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07 三人目の同類
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「遅いから心配しただろうが! 連絡すりゃすぐ迎えに行ったのに、何遠慮してんだこの馬鹿っ」
言葉の上では叱りつつも、師匠はすかさず俺の頬と額を撫でて顔色や体温を確認してくる。膝に上手く力が入らずフラついたのを、腰に腕を回して支えられて頬が熱くなった。
うわ、うわ、師匠に抱き締められてる。『抱っこ』じゃなくて、ぎゅってされてる。
子供を扱うようなスキンシップには慣れていても、こんな抱かれ方をされた事は無い。ヘリアの前だから遠慮してくれているのかもしれないが、これはこれで過保護過ぎるように見えると思うのだけど。
「また魔力濁ってんじゃねぇか。ほら、こっち見ろ。これがお前の色だろ」
顎を掴んで上向かされ、澄んだ湖のような緑色の目に見つめられた。
黒に近い深緑に縁取られ、深い光の当たった所は薄い碧に煌く瞳に俺が映っている。遠いような近いような、透き通っているのに湖底が見えない不思議な瞳の色。
そうだ、これが、俺の色。
文字通り目の前にあるお手本通りに魔力の色を戻すと、師匠は目を細めて嬉しそうに笑ってから俺の頬を撫でた。
「いい子だ。お前はその色が一番似合う」
師匠の色が似合うと言われて少し照れる。
頬を掻きながら視線を逸らすと傍のヘリアが訝しげに眉間に深い皺を寄せていて、慌てて師匠の胸を押して遠ざけようとした。
「し、師匠、あの」
「なんだ? 暴れんな、抱いて帰ってやるから大人しくしてろ」
具合悪いんだろ? と頭を撫でられて、ヘリアを指差して咎めるみたいに師匠を軽く睨む。
「クラスメイトの前だから……」
てっきりそれで横抱きにするのは我慢してくれたのだと思ったのに、師匠は今初めて気付いたみたいにヘリアの方へ視線をやって「ああ」と他所行きの微笑みを作った。
「送ってくれて助かった。ドルジ先輩の息子さんだったか、久しぶりだな。学園まで気を付けて帰れよ」
「……は?」
師匠はそれだけ言うと用は済んだとばかりに踵を返し、ひょいと蹲んで俺を横向きに抱きかかえた。
「師匠! ヘリアの前だって言ってんのにっ!」
「体調悪い時に小せぇこと気にすんな」
「するだろ、俺もう十六だぞ! 成人してんだぞ!」
「学生は卒業するまで未成年扱いですー」
「そういう事じゃなくて!」
俺の羞恥心より体調優先なのか、師匠は暴れて文句を言う俺にバチッとデコピンしてくる。
「……あの!」
さっさと家に帰る為に歩き出した師匠に、ヘリアが声を掛けてくる。
師匠は一瞬表情を失くしてからまた微笑みを作り直し、立ち止まって振り返った。
「どうした? まだ何かあるのか?」
「その、トゥリの体調不良、うちの上司が関係しているらしくて……」
「『ソーシカ』の魔術師が?」
ヘリアはどうやらユルカのことを言うつもりらしい。ユルカから師匠には言うなと口止めされているのを思い出し、ヘリアへ必死に腕で×を作ってブンブン首を横に振ったのだけど、それを見たヘリアと師匠二人共に呆れた顔をされた。
「トゥリ、君それ、隠し事してるって一発で分かるだろ」
「ほんとお前アホ可愛いな」
そういう動作は俺の見えないところでやれよ、とこめかみを小突かれ、とりあえず八つ当たりにヘリアを睨んでおく。
ヘリアは一つため息を吐くと、少し考える素振りを見せてからユルカの名前を出さずに説明してくれた。
「昨夜、卒業後にうちのギルドに入るのに値するかどうか、様子見に行ったようでして。その時によほど彼の事が気に入ったのか、凡人にとっては無謀な魔術を教えたらしく……」
「無謀な魔術?」
「自分の中の『常識』を手拍子でスイッチする、というものです」
荒唐無稽でしょう、と申し訳なさそうな表情をするヘリアと対照的に、師匠は彼の言葉を聞いて少し首を傾げただけだった。
「常識を思い込みで変えるなんて魔術の基本だろ? どのへんが無謀なんだ?」
「……」
心底不思議そうな師匠の様子に、ヘリアが顔を強張らせて俺へ視線を向ける。
まさかお前の師匠も凡人の常識が通じない天才型か、と責める言葉が聞こえるみたいで、だけれど俺は師匠が魔術について久々に話すのを聞いて嬉しくなった。
小さい頃はよく魔術書を読み聞かせては詳細に解説してくれたのに、最近は何を聞いても「魔術書に書いてあんだろ」としか言ってくれない。
「出来るは出来るんだけど、スイッチするのにものすごく魔力喰ってるのか、出力が不安定になるんだ。だから足りない魔力をヘリアとピートに分けてもらったんだけど、それでもまだ魔力欠乏の症状が出てるみたいで……」
今なら昔みたいに教えてくれるのかも、と期待を込めて早口で説明すると、師匠は短く「やってみろ」と答えた。
だから即座に手を叩いて魔力の礫を出し、それからまた手を打って雲を出す。
何度か繰り返すとまたくらりと目眩がして、慌てて寄ってこようとしたヘリアを手の動きで制して師匠は馬鹿にするように口角をあげた。
「お前、それ本当に魔力が足りてない所為だと思ってんの?」
「え……」
「ちったぁ成長してきたかと思ってたのに、まだまだだな。詰まってるだけじゃねぇか」
ヘリアだけでなく俺もその言葉の意味が分からず黙ると、師匠は抱き上げていた俺を降ろして自分で立たせ、心臓の上辺りを人差し指の先で叩いてきた。
「お前、その石ころが身体に循環してるとこを想像してねぇだろ。魔力が足りてねぇんじゃねぇ、お前が魔力を回してねぇんだ」
礫が身体に循環しているところ。言われて、そう言えば昨日『これが身体を巡ったら痛そう』なんて考えた気がする。あの時は回復魔術を使う時に被術者の事を考えていたのだけど、それが自分にも適用されるとは考えていなかった。他人でも痛そうだと思うんだから、自分が痛くないわけないのだ。
「どうしても石ころ形状じゃないとダメなのか?」
「えっと、攻撃魔法が苦手だから魔力をそのままぶつける方法をとる事にしたんだけど、俺は魔力をふわふわの雲だと思ってて」
「だから当たったら痛そうな石ころ、か。単純だな」
俺の掌から礫を摘み上げた師匠はぐっとそれを指先で潰そうとして出来なかった事に眉を顰めた。
「強度はあるが……、そりゃあこれを巡らせたら『痛そう』だろうな。しかし、このまま石ころのイメージでいくなら痛みに耐えてでも身体に巡らせないとそもそも動けもしねぇ。一撃放っていちいちスイッチしてる余裕は実戦には無ぇぞ?」
ごもっともです。
師匠の駄目出しは的確で、俺が説明してない所まで見透かしてくる。
「……卒業試験で使えればいいだけなんだけど……」
「それこそ隙が無ぇだろ、2:1なんだから。ちゃん頭使えよ、学年一位」
嫌味みたいに言われて、いつも一位争いをしているヘリアが唇の端をヒクつかせた。
しばらく礫を見つめて考え込んでいた師匠は不意に「そうだな」と呟いて、俺の心臓の上を撫でた。
「弾力のある粒。小さく、丸く、だから身体を巡っても痛みは無い。細い隙間も弾力のおかげで摺り抜けるから詰まることもない。柔らかく伸びも良いが、千切れない。滅多なことでは潰れない。何かに当たっても潰れて弾け飛ばないから当たるとめちゃくちゃ痛い。……これでいいだろ。やってみろ」
魔力の形状をまた変えればいいのか、と掌の中に魔力を集めて試しに師匠の言った通りの丸い粒を作ってみようとするのに、ヘリアが顔を引き攣らせて止めに入ってきた。
「ちょ……っ、冗談でしょう!? こんな短期間にコロコロ常識の改変をさせるなんて、正気じゃない! あんたはトゥリを殺す気ですか!?」
ヘリアの語気は荒く、その勢いからして本気で俺を心配しているようだ。
戸惑う俺を見て師匠は目を眇め、静かな声でヘリアを窘めた。
「俺たちを、……いや、こいつを凡人の尺度に合わせるな。こいつには出来る。だからやれと言っているだけだ」
「……っ」
師匠の声は冷静で、だから俺に無理を強いているわけじゃないと分かる。ヘリアにもそれが分かったのか、悔しげな表情で唇を噛んだ。
一度丸い粒を作り、魔力の雲を出してから手を叩いてスイッチさせ、粒を出す。
粒は師匠が定義してくれた通り滑らかに俺の身体を循環し始め、すると膝に力が入って師匠の支えがなくても立てるようになった。
さっきまで礫を出していた時に目眩がしていたのは魔力の流れが滞って急激に減っていた所為だと、正常な魔力循環が戻ってきてやっと自覚出来た。自分の身体のことなのに師匠に気付かされたというのが情けない。
「大丈夫だな?」
一応訊いてはくるけれど、師匠の顔にもう心配の色は無い。
うん、と頷くと俺を支えていた手を離し、ヘリアの方へ押し出すように背中を叩いてきた。
「ならさっさと学園に戻って授業受けろ」
「あ、うん。……待って、髪だけ結わせて」
欠伸をして家の方へ戻ろうとしていた師匠を捕まえて寝癖だらけの髪を結ってやろうとするのに、彼は顔を赤くして俺を腕で払った。
「アホかっ、人前でやるやつがあるか!」
「えー、師匠だってさっき俺のこと子供みたいに抱っこしたじゃん。お返しだよ」
「こど……っ、違ぇ、あれは……。……いいからさっさと行け! 俺はまた寝るから今綺麗にしても意味無ぇ!」
「あっ」
走り出した師匠は魔術なんて使わなくても十分速く、置いていかれた俺は髪を結い損ねた手をにぎにぎと動かして不満に唇を尖らせる。
「……ヘリア」
「僕は他人に髪を触らせる趣味は無い」
馬鹿な事言ってないでさっさと戻るぞ! と通常運転に戻ったヘリアに制服の首根っこを掴まれて、しぶしぶ飛行魔術を使って空へ飛び上がったのだった。
言葉の上では叱りつつも、師匠はすかさず俺の頬と額を撫でて顔色や体温を確認してくる。膝に上手く力が入らずフラついたのを、腰に腕を回して支えられて頬が熱くなった。
うわ、うわ、師匠に抱き締められてる。『抱っこ』じゃなくて、ぎゅってされてる。
子供を扱うようなスキンシップには慣れていても、こんな抱かれ方をされた事は無い。ヘリアの前だから遠慮してくれているのかもしれないが、これはこれで過保護過ぎるように見えると思うのだけど。
「また魔力濁ってんじゃねぇか。ほら、こっち見ろ。これがお前の色だろ」
顎を掴んで上向かされ、澄んだ湖のような緑色の目に見つめられた。
黒に近い深緑に縁取られ、深い光の当たった所は薄い碧に煌く瞳に俺が映っている。遠いような近いような、透き通っているのに湖底が見えない不思議な瞳の色。
そうだ、これが、俺の色。
文字通り目の前にあるお手本通りに魔力の色を戻すと、師匠は目を細めて嬉しそうに笑ってから俺の頬を撫でた。
「いい子だ。お前はその色が一番似合う」
師匠の色が似合うと言われて少し照れる。
頬を掻きながら視線を逸らすと傍のヘリアが訝しげに眉間に深い皺を寄せていて、慌てて師匠の胸を押して遠ざけようとした。
「し、師匠、あの」
「なんだ? 暴れんな、抱いて帰ってやるから大人しくしてろ」
具合悪いんだろ? と頭を撫でられて、ヘリアを指差して咎めるみたいに師匠を軽く睨む。
「クラスメイトの前だから……」
てっきりそれで横抱きにするのは我慢してくれたのだと思ったのに、師匠は今初めて気付いたみたいにヘリアの方へ視線をやって「ああ」と他所行きの微笑みを作った。
「送ってくれて助かった。ドルジ先輩の息子さんだったか、久しぶりだな。学園まで気を付けて帰れよ」
「……は?」
師匠はそれだけ言うと用は済んだとばかりに踵を返し、ひょいと蹲んで俺を横向きに抱きかかえた。
「師匠! ヘリアの前だって言ってんのにっ!」
「体調悪い時に小せぇこと気にすんな」
「するだろ、俺もう十六だぞ! 成人してんだぞ!」
「学生は卒業するまで未成年扱いですー」
「そういう事じゃなくて!」
俺の羞恥心より体調優先なのか、師匠は暴れて文句を言う俺にバチッとデコピンしてくる。
「……あの!」
さっさと家に帰る為に歩き出した師匠に、ヘリアが声を掛けてくる。
師匠は一瞬表情を失くしてからまた微笑みを作り直し、立ち止まって振り返った。
「どうした? まだ何かあるのか?」
「その、トゥリの体調不良、うちの上司が関係しているらしくて……」
「『ソーシカ』の魔術師が?」
ヘリアはどうやらユルカのことを言うつもりらしい。ユルカから師匠には言うなと口止めされているのを思い出し、ヘリアへ必死に腕で×を作ってブンブン首を横に振ったのだけど、それを見たヘリアと師匠二人共に呆れた顔をされた。
「トゥリ、君それ、隠し事してるって一発で分かるだろ」
「ほんとお前アホ可愛いな」
そういう動作は俺の見えないところでやれよ、とこめかみを小突かれ、とりあえず八つ当たりにヘリアを睨んでおく。
ヘリアは一つため息を吐くと、少し考える素振りを見せてからユルカの名前を出さずに説明してくれた。
「昨夜、卒業後にうちのギルドに入るのに値するかどうか、様子見に行ったようでして。その時によほど彼の事が気に入ったのか、凡人にとっては無謀な魔術を教えたらしく……」
「無謀な魔術?」
「自分の中の『常識』を手拍子でスイッチする、というものです」
荒唐無稽でしょう、と申し訳なさそうな表情をするヘリアと対照的に、師匠は彼の言葉を聞いて少し首を傾げただけだった。
「常識を思い込みで変えるなんて魔術の基本だろ? どのへんが無謀なんだ?」
「……」
心底不思議そうな師匠の様子に、ヘリアが顔を強張らせて俺へ視線を向ける。
まさかお前の師匠も凡人の常識が通じない天才型か、と責める言葉が聞こえるみたいで、だけれど俺は師匠が魔術について久々に話すのを聞いて嬉しくなった。
小さい頃はよく魔術書を読み聞かせては詳細に解説してくれたのに、最近は何を聞いても「魔術書に書いてあんだろ」としか言ってくれない。
「出来るは出来るんだけど、スイッチするのにものすごく魔力喰ってるのか、出力が不安定になるんだ。だから足りない魔力をヘリアとピートに分けてもらったんだけど、それでもまだ魔力欠乏の症状が出てるみたいで……」
今なら昔みたいに教えてくれるのかも、と期待を込めて早口で説明すると、師匠は短く「やってみろ」と答えた。
だから即座に手を叩いて魔力の礫を出し、それからまた手を打って雲を出す。
何度か繰り返すとまたくらりと目眩がして、慌てて寄ってこようとしたヘリアを手の動きで制して師匠は馬鹿にするように口角をあげた。
「お前、それ本当に魔力が足りてない所為だと思ってんの?」
「え……」
「ちったぁ成長してきたかと思ってたのに、まだまだだな。詰まってるだけじゃねぇか」
ヘリアだけでなく俺もその言葉の意味が分からず黙ると、師匠は抱き上げていた俺を降ろして自分で立たせ、心臓の上辺りを人差し指の先で叩いてきた。
「お前、その石ころが身体に循環してるとこを想像してねぇだろ。魔力が足りてねぇんじゃねぇ、お前が魔力を回してねぇんだ」
礫が身体に循環しているところ。言われて、そう言えば昨日『これが身体を巡ったら痛そう』なんて考えた気がする。あの時は回復魔術を使う時に被術者の事を考えていたのだけど、それが自分にも適用されるとは考えていなかった。他人でも痛そうだと思うんだから、自分が痛くないわけないのだ。
「どうしても石ころ形状じゃないとダメなのか?」
「えっと、攻撃魔法が苦手だから魔力をそのままぶつける方法をとる事にしたんだけど、俺は魔力をふわふわの雲だと思ってて」
「だから当たったら痛そうな石ころ、か。単純だな」
俺の掌から礫を摘み上げた師匠はぐっとそれを指先で潰そうとして出来なかった事に眉を顰めた。
「強度はあるが……、そりゃあこれを巡らせたら『痛そう』だろうな。しかし、このまま石ころのイメージでいくなら痛みに耐えてでも身体に巡らせないとそもそも動けもしねぇ。一撃放っていちいちスイッチしてる余裕は実戦には無ぇぞ?」
ごもっともです。
師匠の駄目出しは的確で、俺が説明してない所まで見透かしてくる。
「……卒業試験で使えればいいだけなんだけど……」
「それこそ隙が無ぇだろ、2:1なんだから。ちゃん頭使えよ、学年一位」
嫌味みたいに言われて、いつも一位争いをしているヘリアが唇の端をヒクつかせた。
しばらく礫を見つめて考え込んでいた師匠は不意に「そうだな」と呟いて、俺の心臓の上を撫でた。
「弾力のある粒。小さく、丸く、だから身体を巡っても痛みは無い。細い隙間も弾力のおかげで摺り抜けるから詰まることもない。柔らかく伸びも良いが、千切れない。滅多なことでは潰れない。何かに当たっても潰れて弾け飛ばないから当たるとめちゃくちゃ痛い。……これでいいだろ。やってみろ」
魔力の形状をまた変えればいいのか、と掌の中に魔力を集めて試しに師匠の言った通りの丸い粒を作ってみようとするのに、ヘリアが顔を引き攣らせて止めに入ってきた。
「ちょ……っ、冗談でしょう!? こんな短期間にコロコロ常識の改変をさせるなんて、正気じゃない! あんたはトゥリを殺す気ですか!?」
ヘリアの語気は荒く、その勢いからして本気で俺を心配しているようだ。
戸惑う俺を見て師匠は目を眇め、静かな声でヘリアを窘めた。
「俺たちを、……いや、こいつを凡人の尺度に合わせるな。こいつには出来る。だからやれと言っているだけだ」
「……っ」
師匠の声は冷静で、だから俺に無理を強いているわけじゃないと分かる。ヘリアにもそれが分かったのか、悔しげな表情で唇を噛んだ。
一度丸い粒を作り、魔力の雲を出してから手を叩いてスイッチさせ、粒を出す。
粒は師匠が定義してくれた通り滑らかに俺の身体を循環し始め、すると膝に力が入って師匠の支えがなくても立てるようになった。
さっきまで礫を出していた時に目眩がしていたのは魔力の流れが滞って急激に減っていた所為だと、正常な魔力循環が戻ってきてやっと自覚出来た。自分の身体のことなのに師匠に気付かされたというのが情けない。
「大丈夫だな?」
一応訊いてはくるけれど、師匠の顔にもう心配の色は無い。
うん、と頷くと俺を支えていた手を離し、ヘリアの方へ押し出すように背中を叩いてきた。
「ならさっさと学園に戻って授業受けろ」
「あ、うん。……待って、髪だけ結わせて」
欠伸をして家の方へ戻ろうとしていた師匠を捕まえて寝癖だらけの髪を結ってやろうとするのに、彼は顔を赤くして俺を腕で払った。
「アホかっ、人前でやるやつがあるか!」
「えー、師匠だってさっき俺のこと子供みたいに抱っこしたじゃん。お返しだよ」
「こど……っ、違ぇ、あれは……。……いいからさっさと行け! 俺はまた寝るから今綺麗にしても意味無ぇ!」
「あっ」
走り出した師匠は魔術なんて使わなくても十分速く、置いていかれた俺は髪を結い損ねた手をにぎにぎと動かして不満に唇を尖らせる。
「……ヘリア」
「僕は他人に髪を触らせる趣味は無い」
馬鹿な事言ってないでさっさと戻るぞ! と通常運転に戻ったヘリアに制服の首根っこを掴まれて、しぶしぶ飛行魔術を使って空へ飛び上がったのだった。
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