神は絶対に手放さない

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神と貴方と巡る綾

02

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「……旅行?」

 首を傾げる俺を見つめて、志摩宮は溜め息を吐きながらぽんぽんと頭を撫でてくる。

「理由も無く急に消えたら、たぶん追ってきますよ。距離置きたいなら行き先言ってく方が無難です」
「そーかな。興味無さそうだけど」
「静汰がそう思うくらい寂しい思いさせてるって気付いてないんでしょうね。あー馬鹿らしい。なんで静汰はあんなのが良いんですか」
「あんなの、って言うなよ」
「でも、俺より染井川が好きでしょ?」

 サラッと、当然のように志摩宮は言い切って、敵わないな、とゆっくり頷いた。
 一年半。三人で過ごして、自分にずっと問い掛けていた。
 志摩宮か、徹さんか。
 答えは二人とセックスしなくなってからやっと出た。身体を繋げなくなっても、触れてくれなくなっても、俺は徹さんの傍に居たい。

「徹さん、まだ俺を好きだよな?」
「ええ」
「だよな」

 なんで志摩宮に聞いてるんだろう、と自分でも思うけれど、別に徹さんの気持ちを疑っている訳ではない。きっと好きでいてくれている。そんなに軽薄な人じゃない。それは分かっているけれど、あの人が俺を見る視線の中に熱いものが感じられない。

「……どーせ、俺と志摩宮の方がお似合いだー、とか思ってんだろうな」
「でしょうね」

 抱かなくなった理由すら推察出来る。だから尚更、腹立たしい。
 徹さんは、本当ならもう死んでいる筈だった。それを、シマミヤに──死後に神様と成った神様に頼んで助けてもらった。神様が徹さんを助ける条件は一つ。俺が神様の依代となって魂を捧げ、永遠に神様の物になること。
 だから徹さんは志摩宮に対して強く出ることも、排除しようとする事もない。
 対して志摩宮も、俺にとって徹さんが大事だと理解してくれているから、彼を遠ざける事もしないでくれる。
 だから、正しい形じゃないことを気にしなければ、三人でやっていける筈だった。
 一度は俺を捨てて、でも諦め切れずに追い掛けてきたのは徹さんだ。三人でいい、選ばなくていい、と言ってくれたのも徹さんなのに。
 一番最初に諦めて身を引いて、俺を志摩宮に明け渡そうとする、あの態度が気に入らない。大人ぶって、中身は一番子供の癖に。
 非常時にこそ人間性が出るというけれど、だとすれば、死を目前にして身勝手に俺を連れ去った、徹さんの本性の方に俺は惚れたのだ。今みたいに、表面だけ常識的な大人を取り繕っている彼じゃない。

「三泊三日とかじゃ、全然効かないよな」
「せめて一ヶ月は放置しましょう」
「一ヶ月? 旅行にしては長くないか?」

 一ヶ月離れて、俺は寂しかっ……、寂しくない。
 でも、徹さんは少しは寂しい思いをすればいい。寂しくなって耐えられなくなって追ってきてくれればもっと良い。

「ほら、俺、卒業旅行行ってないんで。静汰もでしょ。蛍先輩も誘って、三人で行きましょうよ」

 志摩宮の提案に苦笑するけれど、悪くはない気がした。
 卒業旅行か。確かに、何事もなく卒業を迎えていれば、絶対三人で行っただろう。

「卒業旅行って、そもそも俺と蛍吾は中退してんだけど」
「細かいことはいいんですよ。染井川なんてほっといて、気晴らしに遊びましょうよ」

 ついでにそこで仕事もすれば旅費も稼げるし一石二鳥じゃないですか、と言われ、早速蛍吾に電話を掛けた。

『なんだ。仕事のキャンセルは受け付けねーぞ』
「え? 俺の仕事って、三日後の呪物の浄化だけじゃなかった?」

 掛けてすぐ返ってきた蛍吾の不機嫌な声に、慌てて志摩宮を見るけれど、彼もカレンダーを見て眉を寄せている。

『染井川の方の仕事。次もまた遠いから文句言いに掛けてきたんじゃねーの?』
「違うけど……また遠いのか」
『次のは秋田だな。まあ仕事自体は楽勝だろうから、五日もあれば十分だろうけど』

 なんだ、また徹さんは不在なのか。
 だったら俺が家に居ても居なくても同じことかと、テンションの下がった俺の手から志摩宮がスマホを奪っていって、蛍吾と話し出す。

「それ、俺と静汰で行きます。ついでに蛍先輩も一緒にどうですか」
『は? 俺も?』
「卒業旅行兼ねて、一ヶ月くらいゆっくりどこか行こうかと思ってて。ついでに仕事もしますし」
『ついでか。……でも、そうだな。秋田か。乳頭温泉、行ってみたかったんだよな』
「温泉ですか、いいですね」
『あー、ちょっと待ってろ。……うん、あるある。後回しにしてた細々(こまごま)した依頼が結構あるから、ついでに全部片付けるか。でも、染井川はどうすんだ? あいつに割り振った仕事、まだ結構詰まってるぞ』
「そっちはそのままでいいです。俺と静汰と蛍先輩と、三人で行きましょう」
『仲間ハズレ笑う。まいーや、分かった。都合つけるから、日程決まったら電話するわ』
「お願いします」

 通話を切った志摩宮は、にこ、と笑って俺にスマホを返してきた。
 蛍吾も一緒となると、俄然楽しみになってくる。

「楽しみですね」
「おう! 秋田、温泉以外にもなんかあるかな?」
「ご飯終わったら一緒に調べましょう」

 ハンバーグを皿によそって、付け合わせの野菜とご飯も一緒の皿に盛って、二人で部屋に向かった。
 通り掛けの徹さんの部屋からは、なんの物音もしない。もう寝てしまったのだろうか。

「旅行に行くの、静汰から伝えておいて下さいね」
「えー……」
「静汰から言わないと意味無いですよ」

 昔使っていた俺と徹さんが一緒に寝起きしていた部屋は、今はもう俺と志摩宮の部屋になっている。
 六畳間をそれぞれの自室として襖で区切って、残りの十二畳にちゃぶ台を置いて食事を摂る。志摩宮の家からテレビも持ってきているし、前のような閉鎖された空間では無くなった。

「「いただきます」」

 適当にテレビを流しながら志摩宮と夕飯を食べ、ふと窓の方を見て記憶が過ぎる。
 外に指の先すら出せなかった、あの頃。強制された関係ではあった。強引な人だった。けれど、好きになったのはよくいう自己防衛の為なんかじゃない。俺は後悔してない。
 後悔してるのはきっと、徹さんの方だ。

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