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第十話 明鈴の提案
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次に目を覚ましたとき、明鈴はこの世のものとは思えない美貌の青年の寝顔を目の当たりにした。
それは烏次元であった。
夜着に着替えた烏次元は明鈴のすぐとなりで眠っている。
明鈴はそっと手を伸ばし、烏次元の白い頬にふれる。女の自分よりもその肌はきめ細かいものに思える。それにしっとりとしていて、最高の触り心地だ。
そして触れることによって穏やかな温かさが心の中に流れ込んでくる。
烏次元の頬をなでながら、明鈴はずっとこうしていたと思った。
しばらく烏次元の肌を楽しんでいると彼は目を覚ました。
「やあ、おはよう明鈴。けどもう夜のようだな」
烏次元は明鈴の黒髪をなでる。
異性に髪をなでられるのはこれほど心地よいものかと明鈴は思った。
明鈴はもぞもぞと体を移動させる。
烏次元はそっと腕をのばし、明鈴の体を抱きしめる。
「明鈴、体は大事ないか?」
烏次元はきく。
「ええ旦那様、大事ございません」
明鈴は答えた。
あらっつい旦那様なんて呼んでしまった。つい言ってしまった言葉に明鈴は頬を赤くさせる。
その様子を見て、烏次元は美しい笑みを浮かべる。
「旦那様、明日の朝、あの手巾から読み取れたことをお話しますね」
はあっと明鈴はあくびをしてしまう。あれだけ寝たのにまだ眠いとはよほどあの世界のことが衝撃的だったのだと彼女は考えた。
「ああっわかったよ」
烏次元は言った。
明鈴は烏次元の腕のなかで安心して眠りについた。
翌朝、身支度を整えた明鈴は麻伊の用意した朝食を食べたあと、烏次元にあの光景をあますことなく話した。
「それは不思議な話だな。そのような世界が何故、皇帝陛下の持ち物から見えたのか……」
烏次元は腕をくみ、そういった。
「おそらくですが、その私が見た世界に皇帝陛下はいたことがあるのではないでしょうか。それで旦那様、この言葉の意味がわかりますか?」
明鈴はそう言い、あのもじゃもじゃ髪の青年が熱心に見ていた板から流れた言葉の一つを言ってみせた。
その言葉をきくとあの青年はうれしそうににやりと笑っていた。
その言葉は青年の好きな言葉なのだ。
明鈴は記憶には自信がある。
できるだけ正確に再現する。
その言葉を聞き、烏次元は腕をくみ、考える。
「ああっその言葉なら知っている。はるか東方の島国である蓬莱の言葉だ。たしか兄上、お兄様、いやもっとくだけた言い方だな……」
そこまで言うとお兄ちゃんと小梅が言った。
「そうだ、その言葉はそういう意味だ」
烏次元はうんうんと大きく頷いた。
「旦那様はその蓬莱国の言葉を話せるのですか?」
素朴な疑問を明鈴は言った。
蓬莱国など明鈴の知らない国の言葉だ。
「旦那様は蓬莱国だけでなく、西の呂摩国、南の去残国の言葉も話せるのですよ」
麻伊が我がことのように自慢する。
「話すことはもちろん、さらさらと書くこともできるんだから」
こちらは小梅が鼻高々に鼻を含まませている。
「そうもちあげても何もでないぞ。それに蓬莱国の言葉は陛下も話すことができる。陛下のほうが私などよりも流暢にお話になられる」
烏次元はそう言った。
烏次元の言葉を聞き、明鈴のなかに浮かんでいた思案がより現実味をおびるようになってきた。
「そういえば、明鈴。陛下の好みがわかったといっていたな」
烏次元が尋ねると明鈴は自信たっぷりに大きく頷く。
「これから宮廷に参内したいのですが、よろしいですか?」
明鈴は烏次元に参内の許可を求める。
「ああっそれはかまわないが……」
烏次元は言った。
「私の知り合いにぴったりの人物がいるのです」
明鈴は華やかな笑みでそう言った。
それは烏次元であった。
夜着に着替えた烏次元は明鈴のすぐとなりで眠っている。
明鈴はそっと手を伸ばし、烏次元の白い頬にふれる。女の自分よりもその肌はきめ細かいものに思える。それにしっとりとしていて、最高の触り心地だ。
そして触れることによって穏やかな温かさが心の中に流れ込んでくる。
烏次元の頬をなでながら、明鈴はずっとこうしていたと思った。
しばらく烏次元の肌を楽しんでいると彼は目を覚ました。
「やあ、おはよう明鈴。けどもう夜のようだな」
烏次元は明鈴の黒髪をなでる。
異性に髪をなでられるのはこれほど心地よいものかと明鈴は思った。
明鈴はもぞもぞと体を移動させる。
烏次元はそっと腕をのばし、明鈴の体を抱きしめる。
「明鈴、体は大事ないか?」
烏次元はきく。
「ええ旦那様、大事ございません」
明鈴は答えた。
あらっつい旦那様なんて呼んでしまった。つい言ってしまった言葉に明鈴は頬を赤くさせる。
その様子を見て、烏次元は美しい笑みを浮かべる。
「旦那様、明日の朝、あの手巾から読み取れたことをお話しますね」
はあっと明鈴はあくびをしてしまう。あれだけ寝たのにまだ眠いとはよほどあの世界のことが衝撃的だったのだと彼女は考えた。
「ああっわかったよ」
烏次元は言った。
明鈴は烏次元の腕のなかで安心して眠りについた。
翌朝、身支度を整えた明鈴は麻伊の用意した朝食を食べたあと、烏次元にあの光景をあますことなく話した。
「それは不思議な話だな。そのような世界が何故、皇帝陛下の持ち物から見えたのか……」
烏次元は腕をくみ、そういった。
「おそらくですが、その私が見た世界に皇帝陛下はいたことがあるのではないでしょうか。それで旦那様、この言葉の意味がわかりますか?」
明鈴はそう言い、あのもじゃもじゃ髪の青年が熱心に見ていた板から流れた言葉の一つを言ってみせた。
その言葉をきくとあの青年はうれしそうににやりと笑っていた。
その言葉は青年の好きな言葉なのだ。
明鈴は記憶には自信がある。
できるだけ正確に再現する。
その言葉を聞き、烏次元は腕をくみ、考える。
「ああっその言葉なら知っている。はるか東方の島国である蓬莱の言葉だ。たしか兄上、お兄様、いやもっとくだけた言い方だな……」
そこまで言うとお兄ちゃんと小梅が言った。
「そうだ、その言葉はそういう意味だ」
烏次元はうんうんと大きく頷いた。
「旦那様はその蓬莱国の言葉を話せるのですか?」
素朴な疑問を明鈴は言った。
蓬莱国など明鈴の知らない国の言葉だ。
「旦那様は蓬莱国だけでなく、西の呂摩国、南の去残国の言葉も話せるのですよ」
麻伊が我がことのように自慢する。
「話すことはもちろん、さらさらと書くこともできるんだから」
こちらは小梅が鼻高々に鼻を含まませている。
「そうもちあげても何もでないぞ。それに蓬莱国の言葉は陛下も話すことができる。陛下のほうが私などよりも流暢にお話になられる」
烏次元はそう言った。
烏次元の言葉を聞き、明鈴のなかに浮かんでいた思案がより現実味をおびるようになってきた。
「そういえば、明鈴。陛下の好みがわかったといっていたな」
烏次元が尋ねると明鈴は自信たっぷりに大きく頷く。
「これから宮廷に参内したいのですが、よろしいですか?」
明鈴は烏次元に参内の許可を求める。
「ああっそれはかまわないが……」
烏次元は言った。
「私の知り合いにぴったりの人物がいるのです」
明鈴は華やかな笑みでそう言った。
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