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プロローグ
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「ふはははははははっ! 今こそ我が集大成である魔法を発動する時が来た!」
マント代わりに纏ったシーツを翻しながら累造は宣言した。
間川累造。一七歳になった今も中二病が抜けきれていない。ただ、専ら魔法陣を描いては発動させる真似をするインドアタイプであるため、家族以外に中二病を知る者は殆ど居ない。時間があれば魔法陣を描いてばかりで特に親しい友人も居ない。いわゆるボッチである。その結果として更にインドア化してしまうと言う、ボッチスパイラルにある。
ただ、それも傍から見ればだ。累造本人には考える事が沢山有って退屈などしない。魔法陣に描く内容について調べたり、如何に表現するかを考えていると、毎日があっと言う間に過ぎるのである。
「もう、早くしてよ! みっちゃんと約束が有るんだから!」
女の子座りをして前のめりで両手を床に突きつつ文句を言うのは間川りいな、累造の一三歳の妹だ。
いつも文句を言いながらも累造の中二病に付き合っているのだから、兄思いの健気な妹である。
と言うのは、りいな本人の主張。傍から見ればノリノリで付き合っているのが明白だと言うのが、りいなの友人達全ての見解だ。それ以上にノリノリなのは、累造が事後に口にする言い訳への突っ込みだとも共通した見解となっている。
彼女の友人達も彼女に付き合う形で累造の中二病に付き合った経験を持つが、累造とりいなのノリに付き合いきれずに早々に退散した。累造が中二病を発症している最中には、この兄妹に触らないと言うのが暗黙の了解ともなっている。
「まあ、待つが良い、妹よ。物事には手順と言うものがあるのだ」
「ジャージにシーツでかっこ付けたって、変な人なだけだよ?」
「妹よ、悲しいから本当の事をずけずけ言わないでくれまいか?」
「自覚有るんだ!?」
驚愕に目を丸くするりいなを、ジト目で見やって累造は大きな紙を広げた。
「この魔法陣こそは数多のラノベや漫画、ゲームを研究して練り上げた一品……」
「ラノベ!? 漫画!? ばっかじゃないの!?」
「妹よ、いつにも増して言葉の刃が鋭いではないか」
累造は胸を押さえて痛みに堪えるような仕草をする。
「いやいや、誰でもそう思うから!」
「むむ、そうなのか。それでは仕方あるまい」
「妙に素直だ!」
「妹よ、続けて良いか?」
「うん、さっさとやっちゃって」
累造は一息ついてから、続きの口上を述べ始めた。
「これぞ、一ヶ月の時を費やして描き上げた異世界転移の魔法陣。今ならなんと、転移者に自動で言語翻訳能力を与える機能付きっ!」
「そこでなんで通販口調!?」
「いや、つい……」
「もう、真面目にやってよ!」
「い、いや、真面目にはやっているつもりなのだが……」
中二病に真面目も何も有ったものではないのだが、二人は気にしない。
その片割れのりいなはやれやれと首を横に振る。
「で、言語翻訳能力だけなの? 定番のアイテムボックスとかステータス表示とかは?」
「無い」
「なんで?」
「アイテムボックスは異空間が理解できぬし、ステータスなどどうやって読み取るのだ? 譬え読み取れたとしても目の前が文字だらけになって危険ではないか」
「そこだけ現実的!?」
「妹よ、浪漫にも現実は付きものなのだ」
「代わりになるのは無いの?」
「うむ。ゲームのようなアイテムボックスはできぬが、倉庫と空間を繋げて物をやり取りする魔法陣は既に考案しておる。ステータス表示はできぬが、使った者が思い描いた文字を空間に浮かび上がらせる魔法陣は考案しておる」
「ふーん」
「妹よ、尋ねておきながらその気のない返事はいかがなものか」
「もう、めんどくさいなー。さっさと始めてよ」
「むむ、興の判らぬ奴め。だが、良かろう! これより始める!」
累造は魔法陣を広げた。魔法陣は「ここまでやるのか?」と突っ込みを入れたくなる緻密さである。
累造は魔法陣を描いた紙の上に乗ると、呪文を唱え始めた。
「ジュゲムジュゲムゴコーノスリキレ……」
「呪文じゃないし!」
すかさず突っ込まれる言葉に、冷や汗を垂らしながらも累造は続けた。
「……チョウスケ。アラホラサ!」
「何!? その脱力系!」
普段であればそこから累造の言い訳とりいなの突っ込みが続くのだが、この時だけは違った。
魔法陣から光が迸り、累造が光に溶けた。
光が収まった時には、その場から累造の姿が失われていた。
「お兄ちゃん!?」
暫し呆然としたりいなだったが、次第に事態を飲み込み始めた。
「お母さん! お兄ちゃんが! お兄ちゃんが!」
その後、幾ら捜しても消えた累造の行方は杳として知れなかった。
マント代わりに纏ったシーツを翻しながら累造は宣言した。
間川累造。一七歳になった今も中二病が抜けきれていない。ただ、専ら魔法陣を描いては発動させる真似をするインドアタイプであるため、家族以外に中二病を知る者は殆ど居ない。時間があれば魔法陣を描いてばかりで特に親しい友人も居ない。いわゆるボッチである。その結果として更にインドア化してしまうと言う、ボッチスパイラルにある。
ただ、それも傍から見ればだ。累造本人には考える事が沢山有って退屈などしない。魔法陣に描く内容について調べたり、如何に表現するかを考えていると、毎日があっと言う間に過ぎるのである。
「もう、早くしてよ! みっちゃんと約束が有るんだから!」
女の子座りをして前のめりで両手を床に突きつつ文句を言うのは間川りいな、累造の一三歳の妹だ。
いつも文句を言いながらも累造の中二病に付き合っているのだから、兄思いの健気な妹である。
と言うのは、りいな本人の主張。傍から見ればノリノリで付き合っているのが明白だと言うのが、りいなの友人達全ての見解だ。それ以上にノリノリなのは、累造が事後に口にする言い訳への突っ込みだとも共通した見解となっている。
彼女の友人達も彼女に付き合う形で累造の中二病に付き合った経験を持つが、累造とりいなのノリに付き合いきれずに早々に退散した。累造が中二病を発症している最中には、この兄妹に触らないと言うのが暗黙の了解ともなっている。
「まあ、待つが良い、妹よ。物事には手順と言うものがあるのだ」
「ジャージにシーツでかっこ付けたって、変な人なだけだよ?」
「妹よ、悲しいから本当の事をずけずけ言わないでくれまいか?」
「自覚有るんだ!?」
驚愕に目を丸くするりいなを、ジト目で見やって累造は大きな紙を広げた。
「この魔法陣こそは数多のラノベや漫画、ゲームを研究して練り上げた一品……」
「ラノベ!? 漫画!? ばっかじゃないの!?」
「妹よ、いつにも増して言葉の刃が鋭いではないか」
累造は胸を押さえて痛みに堪えるような仕草をする。
「いやいや、誰でもそう思うから!」
「むむ、そうなのか。それでは仕方あるまい」
「妙に素直だ!」
「妹よ、続けて良いか?」
「うん、さっさとやっちゃって」
累造は一息ついてから、続きの口上を述べ始めた。
「これぞ、一ヶ月の時を費やして描き上げた異世界転移の魔法陣。今ならなんと、転移者に自動で言語翻訳能力を与える機能付きっ!」
「そこでなんで通販口調!?」
「いや、つい……」
「もう、真面目にやってよ!」
「い、いや、真面目にはやっているつもりなのだが……」
中二病に真面目も何も有ったものではないのだが、二人は気にしない。
その片割れのりいなはやれやれと首を横に振る。
「で、言語翻訳能力だけなの? 定番のアイテムボックスとかステータス表示とかは?」
「無い」
「なんで?」
「アイテムボックスは異空間が理解できぬし、ステータスなどどうやって読み取るのだ? 譬え読み取れたとしても目の前が文字だらけになって危険ではないか」
「そこだけ現実的!?」
「妹よ、浪漫にも現実は付きものなのだ」
「代わりになるのは無いの?」
「うむ。ゲームのようなアイテムボックスはできぬが、倉庫と空間を繋げて物をやり取りする魔法陣は既に考案しておる。ステータス表示はできぬが、使った者が思い描いた文字を空間に浮かび上がらせる魔法陣は考案しておる」
「ふーん」
「妹よ、尋ねておきながらその気のない返事はいかがなものか」
「もう、めんどくさいなー。さっさと始めてよ」
「むむ、興の判らぬ奴め。だが、良かろう! これより始める!」
累造は魔法陣を広げた。魔法陣は「ここまでやるのか?」と突っ込みを入れたくなる緻密さである。
累造は魔法陣を描いた紙の上に乗ると、呪文を唱え始めた。
「ジュゲムジュゲムゴコーノスリキレ……」
「呪文じゃないし!」
すかさず突っ込まれる言葉に、冷や汗を垂らしながらも累造は続けた。
「……チョウスケ。アラホラサ!」
「何!? その脱力系!」
普段であればそこから累造の言い訳とりいなの突っ込みが続くのだが、この時だけは違った。
魔法陣から光が迸り、累造が光に溶けた。
光が収まった時には、その場から累造の姿が失われていた。
「お兄ちゃん!?」
暫し呆然としたりいなだったが、次第に事態を飲み込み始めた。
「お母さん! お兄ちゃんが! お兄ちゃんが!」
その後、幾ら捜しても消えた累造の行方は杳として知れなかった。
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