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第二十八話 囚われの魔術師

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ヒメノ・ケイの右手を握った瞬間、あるイメージが視界にあらわれた。
それは僕の両親だった。
僕の記憶にある両親より若い。
母さんが赤ん坊を抱いている。
僕のことかなと思ったけど、どうやら違うようだ。その赤ん坊はどうみても生きていなかった。
そう、その赤ん坊は死んでいた。
父さんがそんな母親を抱きしめていた。
「君が悪いんじゃないよ」
父さんはそう言った。

ぱっと映画のシーンのように視界が切り替わる。
目の前に驚いた顔をしたヒメノ・ケイがいる。
もしかしてあの場面を彼女も見たのだろうか。

「あれは私なのか……」
ぼそりとヒメノ・ケイは言った。
その言葉から推測できるのはヒメノ・ケイは僕の死んだ姉だということだ。

「もしかして姉さん……」
僕はヒメノ・ケイの顔を見る。
彼女も僕をじっと見ている。
ヒメノ・ケイは転生した病死した姉なのだ。
天涯孤独だと思っていたけど、まさか異世界で転生した姉に出会えるとは思わなかった。
自然と涙がでてきた。
ヒメノ・ケイも涙を流していた。
どちらからということもなく、僕たちは抱きしめあった。この抱擁は異性にたいしてではなく、肉親にたいしてのものである。

「私が君に似ているのは、こうして再会するためかもしれないな」
ヒメノ・ケイは言った。
「これでさらに私の気持ちはかたまった。私はアーサー、君を支えよう。我が領土はこの日より、君のものだ。共に教会の支配に立ち向かおう」
ヒメノ・ケイはさらにそう言った。

「わかったよ、姉さん。姉さんはこの日より円卓の騎士ナイトオブラウンドの一人だ」
僕はヒメノ・ケイを円卓の騎士の一人に迎えた。僕の決定に誰も反対はなかった。
僕そっくりの女性が配下になりたいと言ってきたのだ。誰も異を唱えなかった。

こうして、僕はヒメノ・ケイ子爵領を自領とした。
姉さんは一緒に来た配下の者から印章を受け取ると僕に手渡した。
ケイ子爵の家紋は烏《クロウ》であった。
新しい仲間を迎えた僕は、共に朝食をとることにした。
歓迎の宴はまた夜にするとして、まずは朝食をとろう。
姉さんもまだ朝食を食べていないようで、テーブルに並べられた料理を見て、舌なめずりしていた。
朝食はスクランブルエッグにベーコン、蕎麦のガレットであった。
せっかくなので、皆と一緒に朝食をとることにした。

「しかし本当に似ているわ」
まじまじとアルタイルは姉さんの顔を見る。
そんなアルタイルに姉さんは笑顔で答える。
「お兄ちゃんの姉さんだから、お姉ちゃんだね」
クロネはにひひっと笑った。

「アーサー様、お口が……」
アンナがかいがいしく僕の口についたトマトソースをナプキンでふき、それをなめとった。
なんか舌使いがエロいな。
やはり今夜のご奉仕はアンナに頼もう。

「ここに来たのはもう一つの理由があるだ」
食後の紅茶をのみながら姉さんは言った。
もう一つの理由とは何だろうか?

「教会によって囚われた魔術師マーリンを助けたいのだ」
じっと僕の目をみながら、姉さんは言った。
魔術師マーリン。
たしか前にジョシュアが言っていた名だ。

「マーリン様はまだ生けていたのですね」
ジョシュアは驚いた顔をしている。

「ああ、確かに生きている。永遠を生きるマーリンは誰にも殺せない。だから教会は南の星の搭に彼女を幽閉したのだ」
姉さんはそう説明した。

マーリンはあの聖賢王ウーサーに仕えた魔術師で、不死だと言われているとこれはアルタイルが伝説を語ってくれた。

「マーリンは今の教会のやり方に反対し、その影響力を恐れた教皇モルガンによって南の地に閉じ込められたのよ」
姉さんは話を続ける。

「いかがなさいますか、我が君?」
アルタイルがそう尋ねる。

これから先、僕は聖杯教会と対立することは必至である。ならば同じ教会に反対の立場をとり、しかもアヴァロン王国の人間に強い影響力をもつその魔術師は絶対に味方に引き入れた方がいいだろう。
「魔術師マーリンを助けよう」
僕は宣言する気持ちで言った。

「ありがとう、アーサー」
にこり姉さんは微笑む。
この人、僕とほぼ同じ顔をしているのに笑顔が綺麗だ。きっと心の美しさが顔にあらわれているのだろう。僕の感想だけどね。

依頼クエスト魔術師マーリンの救出が発生しました。
視界にテキストが流れる。

さて、助けると決めたもののその星の搭にどうやって行くかだ。

「その星の搭は古代ドルイドの僧がたてたと言われるわ。ドーバーの岬にあると言われているわ」
アルタイルはそう説明してくれた。

「アヴァロン王国の直轄領を馬で南に走るか海路で南に行くかですね」
これはジョシュアが提案した。

「直轄領を南下するのは危険だわね。教皇の手のものがうようよいるからね。私はカーナボンの港から船で南下するほうが良いと思うわ」
と姉さんが提案した。
聖杯教会と直接争うのはまだ時期尚早だと僕も思う。
ここにいる皆もそれは同じ意見だった。
このアヴァロン王国を実質支配する教会との対決はもっと力をつけてからの方がいいだろう。

「港町か、美味しい魚が食べられるかな」
朝食を食べたばかりなのに、クロネは食事の話をした。


この日は僕たちは旅支度をすることにした。
先にサーシャとザンザをコンウィ城に向かわせ、リリィに伝言を頼んだ。
ヒメノ・ケイ子爵が味方になり、さらに魔術師マーリンを助ける旅にでるという内容だ。

その日の夕食は豪華なものだった。
それは英気を養うためだ。
お腹いっぱいになった僕は自室で休むことにした。
うとうとしていると誰かが部屋に入ってきた。
そうだ、アンナさんに夜のご奉仕を頼んでいたのだ。
だけど僕の顔をのぞきこんでいるのは姉さんであるヒメノ・ケイであった。
「かわいい弟、私はずっとこうしたかったのよね」
姉さんはそう言うと僕に唇を重ねた。
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