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神は絶対に手放さない
4、1回は1回でも
しおりを挟むわお。志摩宮に触れていれば、俺も透過するらしい。
傍に置いておけば役に立つ、という寛容の神の言葉を思い出して納得した。こいつの能力と俺の力があれば、ほぼほぼ身に危険が無くなるだろう。
「えっと、終わったんすよね?」
「見れば分かるだろ」
これ、と指し示した死骸を、しかし志摩宮は視線を下の方で彷徨わせて見つけられないようだ。
「え、だって、あっちの普通の爺さん達にも見えてんだぞ?」
「床しか見えないですけど」
「……じゃあ、あれは?」
「足? ですかね」
妖の中でも力が強く、普通の人間にも見えるのが当たり前な鬼ですら、志摩宮は見えないという。
先ほど避けた、人の足先らしいモノを指差すと、それに関しては見えるようだった。
「お前にはどう見えてたんだ?」
「今の話だったら、先輩が襖開けてなんか喋って、その足が飛んできて爺さん達が悲鳴あげて。先輩が腕上げて終わり、って言った後に転びそうになってたから来ただけですけど」
志摩宮は空中を飛んできた人の肉片にも動じていないらしい。俺や蛍吾は慣れているが、ただのヤンキーなら普通もっとビビるもんじゃないのか。
「お前、怖くないの」
「霊の仕業なんですよね? 見えないもんは怖がりようがないじゃないっスか」
怖がるべきは見えている人の足の方なのだが。
色々と感覚のおかしい後輩にこれ以上聞くのは無駄だと判断して、老人達や坊主の方を振り返る。
「住職は?」
坊主が悲痛な顔で、足を示した。
「住職様が亡くなられたのでしたら、今後私達はここへは来ません。例え次また鬼が出ようとも」
「そっ……そんな……!」
「当たり前でしょう。徳の高い住職を差し出して自分達だけ生き延び、その上うちの神子をも差し出そうとしたような人たちの為に来るわけがない」
蛍吾は冷たく言い放ち、懐から取り出した包帯を俺の手に巻く。ひんやりと冷たいそれは、清水で浄化された布に蛍吾が手ずから浄化の紋様を縫い付けたもので、鬼に触れて若干の穢れがついた俺の手を癒やしてくれる。
「それでは」
「まっ、待ってくれ……!」
鬼の死体もそのままに、本堂から出て車へ戻ろうと動いた俺達に追い縋ろうとした老人の一人を、志摩宮が蹴り飛ばした。
「おい、老人相手に」
「一人やっときゃ二人目は出ないですよ」
一人が蹴られて倒れ込んで痛い痛いと呻くのを見た老人達は、確かに志摩宮の言うとおり誰一人としてそれ以上縋ってはこなかった。
若干後味が悪いが、ため息を吐いて志摩宮の手を引いて足早にその場を去ることにする。
「先輩」
先ほど登ったばかりの石段を降り、駐車場まで戻った所で不意に志摩宮に話しかけられた。
「なんだ」
「俺、先輩に手ぇ繋がれてめちゃくちゃドキドキしてます」
「は?」
やおら気持ち悪いことを言い出すので、離そうとした手に指が絡められた。
ぎょっとして隣の志摩宮の方を向くと、間近に褐色の肌があった。肌より唇の色の方が薄いな、なんて考えた間に、その唇が俺の唇に重ねられていた。
長い睫毛が眼前にある。グリーンの瞳と目が合った。
「……」
志摩宮の顔はすぐ離れていく。
今何をされたのか、理解したくなくて考えないようにした。
「先輩、俺、バイト代いらないんで、代わりに先輩とえっちさせて下さい」
考えないようにしたのに、志摩宮が良いアイデアとばかりに満面の笑みで言うものだから、とりあえず黙って手を離した。
蛍吾を見れば、俺と同じように呆然としているのが見て取れる。蛍吾に身振りで志摩宮を前に座らせろ、と指示して、車の後部座席に逃げ込んだ。
ああああああ!!!! 俺の!!!!!! ファーストキス!!!!!!!!
窓の閉まった教室は陽気も相まって、長袖シャツの下は腕まくりしていても汗ばむ。
六月もそろそろ終わる頃。来週に芸術祭を控えたある日、俺は美術室で一人、描き忘れていた水彩画に奮闘していた。
一人である。一応だが監視役の筈の蛍吾はもう寮に戻ってしまったが、廊下にはまだ志摩宮が待機している。自宅通いのあいつが乗る、最終バスの時間まではまだある。せいぜいゆっくりと描くしかない。
絵筆を筆洗に投げ入れ、窓の外を見上げる。
木々は青々しく、風はあまり無い。絶好の散策日和なのに、ここのところ、どこへでもついて来る志摩宮との接触を避ける為に街へ出ていない。
朝は寝坊すると寮の部屋まで来るので早起きするようになったし、授業が終わってもギリギリまで校舎の中にいて安全確保に必死だ。フラストレーションで爆発しそう。
いっそ窓から逃げてしまおうか。
立ち上がって窓枠に手を掛けると、廊下から声が掛かった。
「先輩、寮まで送りますよ」
「……まだ帰らねぇよ」
あいつには透けてみえているんじゃないのかと疑わしくなったが、諦めて丸椅子に座り直して絵筆を取った。
「中で待ってちゃダメっスか?」
「駄目だ」
「まだ怒ってます?」
「別に」
「だったら早く次のバイト連れてって下さい。先輩とえっちしたくて溜めてんスから」
「知るか!」
絵筆を教室の扉へ投げつけ、聞きたくないと耳を塞いだ。
こんなことになるくらいなら、手合わせ目当てに傍に居る方がマシだった。
何が悲しくて男に貞操を狙われなきゃならんのか。
助けてくれる筈の蛍吾は、志摩宮が寛容の神のお墨付きだからと不干渉の体だ。
忠犬度合いは変わらないから、外で待てと言えば従うのが救いか。
「女とヤッてこい」
「してますけど、先輩は別腹っていうか」
してるのかよ!
クソ羨ましい、と投げた絵筆を取りに行くと、閉めておいた横開きの扉がほんの少し開けられた。僅かな隙間から、志摩宮の目が覗く。
「先輩のやーらかい手に握られてから、もう先輩に扱いてもらう事しか頭に無いんですよ。一発抜いてもらったら落ち着くと思うんで、どうか」
「……手で一発?」
「はい」
えっちしたいだの言っていたからてっきり女のように中に入れさせろと言われているのかと思ったら、どうやらそこまでは望んでいなかったらしく少し安心した。
そして、連日こうして気を張り続けるのも面倒だしで、少し考えてから諦めて志摩宮を教室の中に招き入れた。
「一回だけだからな」
内鍵を下ろし、施錠する。
「いいんですか?」
「こないだの分のバイト代だと思っとけ。一回でいいんだろ」
「ありがとうございます!」
さっさと終わらそうと、丸椅子を指し、「座れ」と示す。手で抜くだけなら、見ないようにしていればまあ何とかなるだろうと思ったのだ。
が、志摩宮に両手で頬を掴まれたと思ったら、逃げる間もなくキスされた。そのまま舌が俺の口の中に入ってきて、ざらざらだがぬるぬるしたソレに舐め回されて痺れるような感覚に身体の力が抜ける。
「ぅ、あ、」
「せんぱ……」
膝がガクガクと揺れ、座り込みそうになるのに顎を掴まれているせいでそこを支点に吊り下げられてるみたいで、思わず志摩宮の背中に手を回して彼の制服にしがみついた。
俺の仕草に強請られていると勘違いしたのか、志摩宮は更に奥の方まで舌を入れてきて、喉に捩じ込まれて窒息しそうになって咳き込んだ。
「っげ、ほ」
「先輩、先輩」
「お前ちょっと」
待て、とようやく離れた志摩宮の顔を、その胸を押して離そうとしたのだが。抱き合うように密着させてきた腰あたりに、硬い感触のものが我慢出来ないように擦り付けられた。
「先輩、早く」
志摩宮は自らズボンのチャックを下ろし、下着を掻き分けて根太を取り出すと勝手に俺の手を掴んでソレを握らせてくる。
「うわ」
「扱いて、先輩」
俺の手の中のソレは、熱くて太い。自分のを握る時より指を大きく広げないといけないのが、どうしようもなく他人のなのだと実感出来て怖気が走った。
「す、素手で!?」
「……そりゃ、そうでしょ」
きょどった俺の疑問に、志摩宮が少し間を空けてから訝しげに、当然だと頷いた。
マジか。いやいや確かに俺だって、自分でする時にわざわざ手袋なんてしないし、扱いてと言って女の子に手袋されたりしたらめちゃくちゃ傷つくかもしれないけど。
でも、と視線を下に落としてしまって、自分の手の中にある赤黒い亀頭を見て閉口した。鈴口がぱくぱくと物欲しげに開閉しているのが、生々しくて目を閉じた。
「クソッ」
さっさと終わらせる、と覚悟を決め、頭を真っ白にして手を動かす。にゅ、にゅ、にゅ、と柔らかい表皮が、俺の手と擦れて音を立てた。
またキスをしようとしてくる志摩宮から、加護を使って顔を背ける。一度目は何が何だか分からなかったが、二度目のさっきは、はっきりと気持ちいいと思ってしまった。それが志摩宮のテクニックのせいなのか、それともキス自体がそうなのかすら、俺の貧弱な経験では判別がつかないのが恐ろしい。
「先輩、キスも」
「早くイけ」
乱暴に擦るだけの俺の手では、なかなか難しいだろうが、早く終わりたくてそんな無茶を言った。
志摩宮はキスを諦めたかと思えば、今度は耳に齧りついてきた。
「わ」
「気持ちいいです、先輩」
熱っぽい小声で耳に直接囁かれて、肩のあたりから鳥肌が立つ。軽く、痛みが感じない程度に耳朶を噛まれ、穴の中をも舐められて堪えきれずに頭を逃すと、そちらに先回りした唇に口付けられた。
また舌が挿入ってくる。その甘い感触が始められてしまえば、俺は逃げることなんて考えられなくなってしまう。
「は……、あ、ぁ」
口腔を舐められる気持ち良さと、意外なほど抵抗のない志摩宮の唾液の味と、少しの息苦しさ。
志摩宮から与えられるそれに、気が付けば夢中で貪っていたのは俺の方だった。
「先輩の、俺がしますから。先輩も、手、動かして」
「や……っ、俺は」
気付けば壁際まで追い詰められている。
俺の股間のジッパーを下げられそうになり、慌てて首を横に振ってそれを阻止した。
「俺はいい」
「でも、ココすごいことになってますよ」
半分くらい下げられたジッパーから見えた下着が先走りでシミになっているのを、指でつつかれて背が反る。
「いいって」
「なら、こうしてもいいですか」
足首を蹴られてその場に崩れ落ちた。尻餅をついて座り込んだ俺の腰の上に乗り上げてきた志摩宮が、俺の股間の布をずり下げて彼のソレと直接合せてきた。
「な、なん」
「俺、俺がっ、擦ってるだけですから」
そう言うと、志摩宮は俺の肉茎と自身のを擦り合わせるように乱暴に腰を揺すりだした。
「あ、あ、ぁ」
他人にソレを触れさせた事も無かった俺は、急に強烈な快感を与えられて為すがままにそれを受け入れるしかない。
「先輩、声出ないように、キスしますね」
声を抑えられない俺に、とってつけたような理由で志摩宮がまた口付けてくる。
舌同士を擦り合わせ、吸われたり吸ったり。唾液が絡んでどちらのものかも分からないそれを、互いに飲ませ合う。キスだけで気持ち良くて止まらないのに、陰茎同士が擦り合う下半身はもう蕩けだしそうだ。
先走りで濡れそぼつ亀頭を志摩宮の張ったカリが往復していく度、もうイく、と何度も思った。事実軽くイき続けていたに違いない。全身が快感で痺れ、真っ白な頭に志摩宮の荒い息遣いだけが聞こえてくる。
「っ……」
息を詰めた志摩宮が、唇を離して俺をきつく抱き締めた。と、その直後、密着した腹に熱い感触が拡がる。
志摩宮が達したのだと、ホッとしたのも束の間、上半身を密着させたまま志摩宮がまた動き出した。吐き出した精液が、二人の間でぬちゃぬちゃと粘つく感触に、首を振って逃げ出そうとする。
「志摩宮、お前、終わったんならどけって……」
「先輩がまだです」
胸をくっつける為にはキスが出来ず、それが焦れったいのか志摩宮は肩を甘噛みしてきた。犬歯の刺さる感触に思わず催して、彼の背中に腕を回して俺も吐精した。腹にまた、熱い感触。
満足したらしい志摩宮が体を起こすと、互いの胸の間に精液が糸を引いた。白い粘液が志摩宮の褐色の肌を汚す様に、微かな興奮を覚えてしまって目を逸らした。
「……満足か」
「はい! 次のバイトも楽しみです!」
脱いだ下着のTシャツで肌を乱暴に拭う艶々した笑顔の志摩宮の言い方に、引っ掛かりを覚えてまさか、と問う。
「これ一回きりでいい筈だよな?」
「はい、バイト一回につき一回でオッケーですよ」
「……次からのバイト代は現金で」
「え、ヤですよ。金ならいらないです。キスだけでもいいんで、バイト代は先輩でお願いします」
「俺は通貨じゃねえ……」
脱力して頭を抱えた。
男とのキスが気持ちよかったのも衝撃だし、ほとんど無抵抗にイかされたのも、正気にかえってみれば顔から火が出るほど恥ずかしい。腹を汚す志摩宮の精液に嫌悪感が無いのも自分の性癖への混乱に手を貸す要因だ。
確かに俺は異性愛者のはずなのに。おかずはもっぱら胸の大きなお姉さんで、股間にぶら下がったナニかで抜いた事なんて無いのに。それなのに、次を示唆されて、今日の快楽をまた感じられるのかも、と期待する気持ちが心の端にあるのも否定出来なかった。
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