生活魔法は万能です

浜柔

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608 混沌

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 流れて来たことで触手の本体が明らかになった。触手こそクラーケンのようにも見えたが、本体はクラーケン程はっきりしていない。混沌として曖昧で、半ば水に溶けているようにさえ見える。
 だが姿が見えたからとて脅威でなくなるものではない。
 触手が伸び、迫る。『傘』に取り付くつもりか。

「『水魔法』! ……あああ!」

 何を思ったかシャルウィが『水魔法』を発して『傘』と触手の間に水の壁を形作る。だが一瞬で水に流されて消えた。流れる水の圧力に耐えられなかったようだ。シャルウィは絶望したかのような声を上げた。
 しかしけして無駄ではなかった。

「『大盾』」

 ザネクがシャルウィの盾の代わりに『大盾』を展開した。
 殆ど間を置かずに『大盾』に触手が絡み付く。
 ザネクは触手を絡み付かせたままの『大盾』を『傘』の上流側から下流側へと弧を描いて動かし、消した。
 手掛かりを無くした触手が『傘』へと伸びる。だがそれよりも速い水流に流され、流木で塞がれていた穴へと吸い込まれた。
 この結果を一番喜んだのはシャルウィだ。感極まったようにザネクに抱き付いた。

「凄い! 凄い! ザネク、やったわ!」
「おう。上手く行ったな! 最初は直感でシャルの代わりに盾を出しただけだったんだがな」

 触手に絡み付かれた後は流れで動かしたと言う。
 実のところ大元のシャルウィも直感で盾を出そうとしたらしい。出した後を考えていなかったが、ザネクのお陰で直感が正しかったのを証明できた訳だ。

「あらあら、シャルウィちゃんとザネクちゃんのお陰で助かったわね。面倒な手順を踏まずに済んで良かったわ」
「うんうん。有り難いことだよ」

 もしも二人の機転が無ければ、先日のようにメイナーダが凍らせてからタイラクが時間を掛けて斬り払わなければならない。
 褒められたシャルウィとザネクは照れた。
 それから数時間。ザネクの活躍で数体の触手をやり過ごしつつ、水流が収るのをひたすら待った。もう日が暮れそうな時間になっても回廊の水位は床から天井までの半分程度までしか下がっていない。
 それでも『傘』は完全に空中に出ている。動こうと思えば動ける状況だ。

「そろそろ上の階に引き上げましょう」

 そんな訳で日が暮れる前に第六九階層の安全地帯候補へと引き上げた。
 翌日はまた第七〇階層を行く。
 床はかなりの泥が流され、所々床の石が剥き出しになっている。残った泥の中でのたうつ触手がちらほら見える。
 そうして流木が塞いでいた場所まで戻って来た。

「予想通りの下り階段だ」

 どうやら階層を更新できそうである。
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