魔法道具はじめました

浜柔

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エピローグ

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 現代において紋章魔法と呼ばれる魔法による産業革命については諸説語られている。特に紋章魔法の始祖とされる人物についての議論が激しい。
 一般的にはゴッツイ財閥の中興の祖とも言われるケメン・ゴッツイとされている。
 彼は紋章魔法の研究所を設立してその初代の所長であり講師となった。そのために始祖として有力視されているのだが、彼が魔法の生い立ちについて語ることは一切無かったと伝わる。
 一説にはルゾー・マガと言う人物が始祖と言われている。
 この名前はセウスペル財閥の創始者ショウ・クロウの手による伝記に登場する。特に注目されるのは、ルゾー・マガがケメン・ゴッツイとは別人として描かれている点である。この伝記は産業革命当時のものとして最も信頼性の高い一冊とされているが、当時の記録にはルゾー・マガと言う人物が存在しないため、この部分に限っては創作であるとの批判も有る。
 その一方で、ルゾー・マガは世を忍ぶための偽名であるとの論も有る。有名になることを望まなかったルゾー・マガの意を汲んでショウ・クロウが偽名で伝記に残したのだと言う。
 伝記では、ルゾー・マガは紋章魔法を伝えた後、数年に渡って行方知れずとなってしまう。そして再び現れたルゾー・マガは配偶者を得て一男二女を得るのだが、現代においてルゾー・マガの子孫とされる人物は存在しない。一説には一家揃って異世界へと旅立ったとも言われている。
 この異世界と言う突拍子もない説の根拠はケメン・ゴッツイの配偶者ルゼが残した日記である。
 婚姻後から記し始めたと言われる日記には「ルイゾウ」と言う人物が度々登場する。この人物は遠い世界から訪れて遠い世界へと帰っていったとも記されている。そしてこの人物こそがルゾー・マガだとの主張も為されているのである。但し、別の主張ではルイゾウは想像上の人物とされる。
 また、日記にはもう一人の紋章魔法の始祖として有力視されている人物の名前も登場する。それは、ゴッツイ財閥やセウスペル財閥の本拠地であるカーメリ連合国から遠く離れた国ソウフにて、生前から伝説となった大神官ニナーレ・テンキである。
 彼女は衰退しつつあった魔法を憂慮して紋章魔法を創造したとされる。
 その一方、同じく伝説となっている大神官デージ・ボンに師事することで、ニナーレ自身が古典的魔法の比類無き達人となっている。そして儀式においては無数の「精霊の光」と呼ばれるものをその身に纏ったと言う。
 精霊の光とは、魔力が光の玉となって術者の周囲を漂う現象で、ニナーレより前の世代の神官には精霊の光を纏う者も多かったと言われるが、現代においては纏える者が存在しない。
 このように始祖の候補として三人の人物が挙げられている。しかし、カーメリ連合国とソウフ国とでは紋章魔法の様式が異なっているため、同時期に二箇所で偶然に創造されたのだとする説も存在する。

  ◆
  ◆
  ◆

「お兄ちゃん、まだ諦めてないの?」
「今回駄目なら諦めるよ」

 ルゼとケメンの結婚式の途中、累造は一瞬立ち眩みに似た症状を感じて目を瞑った。そして目を開けた時には見知った日本の自室に立っていたのだ。
 その後、累造は復学して大学は工学科へと進んだ。その在学中、何度か異世界転移を試みたが成功しなかった。そうせずにいられなかったのは、チーナとの約束が喉に刺さった魚の小骨のように気になっていたからである。一人にさせられないなどと言っておいて、あの日、チーナを一人にしてしまった筈だ。不可抗力だったとしても結果的に不誠実に過ぎた。あれでは余計に孤独を感じさせたかも知れない。そう考えるといてもたってもいられなかった。
 しかし、大学も卒業して就職先も決まっている。本当に就職してしまったら突然消える訳にもいかなくなる。だから今度が最後の挑戦だ。ただ、今回は成功しそうな気もしていた。

 リュックサックには旅行道具一式の他、シャープペンやボールペンを沢山入れている。白紙の紙や帰還の為の魔法陣も入れている。準備万端だ。
「それじゃ、始めるよ」
「お兄ちゃん……」
 りいなも何か感じているのか切なげに累造を見詰める。そんなりいなに累造は宥めるような視線を送りながら起動の言葉を唱える。
「アラホラサ」
 累造は光に包まれた。

  ◆

 光が収まった時、累造が立っていたのは草原だった。懐かしさすら覚える。累造は手に持っていた靴を履き、荷物を確認すると歩き始めた。
 暫く進むと一つの墓標が立っていた。「セウスペル、ここに眠る」と書いている。暫し手を合わせた後、また歩き始める。
 魔動車とも擦れ違った。ゴムの車輪を付けているがチューブは使っていないように見えた。さすがにそこまで技術は進歩していないのだろう。時間の進み方が同じであれば、あれから五年半しか経っていないのである。
 田畑は以前見た時と変わっていないように見える。レザンタの外観も記憶に有るままだ。
 そしてたった一年余り住んでいただけとは思えない程に懐かしい建物の前に到着した。だが、看板が違う。レストラン虹の橋。それが今の屋号になっている。
 一抹の不安を覚えつつも意を決して扉を開ける。中にはテーブル席が四つあるだけだ。そして店主と思しき女性が振り向いた。
「いら……」
 驚愕したように目を見開く女性。そして彼女は累造に少し怒ったような顔をした後で微笑んだ。

「お帰りなさい、累造」
「ただいま、チーナ」
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