生活魔法は万能です

浜柔

文字の大きさ
上 下
583 / 627

583 もっと下がれ

しおりを挟む
「タイラク! 後のヤツに気を付けたまえよ!」
「う?」

 ルキアスの『傘』は瞬く間に通り過ぎ、タイラクはフヨヨンからの呼び掛けを「タイラク! う」までしか聞き取れなかった。

「あいつらは何を慌ててたんだ? あっちを指差してたみたいだが……」

 タイラクはフヨヨンが指差していた方向の様子を窺おうと丁字路から首を出し掛けるが、寸前で近付く地響きのような音と凶悪な気配に気付いて足を止める。
 ザネクとシャルウィに目配せで下がるように指示しながら自らも丁字路を注視しながら後退る。
 そしてフヨヨンと目が合った付近まで下がったところで気配が目の前を横切り、その姿も目の当たりにした。

「何かやべぇのが通った!」

 ところが通り過ぎたと思われた気配が止まった。尻尾の先が丁字路内に留まっている。
 次の瞬間にはその尻尾が丁字路に突き出し始めた。じりじりとした動きだが、その全貌が露わになるのも時間の問題だ。

「本格的にやべぇ。お前達はもっと下がれ!」

 魔物の気配を間近に感じたタイラクはザネクに指示を出し、剣を構えつつ自らも下がる。タイラクとて初見の深層クラスの魔物にいきなり襲い掛かるような無謀さは持ち合わせていない。
 ザネクは指示された通りに『傘』を動かして距離を取る。
 魔物は向きを変えるよりも早いと判断したのだろう。後歩きだ。さして間を置かずにその頭部が丁字路の向こうから現れる。
 次の瞬間には魔物が大きく口を開けた。

「やべっ! 逃げろ!」

 タイラクは鋭く叫び、自らも逃走を選択する。魔物に肉薄して一撃を加えるには距離を取り過ぎていた。
 咆吼。ガガガと岩が軋む音を立てて回廊を埋め尽くすように石の槍が突き出して追い掛けて来る。
 逃げ切れないと悟ったタイラクは振り返って伸びて来る石の槍を斬り飛ばし、これで空いた隙間に身体を滑り込ませた。
 だが座して待つ訳にも行かない。石の槍は範囲を広げ、ザネクの『傘』に見る間に迫る。
 タイラクは石の槍を切り裂きながら、ザネクの許へ急いだ。

「もう来たわ!」
「クソッ! 逃げ切れん! 『大盾』!」

 ザネクは逃げ切れないと見るや、シャルウィを抱き寄せて『傘』を極小に狭め、二人をぎりぎり囲む大きさで『大盾』を展開した。
 ガガガガガガガと石の槍が『大盾』にぶつかっては折れ飛ぶ中、真上から生えた一本が『大盾』の中にその槍先を伸ばす。

「うおっ!」

 間一髪で避けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました

まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。 ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。 変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。 その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。 恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

処理中です...