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第二話 ファミコンが来た日
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三十数年前のことだ。
吉田和人が小学生高学年のときにファミコンがやって来た。
ゴールデンウィークも終わった五月のとある日曜日、お昼の狐うどんを食べていると父の良雄が口を開いた。
「和光電気にファミコンを買いに行くぞ」
それはいつもの父の気まぐれだった。
和人の父である良雄は新しいものが好きだった。この日のように突然思いつきCDコンポやレーザーディスクプレイヤー、ビデオデッキなんかを買ってきては母親の涼子に叱られるのである。
また懲りずに良雄は当時人気絶頂であったファミコンが欲しくなったようで、その買い物に和人を誘ったのだ。
もちろん和人に断る理由はない。
どのみち無駄使いを叱られるのは父良雄の役目だ。自分は付き添うだけだ。
和人は友人の家で遊ばせてもらったスーパーマリオの面白さを思い出した。あれが我が家で出来るなんて夢にまでみたことだ。
うどんを急いで食べて、和人は出かける準備をした。愛用の南海ホークスのキャップをかぶり、カローラに乗り込む。
良雄はカーステレオにカセットテープを差し込む。車内にゴダイゴの銀河鉄道999が流れる。
二十分ほどのドライブで和光電気についた。
和光電気のおもちゃコーナーは文字通り夢の国だった。レゴにガンプラ、ラジコン、ゲイラカイトなどが所狭しと陳列されている。
良雄は太陽の牙ダグラムのプラモデルをじっと見つめている。
さっきはジリオン銃を真剣な顔で見ていた。
もしかすると心がわりするかもしれない。
危機感を覚えた和人はファミコンコーナーに行こうと父親を促す。
「そうだな」
ゾイドコーナーに行こうとした父親の袖を引っ張る。
ゾイドもジリオンも捨てがたいがこの日はファミコンを買いにきたのだ。初志貫徹しなくてはいけないと和人は考えた。
結局この日、良雄は当初の予定通りファミコンの本体を購入した。ソフトはスーパーマリオとグラディウス、ポパイの英語であった。
ファミコンは勉強に使えるという言い訳のためにポパイの英語は購入された。
けっこうな出費に母親の涼子に良雄は叱られた。ふてくされた涼子はこの日、晩御飯を作らなかった。
この日の晩御飯は良雄の得意料理であるボンカレーとなったのは今ではいい思い出だ。
ファミコンとソフト三本を購入した良雄と和人は帰宅して早々、テレビにつなげた。
ブラウン管テレビにファミコンをつなげる作業はかなりの苦労を強いられた。
ようやくつながり良雄はファミコンの電源を入れる。
スーパーマリオのカセットを差し込むとあの耳から離れないテーマ曲が流れる。
ファミコンの赤いコントローラーを握り、良雄はスタートボタンをおす。
テレビ画面の小さなマリオが軽快に走り出す。
和人が危ないと言おうとした瞬間、マリオはクリボーに当たり死んでしまった。
和人は唖然とする大人の顔を初めて見た。
ファミコンが家に来てから和人の生活は一変した。ゲーム中心の生活になったのである。
休み時間の話題はゲームのことばかりだ。
ゲームつながりで友だちも増えた。
今でも付き合いのある岸野と友人になったのもこのときだ。
岸野は手先が器用で絵心があり、攻略本のようなウイザードリィのマップを作って見せてくれた。令和の今では岸野は漫画家兼イラストレーターとして活躍している。
六月になったある日、一人で学校からの帰り道を歩いていると一人の少女が眼前にあらわれた。
急に出てきたのでぶつかりそうになった。
綺麗に切り揃えられた前髪が特徴的なかわいらしい少女であった。白いブラウスがいかにも裕福な家の子だということを証明していた。
和人はこの少女を知っている。
同じクラスの友永有希子だ。
なんだよ危ないなと和人は思い、左によけて通ろうとする。
そうすると友永も左に移動して和人の前に立ちはだかる。
邪魔だなと和人は思い、今度は右に移動する。
そうすると友永も右に移動した。
「何かようなの?」
和人は呆れながらきいた。
友永は黙っアスファルトの地面を見ている。口元だけ動かしてごにょごにょと言っている。
「えっ何なの?」
じれったいなと思いながら和人はきいた。早く帰ってグラディウスをやりたいのになと彼は思っていた。
「よ、吉田君ってファミコン持っているのよね」
じっと和人の眼を見て友永は言った。
それが和人にとって友永有希子という少女を女性として意識した瞬間であった。
頬を赤くして話しかける友永有希子のことをかわいいと思った。
「持ってるよ」
和人は答えた。
自分がファミコンを持っていることと友永有希子とどういう関係があるのだろうか。
友永とはクラスメイトであるが、話すのは初めてと言っていいほどだ。
「あ、あの……」
友永はまたもじもじしだした。
アスファルトの地面と和人を何度も交互に見る。じれったいなと思ったが、和人は待つことにした。
「私、ファミコンしたいの!!」
それは思ったより大きな声だった。
思いきっていったせいで声が大きくなったのかもしれない。
友永は大声を出してしまったせいか顔を真っ赤にしてアスファルトの地面だけを見ている。
なんだそんなことかと和人は思った。
「なんだそんなことか。いいよ、ファミコン一緒にやろう」
和人の言葉を聞いた友永はにこりと笑った。
その笑顔を見て和人は胸の奥底が本の少しだけ痛むのを覚えた。でもその痛みはなぜか心地よいものだった。
友永有希子を連れて帰り、和人は一緒にファミコンで遊んだ。パートから帰ってきた母親の涼子はにこにこしながらカルピスをいれてくれた。
カルピスは今まで味わったことのない濃いものだった。
カルピスってこんなに美味しいものだったなんてと和人は感動すら覚えた。
友永有希子が家に遊びにきたときだけ、この濃くて美味しいカルピスを飲むことができた。
これが友永有希子と和人の出会いであった。
吉田和人が小学生高学年のときにファミコンがやって来た。
ゴールデンウィークも終わった五月のとある日曜日、お昼の狐うどんを食べていると父の良雄が口を開いた。
「和光電気にファミコンを買いに行くぞ」
それはいつもの父の気まぐれだった。
和人の父である良雄は新しいものが好きだった。この日のように突然思いつきCDコンポやレーザーディスクプレイヤー、ビデオデッキなんかを買ってきては母親の涼子に叱られるのである。
また懲りずに良雄は当時人気絶頂であったファミコンが欲しくなったようで、その買い物に和人を誘ったのだ。
もちろん和人に断る理由はない。
どのみち無駄使いを叱られるのは父良雄の役目だ。自分は付き添うだけだ。
和人は友人の家で遊ばせてもらったスーパーマリオの面白さを思い出した。あれが我が家で出来るなんて夢にまでみたことだ。
うどんを急いで食べて、和人は出かける準備をした。愛用の南海ホークスのキャップをかぶり、カローラに乗り込む。
良雄はカーステレオにカセットテープを差し込む。車内にゴダイゴの銀河鉄道999が流れる。
二十分ほどのドライブで和光電気についた。
和光電気のおもちゃコーナーは文字通り夢の国だった。レゴにガンプラ、ラジコン、ゲイラカイトなどが所狭しと陳列されている。
良雄は太陽の牙ダグラムのプラモデルをじっと見つめている。
さっきはジリオン銃を真剣な顔で見ていた。
もしかすると心がわりするかもしれない。
危機感を覚えた和人はファミコンコーナーに行こうと父親を促す。
「そうだな」
ゾイドコーナーに行こうとした父親の袖を引っ張る。
ゾイドもジリオンも捨てがたいがこの日はファミコンを買いにきたのだ。初志貫徹しなくてはいけないと和人は考えた。
結局この日、良雄は当初の予定通りファミコンの本体を購入した。ソフトはスーパーマリオとグラディウス、ポパイの英語であった。
ファミコンは勉強に使えるという言い訳のためにポパイの英語は購入された。
けっこうな出費に母親の涼子に良雄は叱られた。ふてくされた涼子はこの日、晩御飯を作らなかった。
この日の晩御飯は良雄の得意料理であるボンカレーとなったのは今ではいい思い出だ。
ファミコンとソフト三本を購入した良雄と和人は帰宅して早々、テレビにつなげた。
ブラウン管テレビにファミコンをつなげる作業はかなりの苦労を強いられた。
ようやくつながり良雄はファミコンの電源を入れる。
スーパーマリオのカセットを差し込むとあの耳から離れないテーマ曲が流れる。
ファミコンの赤いコントローラーを握り、良雄はスタートボタンをおす。
テレビ画面の小さなマリオが軽快に走り出す。
和人が危ないと言おうとした瞬間、マリオはクリボーに当たり死んでしまった。
和人は唖然とする大人の顔を初めて見た。
ファミコンが家に来てから和人の生活は一変した。ゲーム中心の生活になったのである。
休み時間の話題はゲームのことばかりだ。
ゲームつながりで友だちも増えた。
今でも付き合いのある岸野と友人になったのもこのときだ。
岸野は手先が器用で絵心があり、攻略本のようなウイザードリィのマップを作って見せてくれた。令和の今では岸野は漫画家兼イラストレーターとして活躍している。
六月になったある日、一人で学校からの帰り道を歩いていると一人の少女が眼前にあらわれた。
急に出てきたのでぶつかりそうになった。
綺麗に切り揃えられた前髪が特徴的なかわいらしい少女であった。白いブラウスがいかにも裕福な家の子だということを証明していた。
和人はこの少女を知っている。
同じクラスの友永有希子だ。
なんだよ危ないなと和人は思い、左によけて通ろうとする。
そうすると友永も左に移動して和人の前に立ちはだかる。
邪魔だなと和人は思い、今度は右に移動する。
そうすると友永も右に移動した。
「何かようなの?」
和人は呆れながらきいた。
友永は黙っアスファルトの地面を見ている。口元だけ動かしてごにょごにょと言っている。
「えっ何なの?」
じれったいなと思いながら和人はきいた。早く帰ってグラディウスをやりたいのになと彼は思っていた。
「よ、吉田君ってファミコン持っているのよね」
じっと和人の眼を見て友永は言った。
それが和人にとって友永有希子という少女を女性として意識した瞬間であった。
頬を赤くして話しかける友永有希子のことをかわいいと思った。
「持ってるよ」
和人は答えた。
自分がファミコンを持っていることと友永有希子とどういう関係があるのだろうか。
友永とはクラスメイトであるが、話すのは初めてと言っていいほどだ。
「あ、あの……」
友永はまたもじもじしだした。
アスファルトの地面と和人を何度も交互に見る。じれったいなと思ったが、和人は待つことにした。
「私、ファミコンしたいの!!」
それは思ったより大きな声だった。
思いきっていったせいで声が大きくなったのかもしれない。
友永は大声を出してしまったせいか顔を真っ赤にしてアスファルトの地面だけを見ている。
なんだそんなことかと和人は思った。
「なんだそんなことか。いいよ、ファミコン一緒にやろう」
和人の言葉を聞いた友永はにこりと笑った。
その笑顔を見て和人は胸の奥底が本の少しだけ痛むのを覚えた。でもその痛みはなぜか心地よいものだった。
友永有希子を連れて帰り、和人は一緒にファミコンで遊んだ。パートから帰ってきた母親の涼子はにこにこしながらカルピスをいれてくれた。
カルピスは今まで味わったことのない濃いものだった。
カルピスってこんなに美味しいものだったなんてと和人は感動すら覚えた。
友永有希子が家に遊びにきたときだけ、この濃くて美味しいカルピスを飲むことができた。
これが友永有希子と和人の出会いであった。
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