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神は絶対に手放さない
35、彼女なりの愛の形
しおりを挟むそういえば母さんは、俺を何度も「変わった子」と言っていた。
人見知りをしないから。
誰が相手でも物怖じせず話が出来るから。
失敗して揶揄われても泣かないから。
負けても悔しがらないから。
大事にしていた物を壊されても怒らないから。
「あんたにはきっと喜怒哀楽の『喜』と『楽』しか無いんだね」
そう言われたのは、確か四才の頃。デパートで迷子になって、でも自分で店員さんに話しかけて母を放送で呼び出して貰った時だったと思う。
私のお腹に置いてきたのかね、と、息を切らして走って迎えに来た母さんは、一度だけ、笑いながら頭を撫でてくれた。
母さんの笑った顔は、後にも先にもその時の記憶にしか無い。
今思えば、きっと母さんは俺に泣いていて欲しかったんだと思う。
いつも酒の匂いがして、気怠く唇を引き結んだ無表情で、でも毎日毎日爺ちゃんと婆ちゃんの世話をしていた。二人分の食事の用意と、排泄、着替えの介助、そして延々と同じ内容を繰り返すだけの話し相手。それに加えて俺と母さんの食事と父さんの弁当と夕飯、掃除に洗濯。俺も手伝ってはいたけれど、母さんの負担がかなり重かったのは小学生の俺にも分かっていた。
父さんは仕事でほとんど家に居なくて、父さんが休みの日は祖父母二人ともデイサービスに預けていたから、きっと介護なんてした事ないと思う。
祖父母がデイサービスに行くと、父さんは泊りがけで趣味の釣りへ行ってしまい、母さんは一週間分の買い物に出る。俺はいつも一人で留守番して、掃除するのが役目だった。
ダンボール二つを食品でいっぱいにして夕方帰宅する母は、その時だけ生き返ったみたいに顔色が良かった。
──ああ、たぶん本当の意味で、生き返ってたんだ。
タクシーの窓からは、薄暮れの中灯り始めた車のライトや店先の看板灯が見える。ぽつりぽつりと光るそれが、母さんにとっての息抜きの時間と重なった。
母さんにとって、家出してまで強行した結婚生活は闇だったに違いない。
永遠に続く祖父母の介護、帰ってこない配偶者、心の拠り所になるべきだった息子は愛着の薄い変わり者。
思い出せば思い出すほど、考えれば考えるほど。母さんには同情しか生まれない。
絵本を読んでくれるとか、公園で遊ぶとか、一緒にトランプをするだとか、そういう母子の交流は一切無かった。けれど、だからといって母から冷たくされてもいなかった。一緒にご飯を食べる事すら難しかったけれど、俺の分の食事は祖父母用の介護食とは別に作ってくれていたし、学校の参観日には訪問介護を利用して必ず来てくれた。母はただ、忙しかった。ひたすらに。
だから、良い子でいるしかなかった。これ以上母を追い詰めないように。もちろん俺にだって喜怒哀楽は普通にあるし、時々母と二人だけで目一杯遊んで欲しいと叫んで泣いて転がりたい時もあった。
それを我慢できたのは、母が好きだったからだ。困らせたくなかった。
だから、組織に売られると知っても笑っていられた。母さんが楽になるならいい、とそう思ったのは本心で、浮気相手と逃げたと知った今でも後悔していない。母さんが楽になったならそれでいい。
でも。
「安すぎるよなぁ……」
さんびゃくまん。
それだけが、俺の心に引っ掛かっていた。
どうせならもっと、一生遊んで暮らせるくらいふっかけても良かったのに。ヒト一人、それも神子として組織に『お迎え』する為ならば、三、四千万くらいなら引き出せたと思う。
現に、俺と蛍吾の二人分の高校の学費と生活費は組織から出ているし、俺のバイト代は除霊一回につきウン万単位で出る。どこからどうやって資金繰りしているかは謎だが、金回りの良い組織であるのは確実だ。
それなのに、たった三百万。母にとって、俺はその程度で片付けられれば儲けもの程度の価値しか無かったのかと思うと、流石に気持ちが沈んだ。
「……身請け金の話ですか」
ぼんやり外を眺めていた俺に、志摩宮がやや声を抑えて話しかけてくる。無言で頷くと、彼も頷きながら、けれど全く見当違いの事を言い始めた。
「五千万程度で静汰を手放すなんて、組織ってやつも信用出来ません。あの人は俺なんかを助けてくれた良い人です。あの人が静汰の祖父で、あの人に身請けして貰えれば静汰が組織から離脱出来るなら、した方が良いと俺は思います」
「へ……?」
「卒業後の生活は俺がどうにかします。貯金もそこそこありますし、静汰と住むならもう少し広い所に引っ越して……」
「ん? ちょ、ちょっとストップ。志摩宮? 急にどうした?」
「え? 組織から静汰を出すのに、五千万でいいなんて安すぎるって話でしたよね?」
違うなぁ。
そっちじゃなくて母が受け取った金の方だと言うと、今度は志摩宮の方が目を丸くした。
「そんなの、あの人が静汰を組織から出すって分かってたからじゃないんですか? 自分が失踪したらあの人に連絡がいって、あの人が静汰を探し出して組織から出してくれるとこまで折り込み済みだったんだと思いますよ」
だからわざと激安で売ったんでしょう、と。なんてこともないみたいに、志摩宮は言い切った。俺の母を知らない筈の志摩宮に、何故分かるのか。
返事に困って黙っていると、志摩宮は俺が理解出来ていないのを悟ったのか、「だって」と続けた。
「だって、もし静汰をどうも思ってなくて、我が子だけど金になるなら、って思ったなら、出来るだけ高値で売ります。子供売るなんてリスク高すぎること、普通三百万ぽっちでしないでしょ。我が子が何より大事、っていうならそもそも売りませんし。端金で売る理由として考えられるとすれば、『買い戻す事が前提だから』。それしか考えられませんよ」
「そっかぁ……」
知らず、志摩宮の言葉に何度も頷いていた。母は冷たい人では無いと言いながら、俺の方が母を信じていなかった。
母は離婚したかったのだろう。だから俺を質屋に入れる感覚で組織に売って、祖父が探し出して買い戻すのを待っていた。そう考えてみると、とてもしっくりきた。
「じゃあ、爺さんとこに身請けされれば、母さんも戻ってくるかな?」
「それはどうですかね」
また会えるかな、と喜色に浮かれかけた俺に、しかし志摩宮は冷静に首を振る。
「一度離婚して、籍をお祖父さんに移してる訳ですよね。つまり、もう母親である事を放棄してます。それでのこのこ静汰の前に現れようなんて人、俺は会わせたくないですね」
俺を安心させる為に微笑んでくれているけれど、志摩宮の口調は棘だらけだった。
「お、俺が会いたいって言っても……?」
「……それは、まあ、相手の態度によりますけど。俺は、会わせたくないですよ」
あくまで志摩宮の見解としては、と強調して、彼は俺の頭を撫でてくれた。
珍しい。俺が撫でる事は多いけれど、志摩宮に撫でられるのはレアだ。嬉しい。
もっと、と抱き着こうとして、ふと視線を感じてここがタクシーの中なのを思い出した。運転手のおじさんと目が合って慌てて思い留まった。
しばらく走って、タクシーは問題なく志摩宮のアパートの前に到着した。
ひっそりと静まりかえる住宅街。タクシーを降りたら、急にこれからする事を考えて心臓がバクバクしてきた。
八時過ぎなので、外から見た感じでは他の部屋にもぽつぽつと灯りがついていた。
あんまり声出さないようにするぞ、と内心自分に頑張れとエールを送る。何せ、戻ってきた記憶の中での俺は、恥ずかしげもなく喘ぎまくっていた。女かよってくらい甲高い声で。ああ恥ずかしい。隠れたい。あんな記憶は戻ってこなくて良かった。
「静汰、何か飲みますか」
部屋に入ると、部屋は記憶のままだった。
ベッドと、その辺に散らかされた数枚の洋服。ゴミ袋は今日は無い。簡素な部屋の小さな冷蔵庫を開けて、志摩宮は俺の返事を待たずに炭酸水のペットボトルを取り出した。
「あ~……ごめん、お茶がいいかも」
「砂糖入ってないですよ?」
「うん、えっと……その、俺さ、実は昼間あの本部行った時、記憶が戻ってきてさ」
俺の言葉に、志摩宮が目を見開いた。冷蔵庫を開けたまま、固まってしまった。
「記憶って……春からの、全部、ですか」
「たぶん?」
「つまり、俺の事、……俺とした事も?」
「ハイ」
ペットボトルを炭酸水からお茶に持ち替えて、志摩宮はゆっくりと冷蔵庫を閉めた。そのままボトルのキャップを開けて、一口飲む。
それを横目に、俺は平静を装ったまま志摩宮のベッドに腰掛けた。
口の中がカラカラに乾いている。心音がヤバいし、握った掌の中が手汗で滑ってる。
記憶の中の俺は、志摩宮との行為にこんなに緊張していなかった。記憶通りの俺になるよう、細心の注意を払いつつ誘ってみた。
ここで飲み物を勧められるって事は、志摩宮はキスしてくるって事だ。だから、炭酸水じゃなくてお茶を選んだ。記憶が戻った事も言った。
だから、志摩宮はきっと遠慮なくキスしてくる。
……と、身構えていたのだが。
志摩宮はそのままゴクゴクとお茶を半分くらいまで一気飲みして、蓋の開いたボトルを差し出してきた。
「どうぞ」
「え、っと」
「飲みさしが嫌なら、新しいの出しますけど」
いやこれでいいよ、と小声で言って受け取ると、志摩宮は「先に風呂入りますね」とその辺から着替えを出して浴室の方へ行ってしまった。
置いてけぼりにされた俺は、肩透かしを食らって暫し呆けてしまう。
今日は絶対やらしい事すると思って、こんなに緊張したのに。
もしかしたら風呂を上がってからか? という期待も虚しく、次どうぞ、と勧められるままに風呂に入って上がってきたら、志摩宮は床に寝袋を敷いてその中でスマホを弄っていた。
「あの、志摩宮」
「シングルに二人寝るの辛いんで、静汰が寝て下さい」
「……やだ」
え? と起き上がろうとした志摩宮の上に乗っかった。一人用の寝袋は、床に敷いても痛くなさそうなフカフカ素材で出来ていた。蓑虫みたいな志摩宮の上で、彼の額の髪を引っ掴んで唇を奪った。
「せ……」
「どういうつもりで焦らしてんのか知らねーけど、俺もう無理だから諦めて襲われて」
志摩宮がこの状況で俺とヤらないなんて選択肢、無い。
とすれば、ただの意地悪だ。俺が焦れて甘えるのを待っていたのだろうが、生憎そんな余裕は無い。もう人目を気にせず触れ合える状況だ。可愛げなくて悪いが、勝手に襲わせてもらうぞ。
志摩宮と唇を合わせると、一瞬驚いたように結ばれたそれは、しかしすぐに開いて舌を入れさせてくれた。志摩宮の舌を追うように彼の口の中に差し込むと、犬歯で軽く噛まれて一気に股間が熱を持つ。
じゅうう、と強めに吸われて、急かされるように奥まで舌を入れて上顎を舐めた。下から擦りつけられた志摩宮の股間が、寝袋越しにでも分かるくらいガチガチに勃起していた。
「あはは、やっば。キスだけでこんなんなるのに、寝るフリするとか」
唇を離して寝袋越しに手のひらで硬いソコを摩ってやると、志摩宮は眉間に一層皺を寄せて呻いた。
「上から、どいてくれませんか」
「お、やる気出た?」
ケラケラと笑ってどいてやると、寝袋から這い出てきた志摩宮はゆらりと立ち上がる。床に座る俺を見下ろし、荒い息を隠しもせず、ズボンの股間だけを寛げて逸物を抜き出した。
「……静汰は、今しようとしてる事の意味が本当に分かってますか」
明らかに興奮したソレとは反対に、やけに冷めた声で志摩宮は呟く。
「意味?」
「俺のコレを、受け入れる覚悟はあるのかって言ってんですよ」
鼻先に押し付けられた志摩宮の肉は、裏筋の血管が浮き出る程に硬く勃ち上がって熱い。
これを、受け入れる。
どこに、なんて聞くほど幼稚じゃない。
「そのつもりで襲ってんだけど?」
舌を伸ばしてペロ、と舐めると、不意打ちだったのか志摩宮がさっと腰を引いた。先端から先走りが溢れたのを見て、思わず頰が綻んだ。唇を舐め、あー、と口を開けてみせる。
「クチ、好きなんでしょ」
戻ってきた記憶で知っている。志摩宮はフェラが特に好きだと言っていた。それも、挿入よりもというのだから相当だ。
「根元までは無理かもしれないけど、限界まで頑張ってみるから」
「いや……」
片手で顔を覆って大きく溜め息を吐かれてしまった。やっぱり根元まで咥えなきゃ駄目だろうか。しかし、志摩宮のソレは長い。とても長い。口の中に収まると思えない。喉まで使えって事か? ……なんだっけイマラチオ? イラマチオ? そんな名称だった気がするけど、あれって特殊プレイに分類されるんじゃないの?
出来るだろうか、と志摩宮のちんちんをにぎにぎしながら真剣に考えていると、ゴン、と額に手刀が落ちてきた。あんまり痛くない。
「そんな急かさなくても」
「口じゃないです!」
「ん?」
口じゃない?
ってことは、手も使っていいって事かな、と俄然やる気になって先端を咥えたら、もう一発チョップされた。やっぱり痛くないけど。
「話を聞け! ケツに挿れる覚悟はあるのかって言ってんですよ!!」
予想外な事を言われ、呆けた俺は咥えたまま志摩宮を見上げた。口の中の肉が硬さを増して前歯の裏を押す。
「入ると思いますか」
「……むりです」
「でしょうね」
頭を両手で掴まれて、志摩宮のソレから引き剥がされて言い聞かせるように説明された。
「ちゃんと時間ある時に、しっかり用意して半日くらいかけて慣らさないと、静汰が壊れます。挿れてから気遣う余裕が俺にあるかどうかも分からないですし、出来る限り弛めておかないと。ローションもゴムも静汰の為に新しいの用意してありますけど、下剤はまだ買ってないので。別に俺は無しでもいいですけど、静汰耐えられます?」
滔々と説教され、そもそも後ろに入れるなんて事を想定していなかった俺はただ神妙に首を横に振るしかない。
「だって、志摩宮アナル好きじゃないって言ってたじゃん……? 別に俺も無理して挿れて貰いたい訳でも無いし、しなくても……」
「俺はアナルセックスしたいんじゃなくて、静汰と繋がりたいんです」
なでなで、と俺の頭を二、三度撫でてから、志摩宮は膝をついて俺を抱き締めた。志摩宮に借りたTシャツとトランクス姿で、知らず冷えかけていた肌が志摩宮の肌に触れてほわりと温まる。
そっか。志摩宮も俺が好きなんだもんな。好きだから繋がりたいのは当然か。
「なら、俺が志摩宮に挿れるのは?」
「…………は?」
「だって、別にどうしても挿れたい訳じゃないんだろ? だったら俺が挿れる方でもいいんじゃん? 繋がるって意味なら同じだし」
名案じゃない? と志摩宮の顔を見るが、彼は目を丸くして眉尻を下げていた。
「ああ……それは、確かにそうなんですが。俺が……? あーでも、そうか、それなら確かに今夜出来ますね。静汰のサイズなら、指二本くらい入れば……洗浄もまぁ、風呂で自分で済ませばいいか。そうですよね、どっちか、ってだけの話……」
目を逸らした志摩宮はぶつぶつと独り言ちる。なんだ俺のサイズについて小さめと判断された気がするが、志摩宮のと比べればそうなので黙って待つ。
数分悩んでから、志摩宮は「よし」と大きく頷いた。
「今日はそれでいきましょう」
どうやら納得したらしい。
「風呂で少し準備してきますから、これ見て予習しておいて下さい」
もう一度風呂に行くと言って、志摩宮は自分のスマホを少し操作してから、インターネットの『アナルセックスの準備』と大きな見出しのページを開いて俺に渡してきた。
「お、おう」
「ローションとゴムはベッド下の収納に入ってるんで、好きなの選んで下さい」
そうと決まれば、と志摩宮は慌ただしく動き、俺はまた一人取り残されてしまった。いつもながら、志摩宮は迷いがなさすぎる。自分が優柔不断だとは思わないが、判断の早さは見習いたいくらいだ。
言われた通り、ベッド下を引き出すと、木製の収納空間には大量のアダルトグッツが詰まっていた。
セフレだった女の子たちと使っていたのだろうか。
心臓の辺りがぎゅっと痛む。
あまり見たくないのでさっさとローションとゴムだけ取り出そうと半目で漁っているうち、ふと気付いた。
どれもこれも、未開封なのだ。箱の開け口に貼ってある、透明なテープすら剥がされていない。
ディルドやローターみたいな玩具の他に、ローションのボトルもコンドームの箱すらビニールに包まれたままだ。収集癖でもあるのだろうか、種類は豊富だが、そのどれもが未開封。
なんでこんなに、とは思うが、誰かとの使い残しを使わなくていいと思うと少し気が楽になった。
適当に掴んだローションのボトルを出し、ゴムは『チョコレートの匂い付き』と書いてある普通サイズのやつを探し出した。他のはどれもXLサイズで、見栄を張って俺のに装着してもすぐ脱げてしまうだろう。その方が情けない。
「なんで普通サイズのなんて買ったんだろ……」
志摩宮の凶悪なアレが入る訳もない。萎えた状態で被せても、勃ったら血が止まって痛そうだ。
志摩宮が使うのでは無いとしたら、俺に?
俺とこうなる事を予期していたとは考え辛い。とすれば想定されるのは、志摩宮が俺のを口でする時に使おうとしていた……?
一瞬想像してしまって、瞬時に股間に血が集まって痛くなった。
気を逸らすついでに、ローションとゴムを選び終えたので、志摩宮に渡されたスマホで予習することにした。
まずは下剤や浣腸液で中の物を出して、ぬるま湯で洗浄。それを終えたらローションをたっぷりつけて指や玩具で拡張。爪は短く切り、指にはできればコンドームを付けた方が良し。おおよそ指が三本入るようになれば完了──。
特殊プレイだと思っていたが、特に驚くような行為は無いのでホッとした。一番最初の洗浄を抜けば、女の子とセックスするのとそう違わない……たぶん。童貞だから知らないけど。
ベッドでするのに、ローション使ったら寝具が汚れそうだけどいいのかな。そのまま志摩宮のスマホで調べてみたら、厚めのシーツにするか、バスタオルを重ねて腰の下に敷いたりすればいいらしい。
バスタオルは確か浴室横の棚の中にあった筈だ。準備しておこうとサニタリールームへのドアを開ける。ドアを開けて右が風呂で左がトイレだ。その間の二畳ほどのスペースに、洗濯機と小さい棚が置いてあって、棚の中にバスタオルと下着が入っていた。
乱雑に畳まれてはいるが、タオルと下着は混同されていないし、洗濯済みのものしか入っていない。志摩宮は几帳面だ。俺が一人暮らししたら、その辺に投げて山になっていると思う。
タオルを取り出すと、ちょうどシャワーの水音が止まった。ガチャ、と折れ戸が開いて、湯気の立つ志摩宮の腕が出てくる。
「タオルくれますか」
「はいよ」
取り出していたタオルをそのまま彼に渡し、新しいのを取り出した。俺が新しいタオルを出したのを見て、志摩宮が体を拭きながら訝しそうにする。
「なにか溢したんですか? 雑巾だったらあっちに……」
「あ、いや、ベッドに敷こうと思って。ローション使うんだったらシーツ汚れるだろうから」
「……あー。ありがとうございます」
「いや……」
微妙に気まずい空気が流れた。
そりゃそうだ。それに、今志摩宮はこの浴室の中で準備してきたのだ。──俺に抱かれる準備を。
「志摩宮」
そう思ったら、我慢が効かなくなった。
まだ水滴の垂れる志摩宮の体を抱き締め、唇を合わせる。柔らかい下唇を舐めると、志摩宮の舌とぶつかった。舌先を擦り合わせると、下半身が疼く。
「ん、んん」
キスを仕掛けたのは俺なのに、気がつけば首の後ろを掴まれて舌の根元まで吸い付かれていた。いつもながら、引っこ抜かれそうだと思う。痛い筈なのに、吸われる強さが増すたび息が上がる。志摩宮の犬歯が舌に刺さって、唾液が溢れ出てくる。
「し、まみ」
「静汰……、先に一回、してもらっても、いいですか」
志摩宮の息が、全力疾走の後みたいに切れている。それだけ興奮してくれているのかと思うと、胸に熱いものがこみ上げた。
もちろん、と返事をする間も惜しく、膝をついて志摩宮の根太の先端にキスを落とした。
「……っ」
ぶるりと震えたソレを咥えると、志摩宮が息を詰めた。
水っぽい味しかしない肉に沿うように舌を這わせ、顔を前後させる。志摩宮のソレは規格外過ぎて、テクなんて考える余裕もない。顎が外れる限界まで口を開けて、歯を立てないようにだけ気をつけるのが精一杯だ。
抜く時に一瞬上顎に空気が入って、ぐぽっと水音が鳴る。飲み込む時に喉を押されてえずいたら、志摩宮が慌てて俺の頭を引き抜いた。
「だ、大丈夫ですか。無理しないでいいんですよ」
「へーきだよ。俺がしたくてしてんの」
頭を押さえないのが志摩宮らしくて笑ってしまった。
心配そうにする割に萎えないソレを手で擦りながら、今度は無理せず先っぽだけを口に入れて舐め回す。
「せっ……た、それ、やばっ」
カリ首くらいまでを舌のざらついた所で舐めるのが悦かったのか、志摩宮は膝まで震わせたので集中的にそれを続けた。根元までの下半分は手で擦っているから、顎も疲れないし負担も少ない。余裕が出来た分で、多めに唾液を出してわざとちゅぱちゅぱと音を立てると、それほど時間もかからず口の中に精液が吐き出された。
「う」
前にも飲んだ記憶はあるが、それでも美味しいものではない。生臭さに吐きそうになったが、気合で飲み込んだ。
「ありがとうございます」
「こちらこそ?」
自分のを咥えた後だというのに、志摩宮は構わずキスしてきたので、唇を閉じて触れるだけで応じた。
「綺麗にしてきたので……その、やり方、分かりましたか」
「おう。優しくしてやる」
「お願いします」
火の点いた俺たちは、そのまま雫を滴らせたままベッドに移動して、志摩宮を寝かせた。指を入れている所を直視したくないと言うので、四つん這いの志摩宮の後ろに俺が座り込む。
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