31 / 31
オマケSS あれもそれも想定内、これだけは想定外
しおりを挟む『では次のお店です! こちらは最近流行りの──』
連休中のテレビは実につまらない。
さっきまでやっていた刑事ドラマの再放送は犯人もトリックも覚えているレベルで毎年観ているが、それすらまだマシと思えるほどだ。
大盛りの飲食店にも、無知な若者を馬鹿にするバラエティにも興味が無い。地方のでもいいから二十四時間ニュースを流し続けてくれる局が一つでもあればいいのに、公共放送みたいな面で強制的に集金していくリモコン1番ですら今の時間は編み物の番組をやっている。
地上波に見切りをつけてそのままテレビで動画サイトを開き、ニュース動画を選ぶ。全国ニュースをコンパクトに纏めた動画で、二十分で一周してしまうが暇潰しに流すのにはちょうどいいだろう。
ソファから立ち上がり、食後そのままにしていた小皿を持ってシンクへ向かった。皮だけになったオレンジをビニール袋に入れて口を閉じ、ゴミ箱へ捨てる。
夕飯は今日もおそらくサラダうどんだから、いつもなら夕飯の準備を始める時間だがそれも必要ない。生野菜を切って冷凍うどんをチンして冷やすだけだから、幸が帰ってきてから作り始めればいいだろう。
ここ数日、幸はマイブームなのか野菜と果物以外を食べない。茹でた豚肉を追加するのすら禁止されているほどの徹底具合で、しかもそれを俺にも強要してくる。連休中だから良かったが、このまま幸がベジタリアンになるのなら料理のレパートリーを増やさねばならない。特に肉の代替品は早急に見つけないと禁断症状が出そうだ。
皿を洗って干してからソファに戻り、ごろりと横になった。
「あー……暇……」
盆休みが始まってから、連日こんな感じでゴロゴロと過ごしている。
俺は七連休だが、幸が丸一日休みなのは明日だけ。幸がいない時間を楽しめる性分なら良かったが、生憎と俺はそうではない。
今この瞬間も、気を抜くと幸が誰かに笑い掛けているのを想像して嫉妬に狂いそうになる。それが完全なる愛想笑いだとしても、とうてい平然と許容できるものではない。
スマホをタップしてチャットアプリを開き、昼過ぎから更新されないままのやりとりを眺めた。
『今日もめちゃくちゃ忙しいよ~! お客さんいっぱい!! 目が回る忙しさってこういう事かー!って感じ!』
幸から送られてきたメッセージの後、俺が送った『お疲れ様です』は既読になっているが、それ以降は返ってきていない。
おそらくお昼だけ食べてまた勤務に戻ったのだろう。連休初日にそうなるだろうと言われていたからそう納得しているが、正直昼休憩すらまともに取らせてもらえないバイトなんて辞めてくれ、と言いたい気分だ。
──幸は四月から夜間学校に通うようになった。
高卒認定を取りたいとかで、自前で教科書類を用意して独学で勉強するより夜学に通った方が確実で効率的だと判断したらしい。
これまでの貯金で学費を払い、減った分を補充する為にと平日の昼間に何故か新たなアルバイトを始めた。
時給九百円、ゲームセンターのホール店員。
レンタル彼氏をしていた方がよほど稼げるのに、レンタル彼氏の方は土日だけの出勤にしてしまった。波田さんもそれを咎めることはなく、どころかレギュラー出勤でなくなったのに家賃は据え置きでいい、頑張れよ、と応援してくれたという。
そんな訳で、三足のわらじになった幸は学校が休みの連休中でもバイト二つで忙しく、逆に俺は暇を持て余しているのだ。
どこかスイーツ巡りに出掛けてもいいが、それをすると後から幸による『本当に一人だったのか』という尋問が始まるから出来るだけしたくない。面倒なのではない。無駄に不安にさせたくないのだ。
そんな訳で俺が出来るのは昼間はボーッと部屋の中で過ごすことだけ。
夕方になれば幸が帰ってくる。
明日は休みだからきっと……、と考えるだけで腰が疼く。
幸が多忙になってから、身体を重ねる回数が格段に減った。回数が減ったこと自体は少しホッとしたくらいだけれど、幸は「触るとしたくなるから」と言って極力俺に触れてくれなくなったのだ。俺から触れようとするのすら困ったように──嫌がられているんじゃないと思いたい──するから、前回のセックスはもう半月も前。
もともと性欲旺盛な方じゃない俺は問題無いが、数年ぶりに勃起と射精を覚えた幸にとっては辛いに違いない。
……………………俺以外としていなければ。
「イテ……」
無意識に噛んでいた親指の爪から下の肉が出てしまって、空気に触れたそこが痛んで苦々しく舌打ちする。
休みの最終日には綺麗に整えないと。爪噛み癖のある営業なんて見栄えが悪すぎる。
戸棚の薬箱から絆創膏を出し、これ以上噛めないよう少し指からはみ出して巻いた。
自分の中に渦巻く感情が怒りなのか焦りなのか、それとも全く別の感情なのか分からない。根っこの部分は嫉妬なんだろうが、そこから育った枝葉には諦めや安堵も混じっている。
俺にしか反応出来なかった幸が他の誰かにも反応出来るようになったのなら、それはきっと幸の体が正常に戻ったということで、喜ばしいことだ。喜ばなきゃいけないことだ。
薄い絆創膏を噛んでから変な味と臭いに顔を顰め、また噛んでいた、と自分に呆れながら伸びをするように両腕を上げる。
普通になんかならなくていい、と本音を言ったら、きっと幸は悲しそうな顔をするだろう。
普通に働いて普通に自活出来る大人になんてならなければいい。ペットのように家に居て俺に金をせびって生きればいい。俺の中に小便をした後じゃなければ勃起出来ない、おかしな体質でいればいい。
努力する幸を邪魔する気なんてサラサラ無く、だからこの醜悪な本音も俺の中だけに一生留めておくものだ。共存していかなければいけない感情だから分解して理解しておきたいのだけど、どうにも上手く咀嚼出来ない。
何もしていないと延々と幸のことばかりに頭を支配されてしようがなく、だから開き直って先に準備を始めてしまうことにした。
ソファから降りてトイレへ行き、腹の中のものを出してから風呂で自分で洗いながら解す。指が三本入るくらいまで慣らし、シリンジで奥の方にローションを仕込めば終了。水溶性のさらっとしたローションだから、幸が帰宅する頃にはちょうどよく中に浸透しているだろう。
リビングに戻ると、もう二週目に入ったらしい動画がさっき見たのと同じニュースを流していた。
時刻を確認しようとスマホを開くと、五分前に『終わったから帰るよー』という幸からのメッセージが届いていた。
新しいバイト先も徒歩十分かからないくらいの近所だから、きっとすぐ帰ってくる。
ゆっくり深呼吸し、大丈夫、大丈夫、と自分に言い聞かせた。
明日は丸一日休み。半月ぶりなのだ。しない理由が無い。他で発散しているとしても、俺とするのが一番良いのは疑いようがない。幸が好きなのは俺。それを疑ったことなんてない。
ガチャガチャ、と玄関の鍵が回される音がして、慌てて玄関へ小走りする。
「ただいま~」
「おかえりなさい、幸」
片手にボディバッグと紙袋を下げた幸が腕を広げたのでそこに入って抱き付くと、ぎゅっと抱き締められてから頭を撫でられた。
「いい子にしてた? お土産あるよー」
「お土産?」
「そそ。店長にもらったから、冷蔵庫で冷やして後で食べよ」
「……はい」
『店長』。
最近、ことあるごとに幸の口から出るその役職名が俺は耳障りで仕方ない。
店の前を通りがかった時にアルバイト募集の張り紙を見て、『委細面談にて』と書かれていたからと店員に話し掛けたらそのまま面接することになって、その場で「声が大きくて愛想が良いから合格」と言われたんだそうだ。
……明らかに顔だ。愛想の良さも勿論あるんだろうが、幸の綺麗な顔をよほど店長は気に入ったんだろう、と邪推しない方が無理だ。
ただ、中卒だと申告しても「日本語が通じて、真面目に仕事をしてくれれば何も問題ありません」と言ってくれたらしいのは、悔しいが感謝している。その言葉に幸がどれだけ喜んでいたか知っているから、幸と業務以上に親しくなろうとしている気配を感じてもスルーしてきた。
「これ、アルバイト全員に配ってるんですか?」
抱き締め合ったまま顔だけ幸の示した紙袋の中を覗き込むと、ごろりと見慣れない果物が入っていた。
掌ほどの大きさで、全体的に赤く、葉なのか棘なのか大きな薄緑の突起がたくさん生えている。
なんだっけこれ、と少し考えて、つい最近デパートの催事場で見たのを思い出した。ドラゴンフルーツだ。
「ん? ううん、たぶん俺にだけ」
幸の答えは短く、それ以上なにも続かない。
……言い訳してくれれば、まだマシなのに。
一人だけ特別にプレゼントされる関係を隠すつもりも無いのは、俺がそれ以上追求しないと分かっているからだろう。別れに繋がるような会話は極力しない、そういう習性なのだと。
「幸、」
「あー疲れた~。ご飯もう出来てる? お昼ジュースだけだったからペコペコだよー」
「えっ、……すみません、まだ」
「そっか。ごめん、今日ほんとめちゃくちゃ疲れてるから準備手伝えない~」
てっきりこのまま風呂場に連れて行かれるのだろうと期待していた体が離され、呆気にとられる俺を玄関に置き去りにして幸はリビングのソファにダイブした。
……え、え。しないのか?
動揺を隠しつつ忌々しい紙袋を掴んでリビングに入ると、幸は横になったまま動画を止めて地上波に変えてからスマホを弄り始めた。
疲れているならしょうがない。
先に食事をして、ゆっくり風呂に入ってから――。
そう期待していたが、けれど食事を終えた幸は「店長に食べ方聞いといたから」と意気揚々とドラゴンフルーツを切り分け、赤い実の味の印象の薄い淡泊なそれを食べ終えると早々に寝室で眠ってしまった。
期待ごと置いてけぼりになった俺はどうにも一緒のベッドに入る気になれず、一緒に暮らし始めて初めて別で寝た。
いつも昼寝しているソファは寝心地が良いはずだったが、掛け布団より少し短いタオルケットから爪先が出るのが気になって、夜中に何度も目が覚めた。
何度目かに起きた時、カーテンの外から鳥の囀りが聞こえてきたので諦めて重い身体を起こす。
ソファは寝る場所として作られていないんだから、熟睡出来ないのは当然だ。
身体を伸ばし、落ちないように縮こめていたからバキバキと鳴る間接を回しながらスマホで時刻を見る。
まだ五時半。幸はまだまだ起きてこないだろう。
眠気覚ましを兼ねて散歩にでも行こう、と簡単に身支度を調え、サンダルを引っ掛けて家を出た。
数日ぶりに出た外は空気が妙に新しい味がする。起きる時間はいつもより少し早いくらいだが、家を出るのはもっと後だから新鮮だ。
住居と雑居ビルの混じる近所はまだ人も車も少ない。暑さもまだ本調子ではなく、半袖の腕を風が撫でるのがちょうどいい。もやついていた胸の内を風が掃き清めてくれたような気分で、外に出てきて良かった、と深呼吸した。
コンビニまで行って帰るくらいがちょうどいいだろうか、と適当に決めてのんびり歩き、朝食用のつもりでサンドイッチを買って家へ帰る。
玄関の鍵を回してドアを開けると、そこに仁王立ちの幸がいて目を丸くした。
「あれ、おはようございます」
早起きですね、と声を掛けようとした前髪が掴まれ、頭皮ごと千切るつもりかという勢いで引っ張られて前のめりに転けるようにして玄関に引きずり込まれる。
「こ、幸? 痛い……っ」
「持ち歩かない、って選択肢を思い付かなかった俺の負けだよ」
「は?」
負けって、何の勝負のことだ。
落ち着いた静かな声と真逆に、幸は乱暴に俺を壁に叩き付けた。軽い痛みに息を詰めて眉を顰める俺を無表情に見つめてくる。
「幸、あの、何を怒ってるんです?」
「夕べから何処に行ってたの」
俺を家の中に入れるとすぐさまドアと鍵を閉め、こちらへ向き直った幸はやおら俺のズボンの中に手を突っ込んできた。
「ちょっ、幸!? 夕べって、俺が家を出たのは朝起きてからですっ」
「布団に日高の匂いが無かった」
「それはソファで寝たからで……っ、幸っ、やめて下さい!」
尻の狭間から窄まりに指を捻じ込まれ、昨夜仕込んだローションがとろっと溢れてくる感覚に幸を突き飛ばした。
処理してから一晩経っているのだ、綺麗なままではない。彼の指を汚さない為に拒絶したのに、幸はギロリと俺を睨んでTシャツの襟首を掴んできた。
「誰としてきたの」
「違います!」
「違わないでしょ。中出しさせるなんて、よっぽど気に入ったんだ?」
「だから違うって……!」
濡れた指を嗅ごうとする幸の手を掴んで止めると、逆に掴まれて手の甲にがぶりと噛み付かれた。
「イッ!!」
歯形どころではなく、皮膚が破れて血が滲む。鋭い痛みに呻いて腕を引っ込めようとするも、幸は赤くなった所に舌を這わせてきてジンと強く痺れた。
「幸、本当に、浮気とかではなく」
「十七日も俺としてないのに、簡単に指が入って、しかも中が濡れてるのに? 浮気じゃないって?」
「……っ、それは」
言ってしまえば単純な事だけれど、それを言うのはつまり、昨夜抱かれたかったのだと申告することになる。
疲れていた幸に罪悪感を押し付けるのが嫌で言い淀むと、幸はクッと喉を鳴らして笑った。
「いいよねぇ、日高は。誰相手でも勃つし、誰のチンポでも突っ込んでもらえれば気持ちいいんだもんね?」
あまりの言いように目を剥くと、突き飛ばすように床に倒される。狭い玄関のフローリングに膝をついた俺の尻を蹴り飛ばされ、さすがに酷い言いがかりだ、と奥歯を噛んだ。
「……です」
「は? 何?」
「濡れてるのは……、昨日、幸とする準備をして待ってたから、です」
え、と小さい声が戸惑ったように震えて、それから床に座り込んだまま俯く俺の隣へ幸が膝をついてきた。
「準備、って……だって、日高、今までそんなのしてなかったじゃん」
「……久しぶりなのに、準備に時間を掛けて焦らされたくなかったので……」
ゆっくり起き上がり、じろりと恨みがましく睨むと幸は慌てたように俺の肩を掴んでこようとしたので叩き払う。
「何か言うことは?」
「え、あ、……け、蹴ってごめん」
「そこじゃないです」
本当に俺が浮気をしたのなら、暴力を振るわれても自業自得だと思える。
だがそうじゃない。俺が怒っているのはそこじゃない。
じぃっと睨み続けると幸は目線を上下左右にうろうろさせた末に、小さな声で「疑ってごめん……?」と首を傾げて訊いてきた。
かわいい。百点。
「正解です」
俺が幸以外にうつつを抜かす、そう思われること自体が不愉快だ。何を置いてもそこだけは信じて欲しいけれど、俺には坂原という前科があるから明言してやれない。どの口が、と疑いを深められるくらいなら、行動で示していくしかない。
「確かめたいなら、掻き出してみても構いませんよ」
出てくるのは白濁ではなく透明の粘液か、消化後のブツだけだろうが。幸が納得出来るなら構わない、とズボンを脱ごうとする素振りを見せると、幸は眉をハの字にして数秒悩んでから風呂場を指差した。
そんなに信用が無いのか。
苦々しくため息を吐くと、幸は俺の肩口に顔を寄せてクンクンと臭いを嗅いできた。
「幸?」
「信じられなくてごめんね。けど、日高、嘘が上手いから。……なんでスマホ持っていかなかったの?」
「スマホ?」
あっち、と幸が指差した先はリビングのドアが開いたままで、確かにローテーブルの上に俺のスマホが乗っているのが見える。
「あ。忘れていってたんですか。…………それで」
幸の怒りように納得して手を叩くと、彼は控えめに視線を寄越して、疑っても仕方ないでしょ、とばかりに唇を尖らせた。
「すみません、確かに何も言わずスマホを置いて外出していたら疑いますね」
「……でしょ」
それがGPSで位置情報を捕捉できるアプリの入っているものなら尚更だ。居場所を知られない為に置いていったとしか考えられない。
ごめんなさい気を付けます、と頭を下げると、ぎゅっと抱き締められて「二度目だよ。気を付けて」と柔らかくなった声で叱られた。
「お風呂湧かしてあるから、一緒に入ろっか」
昨日はあまりの疲れに食後そのまま寝てしまったから、朝風呂に入ろうと早めに起きたら隣に俺がおらず、どころか家の何処を探しても居なかった。電話を掛ければリビングに置きっぱなしのスマホから音が鳴る。置き手紙一つ無く、いつも着る寝間着は畳まれたまま乱れも無し。昨晩自分が寝た後に出掛けてそのまま帰ってきていないのだと判断し、朝帰りを糾弾してやろうと玄関で待機していた。
いつも通りの笑顔を浮かべてくれてはいるがまだ若干怒っているらしい幸にそう説明され、一緒に入った浴槽の湯の中で肩を竦める。
「昨日、どうしてベッドに来なかったの? ソファで寝落ちしちゃったの?」
「……ええ」
セックス出来なくて拗ねて同衾拒否したのだ、とはさすがに言えない。
後ろから俺を抱えて肩やうなじにキスしてくる幸の股間は既に半勃ちしているのが押し付けられる感触で分かって、彼の疲れも理解してやらず勝手に期待して拗ねた自分が恥ずかしくて仕方なかった。
「幸、最近……俺の中で出してからじゃなくても、反応するようになりましたね」
掌で平らな胸を揉まれながら指先に乳首を摘ままれ、鋭く甘い感覚に身を捩る。
じゅ、ちゅ、と肩口を吸ったり噛んだりした幸はそこを指で撫で、満足そうに息を吐いてから「そうだね」とその上を甘噛みした。
「日高の中に入れると気持ちいい、早く入れるにはおっきくした方が良い、って覚えたんじゃない?」
「そ……んな」
嫌になるほどキスマークを付けられていた時期があったから、もう吸われる強さで跡になったかどうか判別出来てしまう。連休中なら俺が怒らないと思っているのか、幸は遠慮無く首の根元近くまで強く吸ってくる。
「したいなら言ってくれれば良かったのに」
揶揄うような声には既に始める気満々の甘さが混じり、幸の手の動きもそれを否定しない。胸から腹へ手が滑り、際どいところの横を撫でて太腿の奥へと忍び込んでくる。
指を欲しがって開いた脚の付け根に触れられると、中から潤んだもので簡単に指を飲み込んだ。
「ね、日高。次からはちゃんと言ってね? それで、準備は勝手にしないで俺にさせて。…………日高の中に誰かが出したなんて勘違い、二度としたくない」
「……っ、ふ」
くの字にした指を中を掻き出すみたいに出し入れされ、急な強い刺激に背が反る。
穴が緩んでいるのに苛立つように幸は乱暴に指を増やし、耳元で「聞いてる?」と咎めるように囁いた。
「っき、……聞いて、る……、つぎ、は……ちゃんと」
「ちゃんと「我慢できないです、抱いて下さい♡」って、俺の上に跨がってね?」
「ん……っ、ぁ、それは……ぁ、は、ず、かし……」
「だからいいんじゃん。羞恥心より俺としたい気持ちが勝っておねだりしてくる日高、きっと可愛い」
ぐりっ、と中の悦いところを指の腹に押されて声をあげそうになって歯を噛み締める。
尻の中に関しては持ち主の俺より幸の方がよほど知り尽くしていて、逃げようと腰を浮かすと上から腰骨を押さえ付けられた。
一度ゆっくり抜かれた二本の指が、三本になって中に戻ってくる。拡げられる感覚に陰茎が反応して大きくなり、それを見て幸が薄く笑う。
「日高はさぁ、中の気持ちいいところ弄られるより、捻じ込まれるのが好きなんだよね。お尻の穴限界まで拡げられて、ずぼずぼ出し入れして擦られてる時が一番気持ちよさそう」
「……っ……」
その通りだけれど、それを言葉にされると羞恥心に死にたくなる。
ぬぼっ、ぬぼっ、とわざと抜く時ばかり勢いよくされて嫌だと腰をうねらせると、指の根元まで押し込んだ状態で脅すようにぐりぐり左右に揺さぶられた。
「はっ、ぁう、だめ、幸、それ、お湯入っ……」
「違うでしょ。お湯入るくらい拡げられたら喜ぶくせに」
「ちが……、ない、よろこ、ば、ないぃ……」
「じゃあどうしたら喜ぶの? どうされたいの?」
言わなきゃしてあげないよ、と囁かれ、身体の奥の火が煽られて大きく膨らむ。
「はやく、下さい……」
穴を弄る幸の腕に手を絡め、甘えるように二の腕に口付けた。幸の肩に頭を預けると後ろでゴクリと生唾を飲む音がする。
「……日高って、ほんとずるい」
肝心なとこで絶対甘えて誤魔化すんだから、とぶつぶつ愚痴られ、けれど指が抜かれていって、力の抜けた身体を導くように抱えて持ち上げられる。
こっち、と浴槽の外へ出され、スポンジマットの上に寝転がされた。
勃起させてからベッドまで待てない幸が頻繁にここで挿入れ始めるので、滑らないように洗い場の床にマットを敷くようにしたら何かを勘違いしたらしく。以来、九割の確率で一発出すまでここで犯される。
迎え入れるつもりで膝を折って大きく脚を開くが、けれど俺を跨いだ幸の股間は顔の方に下りてきた。
「こ……」
「しゃぶってて。入れるのは日高のおしっこ飲んでからね」
へ、と呆気にとられる俺の唇に半勃ちの肉が押し付けられ、自分の陰茎の方にも濡れた感触がして脚が跳ねた。
「ちょ、幸、無理です、幸のを飲むのは出来ますけど、俺が出すのはっ」
「前に出来たじゃん。ほら、先にザーメンも飲んであげるから、さっさと一回イッて」
ぬる、と温かい舌に先端を舐められたかと思えばそのまま口腔に迎え入れられていく。幸の喉奥の粘膜に亀頭が当たる感覚に腹が熱くなり、早くも睾丸がきゅっとせり上がってくる。
シックスナインの体勢で乗られて身動きが取れず、しかも急所は幸の舌と唇に愛でられて逃げようがない。
じゅぽ、くちゅ、と水音が風呂場で反響するのが卑猥で、幸が俺のを咥えているのを想像するだけで催してくる。
「ひらかも」
おそらくは「日高も」と言ったんだろう。咥えながら舌っ足らずに急かされ、頬に押し付けられていた陰茎の先を喉を反らして口の中に誘い込んだ。
「んっ」
気持ちよさそうに喘いで腰を震わせた幸が愛らしく、舌を伸ばして喉奥へ飲み込んでいく。舌先で丁寧に皮を剥き、カリと竿の境目に唾液を塗りつけるように舐める。
わずかに反発力のある肉は、けれど舐めれば舐めるほど芯を失くしていった。
気持ち良くないのではない。ぶるぶる震える眼前の太腿が、尿意を我慢しているのだと教えてくれる。
ちゅ、ちゅ、と尿道口を吸って強請るが、幸は俺の陰茎から口を離して「まだ」と言った。
「日高の飲んでから、って言ったでしょ。夢中で舐めてないで、おしっこして」
幸のをしゃぶるのに意識が全て持っていかれていたからか、俺の陰茎は幸の手の中でへにゃりと垂れている。小便をするに好都合だから幸は気にしていないようだが、これが普通のセックスだったら顰蹙ものだ。
「……そうは言われても、出ないものは出ない、と言いますか……」
ぐっと下腹に力を込めてみるが、栓でもされているみたいに出る気がしない。
一度陰茎を口から吐いて答えると、幸は俺の肉茎を指でつつきながらじゅーっと強めに吸ってくる。ぞぞぞ、と背筋に冷たいものが走り、決壊しそうになったがすんでの所で堰き止められるように止まった。
「でも、前は出たじゃん」
「あの時は……疲れて漏らしたようなものだったじゃないですか」
「全然出なそうなの? 朝出しちゃった?」
「いえ、まだです。尿意も無いわけではないのですが……」
腹に溜まっている感じはする。
幸に親指の付け根でぐいぐい下腹部を押されると危うい感覚はあって、けれど出そうという意思に反して尿道が絞られるように力が籠もってしまうのだ。
「緊張で出ないタイプかな……」
そんなに色々タイプを知っているのか。
一体誰と比較してるやら、と幸の呟きに胸を冷やしながら、気にしないフリでまた陰茎に舌を這わせる。
俺のなんか飲まなくていい。俺に飲ませるだけでいい。幸の汚いものを受け入れるのは俺にとって喜びだけれど、幸へのそれは害でしかない。
いつ出されてもいいように口に含んでチロチロ先端をくすぐるように舐めていると、不意に後ろの孔に指が入ってきて危うく陰茎を噛みそうになった。
「やっぱり。めちゃくちゃ力入ってるじゃん。力抜かないと出ないでしょー」
「ん、んんむ……っ」
ちゅぽ、ちゅぽ、とローションが薄くなってぬめりの少ない音をさせながら指を浅く出し入れされて腰が震える。
「ローション足そっか」と呟いた幸が一度身を起こし、シャンプー類と一緒に並べられた中から水溶性ローションの方ではなく粘度の高いオイルの瓶を掴んでいったのが視界の端に見えて太腿を擦り合わせた。
そっちを使うということは、一回で終わる気は無いという意味だ。
腹の中が精液で一杯になって一突き毎に溢れてくるまで犯された前回を思い出して期待に陰茎に再び血が集まっていく。
「あ、コラ、勃たせちゃだめだってば。おしっこ出したらいくらでもイかせてあげるから、まだ萎えさせてて」
「っん……!」
べち、と強かに半勃ちの肉を平手打ちされて腰が跳ねた。
鼻に掛かった甘い呻きをあげた俺に、幸が少し間を開けてから面白そうに二度三度と打ってくる。
「あ、はっ……はん、んん」
「日高これ好きなの? ほんとマゾいんだからー」
「ちが……」
気持ちいいのではなく、痛みで気が逸れて尿意が我慢出来なくなりそうなのだ。
やめて下さい、とか細い声で頼むのに、幸は益々そそられたみたいに今度は亀頭に軽く歯を立て始めた。弱く柔い部分を甘噛みされ、急所を噛まれる微かな恐怖と幸なら噛まないという安心感がない交ぜになって息が上がる。
そのうえオイルを纏わせた指が窄まりの縁をくちくちと撫ぜてきて、揉みながら拡げて慣らされる感覚に期待して指の動きに合わせて腰が揺れた。
「ふふ、これ好きー。日高、指入れるとすぐ奥まで欲しがって腰振っちゃうの。どんだけえっちく見えるか、今度動画撮って見せてあげようか?」
「……っ」
絶対嫌だ。
咥えたまま顔を横に振るけれど、揶揄われても指を強請る腰を止めることは出来ない。自分の意思で止められるほど小さな快感ではないのだ。幸のセックスは毎回、理性を踏み付けてぐちゃぐちゃにぶち壊そうとされているみたいな、一度経験したら忘れられない類いのものだ。逃げようとすればするほど、快楽に捕らえられた時の反動で頭がおかしくなりそうになる。
早々に諦めて受け入れてしまう方が、狂いそうな苦しさが和らぐ。
助けを求めるみたいにちゅうっと口の中の肉を吸うと、俺の顔を跨ぐ太腿がぶるっと大きく震えて喉に熱い感覚がきた。
「んぐ……ん」
ごく、ごく、と一息ずつ焦らず飲み下していく。舌の根で受ける味と臭いがいつもと違うのに内心で首を傾げつつ、いつもより飲み易くて美味しいかも、と勢いが弱くなってきてからわざと口に溜めて味わってみた。
苦みも塩味も薄く、水に近い。疲れている時は大抵思わず吐きそうなほどえぐい風味がするのに、と柔らかい陰茎と尿を口の中でむちゅむちゅとかき混ぜてから飲み込むと、ぐっと腹の奥から圧迫感がきた。
「っ、ふ……あ」
「あーもー、吸いすぎ、日高。我慢出来なくて漏らしちゃった。早く日高も出して」
「はっ、ぁ、や、やっ」
尻の穴から入ってきた指が内側から膀胱を押してきて、さらに外側から下腹を掌に潰されて、押し出されるようにじょろっと失禁した。
「あ、やっと出た♡ ほら日高、見て見て、成功~」
腰を上げてわざと自分の頬で俺の小便を受ける所を見せつけてくる幸に、恥ずかしくて直視出来ない、と視線を逸らしてから違和感に二度見した。
「……は!?」
「やっぱ知らなかった? ほら、昨日食べたドラゴンフルーツ。あれ食べるとおしっこがピンクになるって聞いてさぁ……ほんとにピンクだ、可愛い~。味は思ったより甘くないけど、これなら俺でも全然飲めるかな」
一度出始めたら止めることも出来ず放物線を描く俺の尿は、何かの冗談みたいなピンク色をしていた。
すわ病気かと頭が真っ白になる俺を見て幸はコロコロと笑い、ネタばらしをして悪戯成功とばかりに掌で受けた小便の色をじっくり見てからぺろりと舐めて口角を上げた。蛇口の水を受けるように舌を伸ばして滴りを受けながら陰茎を頬張っていく。
「……~~っ……」
こく、こく、と上下に動く幸の喉仏を見ていると催してきて、小便を出し切った頃にはすっかり勃起してしまっていた。
「あは、日高もおしっこしてからおっきくなった。俺とお揃いだね」
一回流そっか、と身体を起こした幸の股間はいつの間にか勃起していて、洗うのは後回しで入れて欲しいと目で訴えるが「髪に臭いついたら嫌でしょ」とシャワーを出して湯の温度を調整し始めた。
手を引かれて上半身を起こし、さっき俺が出した小便が流れてきて濡れたらしい後頭部を洗われ始める。
正面から抱き締めるように洗われているので腹につくほど反り返って主張している幸の陰茎を撫でると、「まだ待ってってば」と頬を囓られた。
「撫でてるだけです」
「だけ、って」
「……もう俺の中に出してからじゃなくても、普通に勃起出来るんですね」
さっき小便を飲んだ後は、確かに柔らかかった筈だ。以前のように放尿後すぐバキバキになっていたのではなく、少し間を開けて大きくなった。
つまり、放尿と勃起の因果関係が切れたと見ていいだろう。
幸を勃起させられるのは自分だけ、という特別枠は消え去ってしまった。いや、とっくに消えていたのかもしれない。俺が必死に縋って見ないようにしていただけで。
「えらいですね。それが普通なんですよ」
いいこいいこ、と陰茎に向けて褒め言葉を贈ると、幸はぶっと噴き出してから「もっと撫でて欲しいって」と笑い混じりに言ってきた。
大人しく洗われながら幸の亀頭を撫で、くびれの下へ指を回して軽く擦る。ミチミチと音がしそうなほど張り詰めた陰茎は真っ赤に色付き、もっとと乞うように震えている。
「まだダメですか?」
軽く濯げばそれでいい、と胡座の幸の腰に脚を回して引き寄せるようにすると、幸は眉間に皺を寄せながら思案するような表情をしていた。
「幸?」
「……日高、ほんとに俺以外としてないよね?」
「は?」
まださっきのことを疑っているのか。
スマホを忘れていったのは確かに俺の落ち度だけれど、疑われるのは心外だと言ったばかりなのに。
口をへの字に結んで不平を示すと、シャワーを止めた幸は両の手で俺の尻を揉んできた。
「だって、こんなに欲しがりなのに、いつも俺が誘うまで涼しい顔してるから……。他の人と発散してるんじゃないかな、って疑われても仕方なくない?」
「……」
「十七日だよ? 半月以上もお預けしてるのに、なんで日高から欲しがってくれないの?」
「………………まさか」
ここ最近セックスしなかったのは、疲れていたからではなくわざとだったのか。
なんでそんな事を、と軽く睨むと顔を寄せてきた幸は目を細めながら「だって」と唇を尖らせる。
「忙しくて疲れてたのもあるけど、日高から誘ってくれたこと無いじゃん。俺ばっかしたいみたいで悔しい」
じゃれるみたいに唇に噛み付かれ、噛み返しながら幸の背中に腕を回して撫でた。
「それを言うなら、好きなのは俺ばかりです」
「はぁ? 俺、毎日好きって言ってるじゃん」
宥めるように背を撫でると、俺の尻を揉んでいた指が段々と狭間の方へ寄ってくる。体重を預けるように幸へ寄り掛かって尻を後ろへ突き出すと、開いたそこにぬぷりと指が埋まってきた。
「ん……っ、そもそもの、総量が違うんですよ。幸の好きと俺の好きじゃ、一言の重さが違い過ぎる」
「なにそれ。見くびられてるみたいでムカつく」
俺だって結構重いと思うけど? と囁きながら耳を噛んでくる幸に苦笑を返す。
つい最近『好き』の感覚が理解出来るようになったばかりの幸が、俺と重さで張り合えるわけがない。
「……そんな事より、まだ入れてくれないんですか?」
尻の狭間の後ろにはずっと熱くて硬いモノの感触があるのに、俺の中をほじってくるのは指ばかりだ。
欲しがられたいという割に俺が強請っても入れてくれる様子はなく、焦らされるのは好きではない、と力んで尻から指を追い出した。
「そんなこと、か」
平坦な声で呟いた幸は、けれど指が抜けてパクパク開閉しているであろう孔に陰茎の先を宛がってくれる。
俺の身体より温度の高い肉先が狭いそこを割り開いてくる感覚に、意識して長く息を吐きながら迎え入れた。
この瞬間が好きだ。
挿入の瞬間、男の脳内にあるのは早く目の前の穴に埋め込んで腰を振りたいという事だけ。入れる前も後も別の事を考える余裕はあるが、この瞬間だけは俺のみが幸の頭を占有している。
「幸、……」
好きです、と続けようとして、迷ってやめた。
俺の好きは重い。あまり背負わせて潰したくはない。
幸は綺麗な見た目の割に強かだけれど、それは『いつでも逃げられる』という選択肢を持っていたからだ。
受け流してもらえるのを前提に一方的に投げ付けていた頃とは違う。恋人という関係になった今の幸は全て受け取ろうとしてしまうのだから、俺が自制していかないとすぐに限界がくるだろう。
「言ってよ」
口にしなかった言葉を知っているように幸は俺の頬を撫で、吐息を震わせて目を合わせてくる。
潤んだ丸い瞳は今日も吸い込まれそうなほど綺麗だ。舐めしゃぶりたくなるのを我慢して目尻に口付け、根元まで受け入れた陰茎を絞るように窄まりに力を入れる。
「日高、言って」
「好きですよ」
軽く、軽く。
瞼を閉じ、そう念じながら端切れを贈る。普通の人にとってはこれだけできっと十分だ。
せっかく手に入れたのだ、手放したくない。出来るなら一生俺に縛り付けて──ああ、駄目だ。縛り付けてはいけない。隣に置く。そう、『普通』はそれくらいだ。一生隣に置いておきたい。雁字搦めに縛り付けて、俺以外見えないように俺の中に沈めておきたい、なんて思ってはいけない。
「好きだよ、日高」
ちゅ、と返すように俺の目尻を吸ってきた幸の舌が閉じた瞼を割るようにその中の白目を舐めてきて肩が跳ねた。
「……っ? 幸っ?」
眼球を舐められる初めての感覚に戸惑うのに、幸は片手で俺の後頭部をがっちり掴んで開いた目の端を尚も舐めてくる。
視界の端に幸の赤い舌が見える。痛くはないが、いつ痛むのかと恐怖で身体が動かない。ぬる、ぬる、とゆっくり白目を舐める舌は温かく、常軌を逸した行為なのにどうしてか息が乱れた。
「やっぱり、黒目の方は怖いよね?」
「え……」
「甘そうだから舐めてみたいんだけど、病気になったら嫌だし……やめとこ」
ちゅう、と目尻の涙を吸って顔を離した幸は、俺の頭を掴んでいた指を後ろ頭から背中を通って尻へと撫で下ろしていく。
幸から見た俺の目玉も甘そうに見えるのか、と変な所で同じ感想を抱いたのを内心で嬉しく思っていると、「動かすね」と小さく言われてから尻たぶを握られた。
「……は、っ……」
その細い腕からは考えられない腕力で、幸は軽々と俺を持ち上げて揺さぶる。
潤滑性の高い、けれど質量の少ないオイルは乱暴に出し入れされる交合部でもぬこぬこと小さな音しかさせず、俺の中にどれだけの衝撃がきているかその音からは判別出来ないだろう。
「こ、ぅ……、も、少し、……ゆっ……くり」
「喋れるならもうちょい激しくして大丈夫だね」
「……ッ、ひ、……っ……!」
ただ根元まで入れるだけで腹がはち切れんばかりなのに、勢いをつけて押し込まれたら奥が破れそうな痛みがくる。
俺自身の自重も乗っているのだから手加減してくれと頼んだのに、幸はおかしな解釈をして持ち上げた俺の尻を叩き付けるように打ち下ろした。
腹の奥をぶたれる鈍痛に目の前に白黒の火花が散り、痛みを耐えようと幸の肩に爪を立てたのに次いで抜かれる時の内側が捲られるような感覚に悲鳴を上げた。
「あ、やっ、それっ……! こう、それ、やあぁっ!!」
叫んだ俺と目が合った幸は目を弧にして心底愉しいという表情をしていて、ひ、と恐怖に竦んだ身体にまた剛直が打ち込まれる。
「かっ……ぁ、……っ」
「……いつもながら、日高ってここまで入るとすごくイイ顔になるよねー」
俺も気持ちいいけど、と笑う幸は俺にどれだけの痛みと快感を同時にぶつけてきているか理解していないらしい。
ばっちばっちと一切の手加減なしに抽挿され、閉じられなくなった口から悲鳴混じりの喘ぎと唾液が垂れる。
腹が熱い。突き挿さると喉元まで衝撃がきて、抜かれると中身がそっくり裏返りそうになる。身体と共に脳みその中まで掻き回されている気分で、ぐちゃぐちゃになった思考の中できもちいいきもちいいと叫ぶ声がする。
「すき……っ、こう、すきです、すき、もっと、もっといっぱい、こうだけ、こうがほしい、いっぱいして、もっと、もっと、もっと」
「うん」
真っ白の頭の中でも、幸の声だけはハッキリと聞こえる。
幸は応えてくれる。俺の好きを肯定してくれる。それだけでいい。それだけで十分幸せだ。
感情の抑制が限界を超えて壊れたようにボロボロ涙を溢すと、待っていたように幸の舌が頬を這ってくる。
「それでいいんだよ」
それって、どれ。
幸の言葉の意味が分からず、けれど次の瞬間にはそれすら混濁する意識のどこかへいってしまう。
俺の中が全て掻き回され、叩き壊されて捻り潰されて、擦り殺される。理性を失った頭に幸が囁き、僅かな間だけ正気に引き戻す。
全部幸がする。俺を壊すのも、作り直すのも、全部幸の思うまま。……それでいい。
「出すよ、日高」
短い言葉の後に、唐突に動きが止められた。
一番奥の狭い所へ捻じ込まれた肉が、そこより先を犯せないのが悔しいみたいに精を吐いて汚してくる。
「あ、……は……っ」
びゅる、と粘度の高いザーメンを出された感覚に催し、俺の陰茎の先からも白濁が飛んだ。
それまでの強烈すぎる快楽に比べると安心するような気持ちよさで、肌を合わせる幸に寄り掛かって安堵の息を吐く。
じんわりと頭が熱く重い。
徐々に靄が晴れていくのを息を整えながら待っていると、腹の中でじょわ、と音がした。
「……んん」
「さっき出したから、ちょっとしか出ないや」
精液より濡れた感触がするのは小便のせいらしい。
お互い速くなった心拍が落ち着くまで抱き合ったままじっとしていると、硬いままの陰茎がぐっと張り詰めて、またじょわ、と少しだけ中に出される。
「幸……」
俺の中に放尿するのが好きなのは分かるが、と呆れて笑うと、幸はまた拗ねたように口を尖らせて「一回休憩していっぱい水飲も」と提案してきた。
「俺もですか?」
「日高もだよ。何の為にここ数日野菜ばっかり食べさせたと思ってんの」
「……何の為に?」
単なる草食ブームでは無かったのか。
何らかの意図があったのか、と丸くした目を瞬く俺の陰茎をつつき、幸が唇の片端を上げる。
「前回失敗しちゃったから。菜食主義者のおしっこは臭みが少なくて飲みやすい、ってネットで見たから実践してみたんだよ」
本当だったね、と言って笑う幸に顔が引き攣った。
「幸。俺は飲んで欲しいとは思わな……」
「俺が飲みたいの」
俺にさせているからと無理をする事はない、と説得しようとしたのに、そう言い切られて困ってしまう。
幸がしたいと言うなら、俺に拒否権は無い。
出来ればさせたくないが、と悩む俺を無視して、幸は太腿をぺちぺちと叩いてきた。
「一回抜いて。あ、足開いたまま、ゆっくりね」
「はあ」
幸の胴に回していた脚を解き、膝を立てて言われるがままに幸の肉を抜いていく。
ぬぽ、と頭が抜けると、がに股の中途半端な姿勢で「ストップ」と制止を掛けられた。
「ん、えろい……。ほら見て日高、日高の中から出てきた俺のザーメン、ピンク色してる」
陰茎を咥え込んでいた孔が、埋めてくれるものを求めて物欲しげにぱくぱく開閉している感覚がある。恥ずかしいからあまり見ないでほしいのだけど、と思っていたら、そこに指を入れた幸は奥から尿の混じった精液を掻き出して掌に受けて見せてきた。
「ちょ……っ」
「ぴんくのドロドロがお尻の穴から垂れてるの、すっごいえっち~。ね、これ、また今度やろうね」
「……ん、ぁ……はっ」
黄色いより興奮する、と言いながら二本入れた指で入り口をがぱりと開かれ、中に出されたものがぽたぽたと幸の股間へ滴り落ちていく。上を向いた陰茎の頭に落ちたピンクの粘液を幸が片手で塗り拡げてそのまま擦るのを見て、ぞくぞくと背中に痺れが走った。
「幸、……もう一回」
「飲み物飲んでからね」
陰茎の先に穴を押し付けて腰を落とそうとする俺の太腿を指で弾き、幸はメッ、と叱りつけてくる。
「このままもう一回、幸」
「ダメだって」
「幸、幸、……ほら、ここ、欲しがってます。幸のちんぽ入れて欲しいって言ってるの、分かるでしょう?」
むにゅ、むにゅ、と窄まりに亀頭を噛ませると、幸が眉間に皺を寄せて顔を顰めた。
「……日高、たまに羞恥心どっか行くよね」
「嫌ですか?」
幸の好みでないなら自重するが、と動きを止めて身体を離そうとすると、幸はため息交じりに首を振って、俺の腰骨を掴んで上から押した。
「んんっ……!」
太いものに貫かれ、満たされる悦びに目眩がする。
ずっとこうしていたい。外へなぞ出さず、この浴室の中で飼い殺して俺だけを求めさせたい。
馬鹿げた願望だと苦笑いしつつ今度は自分で動こうと幸の肩を押して倒れてくれるよう頼むと、しかし彼は俺の身体を持ち上げて逆に俺をマットの上に転がした。
「幸、今度は俺が……」
「やだ。日高に動かせるとすぐ気ぃ散らすんだもん」
大人しく頭おかしくなってなよ、と口付けながら囁かれ、舌同士で擦れ合わせて唾液の甘さに喉を鳴らす。
まだ朝方だから熱さはそれほどではないが、湧かした湯がそのままだから室内は湿気がすごい。小便をする為でなくとも水分補給した方が良かったかも、と考えた瞬間、ずごっ、と奥を突かれて脳天まで一気に痺れあがった。
「あぐっ」
「好きだよ、日高」
「……っ、ひ、ぁ……あう、あぁっ」
心底愛おしむような甘い声と裏腹に、幸が俺を犯す勢いは激しい。
再び壊し尽くされるような痛みと快感に晒され始めて白くなった頭に、「そのまま俺のことだけ考えてて」という呟きとも囁きともつかない声が木霊する。
そんなのいつもだ。常日頃から、仕事中を除いて俺の脳内を占めるのは幸のことだけ。
良くも悪くも──、と一瞬走った苦みを噛み締めてから、ようやく気付いてその甘美さに胸が震えた。
「幸……っ、あ、貴方、もしかして」
俺の心を独占していたくて、わざと嫉妬させたり不安にさせたりしてるんですか。
訊ねたくて開いた唇も舌も幸のそれに食われて舐られ、快感に痺れて抵抗出来無くなる。
「ずっと、ずーーーーっと、俺のことだけ考えてればいいんだよ」
甘える色を含んだその声は、ともすれば毒と呼ぶ人もいるだろう。
依存という名の、甘い甘い猛毒。一度中毒になってしまえば二度とそれ無しで生きられない、永遠にとけない飴玉。
彼をその形にしてしまった罪悪感と、けれど相反する歓喜。
いいんだ。だってどうせそれが毒だとしても、二人で飲み込んでしまえば死ぬ時は一緒だ。
62
お気に入りに追加
64
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる