高尚とサプリ

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 壱衣のマンションに着くと、玲さんはハンガーを貸してくれと言い出した。

「スーツ皺にすっと怒られっからさぁ。あ、なっちゃん先に風呂ってきて? その間にオッサンと準備しとくから」

 他人の家なのに遠慮なく風呂場に入って給湯スイッチを入れた玲さんは「ちゃんと肩まで浸かって百数えるんだよ~」なんて言いながら浴槽にお湯を溜めるボタンを押した。
 俺を洗面室へ押し込むと向こう側からドアを閉めて、壱衣と何か話しながら奥の部屋へ移動していく。

「……」

 マジか。マジなのか。
 結局流されて来てしまったけど、全然覚悟は決まってない。壱衣に今夜したいと言われたって躊躇する心境なのに、彼だけでなく玲さんを交えてなんて。
 唸りつつも服を脱いで、それを畳んで洗濯機の上に置いて風呂場に入った。
 あまりうだうだ言うときっと、玲さんは強引にコトを進めようとするだろう。壱衣もそれを止めようとしないだろうし、だったら言うことを聞くフリをしながら少しでもペースを落としたい。
 シャワーを浴びてからまだ数センチしか溜まっていない浴槽の中に体育座りすると、肌寒さに身震いした。もうそろそろ十二月に入る。この辺は雪も滅多に降らない温暖な地域だけれど、それでも夜の気温は十度前後まで下がってきた。
 ゆっくり増えていくお湯が揺らめく水面を見つめながら、何をされるのか想像してしまいそうになるのを必死に散らす。
 キスしてくる壱衣を思い浮かべるだけで許容オーバーだ。玲さんがどんな風に触ってくるのか全くの未知だけど、男を抱くのに慣れてるらしいっていうのが逆に怖い。
 想像したくないのに自分がエロ漫画みたいにぐちゃぐちゃに犯される様が脳裏に過って、嫌な筈なのに理性より正直な股間の方がもたげてくるのが情けない。
 寒さに丸めた身体と脚の間で血を集めて大きくなってきた肉を叱りつけ、膝の頭に額を付けて目を閉じた。
 湯が肩の少し下くらいまで溜まると、自動音声が『お風呂が沸きました』と教えてくる。

「なっちゃーん? 静かだけど起きてるー?」
「ひゃっ!」

 溺れてないよね? と笑いながら風呂場のドアを開けた玲さんは既に素っ裸で、驚く俺をよそにずかずか入ってきてシャワーの栓を捻った。

「俺さっと洗ったら出るから、なっちゃんはまだ入ってて。体あったかくしておいた方がやり易いから」
「……」

 何を、と聞く気概は俺にはない。背中を丸めて膝を抱えてお湯の中でじっとしていると、玲さんは鼻歌を歌いながら股間を洗い出した。
 チラ、と移した視線を彼は敏感に感じ取って、ニヤと笑うとシャワーでお湯を掛けて泡を流して見せつけてくる。

「ん~? 俺のも興味ある? そんなデカくねぇけど、ちゃんと気持ち良くしてあげるから安心して?」

 片手でぷるぷると振って水を落とした玲さんの萎えた陰茎は俺のと大差無いくらいの大きさで、玲さんには悪いけどホッとした。未知への恐怖が少し減って、ちゃんと慣らして貰えれば藍沢の時みたいな激痛に耐えるだけみたいな事にはならなそうだ。

「あと五分したら上がっといで」

 玲さんは風呂場の時計を指で叩くとそう言ってさっさと上がっていった。
 入れ替わりに壱衣も入ってくるのかと少し期待していたのだけど、彼の足音は聞こえてこない。
 五分経ってから身体を洗って、言われなかったけどした方がいいのかとボディソープの滑りを借りて後ろの穴の中も洗ってみた。
 自分で指を入れるのは初めてで、柔らかい内側の感触は内臓っぽさがすごくて若干気持ち悪い。指を出し入れしているだけなのに息が上がってきて、また勃ち上がってきた前の肉に自分の身体ながらスキモノ加減に呆れてしまう。
 どの程度すればいいのか分からず、適当に切り上げて洗い流して風呂場の外へ出ると、畳んだ服の上にバスタオルが置いてあった。
 身体を拭いて、大判のそのタオルを肩から被って廊下へ出るといつもの寝室から壱衣が出てくる所だった。
 壱衣の視線が、裸の俺の肌の上を滑っていく。
 その感触にぞわりと嬉しいような怖いような怖気が走って、タオルを握りしめると彼は視線を俺の顔に移して薄く笑った。

「僕も入ってくるから、少し待ってて」
「……はい」

 入れ違いで寝室に入ると玲さんは全裸でベッドの端に脚を組んで座っていて、その手にはローションのボトルがある。

「慣らすからこっちで横になって~」
「え、あ、はい」

 てっきり壱衣が戻ってきてから始めるんだろうと思っていたのに、玲さんは掛け布団が取り払われて柄の違うシーツを何枚も重ねてあるベッドを叩いて手招きしてきた。

「顔色見ときたいから仰向けね」
「はぁ」
「そんな乱暴にしねぇけど、切れて血ぃ出た瞬間貧血になる奴もいるから」

 一応ね? と説明されて、やっぱり優しい方のヤクザか、と言われた通り仰向けで寝転がった。
 膝を立てて開くようにされて、恥部を晒す格好に顔を横に逸らして瞼を閉じると玲さんが笑ったような息の音がした。

「どうせなら目隠ししてあげよっか?」
「え?」

 どういう意味かと訝しんで目を開けた俺の視線の先で、玲さんはベッドを降りて部屋の隅に掛けた自分のスーツの所まで行くとネクタイを掴んで戻ってくる。

「オッサンに気ぃ遣って、俺に抱かれてんのにヨがるの我慢されてもシャクだしねー」

 飄々とした様子で玲さんは俺の目元をネクタイで覆って、結び目を頭の横に作って結んだようだ。「リボン結びにしてあげよう」なんて笑いながら言って、真っ暗になった俺の視界の、眉間辺りに口付けたのか温かい感触が乗った。
 俺に目隠しした玲さんは再びベッドに上がってきたのか重みの乗った所が沈んで俺の身体が傾ぐ。

「冷たかったらごめんねー」

 視界は真っ黒という訳ではなくて、天井の照明の光を薄く通した灰色って感じだ。光を遮るように玲さんが動くと影が濃くなって、そこに居るんだって分かるから全く何も見えなくて不安という訳でもない。
 くちゃくちゃと粘るような音がした後、狭間を濡れた掌がべったりと滑ってビクリと大きく身体が跳ねた。

「っ……!」
「ん? 冷たい?」
「い、いえ」
「指入れるよー」

 窄まりだけでなく周辺全てをローションでぬるつかせた玲さんの手は、皺の寄ったそこを指先でくりくりと撫でてからゆっくり入ってきた。

「ちゃんと自分で洗ってきたんだ? 中がすべすべしてる」

 偉いねー、ともう片手で亀頭を撫でられて反射的に閉じようとした脚を、玲さんが膝を掴んで強引に開かせてくる。息を詰めると窄まりの方にも力が入って、中の玲さんの指を締め付けると変な感覚が湧いて驚いて息を吐いた。

「……な、ゃ」
「あー、やっぱり。なっちゃんすげーコッチの才能あんだわ。あのカスがテク無しで良かったねぇ、じゃなかったら今頃……」
「は……、ぁ、なんっ、なに、何してっ」

 玲さんの指はただ出し入れしてくるだけなのに身悶えするような気持ち良さを押し付けてきて、驚いて目隠しを外そうとするのに素早く腕を掴んで止められた。

「指入れてるだけだから安心しなって。男のケツん中の気持ち良くなれっとこ触ってんだから、気持ち良くなんのはおかしい事じゃねぇから」

 気持ち良くなれるところ。エロ漫画みたいな台詞になんともいえない気持ちになって、だけど彼の指に内側を擦られると甘い痺れに腰が浮く。
 出し入れされる指に合わせて腰を揺らしてしまいそうになるほど鮮烈で、たまにソコを避けるように動かれると焦らされるみたいで中の指を締めてしまう。

「……じ、実在、するんですね……」

 前に壱衣にそこを弄られた時は、気持ち良かったけどここまでじゃなかった。男を抱き慣れてるっていうのは本当らしいと唾を飲んで、挿入れられたらどうなってしまうのか不安と好奇心がない混ぜになって噛み合わせた歯列がカタカタ鳴った。

「いや、普通に体の器官として実在するトコだからね。ほらココ」
「……ぁ、やあ、あっ」

 指で中をゴリゴリ抉るみたいにされてみっともなく高い声が出て、慌てて手の甲を噛む。ぶるぶると内腿が震えたと思ったら腹に濡れた感覚があった。
 たったそれだけでイかされたのだと気付いたのは玲さんの掌が腹に出したそれを撫でてきたからで、低く笑った彼は「たまんねぇな」と呟くと指を増やしてきた。

「っ、……っ、く」

 一本から急に三本に増やされて、挿入れられる時だけ開かれる感じが苦しくて悶えたけれど俺のソコは素直に飲み込んだ。
 しなって浮く腰を玲さんが腹側から押さえ付けて、臍の下辺りをぐりぐり押してくる。脂肪の薄い腹を挟んで両手で中と外から責められるみたいで、気持ちいい、と思った時にはまた肉茎の先から精を吐いていた。

「ひ……は、ぁ……っ」
「かぁわいー。ココだけでこんなとろとろになってたら一晩保たないよ?」

 気持ち良さに脱力して手の甲を噛む気力も剥ぎ取られて、大きく口を開けて呼吸する唇の端から涎が垂れる。灰色以外何も見えない視界がチカチカと瞬く。
 玲さんの指が動くだけでまた肉が擡げて、睾丸を揉まれると涙声みたいな喘ぎ声が漏れた。

「──何で先に始めてるの」
「っ!」

 ドアを開く音がした、と思ったら壱衣の声が聞こえて、不機嫌そうな色が滲んでいるのに身体を硬らせた。

「慣らしてるだけだって。そんな怒んなよ、なっちゃん怖がってんよ?」

 ちょっと力抜いて痛い、と太腿をぺちぺち叩かれて、慌てて息を吐いて身体を弛める。

「待っててって言ったよね、棗」
「ごめんなさ、っあ、ぅ」

 叱るようなトーンに謝ろうとしたのに、抜かれていった玲さんの指が不意打ちみたいに再び中に潜ってきて声が漏れてしまった。

「ちょ、玲さんっ、やだ、壱衣がっ」
「うん、効いてる効いてる」
「~~っ、や……、ちが、壱衣、違う、ごめ、ごめ、なさ」

 やめてほしいのに指が出し入れされるとそれに合わせるように勝手に腰が揺れて、そんな自分の姿が壱衣にどんな風に見えているのか考えるだけで怖い。俺の中を抉る玲さんの手首を掴んで止めようとすると、玲さんが小さく笑って「それ逆効果」と呟いた。

「随分楽しんでるみたいだね?」

 ギシ、とベッドが軋んだのは俺の頭のすぐ横で、汗の浮いた額の前髪を撫でたカサついた指にホッと胸を撫で下ろした。怒って触る気も起きない、と言われたらどうしようかと思った。
 一番好きな温度の掌に額を擦り付けるみたいに首を逸らすと、俺の目を覆う玲さんのネクタイを撫でるように掌が降りてくる。瞼の形を確かめるみたいに指先が布の上を滑って、それから頬に温かくて柔らかい感触が触れてきた。
 キスされたんだと知って嬉しいのに、また見計らったみたいに玲さんの指が俺の中を掻き回してきて我慢出来ずに腰をうねらせる。

「れ、玲さ……、やだ、それもう、待って……っ」
「だいぶ可愛い声を出すんだね、棗。そんなにその男の指は気持ちいい?」

 抜いて欲しくて玲さんの手首を握るのに、彼の手は止まらないどころかトントンと内側から気持ちいいところを叩いてきて強烈な快感に目眩がする。
 俺の痴態に呆れたみたいに壱衣は腹の上の精液を撫でたかと思えば、その指で乳首を強く捻り上げてきた。

「ひっ……!」

 ぎぎ、と引っ張られて音がするんじゃないかというくらいきつく捻られて痛みに呻くのに、何故だかその痛みの波が腰に届くと甘くて強烈なそれと合わさって泣きたくなるくらいの気持ち良さになった。
 ぬるついた指が滑って乳首を弾いて、だけどすぐにまた爪で捻り上げられる。

「あ……っ、壱衣、や……痛い、ぃ」
「これ、何回? 一回の量じゃないよね? そんなに気持ち良かったの?」
「違……ちがう、気持ち良くない、壱衣、ごめんって……っ」
「え、気持ち良くないの? じゃあもっと頑張ろうっと」
「……っくぅ……!」

 俺の言葉を受けて玲さんはそれまでよりもっと奥に指を進めてきて、割り開かれる感覚に堪らず甘ったるい吐息が漏れる。
 ずぽ、ずぽ、と出し入れされる度に音が鳴る穴はもう入れて貰える事に慣れきって悦んで、啜り泣くように喘ぐ俺の手を玲さんが剥がして横に放った。

「ねぇ、棗。僕は君の素直な所が好きだよ。嘘吐かないで、教えて?」

 戒めていた乳首を離した壱衣の指は慰めるみたいにそこを撫でてきて、間近の彼の唇は優しい声で囁いてくる。
 何も見えないうえに上下左右が分からなくなるみたいな浮遊感に震える息を吐いて、壱衣を探して腕を彷徨わせた。

「こっちだよ」

 宙をうろつく俺の手を取った壱衣はそのまま肌に触れさせてくれる。撫でた感触的に、首元だろうか。髪の生え際を指先が捉えて、そこから少し下がると親指の付け根が鎖骨らしき骨に当たった。
 壱衣の肌に触れるのは久しぶりだ。俺より少し低い体温に触れる許可を貰えてホッとして、すりすりと撫でた。

「……二回」
「うん?」
「二回、イッた……。中、触られるの、気持ち良くて……」

 俺が答えると壱衣がゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
 それから、唇に柔らかいものが押し当てられる。唇の隙間から舌が入ってきたからキスされたんだと気付いて、唾液を強請って彼の舌を吸った。体温と同じ温度の唾液が流し込まれて、壱衣の手が俺の喉を撫でる。
 飲み下して喉仏が動くと壱衣が笑ったような呼吸音がして、へらりと口元を緩めると下唇を軽く噛まれた。

「僕、こっちを使うからお先にどうぞ」
「ん? いーの?」
「最初の男より最後の男になりたいなって」
「……オッサン、ほんと重そうだよな」
「自分でも驚き」

 険悪でもなく言葉を交わした壱衣と玲さんはどうやら俺に挿入れる順番を決めたようで、先に玲さんだと知って壱衣の首元を握った指に力が入る。

「大丈夫だよ。正直ね、さっきヨがりながら「ごめんなさい」って謝るの、結構ゾクゾクきたからもう一回して欲しいな。ごめんなさい壱衣、って泣く棗が見たい」
「……っ」

 ネクタイ越しに眉間に口付けてきた壱衣の声に気遣いの色は見えなくて、だからたぶん本音なんだろう。
 指を抜いた玲さんは「イイ趣味してんなぁ」とくっくっと喉を鳴らして笑うと、濡れたままの指で俺の膝裏を掴んで脚の間に入ってきた。
 太腿の裏に汗ばんだ体温を感じて、余裕そうに俺を責めていた彼も興奮していたのを知って途端に恥ずかしくなってくる。

「んーじゃ挿入れるよ、なっちゃん。初めてのチンポ、美味しく食べてね」

 ぐい、と目隠しを剥がされたと思ったら狭間に熱い肉の感触が押し当てられて、そのままぬるりと挿入ってきた。

「は……、ぁ、あ、やっあ」
「あ~、すっごい中うねって気持ちー……。なっちゃんも気持ちぃでしょこれ、大歓迎されてるもん俺」
「ちが、あ、あ、あっ」

 俺の中に入ってきた玲さんは根本まで埋めると抜かないままそこで腰を持って俺の身体ごと揺らしてきて、指よりずっと太くて圧迫感のあるものが中に埋まっているのを強制的に教えてくる。
 限界近くまで開かれた窄まりをもっと伸ばしたいみたいに揺らされると声が我慢出来なくて、高く掠れた声を上げると壱衣の顔が寄ってきて唇を舐めた。

「棗、ごめんなさいは?」
「は……、壱、衣ぃ」
「他の男のチンポで気持ち良くなってごめんなさい、って謝らなきゃ、棗」
「~~っ」

 そんな恥ずかしい事が言えるか、と顔を逸らして唇を噛むと、壱衣はくっと喉を鳴らして笑ってから俺の頭の後ろに座る位置を変えてきた。

「裏返して四つん這いでいい?」
「おっけ」

 短く答えた玲さんは躊躇なく肉を抜くと、二人はそれぞれ片腕と肩脚を掴んで軽々と俺の身体をひっくり返した。べしゃ、と効果音のつきそうな勢いで反転させられた俺の腰を、玲さんが後ろから引っ張り起こしてまた挿入してくる。

「……っ、う、ぁああ……っ」

 腹の中を抉るみたいに進んでくる肉の感触は鮮烈で、これまでと違う角度で暴かれて高く鳴いた。ぶるぶる震える俺の尻をわし掴んで揉んだ玲さんが、「そろそろ大丈夫かな」と呟いてから抜き挿しするように腰を揺らしだした。
 肉が抜かれていくと排泄する時みたいな変な感覚になって、入ってくると気持ちいい所を抉っていくものだからどっちの時も目眩を伴って俺を狂わせる。玲さんの陰茎は内側を焼くみたいに熱くて、それで小刻みに擦られると一瞬気をやりそうなほど強烈な快感が走った。

「あ、やぁ、やめっ……、無理、無理、やだっ壱衣っ」

 膝立ちする壱衣の膝頭に縋り付くみたいに指で引っ掻くと優しく頭を撫でられて、それから低い声で「痛がらせないで」玲さんを叱責した。

「痛がってねぇって。なー、なっちゃん? 気持ち良すぎて怖ぇだけだろ?」
「あ……う……っ」
「ほら、ちゃんとゴメンナサイしてやれよ。好きでもない男のチンポでケツ掘られて気持ちいいです、えっちな身体でゴメンナサイご主人様ぁ♡ って言ってやれ」

 後ろから玲さんの手が俺の後ろ髪を掴んで上向くように引っ張って、だらしなく涎を垂らす顔が壱衣に見られてしまう。
 ひゅうひゅうと短い呼吸を繰り返す俺の頬はやたら熱く火照って、髪を手綱にするみたいにそのまま腰を使って穿たれるとまた喉から喘ぎ声が漏れた。

「ひ……、っあぁ、ごめんなさっ、ごめんなさいっ、壱衣、ごめ、やぁ、気持ちぃ、気持ちぃ、ごめんなさい……っ」

 そのまま叫ぶみたいに謝罪を口にすると、興が乗ってきたみたいに途端に玲さんの動きが激しくなる。硬く膨らんだ肉で腹の中をゴリゴリ擦られると目の前が真っ白に瞬いて、腰が跳ねてまた前から吐いた感覚があった。

「あは、またイッた」
「あ、あぁ、きもち……っ、気持ちぃ、入れられて気持ちいぃ、ごめん壱衣、俺、壱衣のじゃないのにぃ……っ」

 気持ち良さと申し訳なさがぐちゃぐちゃになって泣き出した俺の頭上で舌打ちが聞こえたと思ったら、口に猛り立った陰茎を押し付けられた。涙で歪む視界を上に上げて壱衣を見ると、ゆっくり頬を撫でられる。

「そっちなんてどうでもよくしてあげる」

 大きく膨らんだそれを強引に捻じ込まれて、驚く間もなく喉まで貫かれて咳き込もうとしたけれど壱衣の両手が後頭部を押さえ付けてきて胸だけが大きく上下に動く。
 げ、ごぼ、と喉奥で空気が潰れる音がして、吐き気が込み上げるのにずっぽりと喉に埋まった肉が嘔吐を許さない。

「おい、新たなトラウマ植え付けんなよ?」
「大丈夫だよ。棗は僕が好きなんだから。ねぇ?」

 同意を求めるみたいに前髪を掴んで上を向かされて、細めた壱衣の目の奥に怒りを読み取って少しだけ嬉しくなる。
 玲さんの指が慰めるみたいに後頭部を撫でてから離れていって、それから腰を掴んだ。

「殺すなよ~?」
「そのくらいの加減は出来るさ」

 緩く腰を使って玲さんが動き始めると、壱衣は一度抜いてから今度は浅めにゆっくり抜き挿ししてきた。奥まで入れられなくても口を塞がれていると苦しくて、後ろから犯されていてもそっちの気持ち良さに浸れなくなる。

「棗、ちゃんと舐めて気持ち良くして」

 ぐ、と前髪を引っ張りながら刺激が足りないと叱られて、慌てて止まっていた舌を肉に這わせた。ゆっくり動くのに合わせて裏筋を舐めると額を撫でられて、嬉しくなって自分からもっと奥まで飲み込んだ。

「……俺も後で口でしてもらおっかな」
「駄目」
「ケチ~」

 ボヤきつつも玲さんは動きを止めず、俺を穿って存分に中を犯した。
 熱くて気持ちいい以外の感覚が段々と無くなってきて、口で壱衣の肉をしゃぶりながら意識が朦朧としてくる。

「あ~……、そろそろイく。もうちょい堪能したいけど、オッサンが睨んでくるし」
「随分遅いと思ってね」
「遅いんじゃなくて我慢が効くのー。オッサン絶対早漏だろ」
「しつこいのは女に嫌われるからね」
「なっちゃんは男だし、もっと長くてもいいくらいだって」

 ねー、と同意を求めるみたいに後ろから下腹部を揉まれて危うく壱衣の肉を噛みそうになった。
 腰を跳ねさせて呻いた俺を見下ろして、壱衣がまた後頭部を掴んで喉奥に捻じ込んでくる。

「っぐ、ぅ」
「サボらないで、棗。君が今しなきゃいけないのはお尻を振る事じゃなくて僕のを舐める事でしょ」

 勢いよく抜かれて吐きそうになるのをなんとか堪えるのに、壱衣は冷めた目で俺の頬を撫でた。
 開きっぱなしで疲れてきた顎が重いのを我慢して、舌を伸ばして必死に彼の肉を舐める。口でするのが二度目の俺にテクニックなんてある訳もなくて、頑張ったけれど後ろから激しく突かれると身体の力が抜けて口から吐き出した。

「……っ、ごめ、ごめん、なさ、……あ、あ、ぁ」
「棗っ」
「睨むなって。……いーよほら、なっちゃん、俺とイこうね」

 しゃぶっていられなくなった俺がベッドに突っ伏すと後ろから玲さんが背中に覆い被さってきて、重さで身動きが出来なくなったところを抉るように一番奥まで犯された。ぐじゅぐじゅと酷い水音と共に俺の尻たぶと玲さんの太腿がぶつかる音が部屋に響いて、頭が真っ白でイくこと意外考えられなくなる。

「……っ」

 一際強く腰を押し付けた玲さんが俺の中でビクビクと震えて、首の後ろでふー、と長く息を吐く音に彼がやっと果てたのを知った。潰された俺の身体の下に熱く濡れた感覚があるから、俺もまたイッたんだろう。
 短時間に四度も出したのは初めてで、視界が揺らいで身体が怠い。
 もうこのまま寝てしまいたい、と瞼を閉じるのに、俺の中から玲さんが抜けていくと頭の上に居た壱衣がベッドを軋ませて脚の方へ回ってくる。

「寝ないで、棗。これからだろう」
「待って……、壱衣、少し、休ませ」
「駄目だ。これ以上は待てない」

 ぐいと肩を掴んでまた裏表をひっくり返されて、上半身だけ仰向けになった中途半端な格好の上に壱衣が乗ってくる。ぶつかるように合わせられた唇からまた唾液が流し込まれて、だけど呼吸の整わない俺は上手く飲み込めなくて咳き込んだ。

「オッサンがっつき過ぎ」

 ベッドから降りた玲さんは先端に白濁の溜まった薄いピンク色のゴムを外して捩って留めるとティッシュに包んでゴミ箱に放り込んだ。壱衣のキスで溺れそうになりながら、ぼんやりした頭でいつ装着したのか分からない手際の良さに感心する。
 壱衣の様子を笑いながらスーツから煙草の箱を取り出すと、玲さんはライターでカチリと火を点けて吸い始めた。「禁煙だよ」と壱衣が睨むのも構わず、小さな丸い筒みたいな物に灰を落として紫煙を吐く。

「あんたセックス下手だろ」
「は?」
「サドとしてどーなのかは知らんけど、セックスは絶対下手。言い切れるわ」

 揶揄うみたいに笑う玲さんはチラと一瞬だけ俺に視線を寄越してからまた壱衣と話し始めて、それで彼が俺を休ませる為に壱衣を挑発してくれているんだと悟った。有り難く呼吸を落ち着けて、疲れ切った身体から力を抜く。

「さっきからずーっと、自分、自分、自分。ゴシュジンサマとドレイならそれで良いのかもしんねぇけど、これSMじゃねーんだよな」
「……」

 壱衣は壁に寄り掛かって煙草を吸う玲さんを睨みながらも、言い返せないのか唇を噛んだ。悔しげな壱衣の顔を見るのは初めてで少し驚きつつ、珍しいものを見れた嬉しさもある。
 息が整ってきたからもう大丈夫、と壱衣の腕を撫でると、ビクリと震えて不安そうな目で俺を見下ろした。
 ……あー、もしかして、玲さんの言葉に何かダメージ受けてる?
 紫さんが前に『固定のマゾすら滅多に抱かない』なんて事を言っていた気がするし、壱衣自身も緊縛以外に興味が無いと言い切っていた。だからあまり経験値が無いのだろうか、と首を傾げ、けれど一応十年くらい妻帯者だった筈だよな、とも思う。

「いいよ。壱衣の好きにしていい。余裕そうにされてるより嬉しいよ?」
「……棗」

 ぽんぽんと俺の太腿の下に潜り込む壱衣の太腿を叩くと彼は泣きそうに顔を歪めて、それから上半身を屈めて頬にキスしてきた。

「気を遣わせてごめんね。……あの男の言う通り。僕、セックス自体はあんまり自信無いんだ。僕で上書きするだなんて大口叩いておいて、情けない話だけど」

 ごめん、と小さく呟いて目を潤ませた壱衣に、申し訳ないと思いつつ優越感に似た感情で心臓が高鳴る。
 だってそんなの、喜ぶなって方が無理だ。おそらくは俺の為に無理して背伸びした嘘を吐いてくれただなんて、そんな告白をされて心の中で悶える。
 小さな瞳を長い睫毛が覆い隠すのを見てたまらなくなって、彼の背中に腕を回してぎゅっと抱き締めた。

「じゃあさ、もう壱衣も『初めて』って事にすればいいじゃん。初めてなんだから上手くなくても当然だし、俺も壱衣の初めての相手になれて嬉しいし?」

 どうせ当人の思い込みでどうこうしようって話ならそれで良くない? と俺が提案すると、壱衣は目を丸くしてパチパチと瞬きして、それからふふっと楽しげに顔を綻ばせた。

「そっか、そっか。……そうだね。僕も初めて、棗も初めて。それなら上手く出来なくてもしょうがないね」
「そそ。な、名案じゃない?」
「うん。棗、大好き。最高にかわいい」

 俺の頬を両手で包むように掴んだ壱衣はちゅっちゅっと何度も軽いキスをしてきて、緩んだ表情とじゃれるみたいな触れ方に彼の不安を取り去れただろうかとホッとした。

「んじゃ俺、ハジメテさん同士の指南役?」

 短くなった煙草を小さな灰皿の中に放り込んだ玲さんはパチンと蓋を閉めるとスーツの内ポケットにそれを仕舞って、ベッドの方へ戻ってくる。

「いい所を邪魔しないでくれるかな」
「いやいや、ここまできて俺の存在消さないでよー」

 ベッドに上がってきた玲さんは俺の脇の下に手を潜り込ませて上半身を起こさせると、後ろに入ってきて俺を脚の間に抱えた。玲さんの鎖骨が後頭部に当たって、彼に背中を預けてだらしなく座っているような格好で「膝立てて」と後ろから指示される。

「オッサンが正直に言えたご褒美な。なっちゃんがメロメロんなって離れられないセックス教えてやるよ」
「……」

 玲さんを邪魔そうに睨んでいた壱衣はその言葉に一瞬眦を吊り上げて、けれど俺に視線を移して小さくため息を吐いた。

「そうだね、じゃあご教授頂こうか。なんせ、この歳で初めてだしね」
「くくっ。そうそう、人間、何歳だって素直なのが一番よ?」 

 俺の膝裏を持って大きく開かせた玲さんは生身の壱衣の股間を見咎めて「ちゃんとゴムしろよ」とせっついた。舌打ちした壱衣は「今するよ」とゴソゴソシーツの中を漁って何かを探していて、玲さんが「スマートじゃねぇなあ」とまた嘲笑う。目元を朱に染めた壱衣が悔しげに唇を噛んだのを見て、上を向いて玲さんを睨んだ。

「……玲さん」
「あーはいはい、分かったって。ゴメンネー、可愛いからつい苛めたくなるんだよ」

 この人、俺だけじゃなく壱衣も許容範囲なのか。だから3Pだなんて提案をしてきたのか、と気付いてもっと俺が睨むのに、玲さんは俺の目をまっすぐ見返して愉しげに口元を歪ませた。

「やっぱいーねー、なっちゃん。あんだけ泣かしてやった後なのにそんな睨む? またヤッたろか?」
「遠慮します」
「ざーんねん」
「……僕を蚊帳の外にしないでくれる?」

 ゴムを着けた壱衣が俺の狭間に肉の先を押し付けてきて、視線を下に下ろすと怒ったような瞳とぶつかった。
 ぐぐ、と割り開かれる感覚に慌てて息を吐くと、玲さんが「コラ」と叱り付けるような声を出す。

「入れる時はちゃんと言ってやれよ。俺が慣らしたから今は緩くなってっけど、基本的に入れる場所じゃねぇんだから入れられる方にタイミング合わせてやんねーと」
「……ごめん」

 口は悪いが玲さんの言うことは割とマトモで、そうしてくれると俺としても有難い。
 俺の腰を掴む壱衣の手首を撫でると小さく謝られて、けどそのしょぼくれた顔にへらりと笑い返した。

「壱衣、ほんとに初めてみたいですげー可愛……イッ!」
「ああ、ごめんね? なんせ初めてなものだから」

 揶揄うつもりじゃなく本当に可愛いと思っただけなのに、壱衣は俺にまで笑われて唇をヒクつかせると思いきり腰をぶち当てて一番奥まで挿入れてきた。
 さんざん玲さんに使われた後だから痛みはほとんど無いけれど、奥まで貫かれるとやはり圧迫感がすごい。身体を串刺されたような気分で、体感としては腹どころか心臓近くまで入ってきているんじゃないかとすら思ってしまう。

「はい、そしたらまだ動かないでねオッサン」
「ん?」
「チンポ入ってる、っていうのに身体が慣れるまで動かないで待つの。一番奥まで腰押し付けたまんま、キスするなり身体弄るなりしててみ。そのうちなっちゃんの方が耐え切れなくなって動き始めるから」

 玲さんは宣言通り壱衣へ男の抱き方を一から十まで教えるつもりなのか、持っていた俺の膝から手を離して胸を撫でてきた。
 前に壱衣に乳首を弄られた時の気持ち悪さを思い出してその手を剥がそうとしたのだけど、玲さんは安心させるみたいにぽんぽんと軽く叩いてから掌で撫でてくるだけだった。

「棗」

 呼ばれて視線を上げると壱衣と目が合って、身体を折って顔を寄せてきた彼に口付けられた。また溺れさせられるのかと思ったらはむはむと下唇を噛まれ、遠慮がちに舌が入ってくる。舌同士が擦れ合うとびりびりと弱い電流みたいな気持ち良さが走って、中に入ってる壱衣の肉を締め付けた。

「……ん……いち、ぃ」
「棗……好きだよ……」

 キスの合間に名前を呼び合って、好き、好き、と囁き合うだけで胸が幸福感でいっぱいになる。もうこれだけでお腹いっぱい、このまま寝落ちてしまいたい。
 緩やかな触れ合いに眠気が復活してきて、キスしながらウトウトしていると急に胸に甘い痺れが走って腰が跳ねた。

「んっぁ」
「……棗?」

 合わせていた唇を剥がして顔を逸らした俺に壱衣が不愉快そうな目をして、胸を撫でる玲さんの手を見てその主を睨んだ。

「いーよ、イチャイチャ最高。愛のあるセックスは見てて超萌えるから特等席。だけどねー、俺が教えるのはなっちゃんをとろっとろにするセックスだからねぇ」

 寝落ちさせるのはナイかな~、と答えた玲さんは壱衣の手を取ると俺の胸の上に置いて、掌で摩るように動かす。

「慣れるまでは乳首触っても鬱陶しがられるだけだから、ひたすら撫でて。いーい? 男の身体開発してやろうと思うなら焦らずひたすら優しく優しく、気持ちいい事だけ繰り返してやるんだよ。気持ち良けりゃ大抵のことは受け入れていくからな」

 壱衣の温度の低い掌で撫でられると平らなそこが急に恥ずかしくなって、本来は異性愛者の彼には面白くもないだろうとやんわりそれを止めた。

「棗?」
「いや……いいって。つまんないだろ」

 谷間どころか少しの膨らみもない、皮の下に骨の感触がする胸なんか撫でて萎えられても凹むだけだ。
 玲さんは俺と同じくゲイみたいだから楽しいのかもしれないけど、したくない事をする必要は無い。
 そう俺が言うのに、壱衣は俺の手を退けて両手で胸をすりすりと撫でてきた。壱衣の乾いた皮膚が上を往復する度、掌の窪みの中で少しずつ突起が膨らんで硬くなってきてもどかしい甘さに腰がうねる。壱衣の手は先端を掠めるだけで、なのにその方が直接弄られるより気持ちいい。
 胸で気持ち良くなるなんて開発されたくなかった、と玲さんのアドバイスを恨みつつ、胸を撫でられて堪え切れず腰を揺らす俺の中で壱衣の肉も硬く膨らんでくるのを感じて複雑な気持ちになった。
 ぺろりと舌を舐めた玲さんは胸を撫でるのを壱衣に任せると腹の方に指を滑らせてきて、臍の下を軽く押しながら降りていく。

「なっちゃんのイイトコ、上手く見つけてこっちからも押してやると泣きながらイくから。痩せてっからあんま強く押さないようにな。見つけたら揉み込む感じで、ぐっぐっ、て」
「……っ」

 とん、とん、と指で軽く叩いた玲さんの指が的確にさっきの所を突いて、けれどさっきより浅いからか焦らされたみたいな中途半端な感覚に息を詰める。

「さっき俺がやったら即イキだったし。ほら、やってみ」

 玲さんに促されて壱衣が片手を俺の腹に移動させて、親指で押してくる。少しずつ移動してくる指に、もう何処を押されると気持ち良いか覚えた身体が期待に鼓動を弾ませて耳がうるさい。
 ドカドカなる心音に全身が心臓になったみたいな気分で、壱衣の指にそこを押されたら破裂して死ぬんじゃないかと不安になって身体を捩らせた。

「……? 痛かった?」

 俺が嫌がったのを壱衣はすぐに気付いて指を止めて、申し訳なさそうに掌で撫でてきた。

「い、痛くはない、けど……っ」
「なーっちゃん。ダメだろ、気持ちいいのから逃げたら」
「ちが……」
「オッサン、続けて。なっちゃんは俺が押さえとくから」

 俺を抱えた玲さんは後ろから俺の肩を上から押さえるように腕を伸ばして、その上また膝裏を掴んで脚まで開かせる。繋がった部分が軽く引き攣って、痛みに呻くと壱衣がベッドに転がされたローションのボトルを掴んできてそこに垂らした。

「乾いてきちゃったな。……まだ動いちゃいけないのか」
「焦んなって、もう少しだから」

 俺を気遣うように交合部にローションを塗りつけた壱衣は玲さんへ視線をやって、けれど彼は掴んだ膝ごと俺の身体を揺さ振って笑う。

「んぅ……っ」
「ほら、もうナカの方は準備出来てんだから、外側からトドメさしてやれ」

 動かされたことで軽く内側を擦られただけで喉から甘い声が漏れて、さっき玲さんにされたみたいに下腹を押されながら突かれたら絶対頭がおかしくなる、と恐怖にも似た感情が湧いて玲さんの腕を叩いた。

「いいからっ、もうしなくていい、俺はいいから、壱衣の好きにっ」
「あは、なっちゃん性悪~。オッサンが好き勝手に動けば気持ちいのから逃げられると思ってんだ? ほら、見くびられてんぞオッサン。ちゃんと最後まで堕として逃げらんないって教えてやんねーと」
「違うって言ってんのにっ」

 いちいち余計な事を言う玲さんを睨み上げるのに、彼は何故だかさっき俺を抱いていた時より愉しげに目を爛々と光らせていた。

「棗。君が怖がることなんてしないよ」
「あ……」

 また唇を合わせてきた壱衣は俺を安心させるみたいに優しく口の中を舐めてきてホッとする。ちゅ、ちゅう、と小さく水音をさせながら唾液を吸ったり吸わされたりして、口の中にあるのがどっちの唾液か分からなくなる。
 キスだけはやたら上手いんだけど、これはSMでもするからかな、と考えてからズキリと胸が痛んだ。
 自分で自分を刺した、馬鹿だな、と思いながら緩く息を吐くと、その吐息を飲み込んだ壱衣が自分の下唇を舐めた。

「っ、ぁ、う」

 一瞬彼の視線が下にいったと思ったら下腹を押されて、気持ちよくなれる所のすぐ傍を掠められて声が出た。

「ここ?」
「ち、が……あ、やっ、やだっ、壱、壱衣」

 むにむに、と腹を揉むように押してきた壱衣は俺の反応を見ながら指を移動させて、それでとうとう一番気持ちいい所を押し込まれてぎゅっと強く壱衣の肉を締め付けた。

「は……っ、ああ、ここか。棗、すごいね。ここ押すと、君の中がもっとしてって吸い付いてくる」
「や、やだ、こわい、壱衣、しないってっ! こわいことしないって言った……っ!」

 俺のイイところを把握した壱衣はそこをやわやわと押しながら腰を揺らしだして、中と外から同時に責められて俺が泣き出すのに彼は目を細めて嬉しそうに笑った。

「棗こそ、僕の好きにしていいって言ったでしょ?」

 これが今僕がしたいこと、と囁きながら壱衣はずるりと抜いて、それから腰をぶつけるように俺の中を挿し貫いた。

「──っ」

 目の前が白黒に瞬いて、灼けるような熱さに目眩がする。
 気持ち良さを感じられる頂点を飛び越して、何が起こってるんだか分からないまま前からぽとぽとと吐いた心地がした。

「あ……ひ……」
「少ないな」
「まあ俺が四回もイかせてるしねぇ。出せただけ若いって褒めるとこでしょ」
「待って……、お願、壱衣、こわ……」

 地震でも起きてるみたいにグラグラ揺れる視界に耐えられなくて瞼を閉じるのに、壱衣は俺の腰骨を掴んで遠慮なく抽挿してくる。
 外側から押されながら中を抉られると否応なく息が上がって、強烈な快感に勝手に腰が揺れる。一番奥まで入るように開いて壱衣の腰に脚を絡ませた俺を見て玲さんが薄く笑って手を離した。

「う、ぁ……あ、あっ、……気持ちぃ……中、もっと、いちいぃ……っ」

 わけが分からなくなるほど気持ち良くて、どこかに行ってしまいそうな浮遊感に壱衣の背中に腕を回した。しがみつくみたいに手足で壱衣に絡み付くと彼はまたキスしてきて、ぐちゅぐちゅと中を掻き回すみたいに腰を動かしながら唾液を流し込んでくる。

「棗……っ、もっと、もっと僕を欲しがって……」

 掠れた低い声にゾクゾクして、許しを得たみたいで嬉しくなって壱衣の背中に爪を立てた。

「好き、壱衣……大好き、壱衣」
「僕もだよ、棗……、君のことしか、考えられない……っ」

 俺が好きと言う度に壱衣は感極まったみたいに何度もキスしてきて、両手で腰を掴むと乱暴に突いてきた。ご、ご、と音がするくらい奥に叩き付けられて、痛くて苦しいのにさっきみたいに逃げたいとは全然思わない。
 いっそこのまま壊されたいと思うくらいには気持ち良くて、喘ぎなんだか泣き声なんだか悲鳴なんだか分からない声を上げながら壱衣にしがみついた。

「う、あ、あぁ……っ」
「……っ」

 俺の中で肉が一際大きく跳ねて、ついでドクドクと心音に合わせて震える。息を詰めた壱衣が吐いた深い息を耳朶で感じて、彼が果てたのを知ってじわじわと胸に喜びが満ちた。
 ……良かった。男の俺でも、壱衣のセックスの相手になれる。
 安堵に身体を弛ませて壱衣から手足を外そうとするのに、壱衣の手に太腿を抱え上げられて瞬きした。

「壱衣?」

 呼んでも返事が無く、首を傾げるのに壱衣は一度抜いたと思ったらすぐ俺の中に戻ってきた。さっきより柔らかい、と思ったら玲さんが舌打ちして、壱衣の肩を押す。

「おいこらオッサン、そういうのはなっちゃんに許可取ってからにしろよ」
「……」

 視線を揺らがせた壱衣は玲さんまで視線を上げる前に俺と目が合って、にこ、と笑顔を作ってから唇を合わせてきた。そのまままた腰を振られて、困惑しながらも中を擦られると身体の方は無理やり追い上げられていく。

「ぁ……っ、壱、衣っ……?」
「あー駄目だ。犬んなってるわ。頑張れなっちゃん」
「へ?」

 呆れたような声でそう言った玲さんは俺の身体を横たえるとベッドから降りて、「シャワー借りんぞー」と部屋から出て行ってしまった。
 犬?
 俺は確かに壱衣の犬だけど、と玲さんの言葉の意味が分からず壱衣にされるがままになっていると、壱衣の手がまた腹を撫でてきた。気持ちいいけどもうそれでイくのは体力的に無理、と彼の手を剥がそうとするのに、壱衣は甘えるみたいに俺の唇を吸って腰を振ってくる。

「壱衣、無理だ、って……」
「棗……棗、棗」

 コツを掴むのが上手いのか壱衣は的確に俺のイイ所ばかりを狙って穿ってきて、すっかり抉られて気持ち良くなるのに慣らされた俺の穴は彼に媚びるみたいにきゅうきゅう吸い付いた。

「あ、ゃ……い、ちい……っ」

 壱衣の二度目はそれほど時間が掛からなくて、中が濡れた感覚に驚いたら彼は嬉しそうな表情で緩く笑った。さっき玲さんが叱ったのはゴムを着けなかったからか、と今更気付いて、それから中出しされた事実に少し顔が引き攣る。

「壱衣、もういいだろ……? 抜いて」
「まだ。足りない」
「へ……」

 壱衣は薄ら笑いを浮かべたまま俺の腰を抱え上げて、それから半分萎えた肉を挿入れたまま下腹を押してくる。

「ちょっ、壱衣!」
「棗、ほら、気持ちいいんだろう? もっと吸って僕のを大きくして。お腹の中、僕の精液でいっぱいにしよう?」

 ひ、と喉から小さい悲鳴が漏れたのに、壱衣は笑みを貼り付けたまま俺の身体を弄って片手で胸まで撫でてくる。逃げ出したくても貫かれて揺さ振られると身体に力が入らなくなって、おかしくなりそうな快感を与え続けられて意識が遠のいていく。

「ありゃ、まだやってんの」

 ガチャ、と音がして意識が浮上して、けれどいつの間にかうつ伏せにされた頭に壱衣の手が下りてきて目隠しみたいに塞がれた。身体全体でのし掛かるみたいに後ろから突かれて掠れた甘い声を上げると耳元で荒い息が聞こえた。

「なっちゃーん、生きてる~?」
「寄るな」
「……うっわ。ごめんなっちゃん、やるコトやったし俺もう行くね? 楽しかったよ?気が向いたらまた呼んでね?」
「待っ……助け……」
「やだよ、噛まれたくないもん」

 着替えているのか衣擦れの音が聞こえた後、玲さんはサクッと別れの挨拶をして部屋を出て行ってしまった。
 いつ体位を変えられたのか、全然覚えてない。短い間でも気を失っていたのかとぞっとするのに、壱衣はまだ俺の中を貪っている。ぴったり背中に覆い被さられたまま奥ばかり突くように動かれると目が覚めたばかりなのにまた追い上げられて、うねる腰を押さえ付けるように深く埋まってくる。

「あ……ぅ、壱衣、無理……もう無理ぃ……」

 啜り泣くように終わりにしてくれと乞うのに、壱衣は俺の耳の後ろでふふっと笑ってから耳朶を噛んできた。

「っんん」
「おねむでもいいから、もう少し君の中にいさせて」

 俺が気を失っていたのを分かっていて、それでもまだ足りないから続けさせろというのか。セックスに興味無いんじゃなかったっけ、とヒクつくのに、甘い声に棗、と名前を呼ばれながら抱き締められると怒りも湧いてこない。

「ほんと無理だから、……寝ても……怒んないでね……?」
「うん。いいよ。寝てる君も可愛い」

 寝ててもいいんだ。
 際限の無い性欲に呆れつつも、彼がこうなっているのは俺を好きだからだと思うと悪くない。
 遠慮なく目を閉じて身体の力を抜くとひたすらゆっくり中を擦られて、気持ちいいばかりの中で今度こそ眠りに落ちていった。









「……何時?」

 目を覚ました時にはカーテンの外が明るくて、今日も大学がある俺はベッドの上の目覚まし時計を掴んで飛び起きた。
 寝惚け眼の壱衣は俺を抱き寄せてまた寝ようとしたので、もう帰ると言うと数度瞬きしてから「まずお風呂に入っておいで」と言って大きな欠伸をしながら体を起こした。
 有り難く風呂場を借りてシャワーを浴びると、乾いていた肌が色々な液でベタベタなのを思い出したみたいに粘り出して洗い落とすのが大変だった。

「あの、じゃあ俺」
「待って。本当にもう帰るの?」
「だって遅刻するし」

 昨日着てきた服に着替えてズボンのポケットに入れっぱなしだったスマホを確認すると電車に間に合えばギリギリセーフな時間で、怠い身体を叱咤して靴に爪先を引っ掛けた玄関先で下着を着ただけの壱衣に引き留められる。

「誰かに代返してもらえばいいじゃない」
「うちの大学は授業前に学生証のID読み取るんで無理です」
「ハイテク~……。じゃあ、終わったらうち来れる?」
「今日のバイト、確かラストまでなんでそれも無理です」
「……」

 無言で拗ねたみたいに唇を尖らせた壱衣に一瞬驚いて、それから昨夜好きだと言われたのを思い出して顔が熱くなった。

「……えっと、明日はバイト無いんで、壱衣の仕事終わった後とか……」
「いいよ」
「返事早っ」

 思わず突っ込むと壱衣は離れがたいみたいに俺をぎゅっと抱き締めて、それから短くため息を吐いて身体を離した。

「帰したくないけど、仕方ないね。明日まで我慢するよ」
「はあ」

 時間を気にして生返事をすると壱衣はすぐさま察して怒ったように目を見開いて、それからぶつかるみたいに乱暴にキスしてきた。がじがじと舌を噛まれて痛みに呻くと、満足げに笑って顔を離していく。

「まさかだけど、『付き合って』とか言わないと僕が彼氏だっていうのを忘れたりしないよね?」
「へ? ……あ、そっか」
「……棗?」
「いやいや、大丈夫です、分かってますって」

 好きって言い合ったら自動的に付き合う事になるのか? と胸中で首を傾げつつ、忘れる訳ないでしょ、としたり顔で頷きを返す。
 俺の様子に渋面を作った壱衣は深いため息を吐いて、それからふふ、と笑って俺の背中を叩いた。

「時間無いんでしょ。行ってらっしゃい、いい子ちゃん」
「あ、はい、いい子、行ってきます!」

 ロボットで出撃する兵士みたいな返事をするとツボに入ったのか壱衣が噴き出して、その小さな笑い声を背にして俺は玄関を開けて走り出した。
 次にあのドアを潜る時は、犬じゃなくて、恋人。
 そう思うだけで足が軽くなって、今なら振った尻尾の勢いで空でも飛べそうだった。

 






end.
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