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18 城を賭けた戦い
しおりを挟むフィールドに城が出来る。
それがどうしたのか。それが俺にどんな関係があるのか。
繋がりがまったく見えてこず、俺の頭が悪いのかと卑屈になって苦い顔をしていると、頭痛がするみたいにブラパが「亀」と呼んでくる。
「なんですか?」
「悪い。お前のポイント稼ぎ、一ヶ月ちょいじゃ終わんねえかもしれねぇ」
「……どういう事です?」
「つまりねぇ、ドラさんが来た理由は『欲の虜』への挑発ってことよ」
「…………?」
つまり、と言われたが、まだ分からない。本格的に国語の勉強をやり直すべきか不安になってきた。これまでの成績は悪くなかったはずなんだけど。
「王宮跡地、見たことあるか?」
横からブラパに訊かれ、首を横に振る。
「広いぞ。すげー広い。しかもA地区って言やぁ、世界の顔みてーな地区だ。誰もがインして最初に探索する、一番街。そこの一等地に、何かを囲むように桜の木が植えられた。その桜が咲く季節に、ちょうどぴったり城戦が終わる」
ここまで言えば分かるだろ? と片眉を上げて訊かれ、咀嚼するようにブラパの言葉をもう一度よく考えて──ハッと口元を押さえた。
「フィールドに実際に置かれた城を、城戦の保有ギルドが占有出来るってことですか!?」
フィールドにプレイヤーの個人資産を置くの自体は珍しいことではない。
しかし、ことA地区に限るのなら、ロキワどころか別世界でも聞いたことのない珍しい試みといえるだろう。
何せ、ブラパが前述したようにA地区は世界の顔。玄関口。運営がこの世界をどう構成し構築していくつもりなのか、世界観の設定そのものといっていい場所だ。
そんな場所にギルド単位とはいえプレイヤーの占有スペースが出来るということは、そのギルドに世界の色を決める権利を与えたも同然で──そんなの、すご過ぎる。
「まあ、あくまでドラさんの予想では、ってトコだけどねぇ。5周年の時には全プレイヤー対象で無課金屋敷ランダムシャッフル配布があったし、来年の10周年イベで何があっても不思議じゃないわね」
鹿花さんは古参なのか、まだ俺がロキワを始める前の話をして遠い目になった。「アタシが丹精込めて作ってる最中だった世界の昆虫屋敷……フリマで10ゴールドで売られてたの見た時は禿げそうだったわぁ……」と小さく呟いているのは聞こえなかったことにしてもいいかな。
「……で、まあ、話を元に戻すとな。この予想に行き着くのは何もDragOnさんや俺らだけじゃない筈だ。近いうちに掲示板でもこの話題が持ち上がって、そうなれば城戦の難易度は格段に上がる」
ブラパも俺と同じく鹿花さんのボヤきには触れたくないのか、一つ咳払いをすると話題を少しずらして真剣な表情で俺を見た。
「A地区に城を持てるかもってなれば今までの報酬に魅力感じてなかった連中も参加し始める。最悪、PVPメインの世界から出戻ってきたり、移住してくる奴らも出てくるかもしれねぇ」
「そ、そうなったら……」
「中央城奪取どころか、西城保有すら危うくなる」
野良チムコロで無敵のようなプレイングをしていた昨日のブラパを思い出し、彼がそこまで言う『PVPメインの世界』というのがどれだけレベルの高いプレイヤーばかりなのか怖くなった。
「だから、……昨日の続きだ。行くぞ」
俺を指差したブラパはローディングドアを出し、俺の右腕を掴むと有無を言わさずそこに連れ込もうとしてきた。
「え、ひぇ……っ」
「ちょっとお待ち! 何をこの由々しき事態にイチャコラしようとしてんのよ。城戦メンバー集めて会議が先でしょ!」
昨日の試合後を思い出し小さく悲鳴をあげた俺の左腕を、鹿花さんに掴まれる。
なんか誤解しているみたいだけど、この際それでもいい。止めてくれるならとブラパの手を振り切って鹿花さんの後ろに逃げ込んだ。
「おいコラ、逃げんな」
「やですっ。き、昨日、久々に悪夢見たんですよ!?」
「夢見るってこたぁ熟睡出来たってことだろ。良かったじゃねえか」
「悪夢だって言ってるでしょ! 目が覚めてもすごい疲れてて、昼間の授業眠くて大変だったんですよ……!」
再び捕まえようとしてくるブラパと逃げる俺で鹿花さんを中心にぐるぐる追いかけっこするような形になって、必死で文句を言うのにブラパは鼻で笑って相手にしてくれない。
「あの程度でバテてんじゃねえよ、若いくせに。ポイント欲しいんだろ? スキントーン緑にしてぇんだろ? だったら練習しねぇとだろうが」
「練習はします! しますけどっ、ブラパ方式じゃなくてもいいんじゃないですか!?」
「俺が教えんのが一番効率いいに決まってんだろが」
「なんでそう言い切れるんですかっ」
「俺がやって効率良いと思ったからだよ」
「俺はブラパじゃないんですけど!」
「お前を俺ぐらいまで育てなきゃ城戦が危ねぇんだから観念しろ!」
自分の周りでぐるぐるぐるぐる回られて鬱陶しいだろうに、頼みの綱だと思った鹿花さんはどうしてか俺を助けてくれなかった。
ええいままよ、と鹿花さんの腰に抱き着こうとしたのに、ヒョイと避けられたかと思えば俺はブラパの胸に飛び込む形になっていた。
「よーしよしよし。そうやって可愛くしてろ、死なねぇ程度には加減してやっから」
「ちょ……っ! 鹿花さんッ!」
「ごめんなさいねぇ、亀吉ちゃん。城戦メンバーが強化されるなら止める理由はないのよぉ」
半泣きで縋る声を出すのに、鹿花さんは憂うような表情でため息を吐いたかと思うとさっさと俺たちに背を向けてしまう。
「トングちゃん! 笑顔ちゃんとごまちゃんは今の時間だとF地区のフィールドボス狩りかしら? ちょっと呼んできてくれる? アタシは一旦落ちてHAYATOちゃんにこっちにインするように連絡してくるから。城戦の重要会議だからすぐ戻るように言うのよぉ!」
近くのソファに座っていた人に話しかけた後、鹿花さんは俺のことなんかすっかり忘れたように慌ただしくマイルームへ戻っていってしまった。
周囲には十数人のギルメンがいるのに、必死で見回しても誰も俺を助けてくれようとはしない。
「誰かぁ……!」
「情けねえ声出すんじゃねえよ、勃っちまうだろ」
ケラケラ笑うブラパに羽交い締めにされたまま、あえなく俺は地獄へ続くローディングドアをくぐらされたのだった。
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