高尚とサプリ

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 結局その日はイツキの終電近くまで居酒屋で過ごした。
 職場は俺の家やバイト先があるエリアなのだけど、自宅は一駅隣なのだという。「離婚したし引っ越してもいいんだけどねぇ」と言うので「うちのアパート空室だらけですよ」と言うと、「そんなに毎日撫でて欲しいの?」と揶揄われた。
 もう何を言われても口説かれてるようにしか聞こえなくて、逆に諦めがついてくる。この人はきっと、誰にでもこうなのだ。
 翌日、誕生日なのに人が足りなくてバイトに駆り出されて、でも昨夜のアレコレで頭がぽやぽやになったままだった。
 だから店に入ってきた客が誰なのかよく確認もしていなくて、彼がレジに並んで注文する声を聞いて一気に顔が強張った。

「久しぶり、ナツくん」
「……たーくん……」

 久々に顔を合わせたたーくんは少し気まずそうに、けれど緊張した面持ちだった。

「あの、今日誕生日だよね。おめでとう」
「ありがと、……注文は?」
「あ、うん、えっと、アイスカフェラテMで」
「お会計二百五十円になります」

 金を受け取ってお釣りを返して、手早く注文を作ってカウンターに置く。
 さっさと受け取って帰って欲しいのに、たーくんはもじもじと体を捩ってから上目遣いに俺を見てきた。
 ……可愛いんだろうけど、可愛く感じない。とっくに別れたと思っていたから、『彼氏』という欲目も無くなってむしろうざったさすら感じる。

「何か用ならバイト終わってからにしてくれる?」
「えっ、いいの?」
「は?」
「お祝い、していいの?」

 何言ってんだこいつ。
 真っ先に頭に浮かんだのはそれだった。一ヶ月近くも放ったらかして一方的に連絡を絶っておいて、それで誕生日を祝う? 何がどうなったらそんな考えになるんだ。

「いや、普通に別れ話でしょ」

 次の客が自動ドアを潜って入ってくるのを目の端に捉えながら小声で冷たく突き放すと、たーくんは泣きそうに顔を歪めて、それでもすぐにニコッと笑顔を作ってカップを受け取った。

「お店の中で待っててもいい?」
「……好きにすれば」

 客だし、と素っ気なく答えて次の客に対応しつつ、心の中は心臓がバクバクいっている。
 やだなぁ、あれだけ放置した癖に別れようとか言ったら泣かれんの? 絶対俺が悪者にされてまた悪い噂追加されんじゃん。
 どんな言い回しをすれば泣かれずに穏便に別れ話を出来るか、と悩んでいたら、裏にいた筈の店長がいつの間にか寄ってきていてシャツの裾を引っ張ってきた。

「なぁ、別れ話すんの?」
「……聞いてたんですか」
「クローズしたら片付け免除で帰っていいから、お願いだから店の近くでやんないで」

 ああ、そういう事か。どんな店でも揉め事は御免だよな、と思いながら頷きを返すと、店長はまた裏に引っ込んでいく。
 憂鬱、と思っていたらまた出入り口のドアが動いて、入ってくる客に「いらっしゃいませー」と声を掛けながら視線を上げたらまた心臓が止まりそうになった。

「アイスコーヒーS、テイクアウトで」
「あ、はい」

 ニコニコといつもの笑顔で来店したのはイツキで、ただ注文されただけなのに一気に耳まで熱くなるのを感じた。
 会計してからドリップマシンにカップをセットして待つ間、後ろに客がいないのを確認するとイツキはまたカウンターに寄り掛かるように肘をついて話し掛けてくる。

「今日もバイトなの?」
「人、足りなくて」
「何時に終わる? 今日は棗の好きな所連れてってあげるよ」
「え……」
「お酒も解禁だしね。大丈夫だよ、酔わせて襲ったりしないから」

 まさか今日は俺の誕生日を祝ってくれるつもりなのか。
 絶対行きたい! と顔を輝かせて、だけれど店内に座るたーくんの姿が視界に入って肩を落とす。

「……棗?」
「あの……、今日は、その、ちょっと難しくて」

 たーくんとの約束なんてほったらかして、イツキとご飯に行きたい。たぶんまた昨日みたいに揶揄われてもっと好きにさせられるのかもしれないけど、そっちの方が絶対楽しい。
 だけど、先に約束しちゃったし、それにこれ以上モヤモヤさせておくのも気持ち悪い。
 せっかく誘ってくれたのに、と罪悪感で泣きそうになりながら氷の入ったカップにコーヒーを注いでいると、イツキが俺の視線を辿るようにたーくんの方を振り向いた。

「……彼女?」 
「……一応、まだ」

 早く元、と付けたい。
 その為には今日の誘いは断るしかない、と苦渋の決断を下すしかない俺に視線を戻したイツキは無表情に「そっか」と呟いて、それから薄く微笑んで俺からカップを掠め取った。

「あの、まだ蓋閉めてな……」
「いい。……楽しい夜になるといいね」
「え……っ」

 思いっきり勘違いされて慌てて訂正しようとしたのに、イツキはすぐに踵を返すと店を出て行ってしまった。
 大声を出すわけにもいかないし、カウンターを飛び出して追いかける訳にもいかない。
 今日は木曜で、明日は金曜。だから明日いつものように錘に行って、それで「別れ話してたんです」と訂正しよう。そうしたらきっと「誕生日に災難だったね」って慰めてくれて、それから改めてご飯に誘ってくれるかもしれない。
 その時はそれでいいと思っていた。










 閉店時間だからとたーくんを店から出して、それからすぐタイムカードを押して着替えて店を出た。裏口を出た所で待っていた彼に手を繋がれそうになって邪険に払うと、泣きそうな表情で俯かれて辟易とした。

「話、歩きながらでいい?」
「……うん」

 頷いたたーくんが後ろについてくるのを横目で確認しながら家に向けて歩き出した。
 もうそろそろ夜中のこの時間にTシャツ一枚でも適度に涼しいくらいで、前回顔を合わせた時から一ヶ月で季節が緩やかに移り変わったのを感じる。

「なんで今さら?」

 まず最初に浮かんだ質問を呟くと、たーくんは早足の俺について行くのがやっとみたいにあざとく小走りして、だけど何も答えない。

「ねえ。なんで、って聞いてんだけど」

 視線を向けるのすら怠くて後ろをついてくる足音に訊くのに、彼は黙りこくったままだ。
 話をする為にわざわざ待っていたんだろうに、一体どういうつもりなのか。

「なんも言わないんだったら、もう話終わりでいい? 別れよ」

 泣かれたくないから柔らかい言い方をしようと思っていたのに、返事がないのに焦れてしまって俺の口からは単刀直入な言葉が出た。けれど、それでもたーくんが何か話す様子はない。
 早足だったからたーくんが乗るバス停にはいつもよりずっと早く着いて、だからそこでサヨナラする為に振り返った。

「返事が無いって事はそれでいいって事だよね。じゃあね」

 バス停のポールを境目にするみたいに俺が別れの挨拶をするのに、俯いたたーくんは急に手を伸ばしてきて、俺のTシャツの裾を掴むと無言で頭を振る。

「……は? なに?」

 さっさとサッパリさせて帰りたいのに、たーくんは俺のシャツを掴んだまま動かない。そもそも女々しい態度が好きではないから可愛いとも思えないし、未練の無い相手に縋られても面倒なだけだ。

「離して」
「……ちゃんと話がしたいの」
「はぁ?」
「たーくんの家で……」

 歩きながらで良いって答えたのはお前だろうが。
 重い溜め息を吐きつつ、けれどそれでちゃんと喋るというならとりあえず言い訳くらいは聞こう。今一方的に切って、後から承諾してないなんてゴネられても厄介だ。
 また歩き出すとたーくんもついてきて、アパートについて鍵を開けてさっさと入る。
 体の関係を強要してくるからと敬遠していた男の部屋に自分から上がり込むって、どういう気持ちなんだろう。
 電気を点けてたーくんの方を振り向こうとしたら、背中に鋭い痛みが走った。

「──ッ!」

 身体が跳ねて、急に力が入らなくなってその場に崩れ落ちる。
 幸いにして近くに家具が無い場所でどこにもぶつかる事なくカーペットの上に倒れ込んだのだけど、うつ伏せに這った俺の上に人の重みが乗って、更にもう何度か痛みが押し付けられた。

「……っ、……!」
「面白ーい。ビクビク跳ねて、お魚みたい」

 バチ、バチ、と痛みが走る度に勝手に腕や足が痙攣して、あまりに突然のことに驚き過ぎて悲鳴も出てこない。
 痛みがなくなっても身体が痺れたみたいに言うことを聞かず、何が起きているのか分からない俺の背中の上から重みがなくなったと思ったらたーくんのバッグがどすんとフローリングに置かれた。

「ちょっと待ってね、用意するから」

 たーくんの声はいつも通りで、可愛らしく笑った彼は小さなバッグを開けて中にぎゅうぎゅうに詰められた中身を取り出した。
 最初に出てきたのは赤い縄。そのあとに、細長い棒にバンドの付いた謎の何かと、カッターとピンク色のウサ耳カバーが付けられたスマホ。
 たーくんは手に持っていた黒い機械を俺の視界の端に置いて、それから縄を掴んだ。

「とりあえず先に縛っちゃおう」

 独り言みたいに呟いたたーくんは動けない俺の腕を背中に回すとギチギチに縛り上げてくる。

「イッ……た、い」
「あれ? もう喋れる?」

 思わず出た悲鳴を聞いたたーくんは素早く黒い機械を取ると俺の腕にそれを当ててきて、するとまた痛みが走って身体が跳ねた。

「何度も面倒だからちょっと念入りにやっとこう」
「……っ!!」

 一瞬だった痛みがその言葉と共に持続するものに変わって、痛みに目の前が白黒に混濁する。息をするのも忘れて、喉は絶叫したがっているのに詰まったみたいに何の音も出ていかない。

「ちょっと血出ちゃった」

 素肌に押し当てられた機械が離れると、呻き声と共に息を吐いて咳き込んだ。気持ち悪い。痛みの後に急激な吐き気を催して必死で唾を飲もうとするのに、身体に力が入らなくてカーペットに吐いた。
 嘔吐した俺を見たたーくんは「うわ」と小さく呟くと細い棒みたいな物を口元に押し付けてきて、棒の両側に付いたバンドを俺の後頭部へ回す。
 歯が折られそうな強さで後ろに引っ張られるので恐ろしさに反射的に口を開けたら棒は顎を裂きたいみたいに唇を割ってきて、奥歯でゴムの棒を噛みながら呻いた。

「漫画みたいに一回で気絶したりしないんだねー」

 場違いに能天気な声が感心するみたいに言って、そしてまた俺を縛り上げる。
 いつもイツキに使われる縄とは感触も違うし、そもそも乱暴に締め上げられて凄く痛い。適当に纏められているから関節が無理な方向を向かされていて、下にされた左手が外側を向いてるから血管を圧迫されていて早くも指に痺れが出ている。
 血流が止まると最悪壊死するから気を付けてね、とイツキに言われたのを思い出してゾッとした。
 腕も脚も適当に縛られて、色んな場所が痛くて痺れている。
 怖くて痛くて逃げ出したいのに、それでも身体は全く動かない。口の中にはさっき吐いた嘔吐物の臭いがして気持ち悪いし、顔の横に吐いたものもそのままだ。
 何がどうなってこんな事になったのか全く分からないでいるとたーくんがフゥと可愛く息を吐いて、それから縛り上げた俺の腰を掴み上げてズボンのベルトに手をかけた。

「おっけー、準備終わり。お楽しみタイムの始まりだよ~」

 うつ伏せで尻だけ高く上げるような格好にさせられた俺の背後で、ピロン、と音がする。動画を撮り始めた時の音だ、と気付いたのは彼が俺のズボンを下着ごと引き下ろしてきた後で、ぐるぐる巻きに縛られた膝下の真上まで露わになった肌を撫で上げられて鳥肌が立った。

「きれーな色してる~。一回も使った事ない色と感触だねぇ、最高だよナツくん」
「ッ、!」

 尻穴を指で触れられてギョッとして、だけれど呻き声は棒によって吸われて音にならない。
 背後で衣擦れの音がしたと思ったら尻の狭間に熱くて硬いものが押し付けられた。それが何だか分からない筈もなくて、だけれど逃げることも悲鳴を上げて助けることも出来ない。

「あー、興奮するぅ。この為に何ヶ月も根回しした甲斐があったよー」

 たーくんは明るい声音でぐいぐいと勃起した肉を押し付けてきて、だけれど何の準備もされていないそこに入る訳がない。
 入る訳がないのに、それを知らないみたいにたーくんは押し付け続けてきて、ビリッと破れたような感触の直後にぬるりと先端が埋まってきた。

「……ぅ、ぁ」

 嫌だ、と頭を振るとようやく動いて、緩慢にだが動けるようになったのに気付いて身を捩ると顔の横に置いてあった黒い機械で後頭部を殴り付けられた。
 ゴ、と鈍い音がして痛みと衝撃に目眩がして、目の奥から涙が溢れた。

「っ……」
「抵抗してもいいけど、無駄だからねぇ」

 たーくんの声は相変わらず可愛らしく高く、まるで媚びるみたいにねっとり語尾が伸びる。

「あ、そうだ、ゴムしないと」

 せーふせっくす~、と呟きながらバッグを漁ったたーくんは手早くゴムの袋を破ると自身に装着させて、そしてまた俺の尻に押し付けてきた。

「う、ぅ……!」

 今度はゴムの纏う潤滑剤の所為もあってさっきより簡単に頭を捻じ込んできて、裂かれるような痛みに呻くのにたーくんは感激するみたいにはしゃいだ声を上げる。

「あ、イイ、すっごいキツい~♡ 本当に処女だぁ、やっぱり処女レイプが一番いいっ、無理矢理おちんちん入れて犯すの大好きっ♡」

 自分で言って更に興奮したみたいにたーくんは腰を叩き付けてきて、根本まで全て挿入すると耐え切れないみたいに激しく腰を振った。

「イイ、イイ、最高っ、ナツくん、ナツくんのお尻とっても気持ちいいよぅ♡」
「……、ぅ……ぐ……」 

 無理やり捻じ込まれて切れた入り口が熱を持ってジンジンと痺れて、出し入れされる摩擦と合わさって焼け焦げそうだ。硬い肉が奥まで遠慮なく叩き付けられて、腹の中を抉られて痛みに咽び泣く。
 俺に出来るのは呻きながら涙を流すことくらいで、頭の中は早く終わってくれという事しか考えられない。

「んっ、イク、イク、出ちゃうっ」

 高い声で喘いだたーくんが腰を押し付けながらビクビクと震えて、中に嵌まった肉が抜けていくのを感じて安堵した。ずるりと肉が全て抜かれて、終わったのかと鼻を啜ると背後でチキチキとカッターの刃を出す音がした。

「イ……ッ!」

 尻肉に当てられた刃は皮の表面を切ったらしく、たーくんはそこを指で撫でてコロコロと鈴が鳴るような声で笑う。

「これやってみたかったんだ~。大丈夫だよ、私ちゃんと精力剤飲んできたから、正の字が出来るまでしてあげる」

 ズルはしないから安心して、と言われて青褪める俺の耳にはまたゴムの袋を切る音が聞こえてきて、恐怖に奥歯がカチカチ鳴るのに逃げ出す事も出来ない。
 ゴムを着けたたーくんの陰茎はまた俺の中を強引に割って、そして好き勝手に穿った。
 きっちり五回達し俺の尻に正の字を刻んでやっと、たーくんは俺の拘束を解き始めた。
 脚の縄を解く前にまたスタンガンを一度打たれて、もう抵抗する気力なんて無い身体はカーペットの上で小さく震えるだけだった。

「あれ。……やだぁ、ナツくん、レイプされて気持ち良かったの~?」

 きゃっきゃとはしゃぐような声の後にうつ伏せから仰向けになるよう身体を転がされて、俺の股間にスマホを向けたたーくんは太腿の内側を指先で撫でてくる。

「……っ?」

 そこはどろりと濡れた感触があった。たーくんはゴムをしていたから彼の精液では無い筈で、まさかそんなに血が垂れていたのかとギョッとしたのに視線を動かした俺が見たのは勃起した自分の陰茎だった。

「……」

 嘘だ。
 ありえない、と呆然と思考が止まるのに、たーくんはカーペットを撫でて白濁した粘液を指に纏わせて満面の笑みを浮かべる。

「一回出したのに、まだ元気なんだね? お尻犯されるの、そんなに気持ち良かった?」

 違う。違う。全然気持ち良くなんか無かった。ただずっと痛かった。痛かっただけだ。気持ち良くなんてなかった、その筈なのに。
 俺が眼前の事実が信じられなくて頭を振るのに、たーくんは嘲笑うみたいに顔を歪めると俺の顔の方にスマホを向けてくる。

「はい、この子がレイプされて気持ち良くなっちゃうドMな男の子、八幡 棗くんで~す。イケメンでしょー? でも無理やりお尻におちんちん突っ込まれて、触られてもないのにイッちゃうんだよ~。エッチだね~♡ みんなも棗くん見つけたらレイプしてあげてね♡」
「な……っ」

 何をしてるんだ、と混乱する俺にたーくんは動画を止めてからスマホを揺らした。 

「誰かに言ったら、これネットにアップするから」

 にこ、と笑う顔は純朴そのものなのに、言う事もやった事も鬼畜そのものだ。
 歯列を噛み締めてスマホを見つめる俺に、彼はさらに脅しを重ねてくる。

「ナツくんがこの動画上げられるの承知で本当の事を言ったとしても、だぁれも信じない。私はか弱い女の子で、ナツくんは『初心うぶな彼女にセックス強要しようとする浮気者のヤリチン』ってことになってるから。女の子にレイプされたなんて訳の分からない事言うヤバい奴、って思われた上に、動画見た見知らぬホモ野郎はナツくんを見つけたらレイプしようとする。そんなの嫌でしょ?」

 だから無駄な事しないでね、と。たーくんは笑いながら言って、そしてやっと俺の腕の縄を解いた。
 血が流れ始めた血管がビリビリと熱く痺れ、指がちゃんと動くことを確認して安堵する。
 口枷も外され、重い顎を撫でるとたーくんがぐっと顔を寄せてきた。恐怖から思わず後ろに飛び退くのに、彼は可愛らしく上目遣いでまるで俺に自由意志があるみたいに訊いてくる。

「分かった? ナツくん」
「……」
「お返事してほしいな」
「……分かった」

 掠れた声で返事をすると、たーくんは身支度を整えて荷物を片付け始めた。
 身体が自由になっても動く気力は湧かず、ただそれを黙って見つめる。

「あ、そうだ。私処女にしか興味無いから、お付き合いはこれで終わりね? またレイプして欲しくなっちゃったら、私じゃなくて他の人に声掛けてね」

 揶揄われているのだと分かっても、それに反論する気も起きない。もう、どうでもいい。

「じゃあねー、ちゃんと鍵掛けて寝るんだよ~」

 立ち上がりもせずカーペットに座り込む俺を見てたーくんは最後まで普段通りで、可愛らしく手を振って玄関から出て行った。
 コツ、コツ、コツ、と低いヒールの硬いソールの音が遠ざかってから、よろよろと起き上がって玄関へ行って鍵を締める。後ろを振り返ると、太腿から垂れた白濁が床をぽつぽつと濡らしていた。

「……」

 なんで、なんて、もうどうでもいい。
 風呂に入って身体を洗って、布団に横になった。何も考えないように頭をからっぽにして、そうしたらいつの間にか眠ってしまっていた。
 目が覚めた時はもうカーテンの外が明るくて、ぼぅっとしながらベッドから足を下ろしたら足裏がぬるりと気持ちの悪い感触を踏み付ける。
 視線を向けるとそこには米粒と黄色や赤のつぶつぶの混じったものがあって、それが昨夜自分が吐いたものだと思い出して一気に色々な事が脳内に蘇った。

「……っ」

 俺、昨日、ここで。
 吐き気に慌てて口元を押さえて、洗面所に走った。
 途中の台所で足が滑って床を見たら昨日垂らしてそのままだった白濁がまだ床に残っていて、処理しきれない感情が涙になって目から溢れてくる。
 それを手の甲で拭って、一度吐いてから雑巾で部屋の中を拭いて回った。カーペットは若干毛羽立ってしまったけれど水拭きの後にアルコールスプレーを噴いたらなんとか臭いは取れて、部屋が綺麗になるとまるで何も無かったみたいに元の状態に戻った。

「……そうだ」

 今日は金曜日。
 着替えて、錘に行って、イツキに会おう。
 そして、彼女と別れました、って報告して、ご飯に連れてって貰うんだ。イツキは優しいから深く理由を訊いたりしないし、だから俺も忘れてしまおう。
 そう、忘れる、忘れるんだ。この部屋みたいに、何も無かったみたいに。
 寝る前に入ったばかりの風呂にもう一度入ってシャワーを浴びると尻の方が痛んだけれど、気にせず普通に洗った。切れて足元に血が垂れて、だけど流しっぱなしのシャワーですぐに透明になって排水溝に流れていく。
 腕と脚に残った縄跡は一晩経っても全く薄れていなくて、暑いけれど外に出るなら長袖を着ないとな、と考えた。
 着替えてスマホで時間を確認して、まだ錘が開店前なのは分かっていたけれどこの部屋に一人で居るのが嫌で外に出る事にした。
 玄関で靴に足先を差し込んだところで、ちょうどチャイムが鳴ったから郵便かなとドアを開けた。

「やっほー、ナツくん」
「……ッ」

 ドアの向こうに居たのはたーくんで、驚いて閉めようとするのも間に合わず、押し入ってきた彼は手に持っていたあの黒い機械を俺の腹に押し付けてくる。
 俺が痛みと衝撃にその場に崩れ落ちたのを良い事にたーくんは素早く玄関の中へ入ってきて、ドアの鍵を掛けた。

「ごめんねぇ、昨日の今日で。あのね、やっぱりね、生中出しまでしてこその無慈悲レイプだと思うのね? 昨日はウンチ付いちゃうのが嫌で日和ひよってゴムなんか着けちゃったから、もう一晩中ずーっと後悔してたの。って訳で、させてね~」
「あっ、ぃ、やめ」

 俺の抵抗を押さえる為か数秒スタンガンを押し付け続けられて、身体に走る痛みにボロボロ涙が溢れた。
 俺の下衣を脱がせるとたーくんはその場で自分も股間を寛げ、そしてそのまま捻じ込んでくる。
 さっき体を洗った時に開いたばかりの傷口がまた肉に開かれて、垂れた血が滑りになってたーくんの陰茎を挿入する助けになった。

「あっ、すっごい締まる♡ ナマいいっ、やっぱりナマの方が気持ちいい、ね、ナツくんもだよね♡」

 仰向けの俺の腰を持ち上げて遠慮なく穿たれて、身体は痺れて動かないのに痛みだけは鮮明に伝えてくる。腰骨をぶつけるように激しく抽挿されてまた始まった悪夢のような行為に泣くしかないのに、たーくんは俺の肉茎を指で弾いた。

「……っ、や」
「ヤダ? 何が? こんな事されて勃ってるのに、何が嫌なの? ねぇ、レイプしてるんだからちゃんと嫌がって?」

 痛くて啜り泣いているのに、確かに俺の股間は勃起している。
 なんでなんだか分からない。そこだけ俺じゃなくなったみたいに言う事を聞かなくて、たーくんが乱暴に腰を振っている間に先端からびゅっと精を吐いた。

「うわ、また? またこんな乱暴にされてイッたの? 引くぅ、ナツくん本物のヘンタイじゃん」

 もう、訳が分からない。全然気持ちよくなんかないのに、陰茎から出たのは間違いなく精液だ。
 泣くしか出来ない俺を馬鹿にしながらも、たーくんは興奮したみたいに俺の中で大きくして出し入れしてくる。

「あ~……、私ね、処女しか興味無いんだけどね? 面白いからナツくんなら飼い続けてあげようかな? レイプされて本気泣きしながらイッちゃうなんてなかなかいないし」
「ゃ……」
「やだ? やだってナツくん的にはイイって事だよね? だってこんな事されて気持ちよくなっちゃってるんだもんね?」
「ちが……っ、俺、ほんと、に……ぃ」
「あ、その表情イイ、キた。ナツくん、ナツくん、出すよ、ナツくんの中に私のザーメン出すよぉ」

 ぐちゃぐちゃに掻き回されたと思ったら一番奥まで刺し貫かれて、そこで腹の中の肉が弾けた。ビクビク震えるのが分かって気持ち悪いのに、息を荒げたたーくんは陰茎を抜いてから窄まりを覗き込んでくる。
 とろ、と中から溢れた心地がしたと思ったら、カシャ、と音がした。いつの間にか出したスマホで写真を撮られたのだと気付いて、けれど昨日動画を撮られているからもう今さら驚きもしない。

「よし、じゃあお風呂ね!」

 今日は一度で終わるのか、まだ痺れが残っていて立ち上がれない俺を引き摺ってたーくんは俺の部屋の風呂に入って、それから尻穴に指を突っ込んで中から精液を掻き出して洗った。

「よしっ、これで証拠隠滅」

 やけに丁寧にやるものだと思っていたら。万一俺が警察に行った時に腹の中に精液が残っていると不味いと思ったのだろう。
 手慣れたものだ。おそらく被害に遭ったのは俺が初めてじゃない。みんな彼の純朴そうな外見に騙されて、そして泣き寝入りさせられたのだろう。

「じゃ、また気が向いたら来てあげるね♡ あ、でも大学ではもう話し掛けないでね、次の彼氏に勘違いされたら嫌だから」

 ほら、もう次の標的が定まってる。
 着替えたたーくんは用は済んだとばかりに軽やかな足取りで俺の家から出て行った。
 洗った後は放ったらかしにされた俺はずぶ濡れになったTシャツを脱いでから身体を拭いて風呂を出て、そして服を着てからベッドに倒れ込む。
 諦めたみたいに涙も出てこなくなった。
 スマホを開いて時間を見て、それから少し眠った。鍵を、と一瞬だけ考えたけれど、もう二度も犯された後だ。またたーくんが戻ってきて同じような事をしたとしても、もうどうでもいい。
 ただ、イツキに会いたい。
 イツキに頭を撫でて欲しい。
 それだけしか頭になかった。


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