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第三話 解放の条件
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学の言った通り、彼を自由の身にするにはある条件を満たさなければいけない。
できなければ学はあの暗い部屋に逆戻りし、あの暗い部屋で戦犯としての判決を待つことになる。
それはすなわち死を意味する。
アメリカ軍は日本軍に対して、なにやら深い恨みでもあるかのようだ。軍指導部や参謀たちだけでなく、学たち将校も戦犯として裁こうとしている。
彼の身に宿る鬼の能力を使えば連合国の兵士を千人ほどは道連れにできるだろう。
その能力があるからといって学は戦ったりしないだろう。
学は無駄な戦いは好まない。
私の知る学は、そういう男だ。
私が渡辺学中尉を自由の身にするために連合国司令部と交わした司法取引はある事件を解決することだ。
それは虫の王の呪い事件と呼ばれるものであった。
今から一週間前、三名のアメリカ陸軍の上級将校がこの世を去った。
彼らは戦死ではない。ましてや病死でもない。不審死であった。
皆、健康な成人男性であった。
その三名の上級将校の死体はあまりにも異常なものであった。
彼らの死体には見たこともない奇妙な寄生虫によっ食い荒らされていた。無数の寄生虫が内蔵にわき、体の中から食い破っていたのだ。
無惨な死体となった彼らを見た他の連合国の兵士たちの間にとある噂がひろまった。
彼ら三人の素行はすごぶる悪いものであった。
三名の将校の夜の相手をした日本人女性は口では言えないひどい目にあったという。
噂では夜の仕事についていない一般の女性にも手をだしていたようだ。
白洲次郎という人物から、司令本部に何度も抗議があったという。
だからかどうかわからないが、その三名は近く本国アメリカに帰還する予定だったという。
だが、彼らは二度と故郷の地を踏むことはなかった。
虫に食い殺されたからだ。
そして兵士たちは噂した。
この極東に住む魔術師が彼らを呪い殺したのだと。
中華大陸には虫を使う魔術師がいた。この極東にもきっといるのだろうとだ。私が知るところそれは蠱毒というものだ。
このままでは士気が下がり、この国の統治にも支障をきたしかねないと判断した連合国司令本部はこの事件を解決できる人材を探した。
この事件は普通の刑事事件ではない。
特別な人材が必要だ。
そこに自ら手をあげたのが、私アン・モンゴメリーであった。
私一人ではきっとこの事件の真相にはたどり着けないだろう。
だが渡辺学がいれば問題ないと思う。
渡辺学はこのような事件を主に解決してきた機関のエキスパートであったからだ。
その陸軍特務機関の名を黒桜といった。
彼らの特色はその真っ黒な軍服であった。デザインは陸軍のそれとかわらない。その色だけが違った。闇夜を切り取ったように黒かったのだ。
彼らは別名「黒」と呼ばれていた。
私は漆黒の軍服を着た渡辺学をこの暗い部屋から連れ出す。
そして彼の愛用の日本刀を返した。
これは連合国によって没収されたものを私が無理をいって取りもどしたものだ。
私がこの極東に住む島国に到着するのがもう少し遅ければヨーロッパの金持ちの手にわたっていただろう。
「ありがとう赤毛のアン。この鬼斬丸を取り戻してくれて。こいつをなくしたらご先祖様に顔向けできない」
そう言い、学は刃渡り一メートルはあろうかという赤い鞘におさめられた日本刀を左腰のベルトの隙間に差し込んだ。
「さあ、赤毛のアン。まずはその三名の遺体を見に行こう。何かわかるかもしれない。たぶんだけどその虫を知っているかもしれない。それを確かめたい」
学ぶは言った。
私たちはその三名の遺体があるという病院に向かった。
できなければ学はあの暗い部屋に逆戻りし、あの暗い部屋で戦犯としての判決を待つことになる。
それはすなわち死を意味する。
アメリカ軍は日本軍に対して、なにやら深い恨みでもあるかのようだ。軍指導部や参謀たちだけでなく、学たち将校も戦犯として裁こうとしている。
彼の身に宿る鬼の能力を使えば連合国の兵士を千人ほどは道連れにできるだろう。
その能力があるからといって学は戦ったりしないだろう。
学は無駄な戦いは好まない。
私の知る学は、そういう男だ。
私が渡辺学中尉を自由の身にするために連合国司令部と交わした司法取引はある事件を解決することだ。
それは虫の王の呪い事件と呼ばれるものであった。
今から一週間前、三名のアメリカ陸軍の上級将校がこの世を去った。
彼らは戦死ではない。ましてや病死でもない。不審死であった。
皆、健康な成人男性であった。
その三名の上級将校の死体はあまりにも異常なものであった。
彼らの死体には見たこともない奇妙な寄生虫によっ食い荒らされていた。無数の寄生虫が内蔵にわき、体の中から食い破っていたのだ。
無惨な死体となった彼らを見た他の連合国の兵士たちの間にとある噂がひろまった。
彼ら三人の素行はすごぶる悪いものであった。
三名の将校の夜の相手をした日本人女性は口では言えないひどい目にあったという。
噂では夜の仕事についていない一般の女性にも手をだしていたようだ。
白洲次郎という人物から、司令本部に何度も抗議があったという。
だからかどうかわからないが、その三名は近く本国アメリカに帰還する予定だったという。
だが、彼らは二度と故郷の地を踏むことはなかった。
虫に食い殺されたからだ。
そして兵士たちは噂した。
この極東に住む魔術師が彼らを呪い殺したのだと。
中華大陸には虫を使う魔術師がいた。この極東にもきっといるのだろうとだ。私が知るところそれは蠱毒というものだ。
このままでは士気が下がり、この国の統治にも支障をきたしかねないと判断した連合国司令本部はこの事件を解決できる人材を探した。
この事件は普通の刑事事件ではない。
特別な人材が必要だ。
そこに自ら手をあげたのが、私アン・モンゴメリーであった。
私一人ではきっとこの事件の真相にはたどり着けないだろう。
だが渡辺学がいれば問題ないと思う。
渡辺学はこのような事件を主に解決してきた機関のエキスパートであったからだ。
その陸軍特務機関の名を黒桜といった。
彼らの特色はその真っ黒な軍服であった。デザインは陸軍のそれとかわらない。その色だけが違った。闇夜を切り取ったように黒かったのだ。
彼らは別名「黒」と呼ばれていた。
私は漆黒の軍服を着た渡辺学をこの暗い部屋から連れ出す。
そして彼の愛用の日本刀を返した。
これは連合国によって没収されたものを私が無理をいって取りもどしたものだ。
私がこの極東に住む島国に到着するのがもう少し遅ければヨーロッパの金持ちの手にわたっていただろう。
「ありがとう赤毛のアン。この鬼斬丸を取り戻してくれて。こいつをなくしたらご先祖様に顔向けできない」
そう言い、学は刃渡り一メートルはあろうかという赤い鞘におさめられた日本刀を左腰のベルトの隙間に差し込んだ。
「さあ、赤毛のアン。まずはその三名の遺体を見に行こう。何かわかるかもしれない。たぶんだけどその虫を知っているかもしれない。それを確かめたい」
学ぶは言った。
私たちはその三名の遺体があるという病院に向かった。
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