神は絶対に手放さない

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神を裏切り貴方と繋ぐ

Sー33、センセイという響きの良さ

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 カラカラ、とヤカンの中の水が切れて震え出した音に、書きつけていたノートから顔を上げた。
 首に少し痛みが走って、手首の時計を確認したらもう十六時過ぎだった。
 炬燵の横の布団で昼寝中の染井川さんはまだ静かに寝息を立てている。
 立ち上がって、取手まで熱くなっていたヤカンを持って台所で水を入れ直す。ついでに夕飯用の米を研いで炊飯器にセットした。確か今晩は唐揚げって言ってたっけ、と冷蔵庫を盗み見ると、下拵えされた鶏肉がボウルに入っていた。ニンニクと醤油の濃い匂いに、染井川さんの唐揚げ最高に美味いんだよな、と期待に胸が膨らむ。
 ヤカンを持って俺の部屋に戻ると、仰向けに寝ていた染井川さんが横を向いて軽くうなされていた。苦しげな呼吸音に慌ててヤカンをその場に置いて駆け寄る。染井川さんの額を撫でると、少し汗ばんでいた。汗をかくほど暑くはない筈だ。
 そのまま撫で続けると、次第に呼吸が落ち着いて、そのうちまた静かになった。布団を掛け直してから、ヤカンを拾ってストーブの上に置く。
 炬燵に入ると、足の先がジンと熱くなった。
 目を閉じて集中して、自分の霊力量を確認する。今日は仕事も練習もしていなかったから満タンの筈なのに、八割ほどに減っていた。
 やはり、と思う。前に染井川さんの父親の日記を読んで知った『霊力を他人に渡す』というのは、紋の練習をするうちに自然に習得出来ていた。就寝中魘される染井川さんを撫でると落ち着いていたのは、単に霊力が欠乏している時に俺が供給したからだったようだ。
 毎晩なる訳ではないし、一度だけ俺が触れずに見守っていたら、しばらくして急に霊力が回復して落ち着いていた。
 だから、今すぐ死ぬ、という感じでは、おそらく無いのだ。無いに決まってる。腕時計を撫で、それから染井川さんの寝顔を見遣る。
 何とかしたいのに、何をすればいいのか分からない。
 肝心の箱についても、見せてもくれないのだ。新しい箱を見つければ、と言ったら、見たこともない怖い顔で睨まれてしまったから、それはきっと不可能なんだろう。
 だからとにかく、俺は俺に出来る事を地道にやる事にしたのだ。
 霊力量を増やすのは、調べた限りでは無理そうだ。俺が神子なら延々と染井川さんに供給してやればいいのだろうが、それはもう無理だ。少し撫でて足りない量を補完してやるだけで二割も減ってしまう俺の霊力量では、染井川さんを一生養うというのも無理だろう。彼の父のように誰かから奪った霊力を与えるというのも、恐らく今の染井川さんにやったら怒られる。
 俺の無い頭を振り絞って考えた案といえば、箱以外で霊力の籠もった物──例えば呪物とか──を手に入れて、浄化して霊力だけを染井川さんに渡す方法だ。それが可能なら、呪物を持て余した寺とか霊能組織なんかから買い取ってくればいい。
 問題は、呪物は金では買えないだろうという事と、ちゃんと俺が浄化しきれるか、という点。
 つまりは、俺が術師として確かな実力を持たないとどうにもならないのだ。
 開いたままにしていたノートに目を落とす。
 紋は種類は多いが、多い割にその使用域は狭い。
 大きく分ければ、斃す為の紋とサポート効果のある紋の二つしかない。生きた人間の精神に作用する紋は禁忌とされているらしいけれど、それも染井川さんの部屋で普通に見つけた。
 斃す紋のレギュラーはやはり、破邪と浄化だ。基本的に仕事はこの二つの紋さえ描ければ問題無い。浄化は霊や妖怪から受けた邪気を含む傷も癒せるから、サポート紋といえなくもない。
 サポート紋の代表格は治癒の紋だろう。それから、身体強化もこの区分だ。最近やっと、足に掛けて早く走れるようになった。指先に光を灯すのも、一分くらいなら出来るようになった。
 最近になって読み返していて気付いたのだけれど、そもそも壁の紋や時間制限、温度変化のような単体では何に使ったらいいか思いつかないような紋は、全て染井川さんの字で清書されたノートからしか見つかっていないのだ。もしかしたら、あの謎の紋のように染井川さんがオリジナルで作ってしまったんじゃないかと疑っている。
 だって、破邪、浄化、治癒以外の紋を使っているのを見たのは蛍吾以外では染井川さんだけなのだ。その蛍吾だって、使っていたのは染井川さんの家にあった紋の本に書いてあるものだけだ。
 要は、模様に霊力を篭める時に、作用しやすいように描けばいいのだ。破邪なら邪を蒸発させるイメージで、浄化なら邪を洗い流すイメージで。自分の中のイメージを、実際作用出来るように霊力で描いて導く。それが紋だとすれば、もっと自分の使いやすいように書き換える事も可能だと、そう思った。
 ……が、まあ、そう上手くはいっていない。

「これが、こうで……こっちを繋げて……、あれ」

 一番汎用性に富んでいて、けれど霊力消費が多い浄化の紋。それを、もっと広範囲に、消費を抑えて描ければと考えて試行錯誤しているのだが、なかなかどうして、苦戦している。
 ヒントは、染井川さんが前に山の仕事で見せてくれた、足で地面を踏みしめて発動させていた範囲浄化だ。
 あれ自体は多分、あらかじめ山全体に掛けておいた範囲浄化の紋を、足から霊力を籠めて発動させただけのものだ。指で紋を描いてその場で発動させる、それが紋なのだとばかり思い込んでいたからあの時は面食らったが、紋だけを罠のように霊力を籠めず描いておいて、あとから霊力を注ぐというやり方もあるのだと教えられた気がした。
 気がした、じゃないな。教えてくれたんだ、絶対に。
 霊力は指先からじゃなくても籠められるというなら、ほとんど常に接地している足から、地面に描いた紋を使えればかなり有用性が高い。
 染井川さんがやったあれは、たぶんかなり霊力を食う。だからあのままじゃ駄目だ。一回使い切りの紋は派手でカッコイイが、実用性が無いと叱られるに決まってる。
 もっと節約するべきだ。例えば、範囲の中の邪気を感知して、そこだけにピンポイントで浄化が掛かるような……。
 範囲指定で分かり易いのは、やはり壁の紋だろうか。地面に一面敷いて、そこに邪気を感知する紋を……そんな紋無いな、作ろう。邪気を感知する、邪が触れたら光る、でいいか。邪気を感知すると光るイメージを込めながら適当に指を動かし、光ったらその場に浄化が掛かるように紋を繋ぐ。うん、いいな。これなら範囲をもう少し広げても敵が相当数居ない限り霊力量は少なくて済む。
 出来立てホヤホヤの紋を改めて見直して、デタラメに描き過ぎて、他の人には誰にも描けないだろうなぁ、と苦笑した。
 本に残されるほど受け継がれてきた紋は、さすがに誰でも描けるように洗練されてきたのだと実感した。

「……まぁでも」

 俺が使うだけなら、俺に描ければ支障は無い。問題は、この紋がちゃんと作用するか試せるのは、明日の仕事の本番で、という事だ。
 失敗したらきっと大笑いされるだろうなぁ。
 大きく溜め息を吐いて、それから、ふと昔描いた、『紋を無効化する紋』を思い出した。あれを描いた時は、もっと簡略化してくれればいいのにと思ったものだったが、こうして自分で紋を作ってみて、それが如何に難しいか実感した。

「……?」

 そういえば、だ。紋を打ち消すには、同じ紋をぶつければいいだけだと、染井川さんは言っていた。けれど、紋を無効化する紋もまた、蛍吾が知る正規ルートで残されていた。
 とすれば、染井川さんの教えた方は邪道という事になる。何故だろう。紋を読んで同じ物をぶつける方が、遥かに楽な筈なのに。それに、あの紋は数人で霊力を集めないと描き切れないほど霊力を消費すると言っていた。何故わざわざ、紋を消すためだけにそんなに沢山の人間が必要なのか──。

「落書きたぁ自信満々だな、静汰」

 考え込んでいたら、いつのまにか起きていた染井川さんが、後ろから俺のノートを覗き込んでいた。俺作の大規模範囲浄化紋を見て、「落書き」と言い切られて少し悔しい。

「う、うるさいなっ。おはようっ」
「おはよ。……明日の仕事、お前に任せて本当に平気なんだろうな?」
「平気だから、染井川さんは絶対手ぇ出すなよ!」

 紋を腕で隠して振り返ったら、染井川さんが寄ってきて当たり前みたいにキスして離れていく。

「呪札は用意したのか? 今回こそ持っていくんだって言ってなかったか、お前」
「あっ、やば、まだ書いてない」

 飯の支度するからそれまでに炬燵の上を片付けろよ、と染井川さんは俺の頭を優しく叩いて、台所へ向かっていった。









 
「ふ……ふざけんなよ、染井川さん……!」
「何もふざけてねぇぞ」

 真顔で言われ、紙袋を持つ手がぶるぶる震えた。
 中に入っているのは、制服だ。今日の仕事はとある学校での浄霊で、休日ではあるが昼間学校に入るからと、言われて渡されたのだが。取り出した一枚目が濃紺のプリーツスカートで、瞬時に仕舞い直して染井川さんに紙袋ごと返した。

「俺、着ないからな」
「私服のガキが校内歩ってたら通報されんだろ。休みっつったって昼間で、校庭じゃ部活やってんだ」
「だったら男の持ってこいよ!」
「男のも入ってるぞ、下に」

 慌てて確認すると、確かにセーラー服の下に学ランも入っていた。何故わざわざセーラー服を上にしたのか、聞くまでもない。俺を揶揄う為だ。

「俺としちゃあ、スカートがオススメだけどな」
「……」

 威嚇し、黙殺して染井川さんの車の後部座席で学ランに着替える。元の高校はブレザーだったから、少し新鮮だ。
 首元のホックを留め、後ろのドアから出ると、スーツの染井川さんも運転席から降りてきた。
 空はどんよりと曇り、今にも雨が降り出しそうだ。もう二月半ばで、雪にはならないだろうが、コートが無いと寒い。休日だと校舎の中は暖房も効いていないだろうから、早めに終わらせて帰りたい。

「依頼人はここの教師なんだが、他の教師には馬鹿にされるから話を通してないらしい」
「馬鹿にされる?」
「現状、霊障はあるのに視えるのが依頼者だけで、校長含めて誰もが見て見ぬフリなんだと。何人か生徒が怪我させられてて、日に日に被害者が増えてて、死人が出る前に、って依頼してきてな」

 話を聞きながら、教師用の出入り口で待っていた依頼人の男性教師と落ち合った。

「依頼人の小立さんでしょうか」
「はい。御足労有難うございます。他の教師は何名かおりますが、今は部活棟の方なので、こちらから入れば鉢合わせはしません」

 四十代くらいの普通のおじさん、という風体の小立は、染井川さんの横に立つ俺を見て少し不審そうな目をした。そりゃそうだろう、霊媒師ってだけで怪しいのに、見るからに未成年の子供まで連れているのだ。

「これは、弟子の林です。といっても、今日の仕事の主力はこいつですから、腕について問題はありません」
「……そうですか」

 弟子と説明されるのは慣れたが、林と呼ばれるのは慣れない。
 大人二人の後を、校内を観察しながら歩く。

「最初は、ただの小さな妖怪か何かだったんです。けれど、日に日に大きくなって、いつのまにか数も増えていて……最初の一匹が呼んだのか、増えたのかも定かではないんですが」

 小立は階段で三階まで上がり、ある教室の前で止まって鍵を開けた。今は使われていないのか、教卓の他に机は無く、ダンボールやくす玉、垂れ幕のようなものが丸めて畳まれて隅に置かれていた。
 窓には小さな雨粒が見える。とうとう降ってきてしまったらしい。

「三階のこの廊下が、一番被害が多いんです。最初は、廊下で躓く生徒が多発しました。次第に階段から突き落とされて怪我する生徒が出てきましたが、目撃した誰もが、一人で落ちたと言うのです。今はまだ怪我で済んでいますが、これが、打ち所が悪かったりベランダから落ちたらと考えると……」
「早めに呼んで頂けて正解ですよ」

 染井川さんの返答に、俺も頷く。
 視界の隅に、黒いのが映っては視線を向けると消える。性質の悪い妖怪か、人に憑いて移動してきた悪霊の類か。今出ても俺と染井川さんの二人には勝てないと踏んだのか、隠れてやり過ごそうという気らしい。

「一番被害の多い時間は?」
「夕方ですね。宿直の教師や見回りの警備員は、夜でも被害に遭っていないんです」

 被害が逢魔時に偏っているというなら、妖怪の方か。大人が被害に遭っていないというなら、まだ力は弱いのかもしれない。増えてきたというのが気になるが、昨日作った紋なら、俺の霊力でも三十匹くらいまでならいけるだろう。……ちゃんと動けば、だが。

「では、私はこれから会議がありますので……。十九時の見回りまではここには誰も近付きませんし、誰か来たら『小立に雑用を頼まれた』と言って貰えれば大丈夫なので」
「はい。終わりましたら携帯の方に着信を入れますので」

 小立は説明を終えると、足早に教室から出て行った。視えるタイプの依頼人は関わりたくないのでああして仕事に関わろうとしてこないので楽だ。視えない依頼人はその逆で、視えないからこそ、興味本位で仕事場に居座ろうとしてくる。

「さて、お前の見立てはどうだ」

 黒板の下の一段高くなった教壇に腰掛けた染井川さんが、煙草に火を点けようとして苦い顔で止まる。そうだよ、ここは学校。禁煙だ。

「八割妖怪、一割悪霊、残り一割が悪霊憑きの妖怪」
「妥当だな」

 時計を見れば、まだ十六時。今時期の日没──逢魔時というと、十七時少し前だろうか。まだ一時間近くありそうだ。
 よし。

「染井川さん、ちょっとあっち向いてて」
「ん?」

 早速あの紋を設置しておこうと、染井川さんに見られないように窓の方を向いていてもらった。ぐりぐり、とイメージを切らさないようにしながら紋を描く。

「何を悪戯してんだ、静汰」
「悪戯じゃないし」
「お前がニコニコしてる時は大体悪戯してんだよ」

 小さな子供みたいな扱いだ。が、まあ染井川さんを驚かせたいという意味では悪戯に近いものでもあるので、肩を竦めただけで紋を飛ばした。範囲は校舎全体、六方の壁で覆って箱の床面に邪気感知と作動式の浄化の紋を繋げた。これで、万一霊力が足りなくて浄化しきれずとも箱の中から逃すこともない。
 昨日試し描きしておいた成果か、それほど時間も掛からず付与を終えた。

「もういいよ」
「ならこっち来い」

 寒いだろ、と言われるがままに、染井川さんの膝の中に座る。後ろからすっぽり抱き締めてもらうと、暖かくて思わず溜め息が漏れた。

「あと一時間くらい、何してよっか」

 どうやら妖怪たちは隠れてやり過ごすのを選択したらしく、視界にすら入ってこなくなった。
 やる事もなく時間を消費するのは勿体無いな、という俺の呟きに、染井川さんは俺の制服のボタンを外す事で答えてきた。

「……あの、染井川さん?」

 詰襟のホックはそのままに、一番上のボタンから手早く外した染井川さんの指に下に着ていたTシャツ越しに乳首を摘まれて狼狽した。

「そ、染井川さんっ」
「……染井川、先生」
「ばかっ」

 耳元で囁やかれて、彼の意図するところに気付いて顔が熱くなる。やめさせようとするのに、すっかり俺の扱いに長けた染井川さんは胸の突起をどう転がせば俺が抵抗出来なくなるかを知っている。くりくりと指の先で撫でられながらもう片方に爪を立てられ、崩れ落ちそうになる上半身を染井川さんの方に引っ張られた。

「……っ」

 布越しの感触でも、その甘さと痛みは十分俺を追い立てる。もどかしいのに気持ち良くて腰が震え、胸を弄られているだけでいつもの場所が穿って欲しくてヒクついた。
 揺らした尻に染井川さんの硬いものが当たって、恥ずかしげもなく動きで強請る。

「おいおい、もっと耐えろよ」
「う、るさ……早くすれば、早く終われるだろ……」

 見つかりたくないから早くして、と思ってもいないことを口にして強情を張るが、それを見通されているのも織り込み済みだ。
 コリコリ、くりくり、と執拗に乳首を捏ね回され、耐えきれず腕を後ろに回して染井川さんの股間を撫でる。しっかり硬いそれを指先だけでなぞったのに、彼は低く笑うだけでそこ以外に触れてはくれない。

「染井川さん、ってば……」
「せ、ん、せ、い」

 あくまで、拘るところはそこらしい。もっと育った方が好きだと以前言っていたけど、嘘かもしれない。

「……徹先生、早く、ちょうだい」

 少し考えてから、揶揄い混じりに言ってみた。名前呼びと先生呼びのコンボだ、悪く無かろう。これで意地悪はやめてくれるかと思ったら、後ろから脇の下を掴まれて無理やり立ち上がらされた。
 教卓に上半身を乗せるような体勢を取らされ、ベルトをつけていなかった下半身を強引に剥かれた。

「え、ちょ……、うそ、染井川さ」
「呼び方統一しろ、クソガキ」

 やけに低い声で、染井川さんは猛ったものを慣らしても濡らしてもない俺の窄まりに押し付けてくる。さすがに裂ける、と焦る俺より焦っているのは彼の方で、押し入れようにも入らないので苛立ったように俺の口に指を入れてきた。爪の短い節くれだったカサつく指を涎まみれにすると、それで穴の入り口だけ解して、また押し付けてくる。

「っあ……、や、なんで、無理やり」
「お前が早く、って言ったんだろうが」

 煽った責任はとれや、と凄まれながら、今度こそ挿入ってくる剛直に必死に力を抜いた。括れまでは入ったけれど、滑りも無しにそれ以上は入ってこれず、俺も染井川さんも中途半端さに呻く。

「徹先生の、馬鹿ぁ。こんな生殺しって、ない……」
「うるせぇ、この……使うからさっさとイけ」
「お、俺は、ローション製造機じゃ、ない」

 半端に繋がった状態で陰茎を擦られ、情けなくも数十秒で彼の掌に精を吐いた。息は上がるが、後ろの快感に慣れた俺にとってはもう、それすら前戯の一部にしか思えない。
 俺の精液を己に塗りたくった染井川さんがぐっと腰を進めてきて、腹の中を抉られる快楽に高い声が出る。

「声、抑えろ」
「できるなら、やってる」

 バレたら不味い、だから声は我慢した方がいい。それは重々承知の上で、しかし出来るかと言われたら、無理。気持ちいいともうそれだけで頭がいっぱいになって、他の事なんて考えられなくなってしまう。

「噛んでろ」

 スーツを捲った素の腕を前に出されて、躊躇わずそこに歯を立てた。細い腕毛の感触が舌にある。僅かに塩辛い染井川さんの腕が美味しくて、かぷかぷと噛んだ。

「痛って……、お前、本当に食うなよ?」
「ん、んん……」
「あー……お前、ほんとかーわい……」

 俺に腕を噛ませている所為で体勢的に大きくは動けない染井川さんは、弱い奥を入念に解すみたいに責めてくる。突かれる度に前から精を吐いている心地に、目の前が真っ白でふわふわと明滅した。すっかり中を犯されて絶頂するのに慣れてしまった俺はそればかり追い求めていて、染井川さんが中で出す度に歓喜に震えた。
 そうして、どれだけそうしていたか分からない。
 俺の意識を引き戻したのは、パタパタという、スリッパの音だった。足音が、教室の前で止まって、引き戸に手を掛けた音に瞬時に青褪める。

「……!」
「声出すなよ」

 すぃ、と染井川さんの腕が伸びて、扉の方に紋を飛ばす。なんだ? 見たことない。
 開いた扉よりそっちに気を取られて、自分がどんな格好で何をしているのかも忘れてしまっていた。

「あれ、居ない」
「はぁ? 待ち合わせここだろ?」
「その筈なんですが……」

 扉を開けて教室の中を覗き込んだのは、変わった風体の男四人だった。着物の人と、天狗みたいな格好の爺さんと、赤い髪に黒ずくめのパンクファッションの人と、それから変なネズミのキャラクターが描かれたパーカーを着た人。
 その、ネズミパーカーの人の顔には見覚えがあった。……覚えがあるだけで、誰だかは思い出せないけれど。

「隠れてんじゃねぇのか。森、アレやれ」
「ええ……疲れるんですよ」
「僕からもあげる」
「拙者からも」

 着物の人は森と呼んだネズミパーカーの人の肩に触れ、それに倣って他の人たちもネズミパーカーの人に触れる。森、森……あ、夏の浄霊会に居た、染井川さんの部下だ。

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