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『終の盟約』を読んで

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  「終の盟約」を読んで
        楡修平   集英社(2020年発行)

 友人から送られてきたたくさんの本の中にあった一冊。
(東京の彼女とは定期的に本の交換をしている)
いつもは読みたい本ばかりが送られてくるのだが、これを手に取ったとき
(わあ、おもたーい)
と唸ってしまった。本自体が分厚く、中身もなんだか抵抗感がある。
表紙はグレーの病院のイラスト、黒い帯には『安楽死』の文字が踊っていて、ズキンとくる。
(これはあかんわ)
ため息をついて、とりあえず本棚に並べておいた。
 でも、読む本がなくなり、仕方なく読み始めた。
 その途端「プロローグ」からのめり込んだ。
 内容は、どうしようもなく重いのだが、ストーリー設定が巧みなので、引き込まれて読んでしまう。
432ページもあっという間だった。
 医者のエリート一家を軸に、家族、友人、医師仲間の内面が克明に描き出される。
 結果を言ってしまえば、『終の盟約』とは、死生観を共有する強い絆で結ばれた医者同士の秘密の契約だ。
そして、睡眠導入剤と鎮静剤の組み合わせた座薬を用いて密かに実行される。
 やり方は、まず、延命治療を拒否する意思を事前指示書として家族に託す。
特徴的なのは、認知症になった場合の延命拒否だ。
 父親の死に疑問をもつ弁護士である次男の言葉を借りて、読者に様々な疑問を投げかける。
・いつ終わるともしれない介護に追われ、病からの解放をいくら願っても叶わぬまま戦っている患者をどうすればいいのか?
・介護する側、介護される側とに意識の解離があるのではないか?
・尊厳死の法制化を急ぐべきではないか?
・末期の患者は苦痛を伴う。死を迎えるのが時間の問題になったとき、延命治療を望むか、治療を中断するかを決めるのは本人であるべき
 ラスト、医師の兄と若年認知症になった弟の間に交わされる「終の盟約」で終わる。

 読み終え、深いため息をついた私がまず考えたのは『事前指示書』を書こうということだった。
 この小説のように「盟約」を交わす医師の知り合いはいない。
もちろんこれは小説であり、現実ではない。
でも示唆に富む記述が多くあった。
本を閉じた手で、本箱の下の引き出しにしまっている私の『おしまいファイル』を取り出した。
保険関係と、葬儀のことの他、エンディングノートを入れてある。
 以前「尊厳死協会」の文例を参考にして自筆の『尊厳死の宣言書』もある。
それでも、もっと具体的に書こうと考えた。
 まず、厚生労働省のHP  をのぞくと、「事前指示書」に関して、膨大な量が載せられていた。
「決まった書式はないが、各自治体で配布していることが多い」ともあった。

 早速わが町の区役所、高齢者の窓口を訪ねた。
「事前指示書頂きたいのですが」
 それを聞いた職員はポカンとした顔で、
「はっ?」
「リビングウイル、事前指示書です」
 その方は奥へ引っ込み誰かと相談している。戻って来ると
「こちらにはありません。そういうものは入院してから書かれた方がいいのでは」
 今度はこちらが
「はっ?」
 もう無駄だと帰宅した。
(わが市はそういうこと考えていないのかしら?)
 市のHPをのぞいてみると、とんでもない。
『人生の最終段階における意思決定支援に関する有識者会議』と題する資料がカラーのシートも含め42ページにわたって丁寧な報告書が挙げられていた!
とても前向きないい資料だと思う。が、職員さんが……

 リビングウイルは、終末期の医療・ケアについての意思表明書、と訳される。
Living   will
つまり、生きる意志だ。パソコンにはいろいろな医療機関のHPにさまざまな例文が挙げられていた。ぴったり合ったものを書いておきたいと思う。
 ただ、とても残念なことに、現状では認知症になったときの対応を書くことができないことだ。個人で書いておくしかないが、効力は疑問だ。
 こわごわ手に取ったこの本を、自分に重ねた。
折角読んだのだから私の「おしまいファイル」にもう一つ、ぴったり合う「事前指示書」を加えようと思う。

 そう遠くない日にきっと役に立つ。はずだ。

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