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615 反転
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シャルウィが『水魔法』の反転を練習している間の空き時間を使い、ルキアスは『篩』の反転に取り組んだ。
『篩』は桶のような見た目で、中に入れた物を網で漉して外に出す一方通行の方向性を持っている。通常はこれで何の差し障りもないが、この階層の水を消すには漉した水を何かで受ける工程が入り、連続性に欠けて手間だ。もしも外から内へと漉して中に溜まった水を消すのであれば、水を受ける何かも必要無く、連続作業が可能だ。
「首尾はどうだい?」
「ぼちぼちですね……」
可能か不可能かで言えば可能にはなった。しかし順方向に比べれば千分の一程にしか漉せない。
「ふっふっふー。と言うことは、ボクの勝ちだね。見たまえよ」
いつから勝負になったのかルキアスにはとんと心当たりが無いが、フヨヨンは勝ち誇る。
そのフヨヨンが『篩』を出して水に半分沈めると、透き通った水がこんこんと湧き出すように『篩』から溢れた。
「凄い! でもどうして?」
「ルキアス君は『篩』そのものはそのままで強引に逆向きに水を通そうとしただろう?」
「はい」
「『篩』の網が片方向にしか機能しないなら、網を裏返せばいいと思わないかい?」
「あ! 考えもしなかった!」
人は何か思い込みをしてしまうと簡単な事に気付かないものである。
ともあれ必要な要素は揃ったので排水作業に取り掛かる。
ザネクの『傘』に乗って水面ギリギリに陣取り、フヨヨンが『篩』を水に半ば沈め、『篩』から溢れ出した水をシャルウィが『水魔法』で消す。ルキアスも作業の足しに『湧水』を反転させて『排水』する。
「水を減らせてるのか判らないんだけど……」
シャルウィがぼやく。シャルウィの『水魔法』はルキアスの『排水』より多量の水を消せている筈だが、フヨヨンの『篩』から溢れ出す水の方が圧倒的に多いせいで減らせている感じがしない。
だが『篩』から湧き出す水は減らせないようだ。『篩』の網を反転させているために入り側に枠が無く、境界線が曖昧に広くなっているらしい。
それなら階層の水位が下がるのを見れば良いのでは? となるが、あまりに僅かな変化しか無いので目視できない。
「タイラクさん、この竹竿に幾つか目盛りを刻んで時々水深を計って貰えませんか?」
「おう」
ルキアスは竹竿を取り出した。何故タイラクかと言えば、ザネクは『傘』、フヨヨンは『篩』、シャルウィとルキアスは排水、メイナーダは時折やって来る魔物の迎撃の役割があるので、全くの手空きがタイラクだけなのだ。
タイラクも手持ちぶさたの上に水位が気になるので快く引き受けた。
そうして数時間が過ぎたところで最初と比べて指一本の幅くらいの水位が下がったのを観測できた。
「うおっ」
不意に声を上げたタイラクが竹竿を持っていた筈の手を開いたり閉じたりしている。
「ルキアス、すまんな。竿を落としちまった」
見れば竹竿が『傘』から少し離れて水にプカプカ浮いている。
「あー。まあ大丈夫ですよ。どうせ終わったら捨てるつもりでしたし」
あまりに濁った水に突っ込んだ竹竿を再利用する気になれなかったルキアスである。
『篩』は桶のような見た目で、中に入れた物を網で漉して外に出す一方通行の方向性を持っている。通常はこれで何の差し障りもないが、この階層の水を消すには漉した水を何かで受ける工程が入り、連続性に欠けて手間だ。もしも外から内へと漉して中に溜まった水を消すのであれば、水を受ける何かも必要無く、連続作業が可能だ。
「首尾はどうだい?」
「ぼちぼちですね……」
可能か不可能かで言えば可能にはなった。しかし順方向に比べれば千分の一程にしか漉せない。
「ふっふっふー。と言うことは、ボクの勝ちだね。見たまえよ」
いつから勝負になったのかルキアスにはとんと心当たりが無いが、フヨヨンは勝ち誇る。
そのフヨヨンが『篩』を出して水に半分沈めると、透き通った水がこんこんと湧き出すように『篩』から溢れた。
「凄い! でもどうして?」
「ルキアス君は『篩』そのものはそのままで強引に逆向きに水を通そうとしただろう?」
「はい」
「『篩』の網が片方向にしか機能しないなら、網を裏返せばいいと思わないかい?」
「あ! 考えもしなかった!」
人は何か思い込みをしてしまうと簡単な事に気付かないものである。
ともあれ必要な要素は揃ったので排水作業に取り掛かる。
ザネクの『傘』に乗って水面ギリギリに陣取り、フヨヨンが『篩』を水に半ば沈め、『篩』から溢れ出した水をシャルウィが『水魔法』で消す。ルキアスも作業の足しに『湧水』を反転させて『排水』する。
「水を減らせてるのか判らないんだけど……」
シャルウィがぼやく。シャルウィの『水魔法』はルキアスの『排水』より多量の水を消せている筈だが、フヨヨンの『篩』から溢れ出す水の方が圧倒的に多いせいで減らせている感じがしない。
だが『篩』から湧き出す水は減らせないようだ。『篩』の網を反転させているために入り側に枠が無く、境界線が曖昧に広くなっているらしい。
それなら階層の水位が下がるのを見れば良いのでは? となるが、あまりに僅かな変化しか無いので目視できない。
「タイラクさん、この竹竿に幾つか目盛りを刻んで時々水深を計って貰えませんか?」
「おう」
ルキアスは竹竿を取り出した。何故タイラクかと言えば、ザネクは『傘』、フヨヨンは『篩』、シャルウィとルキアスは排水、メイナーダは時折やって来る魔物の迎撃の役割があるので、全くの手空きがタイラクだけなのだ。
タイラクも手持ちぶさたの上に水位が気になるので快く引き受けた。
そうして数時間が過ぎたところで最初と比べて指一本の幅くらいの水位が下がったのを観測できた。
「うおっ」
不意に声を上げたタイラクが竹竿を持っていた筈の手を開いたり閉じたりしている。
「ルキアス、すまんな。竿を落としちまった」
見れば竹竿が『傘』から少し離れて水にプカプカ浮いている。
「あー。まあ大丈夫ですよ。どうせ終わったら捨てるつもりでしたし」
あまりに濁った水に突っ込んだ竹竿を再利用する気になれなかったルキアスである。
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