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583 もっと下がれ
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「タイラク! 後のヤツに気を付けたまえよ!」
「う?」
ルキアスの『傘』は瞬く間に通り過ぎ、タイラクはフヨヨンからの呼び掛けを「タイラク! う」までしか聞き取れなかった。
「あいつらは何を慌ててたんだ? あっちを指差してたみたいだが……」
タイラクはフヨヨンが指差していた方向の様子を窺おうと丁字路から首を出し掛けるが、寸前で近付く地響きのような音と凶悪な気配に気付いて足を止める。
ザネクとシャルウィに目配せで下がるように指示しながら自らも丁字路を注視しながら後退る。
そしてフヨヨンと目が合った付近まで下がったところで気配が目の前を横切り、その姿も目の当たりにした。
「何かやべぇのが通った!」
ところが通り過ぎたと思われた気配が止まった。尻尾の先が丁字路内に留まっている。
次の瞬間にはその尻尾が丁字路に突き出し始めた。じりじりとした動きだが、その全貌が露わになるのも時間の問題だ。
「本格的にやべぇ。お前達はもっと下がれ!」
魔物の気配を間近に感じたタイラクはザネクに指示を出し、剣を構えつつ自らも下がる。タイラクとて初見の深層クラスの魔物にいきなり襲い掛かるような無謀さは持ち合わせていない。
ザネクは指示された通りに『傘』を動かして距離を取る。
魔物は向きを変えるよりも早いと判断したのだろう。後歩きだ。さして間を置かずにその頭部が丁字路の向こうから現れる。
次の瞬間には魔物が大きく口を開けた。
「やべっ! 逃げろ!」
タイラクは鋭く叫び、自らも逃走を選択する。魔物に肉薄して一撃を加えるには距離を取り過ぎていた。
咆吼。ガガガと岩が軋む音を立てて回廊を埋め尽くすように石の槍が突き出して追い掛けて来る。
逃げ切れないと悟ったタイラクは振り返って伸びて来る石の槍を斬り飛ばし、これで空いた隙間に身体を滑り込ませた。
だが座して待つ訳にも行かない。石の槍は範囲を広げ、ザネクの『傘』に見る間に迫る。
タイラクは石の槍を切り裂きながら、ザネクの許へ急いだ。
「もう来たわ!」
「クソッ! 逃げ切れん! 『大盾』!」
ザネクは逃げ切れないと見るや、シャルウィを抱き寄せて『傘』を極小に狭め、二人をぎりぎり囲む大きさで『大盾』を展開した。
ガガガガガガガと石の槍が『大盾』にぶつかっては折れ飛ぶ中、真上から生えた一本が『大盾』の中にその槍先を伸ばす。
「うおっ!」
間一髪で避けた。
「う?」
ルキアスの『傘』は瞬く間に通り過ぎ、タイラクはフヨヨンからの呼び掛けを「タイラク! う」までしか聞き取れなかった。
「あいつらは何を慌ててたんだ? あっちを指差してたみたいだが……」
タイラクはフヨヨンが指差していた方向の様子を窺おうと丁字路から首を出し掛けるが、寸前で近付く地響きのような音と凶悪な気配に気付いて足を止める。
ザネクとシャルウィに目配せで下がるように指示しながら自らも丁字路を注視しながら後退る。
そしてフヨヨンと目が合った付近まで下がったところで気配が目の前を横切り、その姿も目の当たりにした。
「何かやべぇのが通った!」
ところが通り過ぎたと思われた気配が止まった。尻尾の先が丁字路内に留まっている。
次の瞬間にはその尻尾が丁字路に突き出し始めた。じりじりとした動きだが、その全貌が露わになるのも時間の問題だ。
「本格的にやべぇ。お前達はもっと下がれ!」
魔物の気配を間近に感じたタイラクはザネクに指示を出し、剣を構えつつ自らも下がる。タイラクとて初見の深層クラスの魔物にいきなり襲い掛かるような無謀さは持ち合わせていない。
ザネクは指示された通りに『傘』を動かして距離を取る。
魔物は向きを変えるよりも早いと判断したのだろう。後歩きだ。さして間を置かずにその頭部が丁字路の向こうから現れる。
次の瞬間には魔物が大きく口を開けた。
「やべっ! 逃げろ!」
タイラクは鋭く叫び、自らも逃走を選択する。魔物に肉薄して一撃を加えるには距離を取り過ぎていた。
咆吼。ガガガと岩が軋む音を立てて回廊を埋め尽くすように石の槍が突き出して追い掛けて来る。
逃げ切れないと悟ったタイラクは振り返って伸びて来る石の槍を斬り飛ばし、これで空いた隙間に身体を滑り込ませた。
だが座して待つ訳にも行かない。石の槍は範囲を広げ、ザネクの『傘』に見る間に迫る。
タイラクは石の槍を切り裂きながら、ザネクの許へ急いだ。
「もう来たわ!」
「クソッ! 逃げ切れん! 『大盾』!」
ザネクは逃げ切れないと見るや、シャルウィを抱き寄せて『傘』を極小に狭め、二人をぎりぎり囲む大きさで『大盾』を展開した。
ガガガガガガガと石の槍が『大盾』にぶつかっては折れ飛ぶ中、真上から生えた一本が『大盾』の中にその槍先を伸ばす。
「うおっ!」
間一髪で避けた。
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