100 / 102
エピローグ
しおりを挟む
現代において紋章魔法と呼ばれる魔法による産業革命については諸説語られている。特に紋章魔法の始祖とされる人物についての議論が激しい。
一般的にはゴッツイ財閥の中興の祖とも言われるケメン・ゴッツイとされている。
彼は紋章魔法の研究所を設立してその初代の所長であり講師となった。そのために始祖として有力視されているのだが、彼が魔法の生い立ちについて語ることは一切無かったと伝わる。
一説にはルゾー・マガと言う人物が始祖と言われている。
この名前はセウスペル財閥の創始者ショウ・クロウの手による伝記に登場する。特に注目されるのは、ルゾー・マガがケメン・ゴッツイとは別人として描かれている点である。この伝記は産業革命当時のものとして最も信頼性の高い一冊とされているが、当時の記録にはルゾー・マガと言う人物が存在しないため、この部分に限っては創作であるとの批判も有る。
その一方で、ルゾー・マガは世を忍ぶための偽名であるとの論も有る。有名になることを望まなかったルゾー・マガの意を汲んでショウ・クロウが偽名で伝記に残したのだと言う。
伝記では、ルゾー・マガは紋章魔法を伝えた後、数年に渡って行方知れずとなってしまう。そして再び現れたルゾー・マガは配偶者を得て一男二女を得るのだが、現代においてルゾー・マガの子孫とされる人物は存在しない。一説には一家揃って異世界へと旅立ったとも言われている。
この異世界と言う突拍子もない説の根拠はケメン・ゴッツイの配偶者ルゼが残した日記である。
婚姻後から記し始めたと言われる日記には「ルイゾウ」と言う人物が度々登場する。この人物は遠い世界から訪れて遠い世界へと帰っていったとも記されている。そしてこの人物こそがルゾー・マガだとの主張も為されているのである。但し、別の主張ではルイゾウは想像上の人物とされる。
また、日記にはもう一人の紋章魔法の始祖として有力視されている人物の名前も登場する。それは、ゴッツイ財閥やセウスペル財閥の本拠地であるカーメリ連合国から遠く離れた国ソウフにて、生前から伝説となった大神官ニナーレ・テンキである。
彼女は衰退しつつあった魔法を憂慮して紋章魔法を創造したとされる。
その一方、同じく伝説となっている大神官デージ・ボンに師事することで、ニナーレ自身が古典的魔法の比類無き達人となっている。そして儀式においては無数の「精霊の光」と呼ばれるものをその身に纏ったと言う。
精霊の光とは、魔力が光の玉となって術者の周囲を漂う現象で、ニナーレより前の世代の神官には精霊の光を纏う者も多かったと言われるが、現代においては纏える者が存在しない。
このように始祖の候補として三人の人物が挙げられている。しかし、カーメリ連合国とソウフ国とでは紋章魔法の様式が異なっているため、同時期に二箇所で偶然に創造されたのだとする説も存在する。
◆
◆
◆
「お兄ちゃん、まだ諦めてないの?」
「今回駄目なら諦めるよ」
ルゼとケメンの結婚式の途中、累造は一瞬立ち眩みに似た症状を感じて目を瞑った。そして目を開けた時には見知った日本の自室に立っていたのだ。
その後、累造は復学して大学は工学科へと進んだ。その在学中、何度か異世界転移を試みたが成功しなかった。そうせずにいられなかったのは、チーナとの約束が喉に刺さった魚の小骨のように気になっていたからである。一人にさせられないなどと言っておいて、あの日、チーナを一人にしてしまった筈だ。不可抗力だったとしても結果的に不誠実に過ぎた。あれでは余計に孤独を感じさせたかも知れない。そう考えるといてもたってもいられなかった。
しかし、大学も卒業して就職先も決まっている。本当に就職してしまったら突然消える訳にもいかなくなる。だから今度が最後の挑戦だ。ただ、今回は成功しそうな気もしていた。
リュックサックには旅行道具一式の他、シャープペンやボールペンを沢山入れている。白紙の紙や帰還の為の魔法陣も入れている。準備万端だ。
「それじゃ、始めるよ」
「お兄ちゃん……」
りいなも何か感じているのか切なげに累造を見詰める。そんなりいなに累造は宥めるような視線を送りながら起動の言葉を唱える。
「アラホラサ」
累造は光に包まれた。
◆
光が収まった時、累造が立っていたのは草原だった。懐かしさすら覚える。累造は手に持っていた靴を履き、荷物を確認すると歩き始めた。
暫く進むと一つの墓標が立っていた。「セウスペル、ここに眠る」と書いている。暫し手を合わせた後、また歩き始める。
魔動車とも擦れ違った。ゴムの車輪を付けているがチューブは使っていないように見えた。さすがにそこまで技術は進歩していないのだろう。時間の進み方が同じであれば、あれから五年半しか経っていないのである。
田畑は以前見た時と変わっていないように見える。レザンタの外観も記憶に有るままだ。
そしてたった一年余り住んでいただけとは思えない程に懐かしい建物の前に到着した。だが、看板が違う。レストラン虹の橋。それが今の屋号になっている。
一抹の不安を覚えつつも意を決して扉を開ける。中にはテーブル席が四つあるだけだ。そして店主と思しき女性が振り向いた。
「いら……」
驚愕したように目を見開く女性。そして彼女は累造に少し怒ったような顔をした後で微笑んだ。
「お帰りなさい、累造」
「ただいま、チーナ」
一般的にはゴッツイ財閥の中興の祖とも言われるケメン・ゴッツイとされている。
彼は紋章魔法の研究所を設立してその初代の所長であり講師となった。そのために始祖として有力視されているのだが、彼が魔法の生い立ちについて語ることは一切無かったと伝わる。
一説にはルゾー・マガと言う人物が始祖と言われている。
この名前はセウスペル財閥の創始者ショウ・クロウの手による伝記に登場する。特に注目されるのは、ルゾー・マガがケメン・ゴッツイとは別人として描かれている点である。この伝記は産業革命当時のものとして最も信頼性の高い一冊とされているが、当時の記録にはルゾー・マガと言う人物が存在しないため、この部分に限っては創作であるとの批判も有る。
その一方で、ルゾー・マガは世を忍ぶための偽名であるとの論も有る。有名になることを望まなかったルゾー・マガの意を汲んでショウ・クロウが偽名で伝記に残したのだと言う。
伝記では、ルゾー・マガは紋章魔法を伝えた後、数年に渡って行方知れずとなってしまう。そして再び現れたルゾー・マガは配偶者を得て一男二女を得るのだが、現代においてルゾー・マガの子孫とされる人物は存在しない。一説には一家揃って異世界へと旅立ったとも言われている。
この異世界と言う突拍子もない説の根拠はケメン・ゴッツイの配偶者ルゼが残した日記である。
婚姻後から記し始めたと言われる日記には「ルイゾウ」と言う人物が度々登場する。この人物は遠い世界から訪れて遠い世界へと帰っていったとも記されている。そしてこの人物こそがルゾー・マガだとの主張も為されているのである。但し、別の主張ではルイゾウは想像上の人物とされる。
また、日記にはもう一人の紋章魔法の始祖として有力視されている人物の名前も登場する。それは、ゴッツイ財閥やセウスペル財閥の本拠地であるカーメリ連合国から遠く離れた国ソウフにて、生前から伝説となった大神官ニナーレ・テンキである。
彼女は衰退しつつあった魔法を憂慮して紋章魔法を創造したとされる。
その一方、同じく伝説となっている大神官デージ・ボンに師事することで、ニナーレ自身が古典的魔法の比類無き達人となっている。そして儀式においては無数の「精霊の光」と呼ばれるものをその身に纏ったと言う。
精霊の光とは、魔力が光の玉となって術者の周囲を漂う現象で、ニナーレより前の世代の神官には精霊の光を纏う者も多かったと言われるが、現代においては纏える者が存在しない。
このように始祖の候補として三人の人物が挙げられている。しかし、カーメリ連合国とソウフ国とでは紋章魔法の様式が異なっているため、同時期に二箇所で偶然に創造されたのだとする説も存在する。
◆
◆
◆
「お兄ちゃん、まだ諦めてないの?」
「今回駄目なら諦めるよ」
ルゼとケメンの結婚式の途中、累造は一瞬立ち眩みに似た症状を感じて目を瞑った。そして目を開けた時には見知った日本の自室に立っていたのだ。
その後、累造は復学して大学は工学科へと進んだ。その在学中、何度か異世界転移を試みたが成功しなかった。そうせずにいられなかったのは、チーナとの約束が喉に刺さった魚の小骨のように気になっていたからである。一人にさせられないなどと言っておいて、あの日、チーナを一人にしてしまった筈だ。不可抗力だったとしても結果的に不誠実に過ぎた。あれでは余計に孤独を感じさせたかも知れない。そう考えるといてもたってもいられなかった。
しかし、大学も卒業して就職先も決まっている。本当に就職してしまったら突然消える訳にもいかなくなる。だから今度が最後の挑戦だ。ただ、今回は成功しそうな気もしていた。
リュックサックには旅行道具一式の他、シャープペンやボールペンを沢山入れている。白紙の紙や帰還の為の魔法陣も入れている。準備万端だ。
「それじゃ、始めるよ」
「お兄ちゃん……」
りいなも何か感じているのか切なげに累造を見詰める。そんなりいなに累造は宥めるような視線を送りながら起動の言葉を唱える。
「アラホラサ」
累造は光に包まれた。
◆
光が収まった時、累造が立っていたのは草原だった。懐かしさすら覚える。累造は手に持っていた靴を履き、荷物を確認すると歩き始めた。
暫く進むと一つの墓標が立っていた。「セウスペル、ここに眠る」と書いている。暫し手を合わせた後、また歩き始める。
魔動車とも擦れ違った。ゴムの車輪を付けているがチューブは使っていないように見えた。さすがにそこまで技術は進歩していないのだろう。時間の進み方が同じであれば、あれから五年半しか経っていないのである。
田畑は以前見た時と変わっていないように見える。レザンタの外観も記憶に有るままだ。
そしてたった一年余り住んでいただけとは思えない程に懐かしい建物の前に到着した。だが、看板が違う。レストラン虹の橋。それが今の屋号になっている。
一抹の不安を覚えつつも意を決して扉を開ける。中にはテーブル席が四つあるだけだ。そして店主と思しき女性が振り向いた。
「いら……」
驚愕したように目を見開く女性。そして彼女は累造に少し怒ったような顔をした後で微笑んだ。
「お帰りなさい、累造」
「ただいま、チーナ」
1
お気に入りに追加
428
あなたにおすすめの小説

天ぷらで行く!
浜柔
ファンタジー
天ぷら屋を志しているあたし――油上千佳《あぶらあげ ちか》、24歳――は異世界に連れて来られた。
元凶たる女神には邪神の復活を阻止するように言われたけど、あたしにそんな義理なんて無い。
元の世界には戻れないなら、この世界で天ぷら屋を目指すしかないじゃないか。
それ以前に一文無しだから目先の生活をどうにかしなきゃ。
※本作は以前掲載していた作品のタイトルを替え、一人称の表現を少し変更し、少し加筆したリライト作です。
ストーリーは基本的に同じですが、細かい部分で変更があります。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった
根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!

召喚するのは俺、召喚されるのも俺
浜柔
ファンタジー
誰でも一つだけ魔法が使える世界においてシモンが使えるのは召喚魔法だった。
何を召喚するのかは、その特殊さから他人に知られないようにしていたが、たまたま出会した美少女騎士にどたばたした挙げ句で話すことになってしまう。
※タイトルを変えました。旧題「他人には言えない召喚魔法」「身の丈サイズの召喚魔法」「せしされし」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる