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第十二話 明鈴の秘策
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屋敷にもどった明鈴たちを小梅と麻伊が出迎えてくれた。
麻伊は昼食に玉子の餡掛け飯を用意してくれた。それに海藻の汁もそえられる。
熱々の餡はほんのりと甘くてご飯によくからみ、病み上がりに近い明鈴にはありがたかった。
小梅などはおかわりしたぐらいだ。
飛燕も麻伊の料理に感動していた。
単純で素朴な食材だけなのに深い味わいのある料理にいつもは少食の飛燕もぺろりとたいらげた。
「さあ、お腹も膨れたことだし、本題にはいりましょうか」
そういい、飛燕の大きな瞳を見る。
ちなみに竜帝国では大きな瞳はあまり好まれない。
切れ長の細い目が美人だとされている。
飛燕のような小さな顔に大きな瞳を持つものは、蛙目といわれ馬鹿にされていた。
「飛燕、よく聞きなさい。あなたには皇帝陛下の妃になってほしいの」
その明鈴の言葉を聞き、あらためて飛燕は驚愕した。
後宮の炊事場でそのようなことを大秋長の烏次元と話をしていたが、まさか本当に親友の明鈴から言われるなんて。飛燕ははっきりといっていいほど困惑していた。
「そんな恐れ多いことです。私は身分は低いし、不美人だし……」
うつむき飛燕は小梅のいれてくれた白湯のはいった椀をじっとみつめる。
たしかに蛙目の飛燕は竜帝国の美人にはあてはまらないと明鈴は思った。
竜帝国の美人の基準はふくよかで目は切れ長で細く、小さい足の持ち主のことを言った。
飛燕のような大きな瞳をした小柄で痩せた女性は不美人とされた。
飛燕の言葉を聞き、明鈴は首を大きく左右にふる。
「それこそ思い込みよ。美人とは人それぞれなのです」
明鈴は飛燕をみつめ、その小さく細い肩に手をおいた。
「その思い込み、凝り固まった価値観こそ皇帝陛下が後宮の美女たちをお召にならない理由のひとつなのよ」
明鈴は言った。
明鈴は小梅に指示して、ある着物を用意させた。
小梅は料理は絶望的かつ壊滅的であったが、裁縫は天才的であった。
「小梅、例のものをもってきてちょうだい」
明鈴は小梅に指示する。
「はーい」
と返事し、小梅は大広間からきえる。すぐにとある着物を持ってくる。
明鈴たちが後宮にいっているあいだに仕立て直しを頼んだ着物を彼女は持ってきた。
本当は新しいものを用意したかったがまずはこれで試してみよう。明鈴はそう思い、飛燕に着物を着替えさせる。
着替えは麻伊が手伝ってくれた。
「あの…… 本当にこの着物であっているのですか?」
心配気に麻伊がきく。
着替えた飛燕を見て、明鈴は大きく頷く。
「本当にこの着物でいいのですか?」
震えながら、飛燕はやや興奮気味の明鈴を見る。
「ええっ間違いないわ。これこそ萌よ」
強く明鈴は飛燕の小さな肩をたたく。
「しかし、明鈴姉さん。指示された通りにあつらえまたけど、本当にこれを着させて皇帝陛下の前にたたせるつもりなの?」
着物を仕立て直した小梅も明鈴にきく。
明鈴が意匠した着物は足の部分を大胆に短くしたものだ。膝上はおろかふとももの半ばできりそろえられていた。
着物自体の裾は短いのに露出しているはずの足には白い布がぴったりと巻きつけられている。実際に肌を見せているのは太もものわずかな部分だけであった。まことに不思議な意匠の着物であった。
「完璧だ。完璧な絶対領域だ……」
うっとりと明鈴は飛燕の太ももをながめている。
「さあ、それでは仕上げといきましょう」
明鈴は飛燕の後ろにまわり、髪を結う。
飛燕の黒髪を左右に結ぶ。それを三つ編みにしていく。
「それでは最終仕上げよ。飛燕、皇帝陛下をお兄ちゃんとお呼びするのよ」
にやりと不敵な笑みを明鈴は浮かべる。どこか楽しげだ。
明鈴の言葉に一同、驚愕し唖然とした。
そんな不敬なことをしたら命がいくつあってもたらない。
「いやいや。それはまずいですよ。皇帝陛下はお優しいかただとうかがっていますが、さすがにそれは……」
顔を青くして麻伊が言う。
「ええ、そうですよ。さすがにそれはまずいんじゃない」
小梅が同意する。
「大丈夫よ、これこそが最高の秘訣なんだから。いい、飛燕よく聞きなさい」
また明鈴は飛燕の大きな瞳をみつめる。
「皇帝陛下の寵愛を受けるか、もとの下働きにもどって一生を怒鳴られて暮らすか。あなたが選ぶのよ。お兄ちゃんってたった一言うだけであなたは皇帝陛下の寵愛を一身にうけることになるんだから」
明鈴の言葉を聞いて、飛燕は決意した。
毎日怒られて、怒鳴られることに飛燕はうんざりしていた。
「わかったわ。私、言うわ」
小さな拳を握りしめて、飛燕は言った。
このあと明鈴は飛燕に一晩中発声練習をさせた。
頭のてっぺんから声をだすことを意識させる。つねに甘えたような口調で話すように指示する。
それだけでなく、鼻がつまったような声を出す練習もさせた。
さらに話すときは上目遣いをするようにと飛燕に厳命した。
「そう、着物のすそをつかんでお兄ちゃんっていうの」
明鈴は言う。
「はあい、お兄ちゃん。私、お兄ちゃん大好きだよ」
飛燕は明鈴の指示した通りの発声をする。
これはいい。きっとうまくいく。飛燕はやはり才能がある。
明鈴は確信した。
さらに完璧にするために三日ほど発声と所作の練習をおこなった。
そした張飛燕は烏次元につれられ、皇帝のもとにおもむいた。
次の日、烏次元の口から飛燕が皇帝の自室で一晩を過ごしたということを明鈴は知らされた。
麻伊は昼食に玉子の餡掛け飯を用意してくれた。それに海藻の汁もそえられる。
熱々の餡はほんのりと甘くてご飯によくからみ、病み上がりに近い明鈴にはありがたかった。
小梅などはおかわりしたぐらいだ。
飛燕も麻伊の料理に感動していた。
単純で素朴な食材だけなのに深い味わいのある料理にいつもは少食の飛燕もぺろりとたいらげた。
「さあ、お腹も膨れたことだし、本題にはいりましょうか」
そういい、飛燕の大きな瞳を見る。
ちなみに竜帝国では大きな瞳はあまり好まれない。
切れ長の細い目が美人だとされている。
飛燕のような小さな顔に大きな瞳を持つものは、蛙目といわれ馬鹿にされていた。
「飛燕、よく聞きなさい。あなたには皇帝陛下の妃になってほしいの」
その明鈴の言葉を聞き、あらためて飛燕は驚愕した。
後宮の炊事場でそのようなことを大秋長の烏次元と話をしていたが、まさか本当に親友の明鈴から言われるなんて。飛燕ははっきりといっていいほど困惑していた。
「そんな恐れ多いことです。私は身分は低いし、不美人だし……」
うつむき飛燕は小梅のいれてくれた白湯のはいった椀をじっとみつめる。
たしかに蛙目の飛燕は竜帝国の美人にはあてはまらないと明鈴は思った。
竜帝国の美人の基準はふくよかで目は切れ長で細く、小さい足の持ち主のことを言った。
飛燕のような大きな瞳をした小柄で痩せた女性は不美人とされた。
飛燕の言葉を聞き、明鈴は首を大きく左右にふる。
「それこそ思い込みよ。美人とは人それぞれなのです」
明鈴は飛燕をみつめ、その小さく細い肩に手をおいた。
「その思い込み、凝り固まった価値観こそ皇帝陛下が後宮の美女たちをお召にならない理由のひとつなのよ」
明鈴は言った。
明鈴は小梅に指示して、ある着物を用意させた。
小梅は料理は絶望的かつ壊滅的であったが、裁縫は天才的であった。
「小梅、例のものをもってきてちょうだい」
明鈴は小梅に指示する。
「はーい」
と返事し、小梅は大広間からきえる。すぐにとある着物を持ってくる。
明鈴たちが後宮にいっているあいだに仕立て直しを頼んだ着物を彼女は持ってきた。
本当は新しいものを用意したかったがまずはこれで試してみよう。明鈴はそう思い、飛燕に着物を着替えさせる。
着替えは麻伊が手伝ってくれた。
「あの…… 本当にこの着物であっているのですか?」
心配気に麻伊がきく。
着替えた飛燕を見て、明鈴は大きく頷く。
「本当にこの着物でいいのですか?」
震えながら、飛燕はやや興奮気味の明鈴を見る。
「ええっ間違いないわ。これこそ萌よ」
強く明鈴は飛燕の小さな肩をたたく。
「しかし、明鈴姉さん。指示された通りにあつらえまたけど、本当にこれを着させて皇帝陛下の前にたたせるつもりなの?」
着物を仕立て直した小梅も明鈴にきく。
明鈴が意匠した着物は足の部分を大胆に短くしたものだ。膝上はおろかふとももの半ばできりそろえられていた。
着物自体の裾は短いのに露出しているはずの足には白い布がぴったりと巻きつけられている。実際に肌を見せているのは太もものわずかな部分だけであった。まことに不思議な意匠の着物であった。
「完璧だ。完璧な絶対領域だ……」
うっとりと明鈴は飛燕の太ももをながめている。
「さあ、それでは仕上げといきましょう」
明鈴は飛燕の後ろにまわり、髪を結う。
飛燕の黒髪を左右に結ぶ。それを三つ編みにしていく。
「それでは最終仕上げよ。飛燕、皇帝陛下をお兄ちゃんとお呼びするのよ」
にやりと不敵な笑みを明鈴は浮かべる。どこか楽しげだ。
明鈴の言葉に一同、驚愕し唖然とした。
そんな不敬なことをしたら命がいくつあってもたらない。
「いやいや。それはまずいですよ。皇帝陛下はお優しいかただとうかがっていますが、さすがにそれは……」
顔を青くして麻伊が言う。
「ええ、そうですよ。さすがにそれはまずいんじゃない」
小梅が同意する。
「大丈夫よ、これこそが最高の秘訣なんだから。いい、飛燕よく聞きなさい」
また明鈴は飛燕の大きな瞳をみつめる。
「皇帝陛下の寵愛を受けるか、もとの下働きにもどって一生を怒鳴られて暮らすか。あなたが選ぶのよ。お兄ちゃんってたった一言うだけであなたは皇帝陛下の寵愛を一身にうけることになるんだから」
明鈴の言葉を聞いて、飛燕は決意した。
毎日怒られて、怒鳴られることに飛燕はうんざりしていた。
「わかったわ。私、言うわ」
小さな拳を握りしめて、飛燕は言った。
このあと明鈴は飛燕に一晩中発声練習をさせた。
頭のてっぺんから声をだすことを意識させる。つねに甘えたような口調で話すように指示する。
それだけでなく、鼻がつまったような声を出す練習もさせた。
さらに話すときは上目遣いをするようにと飛燕に厳命した。
「そう、着物のすそをつかんでお兄ちゃんっていうの」
明鈴は言う。
「はあい、お兄ちゃん。私、お兄ちゃん大好きだよ」
飛燕は明鈴の指示した通りの発声をする。
これはいい。きっとうまくいく。飛燕はやはり才能がある。
明鈴は確信した。
さらに完璧にするために三日ほど発声と所作の練習をおこなった。
そした張飛燕は烏次元につれられ、皇帝のもとにおもむいた。
次の日、烏次元の口から飛燕が皇帝の自室で一晩を過ごしたということを明鈴は知らされた。
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