賞味期限が切れようが、サ終が発表されようが

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37 懐古の苦み

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 コロシアムメンバーが増えた初めての週末、東城を落としに行った攻撃チームは実にアッサリとそれを成功させた。
 前衛特化の双子に、地球さんの遠距離狙撃サポート、そこにミド~リンさんとブラパの中衛サポートが入るのだから、確かに明星以外のチーム相手なら善戦するだろうと確信していた。
 が、実際の試合を観ていた側からすると……正直、相手チームに同情したくなるくらい陰湿な試合内容だった。
 どうやらブラパは1回で東城を落とす気は無かったのか、何度有利状況で相手チームのプレイヤーと接敵してもトドメを刺さずに逃し続けた。
 結果、チームプレイがまだ不得意な黄昏メンバーは単独ソロを狙って奇襲されては瀕死状態で逃がされ、それを1試合上限時間の30分まで延々続けられた。
 まるで猫が遊びで小虫を狩るような、圧倒的な力量差で。
 最後なんか、もうHP1で戦意も失くしているのに「逃げてくれねーと練習にならねぇだろうが」とわざと攻撃力の無い『タンブルウィード』を投げてけしかけるブラパがほとほと嫌になったのか、数人が崖から身投げしてプレイアウトしていた有様だ。
 正直言って、観戦していたギルメンが皆引いていた。
 これまでも格下相手には明らかに手を抜いたりしていたが、ここまで相手チームの心を折りにいくようなやり方ではなかったからだろう。
 一緒に西城防衛の補欠メンバーとして待機ルームに居た鹿花さんさえ、「機嫌悪いのかしら」と眉を顰めていた。
 城戦キャスマの時間が終わり待機ルームから戻ってきた攻撃メンバーを迎えたギルドルームは初めて感じる戸惑いの空気に満ちていた。

「亀、防衛の方は?」
「え、あ、……と、特に問題なく……」

 なんと声を掛けたらいいのか分からずいた俺にブラパが訊いてきて、防衛しきったと答えると彼は小さく頷くとそのままマイルームへ移動していってしまった。
 ブラパが姿を消すと後ろから仏頂面でついてきた双子が大袈裟なため息と共にギルドルーム中央のラグにスライディングで転がりこんだ。

「あーーーーーッ、ダルかった!!!」
「弱いものイジメはヤダって言ったのに!!!!!」
「ネ!」
「ねーーーー!!!!!」

 いつもは笑顔さんの言葉尻を輪唱するだけのごまだんごさんが不満を叫ぶのを聞いて、皆がホッとしたように彼らを労おうと集まってくる。

「ブラパの指示だったの?」
「そー! キューソ相手の練習もしてぇから簡単に殺すな、って!」
「噛みついてくるならまだしも、ひっくり返って腹見せてる奴らをいたぶるなんて全然楽しくない!!!!」
「おーおー、頑張ったな~。ほら、ご褒美アイスやるよ」

 ゴロゴロと転がりながら双子が大の字で暴れる横に今日は防衛チームだったオルテガさんとマシューさんが腰を下ろして、すると疲労感の強い暗い顔をした地球さんとミド~リンさんも寄ってきた。

「オルテガくん、ボクもアイス欲しいな……」
「私にも下さい」
「おぉ、2人もお疲れさん。……ありゃ、在庫1個足んねぇな」
「あ、塩バニラで良ければ俺持ってますよ」
「私それが良いです! 下さい、亀吉さん」
「どうぞ。お疲れさまです」
「ありがとうございます!」
「アタシ抹茶なら持ってるけど、食べる子いるぅ?」
「あ、いいな抹茶。チョコミントと交換して~」
「我チョコミント所望……ブルーベリーヨーグルトと交換してもらえないだろうか……」
「あら、それ去年のイベガチャ産の? 美味しかったわよね、それ。また食べられると思わなかったわ」

 気が付けばギルドルームに居たメンバー全員でアイスを食べる会のようになっていた。
 あれがいいこれがいいと色々な人と交換を繰り返して俺の手の中に残ったのはキャラメルチョコチップ味で、現実では食べたことのない味だな、と透明なガラス容器に入った半円形の綺麗な形のアイスクリームを眺めた。
 俺の右隣に座ったのは白野さんで、彼の手には白にまだらなピンク色が入った棒アイスが握られているが、なんだか眉根が下がっているような、いないような。

「どうしたの白野ちゃん? 苦手な味?」
「ん? いや、食べられなくはないよ」

 こういう場合は声を掛けた方がいいんだろうか、でも余計なお世話だったらどうしよう、と迷っている間にいつのまにか俺の左側にいた鹿花さんが白野さんに声を掛けて、困ったような表情で曖昧な答えを返した彼に鹿花さんは「苦手かどうかって訊いてんのよ」と言いながら俺の手の中のガラスカップと白野さんの棒アイスを取り替えた。

「俺のと交換なんですね」
「だってアンタが気にしてたんじゃないの」
「亀吉くん、大丈夫? 無理なら別に……」

 アイテムの名称を確認すれば、『チーズ&ラズベリー』と書かれている。
 
「大丈夫ですよ。好きな味です」

 別に好きな味ではないけれど、嫌いでもない。
 俺の答えに白野さんは表情を明るくして、それからポンと手の中に出した何かを俺に握らせた。
 見れば、キャンディのように包装の両側が捻じられた一口大のチョコレートだった。

「ありがとう。それはお礼。……甘いチーズっていうのが、どうしても苦手でね」

 白野さんの言葉に鹿花さんが一瞬動きを止めて彼に視線をやった。けれど、すぐになんでも無かったようにスプーンでアイスを掬って口に運ぶ。

「これ美味しい。公式のじゃないですよね」
「それ『エウール食品』の新作じゃない? 一口ちょーだい」
「やっぱ恒常より限定ガチャ産のが美味しいの納得いかねーよな~。いつでも食えるやつの品質向上頼むぜマジで」
「わかる。ってかそろそろポーション類も味選べるようにしてくんねーかな。エンドラ討伐でがぶ飲みすんのに同じ味ばっかじゃ飽きるって」
「久しぶりの甘いもの、沁みますね……」
「ロニさん辛党なんだっけ? ジョロキア入りバニラあるけどいる?」
「なにその劇物」
「ちょっ、これヤバい。昔駄菓子屋で食べた30円のアイスの味がする」
「30円ってなんだよ。最低でも98円はするだろ」
「え、安くない? ウチの近くのスーパー最低ライン129円だけど」
「富豪御用達スーパーかよ。うちの最寄りは単品58円だわ。3個で128円になるやつ」

 10人以上、30人以下。
 ワイワイガヤガヤと騒がしいが居心地が悪いということもなく、現実では最近感じたことのなかった『集団の中にいる』という感覚が懐かしかった。

「……仲の良いギルドだね」

 不意に白野さんが呟いて、そちらを見るともうカップの中は空になっていた。
 目を細めて眩しそうな表情をしつつも、どこか興味無さそうでもある。

「精神年齢高い子が多いだけよ」

 白野さんの呟きを受けて鹿花さんが言って、彼もまた同じような目で和気藹々のギルメン達を眺める。
 精神年齢が高い、か。
 確かに俺のようなガチコミュ障が混じっても誰も省こうとしないし、だからといってあからさまに気を回して混ぜてこようともしない。
 居るなら居ればいいし、離れたいなら離れればいい。
 まるでブラパのようだ。
 ギルマスの意向がギルド全体に伝播しているようで苦い笑みが浮かんで、下唇を噛むと横から頬をつつかれた。

「……?」
「ギルメンは少なければ少ないほど良いよね」

 白野さんが同意を求めるように首を傾げて、けれど俺は曖昧に笑うしか出来ない。
 大人数に溶け込めもしないけれど、少人数だから上手くやっていけるわけでもない。突き詰めればソロが一番ラクだ。

「仲の良い子だけの少人数ギルドもいいけど、誰か1人インしなくなるだけでバランス崩れたりするから、それはそれで難しいのよねぇ」

 鹿花さんは運営する側の苦労を口にして、それからぐるりと視線を回して全員が食べ終えたのを確認するとパンパンと手を叩いて注目を集めた。

「それじゃあ、いつも通り反省会するわよ。城戦メンバーは部屋移動して」

 それを聞いていつもの顔ぶれが重そうな腰を上げ、城戦不参加メンバーが労うように彼らの背を叩く。
 俺も移動しようと立ち上がると、鹿花さんが顔を寄せて耳打ちしてきた。

「アンタはブラパのご機嫌取りしてきなさい」
「え……」

 思わず顔を顰めると眉間を指で弾かれた。

「他に適任いないでしょ。宥めすかして連れてきなさい」
「……出来るか分かりません」
「アンタが出来ないなら誰にも出来ないわよ」

 早く行く、と背中を押され、短くため息を吐く。
 鹿花さんの命令を回避する方法はいまだ無い。行かないと今度は鹿花さんの機嫌も悪くしてしまうだろうから、と諦めてブラパのマイルームへの扉を出した。
 ドアノブを握り、開けながら瞼を下ろす。
 大丈夫。ブラパはどうせ、いつも通りだ。

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