見鬼の女官は烏の妻となる

白鷺雨月

文字の大きさ
上 下
10 / 23

第十話 明鈴の提案

しおりを挟む
 次に目を覚ましたとき、明鈴はこの世のものとは思えない美貌の青年の寝顔を目の当たりにした。
 それは烏次元であった。

 夜着に着替えた烏次元は明鈴のすぐとなりで眠っている。
 明鈴はそっと手を伸ばし、烏次元の白い頬にふれる。女の自分よりもその肌はきめ細かいものに思える。それにしっとりとしていて、最高の触り心地だ。
 そして触れることによって穏やかな温かさが心の中に流れ込んでくる。
 烏次元の頬をなでながら、明鈴はずっとこうしていたと思った。
 しばらく烏次元の肌を楽しんでいると彼は目を覚ました。

「やあ、おはよう明鈴。けどもう夜のようだな」
 烏次元は明鈴の黒髪をなでる。
 異性に髪をなでられるのはこれほど心地よいものかと明鈴は思った。

 明鈴はもぞもぞと体を移動させる。
 烏次元はそっと腕をのばし、明鈴の体を抱きしめる。
「明鈴、体は大事ないか?」
 烏次元はきく。

「ええ旦那様、大事ございません」
 明鈴は答えた。
 あらっつい旦那様なんて呼んでしまった。つい言ってしまった言葉に明鈴は頬を赤くさせる。
 その様子を見て、烏次元は美しい笑みを浮かべる。
「旦那様、明日の朝、あの手巾から読み取れたことをお話しますね」
 はあっと明鈴はあくびをしてしまう。あれだけ寝たのにまだ眠いとはよほどあの世界のことが衝撃的だったのだと彼女は考えた。
「ああっわかったよ」
 烏次元は言った。
 明鈴は烏次元の腕のなかで安心して眠りについた。


 翌朝、身支度を整えた明鈴は麻伊の用意した朝食を食べたあと、烏次元にあの光景をあますことなく話した。

「それは不思議な話だな。そのような世界が何故、皇帝陛下の持ち物から見えたのか……」
 烏次元は腕をくみ、そういった。

「おそらくですが、その私が見た世界に皇帝陛下はいたことがあるのではないでしょうか。それで旦那様、この言葉の意味がわかりますか?」
 明鈴はそう言い、あのもじゃもじゃ髪の青年が熱心に見ていた板から流れた言葉の一つを言ってみせた。
 その言葉をきくとあの青年はうれしそうににやりと笑っていた。
 その言葉は青年の好きな言葉なのだ。
 明鈴は記憶には自信がある。
 できるだけ正確に再現する。

 その言葉を聞き、烏次元は腕をくみ、考える。
「ああっその言葉なら知っている。はるか東方の島国である蓬莱ほうらいの言葉だ。たしか兄上、お兄様、いやもっとくだけた言い方だな……」
 そこまで言うとお兄ちゃんと小梅が言った。
「そうだ、その言葉はそういう意味だ」
 烏次元はうんうんと大きく頷いた。

「旦那様はその蓬莱国の言葉を話せるのですか?」
 素朴な疑問を明鈴は言った。
 蓬莱国など明鈴の知らない国の言葉だ。

「旦那様は蓬莱国だけでなく、西の呂摩ロマ国、南の去残サザン国の言葉も話せるのですよ」
 麻伊が我がことのように自慢する。

「話すことはもちろん、さらさらと書くこともできるんだから」
 こちらは小梅が鼻高々に鼻を含まませている。

「そうもちあげても何もでないぞ。それに蓬莱国の言葉は陛下も話すことができる。陛下のほうが私などよりも流暢にお話になられる」
 烏次元はそう言った。

 烏次元の言葉を聞き、明鈴のなかに浮かんでいた思案がより現実味をおびるようになってきた。

「そういえば、明鈴。陛下の好みがわかったといっていたな」
 烏次元が尋ねると明鈴は自信たっぷりに大きく頷く。

「これから宮廷に参内したいのですが、よろしいですか?」
 明鈴は烏次元に参内の許可を求める。
「ああっそれはかまわないが……」
 烏次元は言った。

「私の知り合いにぴったりの人物がいるのです」
 明鈴は華やかな笑みでそう言った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜

菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。 私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ) 白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。 妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。 利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。 雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...