷に到着することができた。
さすが王都であると僕は思った。
道も整備されているし、商店も多い。行き交う人々も多数いる。中にはシスター服や神父服を着た人物もいる。彼女らは敬虔な聖杯教徒だとアルタイルが言った。
聖杯教徒たちは一応敵になるのだが、ここでは無用な争いは避けたいので、僕はフードをさらに深くかぶり、やり過ごした。

屋敷の門番にヒメノ姉さんが来訪を告げると門が開かれた。
そこはいかにも貴族が住むにふさわしい広大な屋敷であった。ざっと目測ではあるが、野球場ほどの広さはあるかなと思われた。
庭師があちこちで働いている。
僕たちはオリオンを門番に預け、中に入る。

屋敷の玄関につくと年配の女性が出迎えてくれた。
「ロッテンマイヤーさん、お久し振りです」
軽く頭を下げ、ヒメノ姉さんは挨拶する。

僕もマントのフードを下げ、挨拶する。
「お初にお目にかかります。アーサー・クロード・ペンドラゴンと申します」

片眼鏡で鼻の高いロッテンマイヤーは僕のかおをまじまじと見つめる。すぐあと、頬が桜色にそまる。
「ほ、本当に男の人なんですね」
うわずった声でロッテンマイヤーは言った。
「お嬢様がお待ちです。さあこちらにどうぞ」
平静を取り戻し、ロッテンマイヤーは僕たちを中に入れる。
「ひゃーすごいお屋敷だね」
天井のシャンデリアを見て、クロネが感想をもらす。
「きれい……」
アルタイルはシャンデリアや壁にかけられた女神の絵画に目を奪われている。

大広間に通された僕たちを背の高い、黒髪の女性がソファーに腰かけていた。
「お嬢様、お客様をお連れいたしました」
ロッテンマイヤーが深々と頭を下げる。
その女性はソファーから立ち上がり、挨拶する。
「よくおいでくださいました。わたくしはアヤメ・ランスロットと申します」
スカートの両端をつまみ、アヤメは優雅に挨拶する。その所作ひとつひとつが華麗で洗練されている。本物の貴族だと僕は思った。
そして、その端正で秀麗な顔を見て、僕は驚愕した。
「お兄ちゃん、病院の先生だよ」
クロネが僕の服の裾をくいくいと引っ張る。
目の前の背が高く、艶のある黒髪美人はクロネをつれていった動物病院の女医さんだ。
あの左目尻の泣き黒子は確かにあの女医さんだ。

自分の顔をじろじろと初対面の人間に見られて、明らかにアヤメ・ランスロットは困惑していた。
「あの、わたくしの顔がどうかしましたか?」
とアヤメは言った。

「あのつかぬことをお聞きしますが、あなは動物病院の女医さんですか?」
僕は尋ねる。
もしかして彼女もユリコやヒメノ姉さんと同じように転生者なのだろうか?

「申し訳ありません。あなた様の言っていることはわかりかねます。それよりもわたくしはあなたとケイ卿が瓜二つなのが気になるのですが……」
形のいい眉根をよせ、アヤメは疑問を僕になげかける。

「お嬢様、立ち話もなんですし、おかけになられたら。お客様がたもどうぞそちらにおかけ下さい」
ロッテンマイヤーはそう僕たちに促す。
「そうですね、ロッテンマイヤー。お茶の用意をお願いします」
アヤメはそうロッテンマイヤーに指示した。

僕はアヤメと対面する形でソファーに腰かける。左にヒメノ姉さんが座り、右にクロネが座る。アルタイルが僕の後ろに立つ。
すぐにロッテンマイヤーはお茶と焼き菓子を盆にのせ、帰ってきた。それらを僕たちの前におく。
紅茶からはいい香りがする。
「はー美味しいにゃあ」
焼き菓子を一口食べ、クロネが顔をほころばせる。

アヤメは優雅な所作で紅茶を一口飲む。
やはりその顔は僕の記憶にあるあの美貌の女医さんと同じものだ。
その疑問は一度棚上げしておこう。

「それでこの方が手紙にあったアーサー卿なのですね」
僕の顔を値踏みするような視線でアヤメは見たあと、視線をヒメノ姉さんに向ける。
「ええ、そうです。このかたが我が主であるアーサー・クロード・ペンドラゴン卿です」
ヒメノ姉さんは僕を紹介する。

「ケイ卿、どうして彼はあなたにそっくりなのですか。いや、どうして男子がこの理想郷アヴァロンにいるのですか?」
アヤメは疑問を僕たちになげかける。
ヒメノ姉さんは僕の手にそっと手をおく。

弟よ、どう答える?
念話でヒメノ姉さんは僕に訊く。
「姉さん、ここで嘘を言っても仕方ない。この人の信頼を得るには本当のことを言った方がいい」
僕は口にだしてそう答えた。
目の前の気高い人には詭弁よりも真実のほうがいいだろうと思った。
また正しき騎士と呼ばれるアヤメ・ランスロットは嘘を何よりも嫌うと出立前にシーアに聞いていた。

僕はこの国にきたいきさつを簡単に説明した。また聖杯教会の支配から民衆を解放したいということも隠さずにアヤメ・ランスロットに言った。

「あなたが異世界から着たというのはにわかには信じがたい。ではあるが我が先祖であるアヤノ・ランスロットも星の海をわたってきたという話を聞いている。ありえないと言うことはありえないということか」
形の良い顎に指をあて、ランスロットは少し思案する。
しかし本当に惚れ惚れする美貌をしているな。
ぜひハーレムに入れたいが、ハードル高そうだな。
僕がそんな俗なことを考えているとアヤメは口を開く。

「教会の信徒らは確かに王家をないがしろにしている。しかし君たちに協力するということは教会の代わり君たちがなるということではないか。王家をのっとりかねない勢力に私に力かせと……」
アヤメは言った。
王家の忠臣であるアヤメにしたら聖杯教会の代わりに僕たちが傀儡の主にとってかわろうとしているように見えるのだろう。

「僕はできるだけ平和的にことを進めたいと思います。現状が続けば民衆は教会に搾取し、支配されたままです。それから民衆を解放したいのです」
僕は言った。
じっとアヤメの目を見る。
たぶんだけどアヤメには魅了のスキルは効果を成していないように思える。
それだけアヤメの精神力が強いということだ。
アヤメには嘘や詭弁ではなく、スキルも使わずにただただ心から思ったことを伝えるだけだ。

「そうだな、今の王家には教会の横暴を止める力はない。それ故、民衆が苦しんでいるのも事実だ。それを見過ごして王家だけの安泰をねがうのは間違っているな。願わくば虎を追い出し、狼を招くようなこととならなければいいが」
アヤメは言った。
また思案するために紅茶を飲む。
そして、アヤメはぷっくりとした厚い唇を開く。

「わかった。アーサー卿、あなたを女王陛下に謁見できるようにとりはかろう」
アヤメ・ランスロットは言った。
明日、僕は女王ギネビアに謁見するために王宮に赴くことになった。
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