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第八八話 魔法陣の改良
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コンロとそれに関連するものを作っている間に水も温み、新芽が萌える季節となっている。数日前にコンロも発売された。
そんな中、ケメンがまた累造を訪ねて来た。
「コンロを購入して頂いたあるお客さんから『残った石炭を買い取って欲しい』と言われたんだよ」
「石炭ですか……」
石炭は竈の燃料として毎日使うものであり、こまめに買い足すようなものでもないために一月分程度をまとめ買いするのが一般的である。しかし、コンロを使うようになれば必要無くなり、備蓄していたものが当然のように余る。コンロが故障した場合の備えをするとしても、数日分も有れば十分で、それを超える分は倉庫の肥やしになるだけである。
「今は買い取っても転売できるから良いのだけど、コンロが普及すると転売できなくなるからね。今の内に石炭の他の用途を探しておきたいんだ。累造君には心当たりはないかな?」
「製鉄や鍛冶、他には蒸気機関でしょうか」
「製鉄や鍛冶にかい? 石炭を使うと鉄が脆くなって使えないらしいのだけど?」
「それは石炭をそのまま使っているからでしょう。コークスにして石灰石も混ぜれば大丈夫な筈です」
「コークスとは何だい?」
「石炭を蒸し焼きにしてタールや硫黄を抜いたものです。鉄が脆くなる原因が石炭に含まれる硫黄なので、それを抜いてしまえばいいんです。それでも少し残る硫黄は製鉄の時に石灰石と反応させて取り除きます。石灰石に硫黄を吸い取らせる感じでしょうか。ただ、蒸し焼きにした時に有毒のガスが出ますから、適切に処理しないと死人が出ます」
「死人とは穏やかじゃないね。その有毒のガスと言うのはコンロから出るのと同じようなものなのかい?」
「いえ、比べものにならないくらい強い毒になります」
「なるほど。ん? 石炭を一般家庭で燃料にしているのだけど、台所からもその有毒ガスが出ているのかい?」
「多分少し出ていると思います。不完全燃焼して家の中に籠もると危険です。ただ、煙突が有りますから大事には至ってないのでしょう。外に出てしまえば薄まって直ぐに被害が出る程の量じゃなくなるでしょうし」
ケメンは天を仰ぎつつ首を振る。危険性を殆ど認識していなかったのだ。
「いずれにしても、研究する必要が有りそうだね」
累造は判る範囲で副産物の処理を説明したが、インターネットで得られる程度の知識でしかないので具体性に欠けている。蒸し焼きにして蒸発したガスを冷やすとコールタールやピッチが得られる事、処理の仕方次第で硫酸が得られる事、石灰石と水を使って脱硫する必要がある事、残ったガスは燃やしてしまう必要がある事程度である。
「製鉄の他にもう一つ言っていたのは何だったかな?」
「蒸気機関ですか?」
「それだ」
「蒸気機関はお湯を沸かして、その蒸気の力でピストンやタービンを動かして動力を得る機械です。水車の代わりになります」
「それも一考の価値がありそうだね」
ケメンは少しだけ考え込んだ。
「だけど今はコークスの方だけ考えてみることにするよ」
ケメンを見送った累造は自分の言った言葉を反芻した。蒸気機関、もっと言えば蒸気タービンは発電に使える。これを図形化することで魔法陣の動力部に使えそうである。今はコンセントを図形化しているだけで単純なものだが、今のままでは他の人が起動できない。発電設備から図形化することで、他の人でも累造の描いた魔法陣を起動できる可能性が生まれる。
早速描いてみる。ボイラー、蒸気発生器、タービン、発電機、復水器などを図形化する。一通り描いてから首を傾げた。
何故発電所を模した図形になってしまったのか。
累造が魔法陣に描いているのは言うなれば魔法回路である。回路に流れるのは魔力なのだから、本来であれば電気を模する必要はない。エネルギーの観点だけで言えば動力部はボイラーだけで十分な筈だ。だが、ボイラーを模した図形だけでは魔法陣が起動すると思えない。電子回路を模してしまっているために単なる熱源でしかないボイラーとは相容れないのである。
ボイラーではなく発電機だけを描くのではどうか。これは上手く動くかも知れない。だが、発電機を動かす動力は何処から来るのか。いや、世界に揺蕩う魔力だと言うのは判っている。ただそれがコンセントでもボイラーでも発電機でも引き出せる。つまり、図形は何でも良く、動力と認識していれば引き出せてしまうのである。
認識していれば良いのであれば、誰もが魔力の元と思えるような象徴的な図形を描けば良いのではないか。累造自身の魔法の根源である小説や漫画やゲームを思い浮かべる。
大半の作品は呪文や魔法陣自体が象徴的になっていて、累造としては考慮外である。累造にとって呪文は象徴になり得ず、魔法陣のための魔法陣では意味不明だ。
神、魔王、精霊と言った超越的存在が象徴になっているものも有るが、人格的なものが有ることが多い。それでは気まぐれなことになりそうでもあり、信仰が絡みそうででもありで使い辛い。
「累造君、夕食ですよ」
「あ、はい」
考え込んでいる内に日が暮れていた。
「今晩の料理も美味しいです」
「ふふ、ありがとう」
チーナが作る料理はこの半年ほどで格段に種類を増やし、味も向上した。累造がもたらした料理を取り込んだのに加え、金銭的余裕ができたことで食材や調味料の多くを自由に使えるようになったためだ。特に高価な香辛料をふんだんに使えるようになったのが大きい。味付けの幅が大いに広がった。材料は同じでも味付け次第では別の料理になってしまうのだから、可能性は計り知れない。時折新しい味付けに挑戦して失敗してしまうことも有るが、その頻度は徐々に低下して安定した味になっている。
「これならお店を開けますよ」
「ふふ、それもいいかも知れませんね」
累造はチーナの消極的な同意に首を傾げたが、将来に一抹の不安を抱くチーナの心情など知る由もなかった。
食後、入浴しようと風呂場へ向かう途中、累造がふと中庭を望む窓に目を向けると、窓が月明かりに輝いていた。廊下は灯りが不要な程度には明るかったのだから、窓が明るいのは当然だ。だが、頭の片隅に何か引っ掛かるものを感じた。
湯船の中で首を捻っても何が引っ掛かっているのか思いつかない。月明かりのことは一旦諦め、夕食前の続きを考える。魔法の象徴となるものが何かである。人格的なものによらない普遍的な何かでなければ誰もが納得できる象徴とはなり得ないだろう。例えば地球のような……。
「あっ」
月明かりを見て引っ掛かったのが何か判った。太陽、月、星と言った天体を根源とする魔法が登場する作品も多い。求めていたものとも一致する。天体から魔力を引き出すイメージで図形を作成することにした。
魔法陣の描き直しは難儀した。動力部こそ星、太陽、月を組み合わせた図形であっさりと魔力を引き出すことはできた。魔力を引き出すイメージさえできれば図形そのものは何でも良い故である。だが、その後が問題だった。引き出した魔力から電気のイメージが抜け落ちてしまったために、トランジスタやコイルのイメージで作成したスイッチやボリュームが動かなくなったのだ。図らずもニナーレと同じ場所で行き詰まったのである。
そしてそれを解決したのは、先駆けて頭を悩ませていたニナーレだった。
◆
「累造さん、私はやりましたのーっ!」
ここ数日累造が如何にスイッチやボリュームを描くか思案している中、ニナーレが歓声を上げつつ駆け込んで来た。
「スイッチが出来ましたの!」
「ほんとですか!? 是非見せてください」
「はいっ!」
ニナーレは魔法陣を広げた。描かれている図形は累造の知らないものばかりになっている。更に図形が整理体系化されているように見える。累造が魔法陣を使った道具を作っている間に、魔法陣そのものはニナーレの手で進化していたようだ。
ニナーレは続けて魔法陣本体とスイッチは接触させたままで魔法陣を起動する。そしてスイッチを本体から離すと魔法陣がほわんと光った。再度スイッチを接触させると光が消える。
「凄い」
スイッチの動作としては逆に接触させた時にオンの方が良いのだが、それは追々煮詰めれば良い。累造が作ったスイッチとは全く違うものが出来ていることが重要だ。
「これはもう俺の方がニナーレさんに教えを請わなければなりませんね」
「へ!? 何を言ってるんですの!?」
ニナーレの声が若干裏返った。
「俺が魔法そのものの改良を怠っていたのを痛感しました」
「そんな! 累造さんは沢山の魔法陣を作ってるじゃありませんの」
「今思えば、全部間に合わせでした」
累造は「たはは」と笑って話を切ると、ニナーレの魔法陣を検分する。
「スイッチの部分は、何処かで見たような?」
「それは水門を象りましたの」
「水門! なるほどそれで離した時にスイッチが入るんですね」
スイッチは水門の扉体に相当する。スイッチを接触させることが扉体で水門を閉じるイメージになるのだ。
累造は新しいスイッチを自動車のクラッチのような方向で考えてしまっていた。機械的なものであるために純粋な魔力の流れを扱おうとすると魔力が空回りする感じが有る。それを如何に解決するかに思考を囚われ、水門には考えが及んでいなかった。
「魔法の本体になる部分は、魔法の象徴的なものと、もしかすると呪文でしょうか?」
「一目で判りますの?」
ニナーレが目を丸くした。累造の推察通りだったのである。
「そんな感じがしただけです。内容はさっぱり判りません」
「これは、光の魔法の印と呪文を表現してみたのです。この方が故郷のみんなが使い易いと思ったんですの」
「それは素敵ですね」
大きく頷いた。
ニナーレの魔法陣を学ぶ動機が魔法の衰退への憂慮なのだ。その思いに沿った形で累造の魔法陣を発展させた。道具を用いることで実践面での衰退は招くかも知れない。だが、理論面では新たな可能性も生まれる。魔法自体の衰退を止め、むしろ発展させる可能性を秘めた魔法陣はニナーレの願いをきっと叶えてくれる筈だ。
その数日後、累造の手によって水門型のスイッチの改良版が完成した。巻き上げ機を模することで、接触させた時にスイッチがオンになるようになっており、ボリュームも一体化させている。
これで累造の魔法陣を他の人が起動する道が開けた。
同時に、ニナーレの滞在理由も無くなってしまった。
そんな中、ケメンがまた累造を訪ねて来た。
「コンロを購入して頂いたあるお客さんから『残った石炭を買い取って欲しい』と言われたんだよ」
「石炭ですか……」
石炭は竈の燃料として毎日使うものであり、こまめに買い足すようなものでもないために一月分程度をまとめ買いするのが一般的である。しかし、コンロを使うようになれば必要無くなり、備蓄していたものが当然のように余る。コンロが故障した場合の備えをするとしても、数日分も有れば十分で、それを超える分は倉庫の肥やしになるだけである。
「今は買い取っても転売できるから良いのだけど、コンロが普及すると転売できなくなるからね。今の内に石炭の他の用途を探しておきたいんだ。累造君には心当たりはないかな?」
「製鉄や鍛冶、他には蒸気機関でしょうか」
「製鉄や鍛冶にかい? 石炭を使うと鉄が脆くなって使えないらしいのだけど?」
「それは石炭をそのまま使っているからでしょう。コークスにして石灰石も混ぜれば大丈夫な筈です」
「コークスとは何だい?」
「石炭を蒸し焼きにしてタールや硫黄を抜いたものです。鉄が脆くなる原因が石炭に含まれる硫黄なので、それを抜いてしまえばいいんです。それでも少し残る硫黄は製鉄の時に石灰石と反応させて取り除きます。石灰石に硫黄を吸い取らせる感じでしょうか。ただ、蒸し焼きにした時に有毒のガスが出ますから、適切に処理しないと死人が出ます」
「死人とは穏やかじゃないね。その有毒のガスと言うのはコンロから出るのと同じようなものなのかい?」
「いえ、比べものにならないくらい強い毒になります」
「なるほど。ん? 石炭を一般家庭で燃料にしているのだけど、台所からもその有毒ガスが出ているのかい?」
「多分少し出ていると思います。不完全燃焼して家の中に籠もると危険です。ただ、煙突が有りますから大事には至ってないのでしょう。外に出てしまえば薄まって直ぐに被害が出る程の量じゃなくなるでしょうし」
ケメンは天を仰ぎつつ首を振る。危険性を殆ど認識していなかったのだ。
「いずれにしても、研究する必要が有りそうだね」
累造は判る範囲で副産物の処理を説明したが、インターネットで得られる程度の知識でしかないので具体性に欠けている。蒸し焼きにして蒸発したガスを冷やすとコールタールやピッチが得られる事、処理の仕方次第で硫酸が得られる事、石灰石と水を使って脱硫する必要がある事、残ったガスは燃やしてしまう必要がある事程度である。
「製鉄の他にもう一つ言っていたのは何だったかな?」
「蒸気機関ですか?」
「それだ」
「蒸気機関はお湯を沸かして、その蒸気の力でピストンやタービンを動かして動力を得る機械です。水車の代わりになります」
「それも一考の価値がありそうだね」
ケメンは少しだけ考え込んだ。
「だけど今はコークスの方だけ考えてみることにするよ」
ケメンを見送った累造は自分の言った言葉を反芻した。蒸気機関、もっと言えば蒸気タービンは発電に使える。これを図形化することで魔法陣の動力部に使えそうである。今はコンセントを図形化しているだけで単純なものだが、今のままでは他の人が起動できない。発電設備から図形化することで、他の人でも累造の描いた魔法陣を起動できる可能性が生まれる。
早速描いてみる。ボイラー、蒸気発生器、タービン、発電機、復水器などを図形化する。一通り描いてから首を傾げた。
何故発電所を模した図形になってしまったのか。
累造が魔法陣に描いているのは言うなれば魔法回路である。回路に流れるのは魔力なのだから、本来であれば電気を模する必要はない。エネルギーの観点だけで言えば動力部はボイラーだけで十分な筈だ。だが、ボイラーを模した図形だけでは魔法陣が起動すると思えない。電子回路を模してしまっているために単なる熱源でしかないボイラーとは相容れないのである。
ボイラーではなく発電機だけを描くのではどうか。これは上手く動くかも知れない。だが、発電機を動かす動力は何処から来るのか。いや、世界に揺蕩う魔力だと言うのは判っている。ただそれがコンセントでもボイラーでも発電機でも引き出せる。つまり、図形は何でも良く、動力と認識していれば引き出せてしまうのである。
認識していれば良いのであれば、誰もが魔力の元と思えるような象徴的な図形を描けば良いのではないか。累造自身の魔法の根源である小説や漫画やゲームを思い浮かべる。
大半の作品は呪文や魔法陣自体が象徴的になっていて、累造としては考慮外である。累造にとって呪文は象徴になり得ず、魔法陣のための魔法陣では意味不明だ。
神、魔王、精霊と言った超越的存在が象徴になっているものも有るが、人格的なものが有ることが多い。それでは気まぐれなことになりそうでもあり、信仰が絡みそうででもありで使い辛い。
「累造君、夕食ですよ」
「あ、はい」
考え込んでいる内に日が暮れていた。
「今晩の料理も美味しいです」
「ふふ、ありがとう」
チーナが作る料理はこの半年ほどで格段に種類を増やし、味も向上した。累造がもたらした料理を取り込んだのに加え、金銭的余裕ができたことで食材や調味料の多くを自由に使えるようになったためだ。特に高価な香辛料をふんだんに使えるようになったのが大きい。味付けの幅が大いに広がった。材料は同じでも味付け次第では別の料理になってしまうのだから、可能性は計り知れない。時折新しい味付けに挑戦して失敗してしまうことも有るが、その頻度は徐々に低下して安定した味になっている。
「これならお店を開けますよ」
「ふふ、それもいいかも知れませんね」
累造はチーナの消極的な同意に首を傾げたが、将来に一抹の不安を抱くチーナの心情など知る由もなかった。
食後、入浴しようと風呂場へ向かう途中、累造がふと中庭を望む窓に目を向けると、窓が月明かりに輝いていた。廊下は灯りが不要な程度には明るかったのだから、窓が明るいのは当然だ。だが、頭の片隅に何か引っ掛かるものを感じた。
湯船の中で首を捻っても何が引っ掛かっているのか思いつかない。月明かりのことは一旦諦め、夕食前の続きを考える。魔法の象徴となるものが何かである。人格的なものによらない普遍的な何かでなければ誰もが納得できる象徴とはなり得ないだろう。例えば地球のような……。
「あっ」
月明かりを見て引っ掛かったのが何か判った。太陽、月、星と言った天体を根源とする魔法が登場する作品も多い。求めていたものとも一致する。天体から魔力を引き出すイメージで図形を作成することにした。
魔法陣の描き直しは難儀した。動力部こそ星、太陽、月を組み合わせた図形であっさりと魔力を引き出すことはできた。魔力を引き出すイメージさえできれば図形そのものは何でも良い故である。だが、その後が問題だった。引き出した魔力から電気のイメージが抜け落ちてしまったために、トランジスタやコイルのイメージで作成したスイッチやボリュームが動かなくなったのだ。図らずもニナーレと同じ場所で行き詰まったのである。
そしてそれを解決したのは、先駆けて頭を悩ませていたニナーレだった。
◆
「累造さん、私はやりましたのーっ!」
ここ数日累造が如何にスイッチやボリュームを描くか思案している中、ニナーレが歓声を上げつつ駆け込んで来た。
「スイッチが出来ましたの!」
「ほんとですか!? 是非見せてください」
「はいっ!」
ニナーレは魔法陣を広げた。描かれている図形は累造の知らないものばかりになっている。更に図形が整理体系化されているように見える。累造が魔法陣を使った道具を作っている間に、魔法陣そのものはニナーレの手で進化していたようだ。
ニナーレは続けて魔法陣本体とスイッチは接触させたままで魔法陣を起動する。そしてスイッチを本体から離すと魔法陣がほわんと光った。再度スイッチを接触させると光が消える。
「凄い」
スイッチの動作としては逆に接触させた時にオンの方が良いのだが、それは追々煮詰めれば良い。累造が作ったスイッチとは全く違うものが出来ていることが重要だ。
「これはもう俺の方がニナーレさんに教えを請わなければなりませんね」
「へ!? 何を言ってるんですの!?」
ニナーレの声が若干裏返った。
「俺が魔法そのものの改良を怠っていたのを痛感しました」
「そんな! 累造さんは沢山の魔法陣を作ってるじゃありませんの」
「今思えば、全部間に合わせでした」
累造は「たはは」と笑って話を切ると、ニナーレの魔法陣を検分する。
「スイッチの部分は、何処かで見たような?」
「それは水門を象りましたの」
「水門! なるほどそれで離した時にスイッチが入るんですね」
スイッチは水門の扉体に相当する。スイッチを接触させることが扉体で水門を閉じるイメージになるのだ。
累造は新しいスイッチを自動車のクラッチのような方向で考えてしまっていた。機械的なものであるために純粋な魔力の流れを扱おうとすると魔力が空回りする感じが有る。それを如何に解決するかに思考を囚われ、水門には考えが及んでいなかった。
「魔法の本体になる部分は、魔法の象徴的なものと、もしかすると呪文でしょうか?」
「一目で判りますの?」
ニナーレが目を丸くした。累造の推察通りだったのである。
「そんな感じがしただけです。内容はさっぱり判りません」
「これは、光の魔法の印と呪文を表現してみたのです。この方が故郷のみんなが使い易いと思ったんですの」
「それは素敵ですね」
大きく頷いた。
ニナーレの魔法陣を学ぶ動機が魔法の衰退への憂慮なのだ。その思いに沿った形で累造の魔法陣を発展させた。道具を用いることで実践面での衰退は招くかも知れない。だが、理論面では新たな可能性も生まれる。魔法自体の衰退を止め、むしろ発展させる可能性を秘めた魔法陣はニナーレの願いをきっと叶えてくれる筈だ。
その数日後、累造の手によって水門型のスイッチの改良版が完成した。巻き上げ機を模することで、接触させた時にスイッチがオンになるようになっており、ボリュームも一体化させている。
これで累造の魔法陣を他の人が起動する道が開けた。
同時に、ニナーレの滞在理由も無くなってしまった。
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