神は絶対に手放さない

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神と貴方と巡る綾

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「志摩み」
「取り込み中だ、戻ってろ」

 合流か、とやってきた志摩宮を手招きしようとした俺の手を掴んで、徹さんが低い声で唸る。

「分かってますけど、ちょっと様子がおかしいんスよ。たぶんあのヤモリって人がなんかしたと思うんですけど……俺じゃよく分かんないんで、来てもらえますか」

 徹さんの睨む視線を無視して、志摩宮は俺だけを見つめて腕を掴んで引っ張ってくる。バランスを崩した俺の身体を受け止めて、外に引きずり出してから汚れた股間を見咎めて、そこを仕舞ってからぐいぐいと家の中へと連れていかれた。
 後ろでぶつぶつと文句を言いながら、徹さんも身支度を整えている。
 ジャージが黒で良かった。灰色とか明るい色だったら、股間が漏らしたみたいになっていてとても人前に出られなかっただろう。いや、仕舞われた股間が自分の出した精液でベトベトして冷たくて、さっさと宿に帰って着替えたい気分なんだけど。

「様子がおかしいって、具体的にどういう……」

 戻った平家の居間への引き戸を開けると、畳の上で蛍吾と洲月さんが絡み合っていて凍りついた。

「あ……、せ、静……た」

 蛍吾の目がこっちを向いて、けれど上に乗った洲月さんが覆い被さってその唇を貪り始める。弾かれたのか蛍吾の眼鏡が遠くへ転がっていて、蛍吾自身も服を捲られて半裸に剥かれていた。
 慌てて止めに入ろうとしたのだけれど、鼻につく甘い匂いに気付いて、部屋の隅で煙草を吸っているヤモリさんを睨み付けた。

「これ、この匂い……組織の中で使ってた香か」
「御名答。止めない方がいいよ、君も分かってるだろうけど、これを嗅ぐと素直になり過ぎる。洲月はイイコだけど、だいぶ気持ちを抑えてたみたいだからお猿さんみたいになっちゃってる」

 ふふ、と笑ったヤモリさんを無視して、洲月さんに紋を掛ける。身動きが止まればそれでいい。そのつもりで描いた紋を飛ばして彼の下に押し潰されていた蛍吾の顔色を確認した。
 見たところ、まだ貞操は無事みたいだ。着衣は乱れているけれどまだキスと局部を触られる程度で済んでいるらしい。

「蛍吾、どうする。助けた方がいい?」
「助け……?」
「そのままだとたぶん、洲月さんとエッチすることになるけど。逃げたい?」
「……」

 動けなくなった洲月さんは、息を荒くして蛍吾だけを見ている。その股間はしっかり盛り上がっていて、この状態で放置すればどう考えてもどちらかが処女喪失するのは明らかだ。

「いい……」

 蛍吾はしばらくぼんやりと俺を見て、それから緩く首を振って助けを拒否した。そっか、と俺が答えると、洲月さんがふにゃ、と柔らかく笑う。

「蛍吾くん、好きだよ。優しくする……」
「……俺も、です」

 紋を解くと、洲月さんはまた蛍吾に覆い被さって唇を吸い始めた。一瞬止められて蛍吾の気持ちを聞けたのが良かったのか、蛍吾の身体を弄る手が優しくなった。

「どういうつもりですか」

 当人が良いと言うなら、邪魔するつもりは無い。二人とも大人だし、この香は催淫剤じゃない。
 再びヤモリさんを睨むと、志摩宮が俺を抱き寄せた。こめかみにキスされて、話してる最中は少し邪魔だな、と身体を離そうとするのに、その腕はがっちり回って離してくれない。

「いやね、話を聞けば、その子は神様に成るっていうじゃない? そんな存在の本性がどんなものなのか、知りたいと思うのが人の性だよねぇ」
「は?」
「志摩宮くん、見たところ霊的な術は効かない体質でしょう。だから呪術系は無理だと思ってね。洲月の料理を食べなかったのを見るに、薬物への耐性は無さそうだったから、お香にしてみたんだ。……そっちの二人は、完全に巻き込まれただけ」

 師匠を差し置いてお楽しみだなんて明日いっぱい叱らなきゃ、とヤモリさんは笑って、また煙草を吸う。彼が吸っているのも、徹さんと同じ理由だろうか。人の本性を見たいと晒させておいて、自分は高みの見物とはいいご身分だ。
 香の本体は何処だろう、と部屋を見回す俺を、志摩宮が頭を掴んでキスしてくる。

「志摩宮、ちょっとどいて」
「嫌です。俺の番です」

 なんの順番だよ、と苛立つのに、次の瞬間には畳に引き倒されて後頭部を強かに打った。畳で良かった、と思ったけれど、擦れた肘がささくれた古い畳で擦れて痛み、やっぱ床の方がマシだった、と唇を噛む。

「口開けて」

 唇を舐められ、舌先でつつかれて唾液をせがまれた。志摩宮も目が怪しい。ヤモリさんの予想通り、香は効いてしまうらしい。
 徹さんとする気だったからあまり気が乗らないな、と志摩宮を宥めていたら、やっと来た徹さんが俺たちを見てから部屋を見回して、すぐに気付いてヤモリさんを見た。

「おい、ヤモリ」
「興味本位だよぉ。神に成れるほどの器なんて、なかなか見られるもんじゃない」
「こいつぁただのガキだ。死後に何に成るか置いといて、今はただの盲目のガキだよ」

 寄ってきた染井川さんは俺と志摩宮を引き剥がそうとして、志摩宮に腕を振り払われて顔を顰めた。

「志摩宮。何もここでヤる必要はねぇだろ」

 せめて車行け、と徹さんは蛍吾と洲月さんを気にしてか一度落ち着けと声を掛けてくるのだけれど、志摩宮はそれを無視して俺の服を捲り上げて肌に触れてくる。

「おい、志摩宮」
「染井川とヤッてるとこは人に見せたんでしょ。だったら俺とのセックスも見てもらわなきゃ、狡いです」
「ええぇ……」

 暴論だ。なんて事を言い出すのか、と顔が引き攣るのだけれど、志摩宮の顔は至極真面目で、俺の股間を掴み上げて手早く扱いてくる。

「ちょっ……志摩宮、やだ……」
「は?」

 蛍吾の前は嫌だ、という意味で言ったのだけれど、志摩宮は目を見開いて止まって、それから俺の頬を引っ叩いた。何をされたのか一瞬分からず、頬がジンジンと痛んでから呆気に取られて志摩宮を見上げる。
 志摩宮が、俺を叩いた?
 目を丸くする俺を見下ろして、志摩宮の方が驚いたみたいな表情で自分の手を押さえて固まっていた。

「ち、違……っ、静汰、ごめ……、そん、そんなつもりじゃ」
「落ち着け」

 青くなって震え出した志摩宮の両肩を掴んで、徹さんが強めに揺らす。俺を叩いて動揺した志摩宮は俺と徹さんを交互に見て首を振りながら「違う」と繰り返した。

「俺、叩くつもりなんて……っ、嫌だ、俺だけ捨てたりしませんよね? 俺、違うんです、俺は」
「志摩宮、落ち着けって」

 見る間に志摩宮の両目に涙が溢れて、ぼろぼろと流れ落ちた。深い緑と明るい緑が滲んで歪むのを、泣いている時だというのに綺麗だと見惚れてしまう。
 頑として俺から離れず、しかし恐慌状態で泣き出した志摩宮に、徹さんは俺から引き剥がすのを諦めて彼の頭を撫でた。

「大丈夫だ、志摩宮。俺もこの香嗅いだ後こいつを引っ叩いた。しかもその後強姦した。それでも嫌われてねぇ。叩いて留まったんだからお前の方が随分マシだろ」

 低い声の内容に、そういえばそうだったっけ、と過去を思い出す。
 暗い車の中。汗ばむ肌。香でぼんやりしながらも爽快な気分と、尻に掛けられた精液を滑りに無理やり挿入された、初めての夜。嫌だ、と何度叫んでも、徹さんはやめてくれなかった。そのうち俺の身体の方が先に陥落して、途中からは自分から強請ったんだっけ。
 脳裏に浮かぶ初体験に、ぞくりと鳥肌が立った。ついでに下の方も元気になったのを俺を抱き締めた志摩宮が気付いてその目に正気が戻ってくる。

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