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サイド
女神
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もううんざり! 消えてしまいたい!
そう決心して、転移させる最後の一人を探した。
神と言っても未来が見える訳じゃない。地球の現世が酷くゆっくりに見えるだけだ。だから、いま正に死亡事故が起きようとしている瞬間を探して、犠牲者となるだろう人を転移させるのだ。
そうして見つけた死亡事故の現場。だけどあたしは近くの通行人に目を奪われた。
見た瞬間に懐かしさが込み上げた。今はもう居ない、あたしが人間だった頃の親友に雰囲気がそっくりだったのだ。
思わずその通行人の方を転移させてしまった。
それが千佳だった。
千佳には悪いと思ったが、地球に送り返す事は出来ない。何故か地球からは人を連れてくる事しかできないためだ。
目の前の千佳は、親友とは全く違う顔なのに、印象だけはそっくりだった。怒り方もそっくりで、嬉しくなって少しからかい過ぎてしまった。
ずっとそうしていたかったが、あまり長く留めておくと千佳が死んでしまう。だから、お別れをした。
千佳に与えた力は、便利さを犠牲にして生き残れるのを重視した。そうでなければ迷宮の攻略が難しい。
思惑通りに進めば、千佳があたしの像を壊してくれる筈だった。
しかし、千佳はあたしの思惑から懸け離れた行動ばかりをする。力の使い方も斜め上だ。
生活の方も何だか残念感が漂っていて、あたしの迷宮の近くの町から逃げ出すところまで来ると、あたしは頭を抱えた。
別の町に移った後も残念さは変わらなかった。結局残念な成り行きになり、余所の迷宮を攻略してしまった時には呆気にとられた。
その後は更に残念さが増した。
酒や賭け事に溺れて身を持ち崩し、大切にしていたものさえ売り飛ばしてしまうのだから、もうイライラした。
千佳が大事にしていたものを他人に渡したくもなかったので、千佳が売る度に直ぐに回収した。もし千佳に返す事があったら、対価について気にするかも知れないので、魔石を引き替えに置いてだ。
対価に魔石を置くのも結構大変だ。あたしの迷宮の魔物に移動するように命じて、魔物が辿り着いたらその魔物を屠るのだ。
何でこんな事をやってるんだろうと思わなくもなかった。
そんな千佳を見るだけの時が続いたある時、あたしの迷宮以外で残されていた最後の迷宮が攻略され、あたしは顕現可能となった。
こうなっては仕方がない。一縷の望みを賭けて顕現し、そして宣言した。
望み通りに千佳は現れたが、何とも煮えきれない。挑発して、千佳が戦う決心をするようにし向けた。
あたしの方は千佳を倒すつもりなんて無い。だから挑発の最後はビンタだったのだけど、千佳が返してきたのもビンタだった。
「そりゃそうだよなぁ」と思いつつビンタを続けた。そしてついに千佳が拳を握り締めた。
だけど拳を止めてしまった。あたしが遠い未来まで、消える事ができなくなった瞬間だ。
でもその代わりに千佳があたしの傍に居てくれる事になったのだから、悪い事ばかりでもない。
◆
二人だけの生活。独りぼっちじゃないのだ。千佳が居るだけで寂しくない。
消えてしまわなくて良かった。
そう決心して、転移させる最後の一人を探した。
神と言っても未来が見える訳じゃない。地球の現世が酷くゆっくりに見えるだけだ。だから、いま正に死亡事故が起きようとしている瞬間を探して、犠牲者となるだろう人を転移させるのだ。
そうして見つけた死亡事故の現場。だけどあたしは近くの通行人に目を奪われた。
見た瞬間に懐かしさが込み上げた。今はもう居ない、あたしが人間だった頃の親友に雰囲気がそっくりだったのだ。
思わずその通行人の方を転移させてしまった。
それが千佳だった。
千佳には悪いと思ったが、地球に送り返す事は出来ない。何故か地球からは人を連れてくる事しかできないためだ。
目の前の千佳は、親友とは全く違う顔なのに、印象だけはそっくりだった。怒り方もそっくりで、嬉しくなって少しからかい過ぎてしまった。
ずっとそうしていたかったが、あまり長く留めておくと千佳が死んでしまう。だから、お別れをした。
千佳に与えた力は、便利さを犠牲にして生き残れるのを重視した。そうでなければ迷宮の攻略が難しい。
思惑通りに進めば、千佳があたしの像を壊してくれる筈だった。
しかし、千佳はあたしの思惑から懸け離れた行動ばかりをする。力の使い方も斜め上だ。
生活の方も何だか残念感が漂っていて、あたしの迷宮の近くの町から逃げ出すところまで来ると、あたしは頭を抱えた。
別の町に移った後も残念さは変わらなかった。結局残念な成り行きになり、余所の迷宮を攻略してしまった時には呆気にとられた。
その後は更に残念さが増した。
酒や賭け事に溺れて身を持ち崩し、大切にしていたものさえ売り飛ばしてしまうのだから、もうイライラした。
千佳が大事にしていたものを他人に渡したくもなかったので、千佳が売る度に直ぐに回収した。もし千佳に返す事があったら、対価について気にするかも知れないので、魔石を引き替えに置いてだ。
対価に魔石を置くのも結構大変だ。あたしの迷宮の魔物に移動するように命じて、魔物が辿り着いたらその魔物を屠るのだ。
何でこんな事をやってるんだろうと思わなくもなかった。
そんな千佳を見るだけの時が続いたある時、あたしの迷宮以外で残されていた最後の迷宮が攻略され、あたしは顕現可能となった。
こうなっては仕方がない。一縷の望みを賭けて顕現し、そして宣言した。
望み通りに千佳は現れたが、何とも煮えきれない。挑発して、千佳が戦う決心をするようにし向けた。
あたしの方は千佳を倒すつもりなんて無い。だから挑発の最後はビンタだったのだけど、千佳が返してきたのもビンタだった。
「そりゃそうだよなぁ」と思いつつビンタを続けた。そしてついに千佳が拳を握り締めた。
だけど拳を止めてしまった。あたしが遠い未来まで、消える事ができなくなった瞬間だ。
でもその代わりに千佳があたしの傍に居てくれる事になったのだから、悪い事ばかりでもない。
◆
二人だけの生活。独りぼっちじゃないのだ。千佳が居るだけで寂しくない。
消えてしまわなくて良かった。
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