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後日談 まぐわう (※リバエロです)
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タイトルに書いた通り挿入有りのリバエロです
苦手なのに間違えて開いちゃった人向けに説明すると、ただのゲロ甘セックスSSです
暗い。
いいや、外はまだ真昼。暗いのは俺の視界だけだ。
顔に当たる肌触りの良いフリースの外側には伸縮性の高い合皮が貼られていて、俺は今、現実の夜にも見たことのないような闇に支配されている。
「っ──」
頬の上──俺の頭を包む合皮の上を何かが撫でていった。次いで、耳の上に振動がくる。
「────」
……何か、言われている。たぶん。
しかし分からない。聴こえない。耳に音を伝えるための空気は断絶されていて、今の俺に届くのは未來が動かす唇の揺れだけ。
微かな振動でしかないそれに意識を集中し何を言っているか聞き取ろうとしたのに、急に肩に触れられ驚きに息を詰めた。
俺の肩から二の腕を撫で下ろした未來の指はさらに肘から手首へなぞっていき、そこに嵌まる手錠の下に潜ってくる。
硬い手錠──重厚な錆鉄を模した塗装とは裏腹に、プラスチック製らしく不安になるほど軽い──が俺の皮膚を傷付けていないか確認したのか、すりすりと撫でた指はまた腕を上っていった。
未來の指は汗ばんで熱い。俺の素肌の上をゆっくりと這いずり、まるで今さら品定めしているかのように何度も何度も往復していく。
素肌に張り付くような感触は指だけでなく、俺に寄り添う未來のすべてがそうだ。
俺に触れるどこもかしこも湿度が高く、そんなに緊張しなくてもいいのにと毎回心配になってしまう。
首筋を吐息が掠めていって、思わず腰を跳ねさせた。
大きく開かされた脚は閉じられないよう未來の膝に押さえ込まれている。
後ろから尻肉を割り開いて穴を弄る指がより深く突き入れられ、中をほじられて気持ち良さに喘いだはずだが、そんな自分の声すら聞こえない。
太い指は俺の尻の中を抉り回し、深く深く穿ってくる。
また耳の上が震えた。何か言っている。
分からない。けれど、何も不安はない。
未來の指がもっと腰を振れと俺を煽る。追い上げられて思考が痺れていく。
「──ッ! ────」
絶頂を目前に、急に指を抜かれて喉を反らして叫んだ。
お預けされた身体が跳ね、けれど拘束されている手足はほとんど動くことはない。
きっと外側では捩れ擦れ合う細い鎖がシャラシャラとうるさく鳴っているだろう。
耳に当たる細かな振動が、喜ぶ未來が笑っていると教えてくれる。
震える腰を持ち上げ、自ら未來の指を食んだ。
未來お気に入りの頭部拘束具は、着けられると何も見えないし聞こえない。
鼻から口にかけてはメッシュ素材になっているから呼吸は出来るが、ボールのような物を噛まされては味覚も使い物にならず、ついでみたいに嗅覚さえ鈍くなっている気がする。
俺に残されたのは触覚だけ。
だから普段より過敏にならざるをえないのに、そうでなくとも鮮烈な快感を与えてくる部分を未來はわざわざ雑に刺激しては急に止め、俺が半狂乱で身悶えるのを楽しんでいる。
未來の指を欲しがって尻を振る俺の姿は、彼の目にどう映っているのか。
未來がまた耳元で何か言っている。辱める言葉なのか、それとも褒める言葉か。
どちらでもいい。どちらでも嬉しいことに違いはない。
出来るだけみっともなく、力任せに身を捩った。
はしたない様はそれだけ俺の余裕の無さだと未來に教えるだろう。
呻き、喘ぎ、腰を振って尻穴にもっと深く指を入れてくれとせがむ。
「──」
低い振動と、宥めるように俺を撫でる感触。
止まっていた指が動き出す。めいっぱい膝を広げ指を締め付けて喜びを示せば、応えるようにほじり回されて目眩がした。
未來の指が1本以上入れて貰えることはない。
VRでブラパの陰茎の太さに慣れた俺がかすかな物足りなさを感じるのはいつも最初だけで、未來は中指1本だけで俺を狂わせ、泣くまでどころか涙が枯れきって目元が腫れ上がるまで責め立て続ける。
きっと今日も、一度イッたくらいでは許してもらえない。
最後は太腿を撫でられるだけでもイきっぱなしになっていた先週を思い出し、あの恐怖混じりの快感が脳裏に蘇った瞬間、内側が爆ぜ痙攣するみたいに腰がビクビクと跳ねた。
「──、──」
全身に汗が噴き出した。どっと疲労感が襲ってくる。
俺が達したのは明白なのに、やはり指は止まらない。
未來がまた何か囁きかけてきている。
聞こえなくとも意味は伝わる。「まだ」と「もっと」だ。
未來と同棲を始めてもう半年。
夏休みもそろそろ終わりに近付いてきて、だからこそ未來の責めがいつにも増して容赦ない。
口には出さないものの、俺が大学に通うのを未來は嫌がっている。
大学が嫌というより、俺が家の外に出るのが嫌なんだろう。
俺の体面を思ってか校舎までの送迎は遠慮してくれているようだが、登校する日は必ずマンションの敷地内ギリギリまで一緒に行きたがる。
「管理人としての仕事のついで」なんていうのが嘘だというのは明白で、じっとりとした恨みがましい目に見送られると……もういっそ中退してしまおうかと思ったのも、一度や二度じゃない。
ドリームラボの筐体が家にあるからバイトがあっても家から出る必要はなく、だから夏休みが始まってからは比較的未來の機嫌も悪くなかったのだけど。
共用のカレンダーに登録してある登校日が近付くにつれ、比例するように現実で俺と致す時間が長くなってきた。
別に嫌ではない。俺と離れる時間を寂しく思う未來は可愛い。……のだけれど、現実でのセックスは正直かなり疲れる。
VRと同じノリで長時間責め続けられれば現実の俺の実体では終わった頃には足腰が立たなくなって、疲労回復の為に寝ると起きたら翌朝だったりする。
せめて本当にセックス出来れば未來の欲も落ち着くのだろうが、未だそうは出来ないから俺ばかりがいつも延々指で責められる事態になっている。
回数比は9:1でVRの方が多いが、これもおそらくは未來が我慢してくれているんだろう。
毎晩一緒に入る風呂で彼のソレがいつでも臨戦態勢なのを見れば、現実の俺とする気がないのかも、なんて疑いを持つ隙も無い。
初めて会った頃に比べれば未來はだいぶ痩せたように見えるし、下腹の肉なんかたぶん半分になっている。
それでも、彼曰く「まだ無理」なんだそうだ。
試してみて失敗したらきっと落ち込むのは俺より未來だろうから、俺はただ彼が「よし」と思うまで待つしかない。
「──」
もう何度か中イキするまで虐められてから、頭の後ろでジィーと音がした。
「はぁ……っ」
ファスナーが上げられ、フェイスマスクが剥がされる。
メッシュ越しではない新鮮な空気を大きく吸い込むと、湿った顔にエアコンでよく冷えた風が当たった。
闇に慣れた俺の目を刺激しないよう、部屋はカーテンが引かれて薄暗い。
それでも未來の満足げな表情がよく見えるくらいには明るく感じて、近付いてきた彼からのキスを受け入れつつも目を細くした。
「隆也」
未來が呼ぶ俺の名前には、色んな感情が隠れているように思えてならない。
普段あれだけ饒舌なくせに肝心なことは口に出来ないのが彼らしいといえばらしいのだけど、もどかしさを感じることもある。
「なんですか、未來」
呼ぶから答えたとばかりに呼び返すのに、未來は黙ったまま後ろから俺を抱き締め、頬に頬をくっつけてくるだけだ。
何でも言ってくれていいのに、と思うのはたぶん、俺が未來より無神経だからだろう。
未來は優しいから俺より俺を想ってくれていて、俺が返事に困るような言葉は言わない方が良いと飲み込む。
それを無理に吐き出させようとするほど悪趣味ではなく、だから俺も黙って未來の体にもたれて彼の体温に包まれる。
セックスの云々が無ければ、正直、痩せてほしくなかった。
未來の大きな体は柔らかくて温かく、触れ合うと幸せな気持ちになる。
最近の彼は上に寝そべった時に俺が沈み込んでいくような感覚が少なくなって、むしろ寂しさすら感じている。
鍛えているからか健康面では問題が無いと言っていたし、出来ることならあまり減って欲しくない、というのが本音だ。
挿入を心待ちにしているだろう未來には口が裂けても言えないことだけれど。
腹と太腿の肉が原因で根本までの入れるのに邪魔らしいのだが、だからといってその2箇所だけを部分的に痩せるというのもまた難しいらしい。
いっそ俺が挿入れる側だったら何の問題もなかったろうに──……。
「……ん?」
唐突に思い付いてしまった名案に、真横にある未來の顔をじっと見つめると彼は目を細めて頬を擦り合わせてくる。
「なんだ? なんか言いてぇ顔してんな」
「いや、その、……とても良い事を思い付いたんですが、未來はもしかしたら嫌かもな、と思って」
俺のアレは聞いてみるまでもなく、ゴムの中で疲れ切って萎んでいた筈なのに思い付いて想像した瞬間にいつでもいけますとばかりに膨らんだ。
脱童貞に期待する下心を悟られないよう目を逸らすが、未來は顔を離すと俺の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でて「言ってみろ」と笑った。
「イイコトなんだろ? 俺はお前にゃ甘ぇんだ、なんでも……」
「俺が未來に入れても良いですか?」
「は?」
「うつ伏せの未來に俺が後ろから乗って入れる形ならこっちでもセックス出来ると思うんですけど、していいですか?」
「…………」
おそらく正常位では豊かな尻肉に阻まれてしまって、俺の普通サイズでは根本まで入れきれないだろう。
だが後背位で少し尻を持ち上げる格好なら重力で尻肉は下に逃げ、穴はちょうど上にくる。
俺が乗る方なら未來に怪我をさせる危険性もなく────問題は、未來が抱かれる側は嫌かもしれない、ということで。
俺を抱き締めたまま固まってしまった未來を首だけで振り返ると、彼は口元をヒクつかせて眉間に深い皺を作っていた。
「俺に……こっちで? 向こうじゃなくて?」
「こっちの未來を、です」
「俺を、抱く……? お前が……? 俺を……?」
どうやら俺の提案は未來をバグらせてしまったらしい。
疑問系で何度も繰り返す未來に申し訳なさが募り、ふるふると頭を振って未來の二の腕を撫でた。
「いえ、あの、嫌ならいいんです。ただ俺が抱く方ならすぐ出来るんじゃないかな、って」
単なる思い付きなので無理しなくて大丈夫です、と続け、そろそろ風呂に入ろうとベッドから降りようとすると肩を掴んで止められた。
「お前、抱けんの? 俺を?」
これだぞ? とばかりに戸惑ったような表情で自分の腹を叩く未來は、どうやら俺が抱く方が出来るのか疑っているようだ。
「それは、その……未來ほど上手くは出来ないと思いますけど……」
「違う違う。そもそも俺みたいなデカいデブ抱くってなって勃つのかよ? って」
「……見れば分かると思いますけど」
未來を気持ち良くさせることまで出来るかどうかはあまり自信が無いが、勃つかどうかと訊かれればもう見せれば明らかでしかない。
もしや使い物になる事を示せばさせてくれるのか、と期待で急速に血を集めた俺のソレが何回分か分からない精液を溜めたゴムの中で窮屈そうにしているのを指差せば、未來は「うお」だか「うえ」だか分からない呻き声を上げ、口元を押さえて何度も首を横に振った。
「……期待させるような言い方しないで下さい。結構傷付きますよ、その反応」
「いや、違う……驚いて。向こうの俺ならまだしも、こっちで抱かれる方は考えたこと無くてな……?」
向こうならまだしも?
「……向こうでは、抱かれる方もやってたんですか?」
今の今まで抱こうと考えなかったくらいには、未來は抱く方だと勝手に決めつけていた。
もしやVRでは誰かに、色んな人に何度も抱かれていたのかと考えると、胸にチリと焦げたような痛みが走った。
抱く方で経験豊富なのは知っていて、そんなのもう今さらだ。
けれど、未來が抱かれる方を想像するとどうにも、抑えが効かなくなりそうな怒りがふつふつふつふつと湧いてきた。
誰に、何人に、上に乗らせることを許したのか。
理性を飛ばして乱れて尻を振る様を、どれだけの人に見せたのか。
俺以外に抱かせていたくせに、これまで素知らぬ顔で俺には選択肢すら寄越さなかったのか。
無意識に未來を掴んだ指に力が籠もってしまったのか、彼は痛みに僅かに眉尻を上げ、唇を尖らせた。
「キレんな。抱かれる方なんざやってねぇよ」
「……1回も?」
「ヤりてぇって言われたことはあるけど、興味無かったからやってねぇ」
未來は痛そうな表情をしつつも俺の手を無理やり剥がすことはせず、ただ揶揄うように手の甲をぺちぺち叩いてくる。
「すみません」
「別に謝るこたねーよ。今さらお前が童貞じゃねえって言われたら俺も同じ反応なるわ」
早とちりで怒る俺を未來は簡単に許し、ついでとばかりに「童貞だろうな?」なんて訊いてくる。
「俺の『初めて』は全部未來の為に取ってありますよ」
「はっは。かわいぃこって」
あながち冗談でもなくリップサービスを返したが、未來はそれを笑い飛ばして俺から身体を離した。
「風呂入ってくるわ」
「? はい」
事後はいつも一緒に入るのだから言わずとも分かるのに、と首を傾げながらベッドを降りていく未來を追おうとすると、彼は振り返ってじろりと俺を睨んできた。
「……お前はそこで待ってろ」
「え?」
「いいからテメエはそこに転がって休んでろってんだよ。いざ始めてから使い物になりませんでした~なんつってもイくまで許さねぇからな」
「!」
どうやら俺の突飛な提案は受理されたらしい。
おそらくは下準備を俺に見られたくないのだろうと察し──俺もそれだけは自分ですると固辞しているから気持ちはよく分かる──言われるがままベッドに転がって未來の背を見送った。
1人になったうっすら湿るリネンの上で天井を見上げ、これから未來とするんだ、と再度反芻すると急に心拍が速くなってくる。
いつかは出来るだろうと思っていたし、未來の体型変化を見ていればそう遠くないと期待していた。
けれど、今日だとも思ってはいなかったし、俺が挿入する方だとはついさっきまで考え付きもしなかった。
こんなに急な思い付きでしていい事なんだろうか。
というか、出来るんだろうか。
「調べよう」
未來が拒否しなかったんだから、不可能ではないんだろう。
しかしそもそも、俺は現実のセックスについてほとんど知らない。
どうせ抱かれる側だからと未來に全部任せる気でいた怠慢を自覚し、慌ててベッドサイドに置いていた端末を掴み調べ物を開始した。
「──ただいま。何してんだ?」
未來が戻ってきたのは、20分ほど経った頃だった。
せっせとベッドの上を整えていた俺に未來が不審そうな声を掛けてきたので、丸めた綿布団の上に何枚もシーツを掛けて小山になった所をポンと叩いた。
「うつ伏せでする時はこういうのを下に敷いた方が体がラクなんだそうです」
「ふーん」
全裸のまま帰ってきた未來の肌からはほかほかと湯気が上がっていて、ボディソープのいい香りがする。
いつもは同じ匂いになるから気にならないのに、今はやけにいい匂いに思えてベッドから降りて未來に抱き着いて深く息を吸った。
筋肉もあるけれど上に脂肪の乗った未來の体はむちむちと柔らかい。
胸の盛り上がりの隙間に顔を埋めると温かくて幸せで、拭き残しの水滴を唇で吸うと「くすぐってぇよ」と耳を引っ張られた。
「おら、甘えんのは後にしろ。ヤんだろ?」
「しますけど、雰囲気が大事だって書いてありました」
「は? なにに、どこに?」
「セックスは初める前にいい感じの雰囲気を作れるかどうかが勝負だって、ネットに」
「……真面目バカ」
「順番が逆だとただの悪口ですね」
童貞なりに調べました! と端末の検索履歴を見せると、未來は胡乱な目で流し見ただけで俺から端末を取り上げ充電シートの上に戻してしまった。
「今さら何が雰囲気だ。俺が今までそんなもん作ったことがあったかよ?」
先日新調したばかりの俺の端末は未來が以前から使っている指輪型の後継モデルで、だからシートの上には未來の端末も置いてある。
大きさの違う2つの指輪が並んでいるのを見るたび、未來と同じ家に住んでいるんだ、とこそばゆく実感する。
未來は枕の小山を何か確認するように軽く叩くと、その上にうつ伏せに体を倒れ込ませた。
「これでいいのか? それともこうか?」
「あ、……わっ……」
脚は伸ばすのかそれとも膝立ちなのかと訊きながら未來は体勢を変えて、おかげで俺の位置からは彼の局部が丸見えになる。
慌てて顔を逸らすと、「おい、そんなんで本当に抱けんのかよ」と揶揄う声が投げられた。
「だっ……抱けますよ!」
「こっち直視してから言うんだな」
鼻で笑いつつも未來の声に馬鹿にする色は含まれていない。
どころか、どちらかといえば心配するような気遣いが窺えて、心を決めて無防備を晒す未來へ向き直った。
195cmの長身は特注したという縦220cmあるベッドでもやっと収まっている、という印象で、小山に乗り僅かに尻を持ち上げた格好でも上下にそれほど余裕はない。動く時は彼の頭がベッドにぶつからないよう気を付けよう。
「し、失礼します」
ベッドに膝を乗せ、背後から未來を跨いだ。
脂肪の減ってきた身体は背中から見ても上半身が逆三角形で、特に腰周りは筋肉も薄いからその下の豊満な尻に比べてやたらと細く見える。
前側はまだふくよかなのに、と腰のくびれから前に向けて指を滑らせると、びくりと肉が揺れた。
「すいません。手、冷たかったですか?」
「……別に」
机で仮眠する時みたいに両腕の上に頭を置いた未來は、振り向きもせずくぐもった声で素っ気なく答える。
……緊張している。
未來が、と驚きつつも、未來も、と思うと嬉しくて笑ってしまいそうだ。
「ローションとゴム取りたいので、一度上を失礼しますね」
無駄に揶揄うつもりも不安にさせるつもりもなく、ヘッドボードに置かれたそれらを取る為に後ろから腕を伸ばそうとすると未來の手が先に掴んで「ん」とこちらに渡してくれた。
ただ、ゴムだけだ。
「……さっさと入れろ」
「え、いやでも、ちゃんと緩めないと」
「二度手間だ」
「二度手間? ………………あっ、はい」
言われた意味が一瞬分からず未來の言葉を反芻してから、慌ててゴムの袋を破って自身の陰茎を擦り立てた。
中の洗浄だけでなく、緩めて潤滑剤を仕込むことまでしてきたと言われてこれ以上問答を続ける理由は無い。
後ろだけで十分打ち止めになっていておかしくないのに、休息していた俺の陰茎は数秒ですくすくと育ってくれて、薄桃色のゴムを被せるとその下で窮屈そうに一層張り詰めた。
逸る気持ちを抑えながら片手で未來の尻たぶを掴み、穴の位置がよく見えるように広げて陰茎の先を押し付ける。
窄まったそこは肌より濃い色をしていて、未來の呼吸に合わせて微かに開いたり閉じたりしているように見えた。
未來が下準備に使ったローションなのか、ぬらぬらと透明な蜜で濡れているのが殊更におかしな気持ちにさせる。
「痛かったら言って下さいね」
「……ハッ」
股間にきた衝動のまま貫いてしまいたくなったのを我慢して気遣う言葉を掛けたのに、返ってきたのは鼻で笑う音だけだった。
はたして未來が笑ったのは生意気を言う俺なのか、それとも俺なんかに抱かれる事態になった彼なのか。
どちらでも良いけれど、どちらだとしても少しだけ癇に障った。
「……っ……」
「っ、あ……ぅ」
だからその余裕を崩してやろうと軽くめり込ませるつもりだったのに、押し付けた陰茎は予想外にすんなり埋まっていって、一突きで半分ほどが未來の中に入ってしまった。
ぎゅぎゅぎゅ、と連続して強く締め付けられた後、未來が大きく息を吐く音と共に弛まっていく。
どく、どく、どく、と鳴る鼓動を陰茎の先、未來の内側で感じる。
入った。挿入れた。
未來の中に、内側に、俺がある。
「ご……め、なさ、い……っ!」
「あ?」
なんとか謝ったのは、腰を振り始める前だったか、後だったか。
どういう意味だと問うような声を出した未來に答えてやれる余裕はなく、抉り込むように腰を叩き付ける。
喉をのけ反らせるように未來の頭が揺れた。
俺を飲み込んでぎゅうっと強く締まった未來の穴から、無理矢理引きずり出すように腰を引くと未來の尻たぶがぶるぶると震えて波立った。
先端の括れが千切れそうなくらい締め付けたままになっているそこに、間髪入れず再び突き立てる。
「ごめ……なさ、未來……っ、痛かったら、止める、ので……ッ!」
思考と体が完全に分離されてしまったみたいに、勝手に腰が動いて止められない。
未來の制止の声が上がれば必死で我慢出来るかもしれないが、それが無ければきっと睾丸の中が空になるまでサカり続けてしまいそうだ。
犯される側では感じたことのなかった衝動で、これは挿入する側だからなのか、それとも相手が未來だからなのか、ともはや端の方に押しやられた意識でうっすら考える。
未來の喉から押し潰された悲鳴が「ぐ」と音をさせた。
歯を食いしばっているのか、ベッドシーツに爪を立てた未來の背中に汗が浮いてきた。
頭を下げ、それを舌で舐め取る。
「痛い、ですか?」
しょっぱい、と思うのと同時に未來が身を捩ったので、膝に乗せていた体重を腰にかけて更に奥まで犯していくと未來は背中を反らせてイヤイヤするように頭を振った。
「かわいい……」
ボソリと呟くと、未來はまた頭を振るがいつもならよく回る口からは何も飛び出してこない。
そんな余裕が無いんだろう、と思うと愛しさがこみ上げて、うつ伏せの彼の身体を覆うようにぴたりと同じ形で乗り上げて顔の下にきた未來の皮膚にキスをした。
肩甲骨の間の窪みをなぞるように舌で舐め上げると、未來の体が小刻みに震える。
未來の深い所から抜きたくないのに、苛立つ腰が勝手に揺れて繋がった所からちゅぽちゅぽとキスしている時みたいな音が鳴っている。
「……っれ……て」
長い髪の散らばる未來の頸に歯を立てると、彼が何か言った。
「なんですか?」
聞き取れなかったので背伸びするように未來の頭の方へ顔を寄せると、彼は大きく喉をのけ反らせてからまた頭を振った。
そして、腕で上半身を起こして逃げ出そうとするのだけれど、すぐに崩れ落ちる。
震えながら頭を振る未來の肩口に歯を立てると、彼は言葉にならない呻きを漏らしながら肩を捩って体をうねらせた。
俺と未來が繋がる部分はずっと出し入れが止まらない。
俺が慣れない動きに疲れて腰を止めても、未來が動く。
上半身は逃げ出そうとしているのに、腰から下は俺が抜こうとすると縋るように追ってくる。
きっと未來も初めてで訳が分からなくなっているんだろう。
そんな未來に煽られない筈がなく、また俺も腰を振る。
未來の中に入れながら、未來に抱き着いて、未來を齧って、未來の乱れる息を聞いて、未來を犯す。
逆でも十分幸せだと思っていたけれど、これはこれで……いや、現実だからこそ、俺は抱く方が好きかもしれない。
軽く腕を振るだけで俺を跳ね飛ばせるはずの未來が、大人しく俺の下になることを受け入れている事実にたまらなく興奮してしまう。
ずっとこうしていたいくらいなのに、現実では脳より肉体が優位で、だからいくら我慢したくても射精の誘惑には抗い難い。
「未來、未來……、イッても……いいですかっ……?」
気持ち良さそうに──少なくとも痛いばかりではなさそうに見えるが、さすがに達するまでは出来ていないだろう。
初心者の俺が陰茎で突くだけでそこまで出来るとは思っていないが、せっかくの初めてなのに中途半端で終わらせたいとも思わない。
せめて未來の気持ちだけでも満足したか確認したくて訊くと、未來から返ってきたのは言葉未満の掠れた呼吸音と一層キツい締め付けだった。
それらを許可だと判断して、未來の両腕ごと抱き込んで隙間なく体を合わせて腰だけを必死に振り付ける。
俺の下でビクビクと痙攣するように震える未來の頸に歯を立てて噛み付くと、さらに大きく跳ねて奥が大きくうねった。
俺から搾り取ろうとするような動きに身を任せ、精を放つ。
まるで頭の中から血のすべてが出ていってしまうんじゃないかと思うくらいこめかみの血管がドクドクと鳴って、全部未來の中で出し切りたくて腹に力を込めると視界が白く煙った。
「……はー…………」
脱力して未來にすべて凭れると、下に居る彼と長いため息が被った。
「あ、すいません、重いですか?」
「……なワケねーだろ。しばらく乗っとけ」
「いいんですか?」
「入ってる感覚イイんだわ。勝手に抜けるまでそのまま動くな」
「あ、はい…………え、あ、えっと、はい」
あけすけな感想にたじろぐ俺に、未來は「なんで2回言ったよ」といつものように笑う。
「入れられる方も悪くねえな」
「そ、それは……何よりです」
「されっぱなしでなんも出来ねぇと苛つくかなーと思ってたけど、なんかお前腰振るだけなのに必死こいてて可愛かったし」
「う……」
「それにしてもお前、噛み過ぎじゃねえか? 肩とか首すげぇヒリヒリすんだけど」
「す、すいません!」
「馬鹿、動くなって……あー抜けたじゃねえか」
揶揄われて身動ぎすると萎んだ俺の陰茎が未來からずるりと抜けて、それを残念そうに責められるとカッとなった。
「もう1回したいです、未來」
「はぁ? さすがにもう打ち止めだろ、お前」
「そうですけど、したいです」
上から降りて傍に正座して強請ると、未來はうつ伏せから横向きに体の向きを変えて俺を見上げ、呆れたような表情を浮かべた。
「いや勃たないモンでどうやってヤんだよ」
「今は無理ですけど。夜に、もう1回」
さっき端末で確認した時刻はまだ夕方前だった。
これから休憩して、夕飯を食べて、それからならきっともう1回分くらい復活するはず。
未來が俺に甘いのを分かっていて言い募ると、彼はしばらく逡巡するように短い顎髭を撫でて、しかし予想通り「しゃあねえな」と折れてくれた。
「こんなデケェ男抱きたがるなんざ、相当な物好きなぁ、お前」
ちょいちょいと振った指で隣に寝ろと示され、ゴムを外してから寝そべると大きな手に頭を撫でくり回される。
照れ隠しなのかもしれないが、卑下するような言い方をする未來は少し不愉快だ。
「でかい人だから好きなんですよ」
「……元から?」
「ブラパを好きになってからです」
「現実の俺が鹿……いや、ドラさんみてぇな見た目だったら?」
「DragOnさんみたいな人を好きになってたでしょうね」
「もうちょい外見にも興味示せよ。痩せる気失くすだろうが」
張り合いのねぇ奴だな、と溢しつつも、俺を撫でる手はさっきよりも軽くなった。
「興味はありますよ。中身が未來ならどんな外見でも好きになるってだけです」
「本当に世辞が上手ぇな、お前は」
「未來に好かれる為に日々研鑽してますから」
「これ以上好かれてどうすんだ。外出れなくなりたいのか?」
「外に出ないとビタミンがどうの、って連れ出される未来が見えます」
「預言者で食っていけるなお前」
次第に軽くなる話題に、心底から安寧を覚える。
未來がどうして拘束具を好むのか、薄々気付いている。
怖いのだ。
俺が離れることが、そのまま失うことが。
このマンションにはもう一部屋、未來が所有している部屋がある。
事務所だと聞いたけれど、一度用事で入った時に見たのは『生活感のある普通の部屋』だった。年季の入った和家具の並ぶ、すぐにでもそこで寝食出来そうな。
俺が訝しむのを表情で察した未來は、けれど「亡くなった親父が住んでたんだ」としか言わなかった。
付き合い始めてから過剰なほど不安の種を摘んで回るようになった未來が詳細を語らなかったのはあの部屋に関してだけで、だからこそ、肉親を喪った悲しみがどれだけ深いのかも知れる。
まだ両親が存命の俺には実感も共感もとうてい出来ないけれど、未來が喪失を過剰に恐れているのはそれが故だろう。
重荷だとも、ましてや好都合とも思わない。ただ不健康だとは思う。
未來が俺を甘やかすのは、愛情もあるかもしれないが、怖れから目を逸らす為のように見えるからだ。
甘やかして傅いて宝物のように扱って、そうしたらきっと離れていかない。
未來に自覚は無いかもしれないが、そんな切実な痛々しさが目の奥に見えることがある。
きっと未來の本性は、もっと横暴で自分勝手。それこそ、出会った頃のブラパのように。
だから、俺に、未來のことを世界で一番大事に愛していると自負出来る俺に出来ることは。
「たぶん、未來の目が好きなんです、俺」
「目ぇ?」
直線距離で約20センチのところにある未來の目を見て言うと、それはくにゃっと目頭と目尻が曲がって不思議そうにする。
「俺のこと見る時、好きーっ! て言ってる気がして」
「……はあ?」
「俺もそうじゃないですか?」
「お前結構恋愛でポエミーになるタイプなのな」
「えぇー? よく見て下さいよ、見れば分かりますよ」
「いやいつも見てるって……」
「もっと真面目に! 真剣に! 至近距離で! ほら!」
「うわだる」
いつも自分から絡んでくるくせに、俺からいくと未來はちょっと鬱陶しそうに見せかけるのが割と好きだ。
逸らした目元が赤くなって、照れているとハッキリ分かる。
近付いたついでに軽くキスを仕掛けると、何度目かで唇を噛まれ舌が突っ込まれてきた。
唾液を交わしてしばらく味わってから顔を離すと、目を開けた先で未來と目が合って、しかしすぐに逸らされ、珍しく未來は動揺しているみたいに何度も目を合わせたり逸らしたりを繰り返す。
「……で」
「未來?」
「何をそんな凝視してくんだよ。どっか他所向け、他所」
「え、なんですか急に。見て下さいってば。俺だって未來のこと好きだって目してるでしょ?」
「……アホ。うるせぇ。見んな」
「えぇぇ、ひどい~」
傷付きますぅ、と言いつつ、俺は遠慮なくゲラゲラ笑う。
とうとう耳まで真っ赤にした未來は体ごとそっぽを向いて、布団に顔を埋めた。
どうやら俺の言ったことは正確以上に伝わったらしい。
「大好きですよ、未來」
「うっせ……俺もだっつの……」
「ですよね~」
一瞬未來の拳がグッと上がって、けれど俺にぶつけられることはなかった。
きっと今後も本気で彼に殴られることは無いだろう。
けれど、軽く叩くくらいなら。ツッコミで手の甲が飛んでくるくらいなら、あるかもしれない。
初めて会ったあの日みたいに。
遠くない日だといいなと思う。
未來を好きなのは、俺を甘やかしてくれるからじゃない。
未來が未來で、そんな未來を好きな俺を好きだって目で見返してくれるから。
けれどどれだけ慣れようと、好きな人と見つめ合うのは気恥ずかしい。
照れはお互い様だ。俺だって今、猛烈に耳が熱い。
心が示す体の反応はいつだって一番素直だから、不安になったら、俺の気持ちを疑いそうになったら、いつだって。
「見れば絶対、分かりますからね」
未來の背中に額を擦り付けて甘えると、小さく「敵わねぇってこんなん……」と愚痴る声がした。
苦手なのに間違えて開いちゃった人向けに説明すると、ただのゲロ甘セックスSSです
暗い。
いいや、外はまだ真昼。暗いのは俺の視界だけだ。
顔に当たる肌触りの良いフリースの外側には伸縮性の高い合皮が貼られていて、俺は今、現実の夜にも見たことのないような闇に支配されている。
「っ──」
頬の上──俺の頭を包む合皮の上を何かが撫でていった。次いで、耳の上に振動がくる。
「────」
……何か、言われている。たぶん。
しかし分からない。聴こえない。耳に音を伝えるための空気は断絶されていて、今の俺に届くのは未來が動かす唇の揺れだけ。
微かな振動でしかないそれに意識を集中し何を言っているか聞き取ろうとしたのに、急に肩に触れられ驚きに息を詰めた。
俺の肩から二の腕を撫で下ろした未來の指はさらに肘から手首へなぞっていき、そこに嵌まる手錠の下に潜ってくる。
硬い手錠──重厚な錆鉄を模した塗装とは裏腹に、プラスチック製らしく不安になるほど軽い──が俺の皮膚を傷付けていないか確認したのか、すりすりと撫でた指はまた腕を上っていった。
未來の指は汗ばんで熱い。俺の素肌の上をゆっくりと這いずり、まるで今さら品定めしているかのように何度も何度も往復していく。
素肌に張り付くような感触は指だけでなく、俺に寄り添う未來のすべてがそうだ。
俺に触れるどこもかしこも湿度が高く、そんなに緊張しなくてもいいのにと毎回心配になってしまう。
首筋を吐息が掠めていって、思わず腰を跳ねさせた。
大きく開かされた脚は閉じられないよう未來の膝に押さえ込まれている。
後ろから尻肉を割り開いて穴を弄る指がより深く突き入れられ、中をほじられて気持ち良さに喘いだはずだが、そんな自分の声すら聞こえない。
太い指は俺の尻の中を抉り回し、深く深く穿ってくる。
また耳の上が震えた。何か言っている。
分からない。けれど、何も不安はない。
未來の指がもっと腰を振れと俺を煽る。追い上げられて思考が痺れていく。
「──ッ! ────」
絶頂を目前に、急に指を抜かれて喉を反らして叫んだ。
お預けされた身体が跳ね、けれど拘束されている手足はほとんど動くことはない。
きっと外側では捩れ擦れ合う細い鎖がシャラシャラとうるさく鳴っているだろう。
耳に当たる細かな振動が、喜ぶ未來が笑っていると教えてくれる。
震える腰を持ち上げ、自ら未來の指を食んだ。
未來お気に入りの頭部拘束具は、着けられると何も見えないし聞こえない。
鼻から口にかけてはメッシュ素材になっているから呼吸は出来るが、ボールのような物を噛まされては味覚も使い物にならず、ついでみたいに嗅覚さえ鈍くなっている気がする。
俺に残されたのは触覚だけ。
だから普段より過敏にならざるをえないのに、そうでなくとも鮮烈な快感を与えてくる部分を未來はわざわざ雑に刺激しては急に止め、俺が半狂乱で身悶えるのを楽しんでいる。
未來の指を欲しがって尻を振る俺の姿は、彼の目にどう映っているのか。
未來がまた耳元で何か言っている。辱める言葉なのか、それとも褒める言葉か。
どちらでもいい。どちらでも嬉しいことに違いはない。
出来るだけみっともなく、力任せに身を捩った。
はしたない様はそれだけ俺の余裕の無さだと未來に教えるだろう。
呻き、喘ぎ、腰を振って尻穴にもっと深く指を入れてくれとせがむ。
「──」
低い振動と、宥めるように俺を撫でる感触。
止まっていた指が動き出す。めいっぱい膝を広げ指を締め付けて喜びを示せば、応えるようにほじり回されて目眩がした。
未來の指が1本以上入れて貰えることはない。
VRでブラパの陰茎の太さに慣れた俺がかすかな物足りなさを感じるのはいつも最初だけで、未來は中指1本だけで俺を狂わせ、泣くまでどころか涙が枯れきって目元が腫れ上がるまで責め立て続ける。
きっと今日も、一度イッたくらいでは許してもらえない。
最後は太腿を撫でられるだけでもイきっぱなしになっていた先週を思い出し、あの恐怖混じりの快感が脳裏に蘇った瞬間、内側が爆ぜ痙攣するみたいに腰がビクビクと跳ねた。
「──、──」
全身に汗が噴き出した。どっと疲労感が襲ってくる。
俺が達したのは明白なのに、やはり指は止まらない。
未來がまた何か囁きかけてきている。
聞こえなくとも意味は伝わる。「まだ」と「もっと」だ。
未來と同棲を始めてもう半年。
夏休みもそろそろ終わりに近付いてきて、だからこそ未來の責めがいつにも増して容赦ない。
口には出さないものの、俺が大学に通うのを未來は嫌がっている。
大学が嫌というより、俺が家の外に出るのが嫌なんだろう。
俺の体面を思ってか校舎までの送迎は遠慮してくれているようだが、登校する日は必ずマンションの敷地内ギリギリまで一緒に行きたがる。
「管理人としての仕事のついで」なんていうのが嘘だというのは明白で、じっとりとした恨みがましい目に見送られると……もういっそ中退してしまおうかと思ったのも、一度や二度じゃない。
ドリームラボの筐体が家にあるからバイトがあっても家から出る必要はなく、だから夏休みが始まってからは比較的未來の機嫌も悪くなかったのだけど。
共用のカレンダーに登録してある登校日が近付くにつれ、比例するように現実で俺と致す時間が長くなってきた。
別に嫌ではない。俺と離れる時間を寂しく思う未來は可愛い。……のだけれど、現実でのセックスは正直かなり疲れる。
VRと同じノリで長時間責め続けられれば現実の俺の実体では終わった頃には足腰が立たなくなって、疲労回復の為に寝ると起きたら翌朝だったりする。
せめて本当にセックス出来れば未來の欲も落ち着くのだろうが、未だそうは出来ないから俺ばかりがいつも延々指で責められる事態になっている。
回数比は9:1でVRの方が多いが、これもおそらくは未來が我慢してくれているんだろう。
毎晩一緒に入る風呂で彼のソレがいつでも臨戦態勢なのを見れば、現実の俺とする気がないのかも、なんて疑いを持つ隙も無い。
初めて会った頃に比べれば未來はだいぶ痩せたように見えるし、下腹の肉なんかたぶん半分になっている。
それでも、彼曰く「まだ無理」なんだそうだ。
試してみて失敗したらきっと落ち込むのは俺より未來だろうから、俺はただ彼が「よし」と思うまで待つしかない。
「──」
もう何度か中イキするまで虐められてから、頭の後ろでジィーと音がした。
「はぁ……っ」
ファスナーが上げられ、フェイスマスクが剥がされる。
メッシュ越しではない新鮮な空気を大きく吸い込むと、湿った顔にエアコンでよく冷えた風が当たった。
闇に慣れた俺の目を刺激しないよう、部屋はカーテンが引かれて薄暗い。
それでも未來の満足げな表情がよく見えるくらいには明るく感じて、近付いてきた彼からのキスを受け入れつつも目を細くした。
「隆也」
未來が呼ぶ俺の名前には、色んな感情が隠れているように思えてならない。
普段あれだけ饒舌なくせに肝心なことは口に出来ないのが彼らしいといえばらしいのだけど、もどかしさを感じることもある。
「なんですか、未來」
呼ぶから答えたとばかりに呼び返すのに、未來は黙ったまま後ろから俺を抱き締め、頬に頬をくっつけてくるだけだ。
何でも言ってくれていいのに、と思うのはたぶん、俺が未來より無神経だからだろう。
未來は優しいから俺より俺を想ってくれていて、俺が返事に困るような言葉は言わない方が良いと飲み込む。
それを無理に吐き出させようとするほど悪趣味ではなく、だから俺も黙って未來の体にもたれて彼の体温に包まれる。
セックスの云々が無ければ、正直、痩せてほしくなかった。
未來の大きな体は柔らかくて温かく、触れ合うと幸せな気持ちになる。
最近の彼は上に寝そべった時に俺が沈み込んでいくような感覚が少なくなって、むしろ寂しさすら感じている。
鍛えているからか健康面では問題が無いと言っていたし、出来ることならあまり減って欲しくない、というのが本音だ。
挿入を心待ちにしているだろう未來には口が裂けても言えないことだけれど。
腹と太腿の肉が原因で根本までの入れるのに邪魔らしいのだが、だからといってその2箇所だけを部分的に痩せるというのもまた難しいらしい。
いっそ俺が挿入れる側だったら何の問題もなかったろうに──……。
「……ん?」
唐突に思い付いてしまった名案に、真横にある未來の顔をじっと見つめると彼は目を細めて頬を擦り合わせてくる。
「なんだ? なんか言いてぇ顔してんな」
「いや、その、……とても良い事を思い付いたんですが、未來はもしかしたら嫌かもな、と思って」
俺のアレは聞いてみるまでもなく、ゴムの中で疲れ切って萎んでいた筈なのに思い付いて想像した瞬間にいつでもいけますとばかりに膨らんだ。
脱童貞に期待する下心を悟られないよう目を逸らすが、未來は顔を離すと俺の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でて「言ってみろ」と笑った。
「イイコトなんだろ? 俺はお前にゃ甘ぇんだ、なんでも……」
「俺が未來に入れても良いですか?」
「は?」
「うつ伏せの未來に俺が後ろから乗って入れる形ならこっちでもセックス出来ると思うんですけど、していいですか?」
「…………」
おそらく正常位では豊かな尻肉に阻まれてしまって、俺の普通サイズでは根本まで入れきれないだろう。
だが後背位で少し尻を持ち上げる格好なら重力で尻肉は下に逃げ、穴はちょうど上にくる。
俺が乗る方なら未來に怪我をさせる危険性もなく────問題は、未來が抱かれる側は嫌かもしれない、ということで。
俺を抱き締めたまま固まってしまった未來を首だけで振り返ると、彼は口元をヒクつかせて眉間に深い皺を作っていた。
「俺に……こっちで? 向こうじゃなくて?」
「こっちの未來を、です」
「俺を、抱く……? お前が……? 俺を……?」
どうやら俺の提案は未來をバグらせてしまったらしい。
疑問系で何度も繰り返す未來に申し訳なさが募り、ふるふると頭を振って未來の二の腕を撫でた。
「いえ、あの、嫌ならいいんです。ただ俺が抱く方ならすぐ出来るんじゃないかな、って」
単なる思い付きなので無理しなくて大丈夫です、と続け、そろそろ風呂に入ろうとベッドから降りようとすると肩を掴んで止められた。
「お前、抱けんの? 俺を?」
これだぞ? とばかりに戸惑ったような表情で自分の腹を叩く未來は、どうやら俺が抱く方が出来るのか疑っているようだ。
「それは、その……未來ほど上手くは出来ないと思いますけど……」
「違う違う。そもそも俺みたいなデカいデブ抱くってなって勃つのかよ? って」
「……見れば分かると思いますけど」
未來を気持ち良くさせることまで出来るかどうかはあまり自信が無いが、勃つかどうかと訊かれればもう見せれば明らかでしかない。
もしや使い物になる事を示せばさせてくれるのか、と期待で急速に血を集めた俺のソレが何回分か分からない精液を溜めたゴムの中で窮屈そうにしているのを指差せば、未來は「うお」だか「うえ」だか分からない呻き声を上げ、口元を押さえて何度も首を横に振った。
「……期待させるような言い方しないで下さい。結構傷付きますよ、その反応」
「いや、違う……驚いて。向こうの俺ならまだしも、こっちで抱かれる方は考えたこと無くてな……?」
向こうならまだしも?
「……向こうでは、抱かれる方もやってたんですか?」
今の今まで抱こうと考えなかったくらいには、未來は抱く方だと勝手に決めつけていた。
もしやVRでは誰かに、色んな人に何度も抱かれていたのかと考えると、胸にチリと焦げたような痛みが走った。
抱く方で経験豊富なのは知っていて、そんなのもう今さらだ。
けれど、未來が抱かれる方を想像するとどうにも、抑えが効かなくなりそうな怒りがふつふつふつふつと湧いてきた。
誰に、何人に、上に乗らせることを許したのか。
理性を飛ばして乱れて尻を振る様を、どれだけの人に見せたのか。
俺以外に抱かせていたくせに、これまで素知らぬ顔で俺には選択肢すら寄越さなかったのか。
無意識に未來を掴んだ指に力が籠もってしまったのか、彼は痛みに僅かに眉尻を上げ、唇を尖らせた。
「キレんな。抱かれる方なんざやってねぇよ」
「……1回も?」
「ヤりてぇって言われたことはあるけど、興味無かったからやってねぇ」
未來は痛そうな表情をしつつも俺の手を無理やり剥がすことはせず、ただ揶揄うように手の甲をぺちぺち叩いてくる。
「すみません」
「別に謝るこたねーよ。今さらお前が童貞じゃねえって言われたら俺も同じ反応なるわ」
早とちりで怒る俺を未來は簡単に許し、ついでとばかりに「童貞だろうな?」なんて訊いてくる。
「俺の『初めて』は全部未來の為に取ってありますよ」
「はっは。かわいぃこって」
あながち冗談でもなくリップサービスを返したが、未來はそれを笑い飛ばして俺から身体を離した。
「風呂入ってくるわ」
「? はい」
事後はいつも一緒に入るのだから言わずとも分かるのに、と首を傾げながらベッドを降りていく未來を追おうとすると、彼は振り返ってじろりと俺を睨んできた。
「……お前はそこで待ってろ」
「え?」
「いいからテメエはそこに転がって休んでろってんだよ。いざ始めてから使い物になりませんでした~なんつってもイくまで許さねぇからな」
「!」
どうやら俺の突飛な提案は受理されたらしい。
おそらくは下準備を俺に見られたくないのだろうと察し──俺もそれだけは自分ですると固辞しているから気持ちはよく分かる──言われるがままベッドに転がって未來の背を見送った。
1人になったうっすら湿るリネンの上で天井を見上げ、これから未來とするんだ、と再度反芻すると急に心拍が速くなってくる。
いつかは出来るだろうと思っていたし、未來の体型変化を見ていればそう遠くないと期待していた。
けれど、今日だとも思ってはいなかったし、俺が挿入する方だとはついさっきまで考え付きもしなかった。
こんなに急な思い付きでしていい事なんだろうか。
というか、出来るんだろうか。
「調べよう」
未來が拒否しなかったんだから、不可能ではないんだろう。
しかしそもそも、俺は現実のセックスについてほとんど知らない。
どうせ抱かれる側だからと未來に全部任せる気でいた怠慢を自覚し、慌ててベッドサイドに置いていた端末を掴み調べ物を開始した。
「──ただいま。何してんだ?」
未來が戻ってきたのは、20分ほど経った頃だった。
せっせとベッドの上を整えていた俺に未來が不審そうな声を掛けてきたので、丸めた綿布団の上に何枚もシーツを掛けて小山になった所をポンと叩いた。
「うつ伏せでする時はこういうのを下に敷いた方が体がラクなんだそうです」
「ふーん」
全裸のまま帰ってきた未來の肌からはほかほかと湯気が上がっていて、ボディソープのいい香りがする。
いつもは同じ匂いになるから気にならないのに、今はやけにいい匂いに思えてベッドから降りて未來に抱き着いて深く息を吸った。
筋肉もあるけれど上に脂肪の乗った未來の体はむちむちと柔らかい。
胸の盛り上がりの隙間に顔を埋めると温かくて幸せで、拭き残しの水滴を唇で吸うと「くすぐってぇよ」と耳を引っ張られた。
「おら、甘えんのは後にしろ。ヤんだろ?」
「しますけど、雰囲気が大事だって書いてありました」
「は? なにに、どこに?」
「セックスは初める前にいい感じの雰囲気を作れるかどうかが勝負だって、ネットに」
「……真面目バカ」
「順番が逆だとただの悪口ですね」
童貞なりに調べました! と端末の検索履歴を見せると、未來は胡乱な目で流し見ただけで俺から端末を取り上げ充電シートの上に戻してしまった。
「今さら何が雰囲気だ。俺が今までそんなもん作ったことがあったかよ?」
先日新調したばかりの俺の端末は未來が以前から使っている指輪型の後継モデルで、だからシートの上には未來の端末も置いてある。
大きさの違う2つの指輪が並んでいるのを見るたび、未來と同じ家に住んでいるんだ、とこそばゆく実感する。
未來は枕の小山を何か確認するように軽く叩くと、その上にうつ伏せに体を倒れ込ませた。
「これでいいのか? それともこうか?」
「あ、……わっ……」
脚は伸ばすのかそれとも膝立ちなのかと訊きながら未來は体勢を変えて、おかげで俺の位置からは彼の局部が丸見えになる。
慌てて顔を逸らすと、「おい、そんなんで本当に抱けんのかよ」と揶揄う声が投げられた。
「だっ……抱けますよ!」
「こっち直視してから言うんだな」
鼻で笑いつつも未來の声に馬鹿にする色は含まれていない。
どころか、どちらかといえば心配するような気遣いが窺えて、心を決めて無防備を晒す未來へ向き直った。
195cmの長身は特注したという縦220cmあるベッドでもやっと収まっている、という印象で、小山に乗り僅かに尻を持ち上げた格好でも上下にそれほど余裕はない。動く時は彼の頭がベッドにぶつからないよう気を付けよう。
「し、失礼します」
ベッドに膝を乗せ、背後から未來を跨いだ。
脂肪の減ってきた身体は背中から見ても上半身が逆三角形で、特に腰周りは筋肉も薄いからその下の豊満な尻に比べてやたらと細く見える。
前側はまだふくよかなのに、と腰のくびれから前に向けて指を滑らせると、びくりと肉が揺れた。
「すいません。手、冷たかったですか?」
「……別に」
机で仮眠する時みたいに両腕の上に頭を置いた未來は、振り向きもせずくぐもった声で素っ気なく答える。
……緊張している。
未來が、と驚きつつも、未來も、と思うと嬉しくて笑ってしまいそうだ。
「ローションとゴム取りたいので、一度上を失礼しますね」
無駄に揶揄うつもりも不安にさせるつもりもなく、ヘッドボードに置かれたそれらを取る為に後ろから腕を伸ばそうとすると未來の手が先に掴んで「ん」とこちらに渡してくれた。
ただ、ゴムだけだ。
「……さっさと入れろ」
「え、いやでも、ちゃんと緩めないと」
「二度手間だ」
「二度手間? ………………あっ、はい」
言われた意味が一瞬分からず未來の言葉を反芻してから、慌ててゴムの袋を破って自身の陰茎を擦り立てた。
中の洗浄だけでなく、緩めて潤滑剤を仕込むことまでしてきたと言われてこれ以上問答を続ける理由は無い。
後ろだけで十分打ち止めになっていておかしくないのに、休息していた俺の陰茎は数秒ですくすくと育ってくれて、薄桃色のゴムを被せるとその下で窮屈そうに一層張り詰めた。
逸る気持ちを抑えながら片手で未來の尻たぶを掴み、穴の位置がよく見えるように広げて陰茎の先を押し付ける。
窄まったそこは肌より濃い色をしていて、未來の呼吸に合わせて微かに開いたり閉じたりしているように見えた。
未來が下準備に使ったローションなのか、ぬらぬらと透明な蜜で濡れているのが殊更におかしな気持ちにさせる。
「痛かったら言って下さいね」
「……ハッ」
股間にきた衝動のまま貫いてしまいたくなったのを我慢して気遣う言葉を掛けたのに、返ってきたのは鼻で笑う音だけだった。
はたして未來が笑ったのは生意気を言う俺なのか、それとも俺なんかに抱かれる事態になった彼なのか。
どちらでも良いけれど、どちらだとしても少しだけ癇に障った。
「……っ……」
「っ、あ……ぅ」
だからその余裕を崩してやろうと軽くめり込ませるつもりだったのに、押し付けた陰茎は予想外にすんなり埋まっていって、一突きで半分ほどが未來の中に入ってしまった。
ぎゅぎゅぎゅ、と連続して強く締め付けられた後、未來が大きく息を吐く音と共に弛まっていく。
どく、どく、どく、と鳴る鼓動を陰茎の先、未來の内側で感じる。
入った。挿入れた。
未來の中に、内側に、俺がある。
「ご……め、なさ、い……っ!」
「あ?」
なんとか謝ったのは、腰を振り始める前だったか、後だったか。
どういう意味だと問うような声を出した未來に答えてやれる余裕はなく、抉り込むように腰を叩き付ける。
喉をのけ反らせるように未來の頭が揺れた。
俺を飲み込んでぎゅうっと強く締まった未來の穴から、無理矢理引きずり出すように腰を引くと未來の尻たぶがぶるぶると震えて波立った。
先端の括れが千切れそうなくらい締め付けたままになっているそこに、間髪入れず再び突き立てる。
「ごめ……なさ、未來……っ、痛かったら、止める、ので……ッ!」
思考と体が完全に分離されてしまったみたいに、勝手に腰が動いて止められない。
未來の制止の声が上がれば必死で我慢出来るかもしれないが、それが無ければきっと睾丸の中が空になるまでサカり続けてしまいそうだ。
犯される側では感じたことのなかった衝動で、これは挿入する側だからなのか、それとも相手が未來だからなのか、ともはや端の方に押しやられた意識でうっすら考える。
未來の喉から押し潰された悲鳴が「ぐ」と音をさせた。
歯を食いしばっているのか、ベッドシーツに爪を立てた未來の背中に汗が浮いてきた。
頭を下げ、それを舌で舐め取る。
「痛い、ですか?」
しょっぱい、と思うのと同時に未來が身を捩ったので、膝に乗せていた体重を腰にかけて更に奥まで犯していくと未來は背中を反らせてイヤイヤするように頭を振った。
「かわいい……」
ボソリと呟くと、未來はまた頭を振るがいつもならよく回る口からは何も飛び出してこない。
そんな余裕が無いんだろう、と思うと愛しさがこみ上げて、うつ伏せの彼の身体を覆うようにぴたりと同じ形で乗り上げて顔の下にきた未來の皮膚にキスをした。
肩甲骨の間の窪みをなぞるように舌で舐め上げると、未來の体が小刻みに震える。
未來の深い所から抜きたくないのに、苛立つ腰が勝手に揺れて繋がった所からちゅぽちゅぽとキスしている時みたいな音が鳴っている。
「……っれ……て」
長い髪の散らばる未來の頸に歯を立てると、彼が何か言った。
「なんですか?」
聞き取れなかったので背伸びするように未來の頭の方へ顔を寄せると、彼は大きく喉をのけ反らせてからまた頭を振った。
そして、腕で上半身を起こして逃げ出そうとするのだけれど、すぐに崩れ落ちる。
震えながら頭を振る未來の肩口に歯を立てると、彼は言葉にならない呻きを漏らしながら肩を捩って体をうねらせた。
俺と未來が繋がる部分はずっと出し入れが止まらない。
俺が慣れない動きに疲れて腰を止めても、未來が動く。
上半身は逃げ出そうとしているのに、腰から下は俺が抜こうとすると縋るように追ってくる。
きっと未來も初めてで訳が分からなくなっているんだろう。
そんな未來に煽られない筈がなく、また俺も腰を振る。
未來の中に入れながら、未來に抱き着いて、未來を齧って、未來の乱れる息を聞いて、未來を犯す。
逆でも十分幸せだと思っていたけれど、これはこれで……いや、現実だからこそ、俺は抱く方が好きかもしれない。
軽く腕を振るだけで俺を跳ね飛ばせるはずの未來が、大人しく俺の下になることを受け入れている事実にたまらなく興奮してしまう。
ずっとこうしていたいくらいなのに、現実では脳より肉体が優位で、だからいくら我慢したくても射精の誘惑には抗い難い。
「未來、未來……、イッても……いいですかっ……?」
気持ち良さそうに──少なくとも痛いばかりではなさそうに見えるが、さすがに達するまでは出来ていないだろう。
初心者の俺が陰茎で突くだけでそこまで出来るとは思っていないが、せっかくの初めてなのに中途半端で終わらせたいとも思わない。
せめて未來の気持ちだけでも満足したか確認したくて訊くと、未來から返ってきたのは言葉未満の掠れた呼吸音と一層キツい締め付けだった。
それらを許可だと判断して、未來の両腕ごと抱き込んで隙間なく体を合わせて腰だけを必死に振り付ける。
俺の下でビクビクと痙攣するように震える未來の頸に歯を立てて噛み付くと、さらに大きく跳ねて奥が大きくうねった。
俺から搾り取ろうとするような動きに身を任せ、精を放つ。
まるで頭の中から血のすべてが出ていってしまうんじゃないかと思うくらいこめかみの血管がドクドクと鳴って、全部未來の中で出し切りたくて腹に力を込めると視界が白く煙った。
「……はー…………」
脱力して未來にすべて凭れると、下に居る彼と長いため息が被った。
「あ、すいません、重いですか?」
「……なワケねーだろ。しばらく乗っとけ」
「いいんですか?」
「入ってる感覚イイんだわ。勝手に抜けるまでそのまま動くな」
「あ、はい…………え、あ、えっと、はい」
あけすけな感想にたじろぐ俺に、未來は「なんで2回言ったよ」といつものように笑う。
「入れられる方も悪くねえな」
「そ、それは……何よりです」
「されっぱなしでなんも出来ねぇと苛つくかなーと思ってたけど、なんかお前腰振るだけなのに必死こいてて可愛かったし」
「う……」
「それにしてもお前、噛み過ぎじゃねえか? 肩とか首すげぇヒリヒリすんだけど」
「す、すいません!」
「馬鹿、動くなって……あー抜けたじゃねえか」
揶揄われて身動ぎすると萎んだ俺の陰茎が未來からずるりと抜けて、それを残念そうに責められるとカッとなった。
「もう1回したいです、未來」
「はぁ? さすがにもう打ち止めだろ、お前」
「そうですけど、したいです」
上から降りて傍に正座して強請ると、未來はうつ伏せから横向きに体の向きを変えて俺を見上げ、呆れたような表情を浮かべた。
「いや勃たないモンでどうやってヤんだよ」
「今は無理ですけど。夜に、もう1回」
さっき端末で確認した時刻はまだ夕方前だった。
これから休憩して、夕飯を食べて、それからならきっともう1回分くらい復活するはず。
未來が俺に甘いのを分かっていて言い募ると、彼はしばらく逡巡するように短い顎髭を撫でて、しかし予想通り「しゃあねえな」と折れてくれた。
「こんなデケェ男抱きたがるなんざ、相当な物好きなぁ、お前」
ちょいちょいと振った指で隣に寝ろと示され、ゴムを外してから寝そべると大きな手に頭を撫でくり回される。
照れ隠しなのかもしれないが、卑下するような言い方をする未來は少し不愉快だ。
「でかい人だから好きなんですよ」
「……元から?」
「ブラパを好きになってからです」
「現実の俺が鹿……いや、ドラさんみてぇな見た目だったら?」
「DragOnさんみたいな人を好きになってたでしょうね」
「もうちょい外見にも興味示せよ。痩せる気失くすだろうが」
張り合いのねぇ奴だな、と溢しつつも、俺を撫でる手はさっきよりも軽くなった。
「興味はありますよ。中身が未來ならどんな外見でも好きになるってだけです」
「本当に世辞が上手ぇな、お前は」
「未來に好かれる為に日々研鑽してますから」
「これ以上好かれてどうすんだ。外出れなくなりたいのか?」
「外に出ないとビタミンがどうの、って連れ出される未来が見えます」
「預言者で食っていけるなお前」
次第に軽くなる話題に、心底から安寧を覚える。
未來がどうして拘束具を好むのか、薄々気付いている。
怖いのだ。
俺が離れることが、そのまま失うことが。
このマンションにはもう一部屋、未來が所有している部屋がある。
事務所だと聞いたけれど、一度用事で入った時に見たのは『生活感のある普通の部屋』だった。年季の入った和家具の並ぶ、すぐにでもそこで寝食出来そうな。
俺が訝しむのを表情で察した未來は、けれど「亡くなった親父が住んでたんだ」としか言わなかった。
付き合い始めてから過剰なほど不安の種を摘んで回るようになった未來が詳細を語らなかったのはあの部屋に関してだけで、だからこそ、肉親を喪った悲しみがどれだけ深いのかも知れる。
まだ両親が存命の俺には実感も共感もとうてい出来ないけれど、未來が喪失を過剰に恐れているのはそれが故だろう。
重荷だとも、ましてや好都合とも思わない。ただ不健康だとは思う。
未來が俺を甘やかすのは、愛情もあるかもしれないが、怖れから目を逸らす為のように見えるからだ。
甘やかして傅いて宝物のように扱って、そうしたらきっと離れていかない。
未來に自覚は無いかもしれないが、そんな切実な痛々しさが目の奥に見えることがある。
きっと未來の本性は、もっと横暴で自分勝手。それこそ、出会った頃のブラパのように。
だから、俺に、未來のことを世界で一番大事に愛していると自負出来る俺に出来ることは。
「たぶん、未來の目が好きなんです、俺」
「目ぇ?」
直線距離で約20センチのところにある未來の目を見て言うと、それはくにゃっと目頭と目尻が曲がって不思議そうにする。
「俺のこと見る時、好きーっ! て言ってる気がして」
「……はあ?」
「俺もそうじゃないですか?」
「お前結構恋愛でポエミーになるタイプなのな」
「えぇー? よく見て下さいよ、見れば分かりますよ」
「いやいつも見てるって……」
「もっと真面目に! 真剣に! 至近距離で! ほら!」
「うわだる」
いつも自分から絡んでくるくせに、俺からいくと未來はちょっと鬱陶しそうに見せかけるのが割と好きだ。
逸らした目元が赤くなって、照れているとハッキリ分かる。
近付いたついでに軽くキスを仕掛けると、何度目かで唇を噛まれ舌が突っ込まれてきた。
唾液を交わしてしばらく味わってから顔を離すと、目を開けた先で未來と目が合って、しかしすぐに逸らされ、珍しく未來は動揺しているみたいに何度も目を合わせたり逸らしたりを繰り返す。
「……で」
「未來?」
「何をそんな凝視してくんだよ。どっか他所向け、他所」
「え、なんですか急に。見て下さいってば。俺だって未來のこと好きだって目してるでしょ?」
「……アホ。うるせぇ。見んな」
「えぇぇ、ひどい~」
傷付きますぅ、と言いつつ、俺は遠慮なくゲラゲラ笑う。
とうとう耳まで真っ赤にした未來は体ごとそっぽを向いて、布団に顔を埋めた。
どうやら俺の言ったことは正確以上に伝わったらしい。
「大好きですよ、未來」
「うっせ……俺もだっつの……」
「ですよね~」
一瞬未來の拳がグッと上がって、けれど俺にぶつけられることはなかった。
きっと今後も本気で彼に殴られることは無いだろう。
けれど、軽く叩くくらいなら。ツッコミで手の甲が飛んでくるくらいなら、あるかもしれない。
初めて会ったあの日みたいに。
遠くない日だといいなと思う。
未來を好きなのは、俺を甘やかしてくれるからじゃない。
未來が未來で、そんな未來を好きな俺を好きだって目で見返してくれるから。
けれどどれだけ慣れようと、好きな人と見つめ合うのは気恥ずかしい。
照れはお互い様だ。俺だって今、猛烈に耳が熱い。
心が示す体の反応はいつだって一番素直だから、不安になったら、俺の気持ちを疑いそうになったら、いつだって。
「見れば絶対、分かりますからね」
未來の背中に額を擦り付けて甘えると、小さく「敵わねぇってこんなん……」と愚痴る声がした。
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虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
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【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
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見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
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【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
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感想とか書くのが苦手なのですが本当に好みのお話で大好きです。ありがとうございます。
久々に好みの作品に出会えました。
初夜編楽しみにしてます笑
クライマックスですね〜。最初からもう一回読み直してしまいました。更新楽しみにしてます!