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第一話 助けたのは黒猫

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 僕の名前は朝倉あさくら王太おうた、昨年大学を卒業した二十三歳です。
 いわゆるFランク大学をどうにか卒業した僕が就職できたのはブラック企業でした。
 上司の口癖は我が社は労働基準法を適用していないなんてむちゃくちゃなもの。毎日始発で出社して帰るのは終電という生活を送っている。そのせいでつねに寝不足でふらふらしている。
 会社を辞めたいけど天涯孤独の僕にたよれるべき、親や親戚はいない。
 ブラック企業で働いているため、学生時代の友人とは疎遠になる一方だ。
 唯一の救いは異世界もののアニメを見て、気晴らしをすることだ。
 ああっ僕も異世界にいってチート能力を手に入れて、女の子にもてもてになりたい。
 もちろんだけど僕はオタクで童貞だ。彼女なんて生まれてこの方いたことなんてない。

 そんな社畜の僕はいつもどおり、終電でかえり、コンビニで弁当を買い、帰宅する。
 そういう生活を一年以上繰り返しているので、僕の体はぼろぼろだ。
 もうどうなってもいいから、仕事をやめたい。そんなことばかり考えている。
 でも、仕事を辞める勇気はない。
 仕事を辞めても行く宛なんてない。
 どうしたら異世界にいけるのだろうか。
 ぼんやりと妄想しながら、道を歩いていると僕は黒猫が倒れているのをみつけた。
 電信柱の消えたりついたりする街灯の下で、黒猫は地面に横たわっている。
 死んでいるのかな?
 だとしたら、可愛そうだ。
 猫の死体を見つけたら、どうしたらいいんだっけ?
 僕は気になったのでその黒猫をよく見た。
 近づいていみるとその黒猫はかすかに息をしている。
 どうやら生きているようだ。
 よかった、死んでなくて。
 僕はそんな黒猫を見て、通りすぎようとした。
 でも通り過ぎることはできなかった。
 この子をこのままにしたら、きっとこの黒猫は死んでしまうだろう。
 助けられるのはここにいる僕だけだ。
 僕はここでこの黒猫を見捨てる気持ちになれなかったので、家に連れ帰ることにいした。
 僕のワンルームのマンションはペット禁止だけでど、この際無視しよう。だって黒猫をそのままにしておけないじゃない。
 僕はクローゼットから毛布を引っ張り出し、そこに黒猫を寝かせた。

 明日動物病院に連れて行こう。
 黒猫は僕の使い古しの毛布ですやすやと眠っていた。

 翌日、はじめて会社をさぼって、黒猫をつれて動物病院にむかった。着信が山のようにかかってきたが、全部無視してやった。そうだ、僕がいなくても会社は続くし、社会はまわるんだ。そんなことより、この黒猫のほうが大事だ。
 動物病院の受付のお姉さんに黒猫の名前をきかれたのでクロネと答えた。
 黒猫だからクロネ、我ながら単純だなと思う。
 かわいい名前ですねと受付のお姉さんは言ってくれた。
 女性と話をするのなんて何年ぶりだろうか。
 かなり久しぶりなような気がする。
 受付をすませ、しばらく待つと僕は診察室に呼ばれた。
 きれいな女医さんがそこにいた。
 クロネを見せるとていねいに体のあちこちを見てくれた。
 足に捻挫のような怪我をしているが、命に別状はないとのことだった。
 しばらく安静にしたらよくなるとのことだった。
 よかったと僕は心から思った。誰かを思いやる気持ちが僕にもあったんだと思った。

 僕はクロネを家に連れ帰る。
 またあの毛布に寝かせると僕は近所のスーパーに出かけて、クロネ用の缶詰を買ってあげた。僕は自分用に惣菜をいくつかと缶チューハイを買った。レジの店員さんは金髪で巨乳だった。
 商品をカゴにいれるたびに胸がゆれるので思わずガン見してしまう。
 ああっこんな子が彼女にできたら、毎日エッチなことするのにな。そんなろくでもない妄想をしていたら、店員さんが合計金額を言ってきた。
 頭の中の妄想をふりはらい、僕はお金を支払う。
 自宅に帰ると毛布の上でクロネが目を覚まして、こっちを見ていた。
 足をひきずりながら、僕の足に頬をすりつける。
 猫なんてかったことがなかったけどこんなにかわいいものなんだ。
 頼られるって気持ちいいものなんだな。
 クロネは実に美味しそうに猫用の缶詰を平らげた。

 ああっそれにしても明日会社に行きたくないな。
 絶対に上司に怒鳴られるにきまっている。あの人、パワハラ上等の体育会系なんで嫌なんだよな。
 明日もさぼろうかな、そんなことを考えていたら眠くなってきたので僕は布団にもぐりこんだ。
 クロネも僕の布団にもぐりこんできた。

 そして僕は夢を見た。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」
 かわいい女の子の声がする。
 目をあけると僕は純喫茶の四人がけの座席にいた。
 テーブルをはさんで向かいに黒髪でショートカットの可愛らしい女の子が僕をじっと見ている。
「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう。僕はクロネだよ」
 その黒髪の女の子はそう名乗った。
 

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