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329~333 ドロップ品

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【329.ドロップなら新鮮】
「魔物のドロップが新鮮だってのはそうだろうけどよ? 商売なんだから自分じゃ狩ってらんないぜ? 他の連中から買おうにも、いつドロップしたものか判らないだろ?」

 商売にするなら卵が大量に必要になるのもさることながら、売るほどの量のマヨネーズを生産するとなったら生産そのものに時間が取られる。ダンジョンまで材料調達に行ってる暇は無くなるだろう。
 それでは困るとハンターは言う。

「百聞は一見にしかずだナ。ちょっと待っていロ」

 シェフは厨房からドロップ肉を持って来た。鶏の魔物はダンジョンの上層に棲息するため、卵は専ら魔王が異世界からコピーした品を料理に用いている。

「この肉を覆っている皮をよく見てみロ」
「皮?」

 皮と言っても、剥がしたら魔力に還元されるように魔王が仕込んだポリプロピレンである。
 ハンターはその「皮」を矯めつ眇めつ検分する。

「これ、もしかして日付か!?」

 アラビア数字が印刷されていた。ゲームを通してアラビア数字を学んだことで、それが読めたのだ。
 印刷されていたのは、明らかに年、月、日で区切られた数字であった。



【330.日付か】
「日付ダ」
「数字がもう一つあるぞ?」
「ドロップした時間ダ」
「マジか……」

 ハンターは魔王の芸の細かさに呆然である。
 しかしまた思い直す。

「いや、やっぱり駄目だ。生の食いもんて足が早いだろ? 買い置きできねぇ調味料なんて誰が買うんだよ」
「酢の量さえ十分なら1ヶ月や2ヶ月は保つゾ」
「マジか……」

 ハンターは意外な事実にまた呆然である。

「酢の量があっても、薄かったら駄目だがナ」

 シェフはカタカタと笑った。
 この世界の不心得な商人は酢を薄めて売っていたりする。醸造の時点で薄いこともある。

「マジか……」

 ハンターは簡単な思い付きを形にするのも容易ではないことを知った。



【331.容易ではなかった】
「鶏で思い出したのですが……」

 ヒーラーがハンターとシェフの様子を見ながら、恐る恐るの風情で話に割り込んだ。
 ハンターもシェフもヒーラーを振り返ったので、ヒーラーは安堵した様子で話を続ける。

「……ドロップした卵の場合、皮は卵を何かでくるんだ上からくるんでいますよね? あれって何でしょう?」
「あー、あれね! おがくずみたいなんだけどおがくずじゃない、あれ」
「そうです、それです」
「あれって、嵩張るから拾う時悩むのよねー。外した方がいいのかどうか」
「持ち帰る時はそうですよね」

 ヒーラーは魔法使いのちょっとした愚痴に頷いた。

「あれは落ちても卵が割れないためのものだ」

 問いに答えるのは魔王だ。別に秘密でもなんでもない。
 そして卵を覆っているのは緩衝材である。ドロップ品は床に置かれるように出現するとは限らない。

「行き届いているのですね……」

 ヒーラーも魔法使いも微妙な部分への配慮に微妙な面持ちをした。



【332.何で出来ている】
「それで、あれは何で出来ているのでしょう? 食べられるものなのかもはっきりしなくて……」
「あれは食しても美味くはない」
「〃「……」〃」

 魔王が卵の緩衝材にしている物を食べてみたと言う槍士に、微妙な視線が集まった。

「何だ?」
「いえ、何でも……」

 ヒーラーが代表して誤魔化したが、誰の顔にも「何してんだ、こいつ」と書かれている。

「あれはとうもろこしの軸だ」
「ええ!? とうもろこしなのですか!?」
「粉砕して固めているから判らないのも無理はない。因みにきのこの栽培にも使えるぞ。エノキダケとかエリンギとかな」
「もしやそのためにとうもろこしにしたのですか?」
「……ただの思い付きでやったことだ」
「〃「……」〃」



【333.きのこ栽培にも】
「きのこ栽培ねぇ……」

 ハンターは難色を示す。きのこ栽培のために鶏を狩るのも奇妙な話だ。

「きのこ栽培で思い付いたが、お前達が畑を耕すなら、ダンジョンの一部を貸し与えるぞ」

 ダンジョンの第3階層より下の各階層は広大だ。第1階層、第2階層こそ単なる洞窟で、端から端まで1日も歩けば着く程度だが、3階層以降は様々な環境が再現された広大な空間になっていて、普通に歩けば何十日と掛かる。魔王が自らの魔力で世界を破壊しないようにと創ったのがダンジョンであり、内部の延べ面積は世界の広さをも凌駕する。
 そんな広さだから、一部を貸し与えても大した事はない。何なら拡張して、その部分を貸しても良いのだ。

「それは有り難い話だけどよ……。階段から遠かったら使えねぇし、近かったら他人に荒らされるんじゃねぇか?」

 ダンジョンの階層は階段で繋がっているので、階段を起点に探索や狩りをするのが一般的なのだ。その階段の近くを囲ったりすれば周囲から顰蹙を買うのを免れない。

「……転移陣を用意しよう」
「乗った!」

 魔王からの土産を何にするか決めかねていたハンターは飛び付いた。
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