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悪役令嬢の慟哭
エピローグ
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王都中に響いたお嬢様の笑い声と叫び声は何を意味していたのかは判りません。
ただそれ以降、お嬢様の消息はぷっつりと途絶えました。十年以上経った今も行方は知れません。
あの日、王城が全焼し、国王と王妃は崩御して、後継者の居ない王国は崩壊しました。
崩壊した王国は、健在だった領主達が元老院制を敷いて統治する事になりました。しかし、ハイデルフト領を中心としたハイデルフト共和国と幾つかの公国が興った事で、その支配する面積は王国の半分程に留まっています。
怨霊による一連の事件で亡くなったのは約二万人に上ります。王国の二百分の一程の命が失われた事になります。これを多いと見るか少ないと見るかは後世の歴史家に委ねたいと思います。
少し個人的な話に移ります。
ヘンドリックさんは再会の時、かなり微妙な顔をしていました。
別れを告げたつもりの相手にまた逢ったのですから、なんとなく判るような気がします。
ヘンドリックさんテネスノイトさんが再会した時は、その空気の重さに私の方がいたたまれませんでした。
口が重い二人から理由を聞き出すと、二人は自分達もお嬢様の標的だと信じていたそうです。だから二人は再会した時にお互いに別れを告げたのだと言います。ところが、二人ともお嬢様には一顧だにされず生き延びてしまったと言う話でした。
勇み足とは恐ろしいものです。物理的にダメージが無くても精神的に来る事もあるのですから。
お嬢様の足跡の編纂は、私レミアとヘンドリックさんとテネスノイトさんの三人の共同で行いました。
資金はテネスノイトさんが全額負担してくださいました。金の亡者と言う話でしたが不思議な事もあるものです。テネスノイトさんは、編纂したものを本にして出せば注ぎ込んだ資金の数倍の利益は有るのだと言っていましたが、とてもそうは思えませんでした。きっとテネスノイトさんの照れ隠しだったのだと思います。
編纂はテネスノイトさんが王城で焼け残った資料を集めて整理し、足りない部分はヘンドリックさんを中心に現地へ赴いて調査をし、私が資料に無い過去の逸話も含めて執筆するような形で行いました。
十年掛かりだった作業が終わると、既に老齢を迎えていたヘンドリックさんとテネスノイトさんは相次いで亡くなりました。
「エカテリーナ嬢について編纂するために生き延びさせられたのでございましょう」
病床でのヘンドリックさんのその言葉が印象的でした。
王都の件より後、怨霊が起こしたとされる事件は有りません。幾つか怨霊の仕業ではないかと言われたものも有りましたが、調べてみれば単なる事件か事故でした。
お嬢様は何処へ行ったのでしょう? 成仏したと思いたいのですが、方向音痴のお嬢様の事、もしかするとまだこの世界の何処かを彷徨っているかも知れません。
案外、人助けをしながら旅をしているのではないでしょうか。
◆
「迷ってますわよ! ここは一体どこーーっ!?」
ただそれ以降、お嬢様の消息はぷっつりと途絶えました。十年以上経った今も行方は知れません。
あの日、王城が全焼し、国王と王妃は崩御して、後継者の居ない王国は崩壊しました。
崩壊した王国は、健在だった領主達が元老院制を敷いて統治する事になりました。しかし、ハイデルフト領を中心としたハイデルフト共和国と幾つかの公国が興った事で、その支配する面積は王国の半分程に留まっています。
怨霊による一連の事件で亡くなったのは約二万人に上ります。王国の二百分の一程の命が失われた事になります。これを多いと見るか少ないと見るかは後世の歴史家に委ねたいと思います。
少し個人的な話に移ります。
ヘンドリックさんは再会の時、かなり微妙な顔をしていました。
別れを告げたつもりの相手にまた逢ったのですから、なんとなく判るような気がします。
ヘンドリックさんテネスノイトさんが再会した時は、その空気の重さに私の方がいたたまれませんでした。
口が重い二人から理由を聞き出すと、二人は自分達もお嬢様の標的だと信じていたそうです。だから二人は再会した時にお互いに別れを告げたのだと言います。ところが、二人ともお嬢様には一顧だにされず生き延びてしまったと言う話でした。
勇み足とは恐ろしいものです。物理的にダメージが無くても精神的に来る事もあるのですから。
お嬢様の足跡の編纂は、私レミアとヘンドリックさんとテネスノイトさんの三人の共同で行いました。
資金はテネスノイトさんが全額負担してくださいました。金の亡者と言う話でしたが不思議な事もあるものです。テネスノイトさんは、編纂したものを本にして出せば注ぎ込んだ資金の数倍の利益は有るのだと言っていましたが、とてもそうは思えませんでした。きっとテネスノイトさんの照れ隠しだったのだと思います。
編纂はテネスノイトさんが王城で焼け残った資料を集めて整理し、足りない部分はヘンドリックさんを中心に現地へ赴いて調査をし、私が資料に無い過去の逸話も含めて執筆するような形で行いました。
十年掛かりだった作業が終わると、既に老齢を迎えていたヘンドリックさんとテネスノイトさんは相次いで亡くなりました。
「エカテリーナ嬢について編纂するために生き延びさせられたのでございましょう」
病床でのヘンドリックさんのその言葉が印象的でした。
王都の件より後、怨霊が起こしたとされる事件は有りません。幾つか怨霊の仕業ではないかと言われたものも有りましたが、調べてみれば単なる事件か事故でした。
お嬢様は何処へ行ったのでしょう? 成仏したと思いたいのですが、方向音痴のお嬢様の事、もしかするとまだこの世界の何処かを彷徨っているかも知れません。
案外、人助けをしながら旅をしているのではないでしょうか。
◆
「迷ってますわよ! ここは一体どこーーっ!?」
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