上 下
72 / 72
女神のお使い

蛇足

しおりを挟む
「この寝坊助」
 指で眠っている女の頬をつつく。それを見咎めるもう一人の女。
「こら、そう言う事をしないの」
「だってぇ、長過ぎじゃない?」
「そうなのよねぇ」
 女が上目遣いで首を傾げる。
「いっそ、このコの好きだったチーカマでも口に突っ込めば起きるんじゃない?」
「まっさかぁ!」
 ケタケタと笑いを返した女が、ふと真顔になる。
「駄目元でやってみましょう。作ってくるわ」

 暫くしてチーカマを抱えた女が眠っている女の許へと戻って来た。
 眠っている女の鼻先にチーカマを持っていくと、くんくんと匂いを嗅ぐような仕草をする。そのまま口元に持っていくと齧り付いた。もしゃもしゃと咀嚼して飲み込んだ後で、また大きく口を開けて勢いよく齧り付く。
「ひゃっ」
 女がチーカマを放して手を引っ込めた。
「あっぶなー」
 引っ込めていなければ囓られていたところだ。
 次からは慎重にチーカマを口元に持っていって食べさせる。
 三〇個ほど食べさせたところで眠っていた女がむくりと起き上がった。しかしまだ眠ったままだ。
 更に女がチーカマを食べさせると、一〇〇個ほど食べた辺りで眠っている女が眉間に皺を寄せた。腹を押さえているところからすると、食べ過ぎらしい。
「ねぇ、このコ馬鹿なの? それともあんたが馬鹿なの?」
「うわー、反論できないのが辛い! 前にも食べ過ぎた事があったんだったー」
 眠っていた女は身体をふらふらと揺らし、後ろへと倒れた。
 ごちん。
「いったーっ!」
 女が跳ね起きて頭を摩る。
「何? もしかして引っぱたいてたら良かったの?」
「さ、さあ?」
 女が苦笑いする一方、目覚めた女が意識が定まらないような目できょろきょろと辺りを見回す。
 そして目がしっかりするに従って視線がチーカマを持つ女へと固定されていく。
「あれ? あ……」
 目覚めた女は口元を押さえ、目から涙を溢れさす。
「お久しぶりです」
 その言葉に、目覚めた女は満面の笑みで応えた。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

召喚するのは俺、召喚されるのも俺

浜柔
ファンタジー
誰でも一つだけ魔法が使える世界においてシモンが使えるのは召喚魔法だった。 何を召喚するのかは、その特殊さから他人に知られないようにしていたが、たまたま出会した美少女騎士にどたばたした挙げ句で話すことになってしまう。 ※タイトルを変えました。旧題「他人には言えない召喚魔法」「身の丈サイズの召喚魔法」「せしされし」

魔法道具はじめました

浜柔
ファンタジー
 趣味で描いていた魔法陣によって間川累造は異世界へと転移した。  不思議なことに、使えない筈の魔法陣がその世界では使える。  そこで出会ったのは年上の女性、ルゼ。  ルゼが営む雑貨店で暮らす事になった累造は、魔法陣によって雑貨店の傾いた経営を立て直す。 ※タイトルをオリジナルに戻しました。旧題は以下です。 「紋章魔法の始祖~魔法道具は彼方からの伝言~」 「魔法陣は世界をこえて」

天ぷらで行く!

浜柔
ファンタジー
天ぷら屋を志しているあたし――油上千佳《あぶらあげ ちか》、24歳――は異世界に連れて来られた。 元凶たる女神には邪神の復活を阻止するように言われたけど、あたしにそんな義理なんて無い。 元の世界には戻れないなら、この世界で天ぷら屋を目指すしかないじゃないか。 それ以前に一文無しだから目先の生活をどうにかしなきゃ。 ※本作は以前掲載していた作品のタイトルを替え、一人称の表現を少し変更し、少し加筆したリライト作です。  ストーリーは基本的に同じですが、細かい部分で変更があります。

迷宮精霊プロトタイプ

浜柔
ファンタジー
冒険者ザムトはたまたま行き当たった洞窟に転がる宝石を見付けた。 ところがそれを手にした途端、宝石から湧き出した黒い影に取り憑かれてしまった。 その影とは迷宮精霊。ザムトは迷宮の主になったのだ。 ※別途投稿の「迷宮精霊」のプロトタイプです。  同じ人物が登場しますが一部キャラの役柄や、ストーリー展開が異なります。  また、少し古い作品で誤字脱字等が多いと思いますがご勘弁ください。

魔王へのレクイエム

浜柔
ファンタジー
五百年前に世界を滅ぼし掛けた魔王はダンジョンの奥底で微睡み続ける。 その魔王を訪れる者が居て、その魔王の真実を探す者が居て、そしてその魔王と因縁を持つ者が五百年前から召喚された。 ※重複投稿。https://ncode.syosetu.com/n5955ez/

素人配信者さん、初回でうっかり伝説級の大バズりを披露してしまう(願望)~あれ? モンスターってS級でもこんなものなの?(他人任せ)~

こまの ととと
ファンタジー
世はまさに大ダンジョン配信時代! ダンジョンが生まれ、配信者がいれば当然の成り行きで生まれいずる。これぞ世の成り立ちである! 若きも男も女も、皆夢中になる。 そんなトップコンテンツに挑む者は、時勢について行けない老人を除いて後を絶たないそんな時代のお話。 ここにダンジョン配信者に憧れる純粋な少年がいた! 誰もが憧れるカッコいい仕事だから、単純な理由だからその思いは力強い。 彼の純粋な心に触れた視聴者は、次第に惹かれて彼を求めてやまなくなる。 彼の通った後にはモンスターの屍。たどり着いたボスとの死闘。そして仲間との……。 果たして彼の築き上げる伝説の目撃者に、アナタも成れるのだろうか? *あらすじと本編では若干の差異がある場合がございます。あらかじめご了承下さい。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...