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第九話 サイゼリアで喜ぶ女子大生
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五月の中旬、有希子の娘である沙友理が久々に会いたいというので、和人はサイゼリアに来ていた。
平日の夜ということで、店内は比較的空いていた。
「私、サイゼリア好きなのよね」
わかりやすいほどウキウキした表情で有希子は和人に言った。
和人もサイゼリアは大好きだ。本格的で美味しいイタリアンがリーズナブルな値段で味わえる。
この心斎橋にあるサイゼリアには有希子とオタロードでのデート帰りに何度もおとずれたことがある。
しかし、有希子の娘である沙友理と会うのにはカジュアルすぎないかという不安も和人にはあった。
「大丈夫よ、ここを指定したのは沙友理なんだから」
ふふっと有希子は少女のような笑みを浮かべる。
彼女が機嫌がいいのはレトロゲームショップでアイスクライマーをゲットしたからだ。
「なら、いいんだけど」
和人は有希子に言った。
ネットではサイゼリアに否定的な意見が多い。
こんなに美味しくて、しかも良心的な値段で食べられるレストランを目の敵のように否定する感情は和人には理解できない。
「あっ、ママこっちこっち」
四人がけの席で手をふるのが、有希子の娘である沙友理だった。
沙友理の外見は一言であらわすなら、有希子そっくりだ。
眉の上で切りそろえられた艶のある黒髪にアーモンド型のおおきな瞳。赤く、ふっくらしたセクシーな唇とパーツパーツがとても良く似ている。
姉妹といっても通じるほどだ。
沙友理は今年で十九歳になる大学二年生だということだ。
きっと二十歳ぐらいの有希子もこんな感じだったのだろうと和人は思った。
和人は現在と小学生のときの有希子しか知らない。
その間は想像するしかない。
有希子は和人が知らない間に中学高校、大学と進学し、結婚した。篠原辰哉という男と結婚し、沙友理を産んだ。そして五年前に篠原の浮気が原因で離婚した。一年半前のコミックシティで和人と再会し、交際するようになった。
「和人さん、こんばんは」
沙友理は立ち上がり、ペコリと頭を下げる。
和人も会釈する。
「あら、沙友理ったらかしこまっちゃって」
その様子を見て、有希子はあの喉の奥をならす独特の笑い方をする。
和人と有希子は沙友理の向かいに腰掛ける。
「はー私、お腹すいたわ。今日はサイゼリア豪遊しましょう」
有希子はペラペラとメニュー表をめくり、うーんと悩む。
「私もお腹すいた。今日はママのおごりでしょ」
沙友理が早速注文票に数字を書いていく。
ミラノ風ドリアにミートパスタ、それにマルゲリータだ。
有希子も手慣れた手つきで数字を書いていく。
有希子はカルボナーラと小海老のサラダを注文した。
和人はチーズハンバーグにライス、カリッとポテトを書き込む。そして全員がドリンクバーを頼む。
有希子と沙友理は仲良くドリンクバーに行く。
程なくして二人はかえってくる。和人の分のコーラも有希子が持ってきてくれた。
沙友理はからかうような笑みで、お二人の結婚に乾杯なんて言った。沙友理のグラスにはジンジャーエール、有希子のグラスにはウーロン茶が注がれていた。
すぐに料理が運ばれてきて、食事をとりながら会話をする。
「私も沖縄いくわ」
沙友理は有希子と和人を交互に見る。
追加で辛味チキンを頼む。
和人はモッツァレラチーズのピザを頼む。
沙友理が沖縄に行くということは、二人の結婚式に参加するということだ。
「ありがとう沙友理」
有希子は娘に素直な言葉を告げた。
有希子と沙友理は近況報告もかねて、会話を重ねる。
二人ともよく喋る。
女は話が長いと失言した政治家がいたけど、有希子と沙友理を見る限り、その政治家は嘘をついていないと和人は思った。
有希子がトイレにたつとあれだけ盛り上がっていた会話が止む。
和人は有希子が帰るまでの間をつなぐため、沙友理に将来はどうしたいのかをきいてみた。
真剣に知りたいのではなく、間をつなぐためだけの質問だ。
「私ね、なろう作家になりたいの」
沙友理は和人の質問に躊躇うことなくそう答えた。
和人は思わずえっと訊きなおす。
「なろう作家よ」
沙友理は笑顔で同じ言葉を言った。
「私ね、なろうもの好きなのよね。異世界もの大好きなの。主人公がオレつえーしてかわいいヒロインをはべらせて、無双する話が好きなの」
沙友理はバッグからスマホを取り出し、和人に画面を見せる。
それは小説投稿サイト「アルファポリス」の画面だった。
坂木薔薇ゆり子というペンネームの作家のプロフィール画面だった。
沙友理はこのペンネームで「小説屋になろう」や「カキヨム」にも投稿しているという。
文学部に進学したのもなろう作家になるためだと饒舌に、早口に語った。
「私、ママが家を出たのが、かなりショックだったのよね。パパの浮気もね。あれ本気だったから余計たちが悪いわ。それに明菜さんを母さんと呼ぶのは抵抗あるし。あっでも弟の竜星はめっちゃかわいいよ。それでね、サブスクのアニメで異世界物にであったの。異世界物のアニメを見てるときだけ、煩わしいことを忘れることができたのね。それで私もあんなのを書いてみたいって思ったの」
沙友理はごくごくとジュースを飲む。
オタクは好きなことを語ると早口になる。
それはスタンド使い同士は引かれあうのと同じルールだ。ゲームを語る有希子も同じようなタイプだ。
やはり二人は親子だと和人は思った。
「頑張りなよ。とりあえずフォローするよ」
和人はスマホを操作して、坂木薔薇ゆり子をフォローした。
「ありがとう。パパと違ってそんなのなれないって言わないのね」
「だって宝くじより全然確率高いだろ」
「そうね、宝くじに比べたら現実的ね」
沙友理はチキンをパクリと食べた。
トイレを済ました有希子が帰ってきた。
楽しそうに笑う沙友理を見て、あらいいことでもあったのと声をかけた。
沙友理は「まあね」と答えた。
このあと三人は二時間ほどサイゼリアで会話に花を咲かせた。
後日、坂木薔薇ゆり子のR18作品を見つけた和人はそれを読むのを密かな楽しみにした。
平日の夜ということで、店内は比較的空いていた。
「私、サイゼリア好きなのよね」
わかりやすいほどウキウキした表情で有希子は和人に言った。
和人もサイゼリアは大好きだ。本格的で美味しいイタリアンがリーズナブルな値段で味わえる。
この心斎橋にあるサイゼリアには有希子とオタロードでのデート帰りに何度もおとずれたことがある。
しかし、有希子の娘である沙友理と会うのにはカジュアルすぎないかという不安も和人にはあった。
「大丈夫よ、ここを指定したのは沙友理なんだから」
ふふっと有希子は少女のような笑みを浮かべる。
彼女が機嫌がいいのはレトロゲームショップでアイスクライマーをゲットしたからだ。
「なら、いいんだけど」
和人は有希子に言った。
ネットではサイゼリアに否定的な意見が多い。
こんなに美味しくて、しかも良心的な値段で食べられるレストランを目の敵のように否定する感情は和人には理解できない。
「あっ、ママこっちこっち」
四人がけの席で手をふるのが、有希子の娘である沙友理だった。
沙友理の外見は一言であらわすなら、有希子そっくりだ。
眉の上で切りそろえられた艶のある黒髪にアーモンド型のおおきな瞳。赤く、ふっくらしたセクシーな唇とパーツパーツがとても良く似ている。
姉妹といっても通じるほどだ。
沙友理は今年で十九歳になる大学二年生だということだ。
きっと二十歳ぐらいの有希子もこんな感じだったのだろうと和人は思った。
和人は現在と小学生のときの有希子しか知らない。
その間は想像するしかない。
有希子は和人が知らない間に中学高校、大学と進学し、結婚した。篠原辰哉という男と結婚し、沙友理を産んだ。そして五年前に篠原の浮気が原因で離婚した。一年半前のコミックシティで和人と再会し、交際するようになった。
「和人さん、こんばんは」
沙友理は立ち上がり、ペコリと頭を下げる。
和人も会釈する。
「あら、沙友理ったらかしこまっちゃって」
その様子を見て、有希子はあの喉の奥をならす独特の笑い方をする。
和人と有希子は沙友理の向かいに腰掛ける。
「はー私、お腹すいたわ。今日はサイゼリア豪遊しましょう」
有希子はペラペラとメニュー表をめくり、うーんと悩む。
「私もお腹すいた。今日はママのおごりでしょ」
沙友理が早速注文票に数字を書いていく。
ミラノ風ドリアにミートパスタ、それにマルゲリータだ。
有希子も手慣れた手つきで数字を書いていく。
有希子はカルボナーラと小海老のサラダを注文した。
和人はチーズハンバーグにライス、カリッとポテトを書き込む。そして全員がドリンクバーを頼む。
有希子と沙友理は仲良くドリンクバーに行く。
程なくして二人はかえってくる。和人の分のコーラも有希子が持ってきてくれた。
沙友理はからかうような笑みで、お二人の結婚に乾杯なんて言った。沙友理のグラスにはジンジャーエール、有希子のグラスにはウーロン茶が注がれていた。
すぐに料理が運ばれてきて、食事をとりながら会話をする。
「私も沖縄いくわ」
沙友理は有希子と和人を交互に見る。
追加で辛味チキンを頼む。
和人はモッツァレラチーズのピザを頼む。
沙友理が沖縄に行くということは、二人の結婚式に参加するということだ。
「ありがとう沙友理」
有希子は娘に素直な言葉を告げた。
有希子と沙友理は近況報告もかねて、会話を重ねる。
二人ともよく喋る。
女は話が長いと失言した政治家がいたけど、有希子と沙友理を見る限り、その政治家は嘘をついていないと和人は思った。
有希子がトイレにたつとあれだけ盛り上がっていた会話が止む。
和人は有希子が帰るまでの間をつなぐため、沙友理に将来はどうしたいのかをきいてみた。
真剣に知りたいのではなく、間をつなぐためだけの質問だ。
「私ね、なろう作家になりたいの」
沙友理は和人の質問に躊躇うことなくそう答えた。
和人は思わずえっと訊きなおす。
「なろう作家よ」
沙友理は笑顔で同じ言葉を言った。
「私ね、なろうもの好きなのよね。異世界もの大好きなの。主人公がオレつえーしてかわいいヒロインをはべらせて、無双する話が好きなの」
沙友理はバッグからスマホを取り出し、和人に画面を見せる。
それは小説投稿サイト「アルファポリス」の画面だった。
坂木薔薇ゆり子というペンネームの作家のプロフィール画面だった。
沙友理はこのペンネームで「小説屋になろう」や「カキヨム」にも投稿しているという。
文学部に進学したのもなろう作家になるためだと饒舌に、早口に語った。
「私、ママが家を出たのが、かなりショックだったのよね。パパの浮気もね。あれ本気だったから余計たちが悪いわ。それに明菜さんを母さんと呼ぶのは抵抗あるし。あっでも弟の竜星はめっちゃかわいいよ。それでね、サブスクのアニメで異世界物にであったの。異世界物のアニメを見てるときだけ、煩わしいことを忘れることができたのね。それで私もあんなのを書いてみたいって思ったの」
沙友理はごくごくとジュースを飲む。
オタクは好きなことを語ると早口になる。
それはスタンド使い同士は引かれあうのと同じルールだ。ゲームを語る有希子も同じようなタイプだ。
やはり二人は親子だと和人は思った。
「頑張りなよ。とりあえずフォローするよ」
和人はスマホを操作して、坂木薔薇ゆり子をフォローした。
「ありがとう。パパと違ってそんなのなれないって言わないのね」
「だって宝くじより全然確率高いだろ」
「そうね、宝くじに比べたら現実的ね」
沙友理はチキンをパクリと食べた。
トイレを済ました有希子が帰ってきた。
楽しそうに笑う沙友理を見て、あらいいことでもあったのと声をかけた。
沙友理は「まあね」と答えた。
このあと三人は二時間ほどサイゼリアで会話に花を咲かせた。
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