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狡猾な狼は舌の裏に隠した我儘を暴かれたい
我儘① 世間体より優先されたい
しおりを挟む「そういえば、やっぱり引っ越し先は一軒家タイプの賃貸探すんですか? 佐野も結構栄えてるし、一軒家探すとなると街中は無理そうですよね。俺、出来ればスーパーかドラッグストアが近い方が嬉しいんですけど」
オフィスの引っ越し作業が始まって、俺と尋は一足先に身一つで佐野支店に挨拶に行った。
ついでに不動産屋で下見をしていこうというので、どんな場所がいいのか聞いてみたら、運転席の尋がニヤニヤといやらしい顔で俺を見たので眉を寄せた。
「なんですか、その表情」
「いや、当然のように一緒に住むつもりなんだなーと思って」
「……別居してもいいですけど?」
「え、ウソ、無理無理、俺死んじゃう」
「それくらいで人は死にません。ほら前見る、信号青になりますよ」
信号が変わって、車が動きだす。
新しい勤務先の支店は街中にあって、けれど宇都宮と違って従業員が車通勤するのが普通らしく駐車場があって助かった。これまでは支店の近くの月極を借りていたから少し金が浮くな、と考えてから、尋が支払う金まで自分のことのように考えているのに気付いて自分に呆れた。
「俺か尋のどっちかが女だったら簡単だったのに」
「うん?」
手っ取り早く結婚という契約を結べば尋を安心させられただろうに、とほとんど結婚と同じような生活をしている自分たちの環境に溜め息を吐いた。
運転しながら俺のボヤきを聞いた尋は、助手席に座る俺の前あたりを指差して「開けて」と言ってきた。グローブボックスを開くと、女がアクセサリーを入れているような表面の起毛した小箱が一つだけ入っていたので、それを取り出して蓋を開けた。
「……あー……」
「俺ね、佐野支店には『社長の甥』として入るの。そんな俺と同時に転勤してきた君が、俺とお揃いの指輪してたら他の社員はどう思うかな?」
これでもかというほど捻られたデザインの白銀の指輪を見つめて、呆れて文句も出てこない。これを見て揃いだと気付かない人も少ないだろう。
「これ、あなたの性格を表してるんですか?」
「やだなー、俺の愛を示すんならまっすぐ一直線だよー」
摘んで溜め息混じりに薬指に通してみて、するりと滑って根本でぴたりと嵌ったそれに悪寒が走った。
「……怖い」
「一回りしか違わないのに、俺の方取らなかった久斗くんもなかなかだよ?」
あはは、と笑った尋は片手でハンドルを握りながら左手を俺の前に出してきた。
その手を取って彼の指に指輪を通してやると、ぎゅっと手を握ってくる。
「久斗くん。これでまた、えっちまで少し近付いたね♡」
「ヤる前に死んだらあなたの死体に乗っかりますからね」
「一緒に死んであの世でしようよー」
「さすがに地獄まで追いません」
「自分は天国行きだと思ってるんだ?」
軽口が応酬する間にも、尋は俺の手を握って離さない。指輪を通した指を堪能したいみたいにじっくり撫でられて、今夜はきっとここを入念に舐められるんだろうな、と生唾を飲んだ。
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