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161~166
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【161.してやったり】
「直ぐに朝飯ダ。座レ」
5人パーティーは促されるままにこたつを囲んで座った。
その前に並べられるのがベーコンエッグ、焼いたソーセージ、ポテトサラダの盛り合わせと、コンソメスープ、クロワッサンにぶどうパンだ。
5人は誰からともなく生唾を飲み込んだ。
「食エ」
シェフの言葉を合図に5人の手がそれぞれの料理へと伸びる。
「美味い! 何だこの卵は!」
「……」
「くぅ。このソーセージが堪らん」
「こんなパン、初めてだわ」
「このサラダもとても美味しい……」
シェフが朝食に選んだのも5人が食べ慣れている料理に近いものだ。してやったりのシェフである。
【162.半熟卵】
最初の感動が過ぎ去ったら、他人の様子を窺う様子も出るらしい。槍士が自分の皿と、オリエの皿とを見比べる。
「オリエ殿、卵に火が通ってないのでは?」
5人パーティーの皿の卵は堅焼きで、魔王とオリエの皿の卵は半熟なのだ。シェフが焼き加減を失敗したのではなく、5人パーティー向けには敢えて堅焼きにしている。
「この焼き加減が美味しいんだよ」
「そんな生焼けではお腹を悪くされますぞ!」
にっこにこで半熟卵を頬張るオリエに槍士が意見する。槍士には半熟が生焼けに見えるのだ。
「大丈夫だよ。今までお腹壊したこと無いもん」
「しかし……」
「そんなに気になるなら食エ」
シェフは半熟卵のベーコンエッグを差し出した。こんなこともあろうかと、用意していたのだ。
【163.食わないなら】
差し出された半熟卵を前にして、槍士は躊躇う。しかしそれをシェフが許す筈もない。
シェフは食べた料理が不味いと感じられたなら真摯に受け止める。しかし他人が食べる料理に文句を付けることは許さない。勿論、倫理的に間違っているようなものを除いてだ。
「食エ。他人の皿にケチを付けるのはその後ダ」
「しかし……」
「食わないなら、無理矢理ねじ込むゾ」
実力行使に出られたらまるで敵わない槍士は助けを求めるように仲間から仲間へと視線を泳がせる。
しかし、仲間達は目を逸らした。口を出しても事態は悪化するだけなのだ。
孤立無援となった槍士は顔を引き攣らせながら半熟卵のベーコンエッグにフォークを伸ばす。するとカチャカチャと皿が鳴った。
槍士の手の震えであった。
【164.万が一に】
槍士は震える手でカチャカチャ皿を鳴らしながら黄身をベーコンで包み、フォークを突き刺す。それを切っ掛けに更に大きくなった手の震えはフォークを口から逸らした。
引っ張りすぎだ……。
魔王は呆れるばかり。何をそこまで怖れる必要があるのかと内心で突っ込みを入れる。たかが半熟卵なのだ。
「万が一に腹を壊しても直ぐに死ぬものでもあるまい」
「うぐ……」
槍士は呻いた。卵に中ったら地獄の苦しみだと言われるから口に入れたくはない。しかし魔王にまで言われては、決死を覚悟が必要だ。手の震えを堪えながらベーコンエッグを口に入れ、咀嚼する。
「う、美味い……」
その後はもう躊躇いなど無かった。
【165.処置無し】
ところが槍士は食べ終わってから頭を抱えた。
「食ってしまった……」
「往生際が悪いゾ」
「しかしいつ腹が痛くなるかと思ったら……」
「処置無しダ」
シェフは放置することにした。中る前から中った時のことを考える相手に何を言っても無駄だ。
ここで使っている卵は異世界からコピーしたもので、ただでさえ毎日生で食べても10年に1回中るかどうかの上、シェフの品質管理は万全だ。100年経っても中らない可能性の方が高い。しかしそれを幾ら説明しても納得はしないだろう。
シェフが立ち去るのを見送って、剣士が槍士に声を尋ねる。
「ヤンリーク、それで生焼けの卵は美味かったのか?」
「……美味かった……」
不安に押し潰されそうにならりながらもまた食べたいと願う葛藤を隠しきれない槍士を前に、剣士は生唾を飲み込んだ。
【166.引く】
「俺も食ってみたくなった」
ぽつりと呟いた剣士に、ハンター、魔法使い、ヒーラーは肩を跳ねさせて引く。
「そんなに引くことか?」
「だってぇ」
剣士の抗議に魔法使いは嫌な顔を返した。その顔に向けて剣士が口を尖らせる。
と、その時、シェフが剣士達の前に半熟卵のベーコンエッグを置いた。シェフにとっては半熟卵こそ本来の姿なのだ。その気になったのなら本来の姿で食べて貰いたい。
一瞬驚いた剣士ではあったが、好奇心には勝てず、仲間の顔色を伺いつつもベーコンエッグにフォークを伸ばす。
「こりゃうめぇ……」
剣士は良い顔をした。
「直ぐに朝飯ダ。座レ」
5人パーティーは促されるままにこたつを囲んで座った。
その前に並べられるのがベーコンエッグ、焼いたソーセージ、ポテトサラダの盛り合わせと、コンソメスープ、クロワッサンにぶどうパンだ。
5人は誰からともなく生唾を飲み込んだ。
「食エ」
シェフの言葉を合図に5人の手がそれぞれの料理へと伸びる。
「美味い! 何だこの卵は!」
「……」
「くぅ。このソーセージが堪らん」
「こんなパン、初めてだわ」
「このサラダもとても美味しい……」
シェフが朝食に選んだのも5人が食べ慣れている料理に近いものだ。してやったりのシェフである。
【162.半熟卵】
最初の感動が過ぎ去ったら、他人の様子を窺う様子も出るらしい。槍士が自分の皿と、オリエの皿とを見比べる。
「オリエ殿、卵に火が通ってないのでは?」
5人パーティーの皿の卵は堅焼きで、魔王とオリエの皿の卵は半熟なのだ。シェフが焼き加減を失敗したのではなく、5人パーティー向けには敢えて堅焼きにしている。
「この焼き加減が美味しいんだよ」
「そんな生焼けではお腹を悪くされますぞ!」
にっこにこで半熟卵を頬張るオリエに槍士が意見する。槍士には半熟が生焼けに見えるのだ。
「大丈夫だよ。今までお腹壊したこと無いもん」
「しかし……」
「そんなに気になるなら食エ」
シェフは半熟卵のベーコンエッグを差し出した。こんなこともあろうかと、用意していたのだ。
【163.食わないなら】
差し出された半熟卵を前にして、槍士は躊躇う。しかしそれをシェフが許す筈もない。
シェフは食べた料理が不味いと感じられたなら真摯に受け止める。しかし他人が食べる料理に文句を付けることは許さない。勿論、倫理的に間違っているようなものを除いてだ。
「食エ。他人の皿にケチを付けるのはその後ダ」
「しかし……」
「食わないなら、無理矢理ねじ込むゾ」
実力行使に出られたらまるで敵わない槍士は助けを求めるように仲間から仲間へと視線を泳がせる。
しかし、仲間達は目を逸らした。口を出しても事態は悪化するだけなのだ。
孤立無援となった槍士は顔を引き攣らせながら半熟卵のベーコンエッグにフォークを伸ばす。するとカチャカチャと皿が鳴った。
槍士の手の震えであった。
【164.万が一に】
槍士は震える手でカチャカチャ皿を鳴らしながら黄身をベーコンで包み、フォークを突き刺す。それを切っ掛けに更に大きくなった手の震えはフォークを口から逸らした。
引っ張りすぎだ……。
魔王は呆れるばかり。何をそこまで怖れる必要があるのかと内心で突っ込みを入れる。たかが半熟卵なのだ。
「万が一に腹を壊しても直ぐに死ぬものでもあるまい」
「うぐ……」
槍士は呻いた。卵に中ったら地獄の苦しみだと言われるから口に入れたくはない。しかし魔王にまで言われては、決死を覚悟が必要だ。手の震えを堪えながらベーコンエッグを口に入れ、咀嚼する。
「う、美味い……」
その後はもう躊躇いなど無かった。
【165.処置無し】
ところが槍士は食べ終わってから頭を抱えた。
「食ってしまった……」
「往生際が悪いゾ」
「しかしいつ腹が痛くなるかと思ったら……」
「処置無しダ」
シェフは放置することにした。中る前から中った時のことを考える相手に何を言っても無駄だ。
ここで使っている卵は異世界からコピーしたもので、ただでさえ毎日生で食べても10年に1回中るかどうかの上、シェフの品質管理は万全だ。100年経っても中らない可能性の方が高い。しかしそれを幾ら説明しても納得はしないだろう。
シェフが立ち去るのを見送って、剣士が槍士に声を尋ねる。
「ヤンリーク、それで生焼けの卵は美味かったのか?」
「……美味かった……」
不安に押し潰されそうにならりながらもまた食べたいと願う葛藤を隠しきれない槍士を前に、剣士は生唾を飲み込んだ。
【166.引く】
「俺も食ってみたくなった」
ぽつりと呟いた剣士に、ハンター、魔法使い、ヒーラーは肩を跳ねさせて引く。
「そんなに引くことか?」
「だってぇ」
剣士の抗議に魔法使いは嫌な顔を返した。その顔に向けて剣士が口を尖らせる。
と、その時、シェフが剣士達の前に半熟卵のベーコンエッグを置いた。シェフにとっては半熟卵こそ本来の姿なのだ。その気になったのなら本来の姿で食べて貰いたい。
一瞬驚いた剣士ではあったが、好奇心には勝てず、仲間の顔色を伺いつつもベーコンエッグにフォークを伸ばす。
「こりゃうめぇ……」
剣士は良い顔をした。
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