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48 月曜
しおりを挟む今日は午後から1コマだけあるので、午前中3時間だけケーディーキューに出社し、昼に退社してそのままロキワへインした。
ゲーム内掲示板では、もう昨日の映像ログが出回って話題になっている。
素直に俺の動きを褒めるスレッドから、チート検証してどうにかBAN出来ないかと画策しているスレッドまで様々。
ここ最近は亀砂の話題なんてワードすら上がりもしなかったのに。
続けてソロコロのランキングを開き、一夜でかなりの変動があったことに驚いた。
うちのギルメンだけでなく、知らない名前がそこそこランクインしてきている。
ギルド単位での参加が出来なかったソリストたちが城主決定戦を聞きつけてきたのかもしれない。
深夜帯はかなりの激戦だったのか、昨日6位でログアウトした俺の順位は13位まで落ちてしまっていた。
勝率レートと勝利ポイントの合算で変動するランキングだから即座に100位以下に落ちることはそう無いだろうが、週末まで放置したら圏外になりそうだ。
暇をみて試合に潜ろう。
土日の雰囲気だと城戦参加メンバーはみな城主決定戦の方に参加する気のようだったけれど、そうなると同時刻に開催される城戦はどうするつもりだろうか。
誰かが城戦に残るのか、それとも捨てるのか──。
ギルドリストを開き、ブラパのログイン状況が『ルーム』になっているのを見て彼に聞きに行こうとマイルームへのローディングドアを出した。
……が。
「『ロックされています』……?」
ビビッ、という警告音の後、赤字のポップアップと共に出てきたのは鍵に大きく×が描かれたマークだった。
初めて見るものに驚いて数秒ただ無意味にそのマークを叩いてみたりして、けれどそれはまた耳障りな音を出しただけ。
ややあってから、ブラパに入室禁止にされたのだと思い至った。
「……」
ビビッ。ビビッ。ビビッ。
手遊びみたいに何度か押して、それから気怠くドアを消す。
『特別な贈り物』を贈るだけ贈って放置したから、だろうか。
俺を勘違いさせない為の処置だとしたら流石としか言えない。
こんな仕置きを受けると分かっていたら、さっさとあんなもの回収したのに……。
一気に重くなった気持ちを腹の中に隠し、ギルドルームへ移動した。
別に、ブラパのマイルームでなければ出来ない話ではない。
ギルドルームで待っていればそのうち出てくるだろう。
「こんにちは」
「ちゃーす」
「亀くん、こんにちは~」
見知った顔がいたので挨拶し、いくつかあるソファの隅っこに座るとわざわざ彼らは腰を上げてこちらへ歩いてきた。
「どしたの、珍しいね」
「え?」
よほどでない限りログインを欠かさない俺の何が珍しいのだろう。
インするアバターを間違えでもしたかと自分の手を見たが、緑ではなく薄橙だ。
「いつもコロかブラパのルームかの2択じゃん。誰か待つ感じ?」
「暇なら麻雀しようよ。最近ハマってるんだ、僕ら」
ルール分かる? とマシューさんに訊かれ、否と首を横に振る。
するとすぐさまルールブックが渡され、オルテガさんが目の前のローテーブルをどけたかと思えばどすんと麻雀卓が現れた。
「もうすぐ地球くるっぽいから、それまで簡単にルール教えるよ。ドンジャラならやったことあるでしょ?」
「他世界のミニゲームでなら何度か……」
「おっけおっけ、じゃあ分かりやすい役と鳴きのやり方だけ分かればいけんね」
専用の全自動テーブルらしく、じゃらんじゃらんと煩く鳴っていたかと思うと2段に積まれた麻雀牌が四辺の前にニュッと下から持ち上がってくる。
俺の左右に座ったオルテガさんとマシューさんは、じゃんけんをしてから鮮やかな緑色をしたテーブルの真ん中に置かれていたサイコロを2つ掴むとポイと振った。
「じゃんけん勝ったから、俺が親ね。んでサイコロが1、2、3、4……ここから俺が4個ずつ取る。今は3人だから次はマシューがここ。んで亀吉」
「あ、はい」
「3回取って手元に12個になったら、次は1個だけ取ってね」
「親の時は2個な。どうせ最初に引くの自分だから」
「はい」
ルールブックを渡されたが読む時間はくれないらしく、2人に両側からああしてこうしてと指示されるままに手を動かしていく。
「これで13個。3、3、3、3の、残りが2。この形で役が完成すればアガリ」
「役はドンジャラと大体一緒だから。123とか567とか順番になってるやつか、333とか555の同じやつ3つ。それに頭っていうのが2個同じ牌ね。それ揃えればいいだけだから」
「揃え方で点数とか役も変わってくるけど、他の役はルールブックの背中が一覧になってるから、それ見ながら狙ってみて」
説明はシンプルで手早く、彼らの頭の回転の速さを物語っているようだ。
聞いたままをやっていくので手一杯になりながらも、ルールブックをひっくり返してそこを一瞬見て『役』というものを暗記する。
「最初は教えながらだから、牌倒してみんなに見えるようにしてやろっか」
「え、いいのそれ? 俺、捨て牌の優先順位とかマシューと結構違いそうだけど」
「だから良いんじゃない。……あ、そういえば亀くんって誰を待ってるんだっけ?」
集中して見逃したら申し訳ないから教えといてよ、と言われ、手牌を倒しながら「ブラパです」と言うと2人揃って変な顔をした。
「ブラパならルームに居んじゃん?」
「……俺、どうやら出禁にされてしまったようなので」
マシューさんが牌を種類ごとに並べ変えているのを見て、俺も真似して左から漢数字の牌、線の牌、丸の牌、と並べていく。
「出禁?」
「ルームロックのこと? ……鍵なんか掛かってないみたいだけど」
宙を動かす手の振りで、どうやらマシューさんがブラパの部屋へのローディングドアを出したようだと察する。
が、残念ながら俺にはそこに何も見えなかった。
「鍵どころか、俺にはもうドアが見えないです」
「え……」
「マジか」
どうやらドアがあるだろう辺りを見つめて気まずそうな表情をする2人に、気を遣わないで欲しくて手を振りながら笑ってみせる。
「週末についての話があるだけなので、ここで待ちますよ。15時前に一旦落ちますけど、その後また戻ってきますし」
密室でないと出来ない話ではないから、と伝えるが彼らの表情は芳しくなく、オルテガさんは牌を並べないなと観察していたら急にソファから立ち上がった。
「ちょっと声掛けてくるわ。ブロックとか……なんか操作ミスかもしんないし」
「そうだね。それがいいよ。行ってきて、オルテガ」
「え、いや別にそんなに急ぎではないので……」
構わなくていい、と俺が言い切る前に、オルテガさんはマシューさんが出したらしきドアの辺りへ消えていってしまった。
それほど仲の良いわけでもない俺をこんなに気遣わせてしまうのだから、ギルド内恋愛を禁止したいギルドが多いのも頷ける。
というか……。
「俺がブラパを好きなの、そんなに分かりやすかったですか?」
隠そうと思って行動したことも無いけれど、俺からブラパに好意満面に絡んでいった記憶も無い。
ずっとブラパの方から迫られていたような気がするくらいで、逆ならまだしも。
俺が首を傾げると、マシューさんは視線をうろつかせながら倒した牌の表面をしきりに指で撫でて言い辛そうに口を動かした。
「いや、うーん、逆……? や、途中からは両想いだな~? と思ってたというか、ブラパの片想いが実ったんだなーと思ってたというか……」
どうやらマシューさんも好意の矢印が逆だと勘違いしていたらしい。
が、ここ最近のブラパの俺への態度の変化を見れば、よほど鈍くなければそうでないと気付いた筈だ。
「残念ながら、俺の片想いで終わりを迎えたみたいです」
それこそ、ついさっき。
特別な贈り物を受け取ってくれたのはまだ一昨日で、なんとか延命出来そうだと安堵したというのに。
マイルームは普通なら個人的な領域。
けれど、ブラパのそこはいつでも誰でも入室可能になっている。
そんな場所にすら入ることを禁止されたのだから、もう本当に粉微塵すら希望は残されていないのだ。
いっそ清々しい終わりで、拒絶の言葉ひとつすら受け取らせて貰えなかったことに気付いて笑うしかない。
「まあでも、このままこのギルドにいても皆さんに無駄に気を遣わせてしまうと思うので、週末の試合が終わったら抜けるつもりです。今までお世話になりました」
「……」
牌を並べ終えるとマシューさんは無言のまま横から手を伸ばしてきて、それらを2、3個ずつの纏まりに小分けにしていった。「この3と4、これは2か5がくれば1つのメンツになるから両面待ち。こっちの8と9は7でしかメンツにならないから片側待ち。どっちが引ける確率高いかは分かるよね?」と訊かれ、「両面の方ですね」と答えると頷いてもらえた。
続けて他の待ち方ついて教えてもらっていると、マシューさんの後ろにニュッとオルテガさんがロードしてきた。
その顔は暗い。
おそらくブラパの反応は芳しいものでは無かったんだろう。
「おかえりなさい、オルテガさん。ブラパ、忙しそうでした?」
「あ~……ん~……」
本当の事なんて言わず適当に誤魔化してくれればいいと祈るようにオルテガさんに話し掛けるが、彼は悩んでいるみたいに眉間に深い皺を寄せて長く唸った。
これまでなんだかんだと苦しい状況で助け舟を出してくれたのはほとんどオルテガさんだ。
空気を読むのは得意な彼だろうに、どうしてか言うか言うまいかと逡巡しているようで俺とマシューさんの顔を視線で行き来している。
「言いにくいなら言わなくても……」
「言いなよ」
俺が止めたのに、マシューさんは硬い声で促した。
オルテガさんはホッとしたように、けれど一瞬口をへの字に結んでから誰も座っていないソファを蹴り上げた。
「ヤッてた」
吐き捨てるような言い方から、きっとオルテガさんにとって自分1人の中に仕舞っておくのは辛いものだったんだろうと推察した。
マシューさんがやっているように、牌を指の腹で撫でてみる。
うっすらと凸凹は感じられるが、何と書いてあるかは分からなかった。
「相手、知らんヤツ……。うちのギルドの奴じゃない。声掛けたんだけど、取り込み中だ、って追い出された」
「それだけ?」
「……ジューブンじゃね」
「それだけにしては戻ってくるまで時間掛かったかなって」
座りなよ、とオルテガさんに腰を下ろすよう勧めたマシューさんは、俺には「人差し指じゃなくて親指の先でやるんだよ」と何故か指の指定をしてきた。
言われた通りにしてみたが、さらに分からなくなった。
「すぐ戻って亀吉の顔見たらキレそうだったから、自分の部屋で頭冷やしてきた」
「えっ、俺何かしましたか!?」
自分の席に座ったオルテガさんは、牌を種類毎に並べることなく14牌の中から1つ取って自分の山の手前にそれを捨てた。
「亀くんに同情してブラパにキレそう、って意味だよ」
オルテガさんを怒らせるようなことをしたかと慌てた俺に、マシューさんが即座に牌を捨てながら言う。
「はい次、亀くんね。捨てる順番は、一番揃う可能性が低い牌からだよ。どれだか分かる?」
「えぇと……この、西? ですかね」
「そうだね、それは自風でも場風でもないし。……あ、ドラ捲るの忘れてた」
ドラっていうのはアガリに含まれてたら点数アップするボーナス牌のことね、と言いながらオルテガさんが積まれた牌の山からぺろりと1枚捲る。
「チーソウ。ドラも乗らないし、まず西でいいだろうね」
「配牌良くないし、俺なら持っとくけど」
マシューさんが俺の捨て牌にGOを出した横から、オルテガさんはNOを出した。
「え、なんで? 邪魔じゃない」
「他にも要らん牌いくらでもあるんだから、むしろ安牌1個抱えとく方が安心しねぇ?」
「えぇ……他の牌ならいくらでも使える可能性出てくるけど、西に限っては運任せの場荒らしかノーテン回避くらいにしか使えないでしょ。1巡目で持っとく牌じゃないよ」
「この配牌からキューピン必要になるアガリの方がナイんだから、そっち捨てる。俺なら」
「点数低くなっても勝ちの可能性が高くなる西捨てるよ、僕はね」
どうやら麻雀というのは、考え方によって捨てる牌ひとつも火種になる苛烈なゲームらしい。
どちらに共感する、とばかりに2人に見つめられ、うーんと考えてから⚪︎が9個描いてある牌を捨てた。
オルテガさんが勝ち誇ったように両手を掲げる。
「えっ!? そんな……真面目な亀くんなら僕寄りの考え方だと思ってたのに……」
「すいません、俺、勝ちの可能性が上がるより負ける可能性が下がる方を選びがちで」
しょんぼりと肩を落とすマシューさんに言い訳しながら、無意識に答えたその内容に自分でハッとした。
俺は何をやってもそういう選択肢ばかり選ぶんだな。
その選択によって恋愛ゲームで惨敗したばかりで、ハハ、と乾いた笑いが漏れた。
急に笑った俺を、オルテガさんが不審そうに見る。
「ボクはマシューくん派だよ~」
「わっ」
急に割り入ってきたのは地球さんだった。
まだロードが未完了で顔のあたりが不明瞭で、まるで大きな毛玉の塊みたいだ。
背後から声を掛けられて振り向いたマシューさんが驚いている。
「選択肢は多ければ多い方が良い。負けの可能性を考えて強めのテを残すくらいなら、常に大きい役狙っていく方が楽しいよね~」
ロード完了した地球さんは空いていた俺の向かいのソファに座って、牌が開いているのを見て「亀吉くんに教えてるとこなんだね~」とハフハフ笑った。
「始めたばっかだし、地球こっから牌取って参加しなよ」
「は~い」
手を付けていない山から牌をごそっと持っていった地球さんは、それを表に返しながら並べていく。
種類毎にしているのはマシューさんと一緒だが、その順番は違う。
「地球さんは線のやつを一番左にするんですね」
俺が訊くと、地球さんは「あ~、これ、亀吉くんは苦手なゲームかもしれないね」と嬉しそうに言った。
「え?」
「麻雀はね、どれだけ人を騙して小馬鹿にして楽しめるかの心理戦だから。真面目で人を疑わないタイプの亀吉くんとか、嘘もナイショも苦手なオルくんはとっても不利なんだよね~」
「は~? 俺だいぶ強くなってきたけど? 経験年数長いからっていつまでもまだ負けないなんて思ってると泣かせんよ?」
「わああ~、楽しみだな~」
見くびられたと感じたらしいオルテガさんが地球さんを煽るが、地球さんはふかふかの肉球をぽてぽて叩き合わせてニコニコと煽り返している。
マシューさんはそんな2人をこっそり指差し、「麻雀始めるといつもこう」と俺に向けて肩を竦めた。
……楽しい。
そう、ここは、楽しい。
ブラパに強制的に加入させられたギルドだったけれど、ここは、ここにいる人たちは皆優しくて、優しいだけじゃなくて、だけど俺を迎え入れてくれた。
優しいから存在を黙認してくれるんじゃなくて、俺を見て、俺と遊んで、それでたぶんそれが楽しかったから、俺を好いてくれた。
俺がみんなを好きだと思ったように。
「……抜けたく、ないなぁ……」
口から溢れたのとついでに、じわりと視界が滲んだ。
来たばかりの地球さんが驚いたように目を丸くして、犬の顔が目を剥くとそんな顔になるんだ、と思わず噴き出してしまう。
「す、すいません。なんでもないので、気にせず続けて……」
「かしらかしラ~」
「ごぞんじかしら~?」
「っ!?」
変な空気にしてしまうのが嫌で誤魔化そうとしたら、今度は俺の背後から左右に双子が生えてきて思わず叫ぶところだった。
「なんだっけ、ソレ」
「ウテナ~」
「ミーム動画で見たことあるかも。で? 何を知ってるかって?」
双子がロードしてくるのは彼らからは見えていたんだろう、オルテガさんとマシューさんはやってきた2人をそれぞれソファの肘掛けの所に座らせて、「お前ら麻雀わかる?」「ついでに教えてあげようか?」と牌を指差している。
「あのネー、俺ら調べてきたのネー」
「夜通しネ~~~」
「何を?」
「ソロコロのルールだヨー。なんとなんと~?」
「なんとっと~?」
眠そうに目を擦った笑顔さんと、ウトウトしながら本のページを捲るような動きをするごまさん。
ソロコロについて調べたというなら現実世界ではないんだろうから、動作に関してはそれっぽくしただけなんだろう。
だらららら~……とどこからかドラムロールのSEがしてきて、芸が細かい、と感心しながら聞いていると2人揃ってビシッと俺を指差してきた。
「ソロコロのルールに、『プレイヤー同士で組むな』っていうの、ナイ!」
「ナカッタ!」
「……へ?」
共闘禁止がルールに無い?
そんな基本ルールが無いはず無いと思うのだけど、双子は目を瞬かせる面々をニンマリした顔で見回し、それから小さな文字がズラッと並ぶサブモニターを宙に掲げてバンと叩いた。
「ルール全文読んダ! 無い! 過去の亀吉の試合全部見た! 誰もルール違反でプレイアウトになってない! 亀吉を組み撃ちスレスレで倒したプレイヤーに聞いてきた! 誰1人警告すら出なかったって! つまり!」
「ソロコロは、組んでイイ!!」
ロキ様のイベント説明はいつもざっくりで、詳細な説明は公式サイトに掲載されているのは誰でも知っている。
けれど、配慮に配慮を重ねた、詳細をすべて説明しきろうとしてかえって何も分からなくなっている長文など、誰がしっかり読むだろう。
大抵の人はプレイしてから分からなかったところを読むか、もしくは赤字で書かれた重要な注意点だけかいつまんで頭に入れるくらいに違いない。
俺も後者だ。
「いやでも、どんなゲームだってソロモードの基本じゃん、共闘禁止って」
牌を捨てながらのオルテガさんの言葉に、皆が揃って頷く。
「共闘オッケーのソロモードなんて。ありえないよ~」
「だよねぇ。書き忘れてるか警告が出ない仕様なだけで、内部で違反点数積み上がってるとかじゃない?」
「だよなぁ。組んでいいなら誰だって知り合いと組むし、なんなら大人数で1人を守って勝たせる姫プだって出来んじゃん」
地球さんを皮切りにありえないと首を振る彼らに、双子は今度はオルテガさんを指差した。
「ソレ」
「それだよ~」
「は? それって?」
「ウチらが選んで、勝たせられるんだヨ。お城の城主になる、衛兵が守るべき対象の城主様をサ」
ごまさんがニヤリと笑う。
数瞬し彼の言葉を全員が理解した瞬間、示し合わせたように皆が両手の拳を握った。
……俺以外。
「よっしゃよっしゃ。いいじゃん、使えんじゃん、それ」
「よくやったね、ラフごま。飴ちゃんあげようね」
「いいねぇ、下剋上かぁ。やってみたかったんだよねぇ」
「何人集まっかな? トングとかHAYATOってガチで上狙ってんの?」
「鹿花さんには伝えない方がいいよね。怒られそうだし」
「そうだね。はるるとかももちゃんはどうかな、協力してくれるかな。ミド~リンは絶対やるって言うよね」
「言うね」
「ロニは俺らが説得するから任せテ~」
「おっちゃん面白いから最近仲良いの~」
やおら何か画策を始めた彼らはサブモニターにコロシアムの現在のランキング表を映し、「コイツ俺の知り合い」「このへん昔世話してやったからいけるはず」とプレイヤー名を確認しながらああだこうだと話し合い始めた。
1人だけ置いてけぼりになってしまって、一体みんなは何を始める気なんだとオルテガさんに助けを求める熱視線を送っていたら、気付いた彼は綺麗にパチンとウインクして、そしてギルドルーム内の注目を集めるようにソファの上に飛び乗った。
「打倒ブラパの下剋上! こっちの大将は亀吉! 参加する奴~!?」
「へっ」
元気よく呼び掛けたオルテガさんに、ギルドルームにいた数十人が「なに?」「楽しいこと?」「コロやってないけど協力できる?」とわらわら集まってくる。
いや、ちょっと待って欲しい。
打倒ブラパ? 下剋上? そして俺が大将? ……ど、どうして?
なんでそんなことに、と泡を食って止めようとするが、ハイテンションの彼らは大将の筈の俺のことなんかそっちのけで作戦について激論を交わし始めてしまう。
「あのっ……なんでっ……」
「ブラパなんてボッコボコー! ハハハッ!」
「序盤のうちにDragOnさんもヤれないかなぁ。あの人にこっちの人数削られるのが一番怖いよね」
「全員でフクロダタキー! ワハハハハハ!」
精一杯話しかけてみるも、双子の笑う声の方が大きくてあえなく掻き消されてしまった。
どうしよう。止めないと本当に、週末の城主決定戦でギルド内下剋上が行われてしまう。
突然の裏切りがゲーム内掲示板で取り上げられない筈がない。
大将として担ぎ上げられた俺が首謀者として報じられることは想像に難くなく、鹿さんの般若面もまた、想像するまでもない。
「み、皆さんお願いだから話を……いや、せ、せめて大将を俺以外に……!」
鹿さんのガチ説教は嫌だ! と声を張る俺の肩を、ポンと後ろの人に叩かれた。
助けの手かと振り返るが、HAYATOさんは鎮痛な面持ちで首を横に振っていた。
「覚悟を決められよ、大将……。こうなった此奴らは、止められない」
「そんな……」
「皆の者、静かに。謀反は気取られてはならない……明智のように」
演奏の指揮でもするように頭上で腕を振って止めたHAYATOさんの姿に、そんなに大きな声でも無かったのにピタリと全員が口を噤む。
が、
「──敵は本能寺にあり」
というHAYATOさんの言葉を音頭に、ギルドルームが震えるような「オーッ!」という鬨が上がった。上がってしまった。
俺はなすすべなく、「光秀、謀反の後すぐ死んだじゃないですか……」と呟くしかなかった。
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